星の花束を抱いて番外1 1999 クリスマス

「零くん、陸ぅ。今日は早く帰ってきてね。」
 ニ人が出掛ける時に僕は念を押したんだ。
 だって今年は1000年に1回の『みれにあむ』なクリスマスなんだからね。
 …『みれにあむ』って『特別』って意味でいいのかな?先生に聞いてみようっと。



 先週の水曜日のこと。
「聖はプレゼント、何もらうんだよ?」
 健太くんが算数の時間にボソッと僕に聞いた。
「プレゼント?プレゼントってもらうよ。」
「だから何が欲しいってお願いしたんだよ。」
「お願い?プレゼントってお願いするの?」
「サンタに頼むと父ちゃんがもらってきてくれてくれるんだよ。」
 父ちゃんって…パパのことかな?
「ふーん・・・僕頼んだこと無いけどいつも色々もらうんだよ。えっとねぇ、んっとねぇ…去年のクリスマスは零くんと陸と三人でお揃いのカーディガンをもらったの。それと『ゲームソフト』と『冬のパジャマ』と『ひよこのぬいぐるみ』と『CDコンポ』。その前がね…、」
「わかったよ、もういいよ…。」
 健太くんはげんなりした顔をして溜息をついた。
 クリスマスってプレゼントをお願いしてもらうものなのかぁ…知らなかった。
 僕は帰ってから珍しく家に居た陸に聞いてみた。
「ねぇ、クリスマスってサンタ…っていうものにプレゼントを頼むんだよ。…でもサンタってどこにあるんだろう?どうやって頼むんだろう?」
「聖?何言ってんの?」
「陸知らないの?サンタっていうのがあるんだよ。でね…。」
 陸がびっくりした顔で僕に教えてくれた。
「サンタ・・・ってサンタクロースのおじいさんだよ?ほらおひげが長くて赤い洋服着てトナカイさんに乗っているおじいさん。テレビで見たことない?」
「あーっ、知ってるぅ。えぇっ、あのおじいさんが『さんたくろーす』で『サンタ』なの?」
「うん。」
「知らなかった・・・でもどこでお願いするんだろう?」
「何を?」
「プレゼント」
「何か欲しい物があるの?」
「陸、サンタさん知ってるの?」
「知らないけど、僕も頼みたいからさ、一緒にたのも?」
「いいよ。」
「じゃあお手紙書こう、そうしたら零に届けてもらおうね。零ならきっと知っているからさ。」
 そう言われて僕は健太くんが「父ちゃんがもらってきてくれる」って言っていた事を思い出した。そうだよね、零くんはぼくの「父ちゃん」だもんっ。やっぱり『パパ』じゃなかったんだ…良かった。
「何?そんなに沢山欲しいの?一個だけだってば、もう聖は欲張りなんだから。」
「だって去年だって一杯もらったもん。」
 陸がお手紙に『パパが○せになりますように、ママが○○になりますように、聖が元気でいますように、零とずっと○○にいられますようにそして○してくれますように。それだけでいいです。』って書いてあった。漢字は読めなかったんだけどさ。陸のほうが欲張りじゃないのかな?
「ねぇ陸、いつか皆が一緒にいられたらいいね。」
 ふと僕はそう思って呟いた。
「そうだね。ママも涼さんもパパも、おじいちゃんおばあちゃんになっちゃったら、わだかまりなく一緒に暮らせるかもね。案外今でも僕達が言い出せばうんって言ってくれるかもしれないけどさ、うちのばあちゃんと涼さんのおばあちゃんが絶対反対するだろうな。」
 陸がとっても寂しそうな顔をしたから僕はこのお話は終りにしようと思った。
「そっかぁ。聖は一緒にクリスマスがしたいのか。でもプレゼントはいらないの?」
「うんっ。零くんと陸が一緒にいてくれれば良いんだ。でねでね、一緒にお風呂に入って、一緒に寝るの。だっていつも僕だけ一人だから。って陸違うよ、僕強いから一人でも平気なんだよ、でも…たまには良いじゃない。ね?」
 陸はふわっ…て感じに微笑んだ。そして僕をぎゅってしてくれたんだ。
「でもそれはサンタさんじゃなくて零に言ってごらん。きっとなんとかしてくれるよ。」
 陸・・・ごめんね。その日はテレビの生放送があるの知っているんだ。先生が、
「クリスマス・イブはACTIVEテレビに出ているから聖ちゃんも一緒に行くの?」
って目をキラキラさせながら聞かれたから。
「一緒にケーキ食べようよ。」
 陸を困らせる、僕はいけない子なんだ。



「ただいまー」
 とんとんとん・・・玄関のドアが開いたとたんに廊下を走ってきたのは陸。
「ごめんねー、聖。遅くなっちゃったよ。」
 ってまだテレビの番組やっているのに?確かに一番最初に出ていたけど。
「出番が終ったから帰ってきちゃった。」
 ぺロッと舌を出して笑う。
 その時テレビから零くんの声。
「陸がばっくれた。」
 それに答える様にね
「うん。だって聖が待っているからね。」
 陸はテキパキとご飯の仕度を始めた。昨日のうちに下準備はしてあったらしい。
「零がこのまま直に帰ってきてくれれば丁度良いんだけどね。」
 …僕、陸って好きだなぁ。だってすっごくマイ・ペース、っていうかさぁ、自分勝手っていうかさぁ…でも自分の生き方をしているって思うんだ。
 先生が「自分らしく」ってよく言うんだけど「自分らしい」ってたぶんこういうことだと僕は思う。
「聖、ボケっと突っ立ってないで手伝うっ。」
「はーい。」
 テレビの司会者が「陸はイブのデートだったのかな?」と笑い飛ばしていた。


「…ったく、本当に帰るとは思わなかったよ…。」
 零くんが笑いながら言う。
「ちゃんと言ったじゃないか、初ちゃんも「いいよ」って言ってくれたもん。」
「陸、電車で帰ってきたの?」
「そうだよ、歩いて帰って来れないじゃん。こういう日はタクシー、道が混んでて逆に遅いんだよね。」
 ちょっと時間が遅くなってしまったけれど、僕は明日からお休みだから平気だもん。ただ、二人は31日迄、お仕事が入っていて忙しいんだって。僕はしばらく一人ぼっちなんだ、でも平気。だってちゃんと夜になれば二人は帰ってくる。たとえ夜明け近くたって帰ってきてくれる、だから全然平気。



 三人で食べたクリスマスケーキはとっても美味しかった。


「うわぁーい」
 目が覚めたら枕元にプレゼントが一杯あった。僕知っているよ、サンタさんなんていないってこと。このプレゼントは零くんと陸が二人で選んでくれた物とそれぞれ一個づつ買ってくれた物、そしてパパからのプレゼントだね。
 多分…今年もあるゲームソフトは零くん、ショッキングピンクのジーンズは陸、紺色のダッフルコートは二人から、でプラモデルはパパだね。
 でも…僕にはこんなに素敵なサンタさんがいてくれる。我侭言えば真剣に悩んで実行してくれる、そんな家族がいる。



だから、だから僕は毎日二人が帰ってくるのがとっても楽しみです。


あっ、忘れてた。
「メリークリスマス。今年も沢山の幸せをありがとう。来年もどうぞよろしく。」