星の花束を抱いて番外5〜クリスマス・プレゼント〜
「ん〜…」
 けたたましい音で鳴り響く目覚まし時計を止め、急いで布団に腕を戻す。

 …寒いよぉ、学校行きたくない〜。
 ベッドの中でウダウダしていてハタと気づいた。今日はクリスマスイブ。学校は終業式!
「おはよう〜」
 慌てて階段を降りたが誰もいないのは常のこと。パパはロケで朝早くに出かけたし、じいちゃんばあちゃんは自分達の家に居る。
 それでもきちんと顔を洗って歯を磨き、パパが用意しておいてくれた茹で卵と、レンジでチンしたホットミルクと、ポップアップトースターから飛び出した厚切りトーストにブルーベリージャムをたっぷり
乗せた朝食をあっという間にたいらげて、いそいそと着がえをした。
 今日、終業式のあと、零ちゃんがデパートへ連れて行ってくれるんだ。
「でーと、だよね?」
 一人で呟く。
 クラスの男の子は同じクラスに好きな人がいる場合が多い。けど僕は零ちゃんが好き。一番好き。パパよりも好き。
 コートを着て、玄関で靴を履いて待っている。もうすぐ、零ちゃんが迎えに来てくれる。


「えっとねぇ…」
 デパートにお買い物って、零ちゃんがプレゼントを買ってくれるって言うんだ。何でも好きなものを買ってくれるって言うんだけど…迷っちゃうよぉ。
 あっ。
「零ちゃん、これ。これが欲しい。」
 零ちゃんはニコニコしながら、「こんなんでいいの?」と首を傾げて、それでも買ってくれたんだ。


「まだ、持っていたんだ。」
「うん。だって僕の宝物だもん。あれが、最後のクリスマスだったから。」
「最後って言ったって、ちゃんと毎年プレゼントはあげただろう?」
「ううん。一緒にクリスマスをしたのはあれが最後だったもん。」
 零は、涼さんの事故からしばらく、あまり遊んでくれなくなった。何があったのかはその後、聖の誕生で知ることとなるけど。
 引き出しをそっと、閉じる。
 小学校三年の時の零からのクリスマスプレゼント。それは熊のぬいぐるみがついたキーホルダー。当時、僕が鍵っ子だった事を先生は知っていたので、「鈴が付いたものを首から提げておけば、無く
なったときに気付く」と教えてくれたのだ。
 肌身離さず、いつでも零を感じていられるものが欲しかった。
 四年生の時は手袋。楽器を扱うなら、手は大事にしないといけないって言ってくれた。
 五年生の時はクリスマスツリー。うちには無かったから。
 六年生の時は国語辞典。中学生になったら必要だったから。で、僕も零に欲しいとおねだりした。ただし、零の使っていたもの…という注文付き。
 中学一年の時はスニーカー、二年の時はパーカー、三年の時はジーンズ。全部僕がお願いしたものだ。
「陸、おいで。」
 今夜は、クリスマス・ライブ。これからリハーサルがある…のに。
 リビングのソファーに腰掛ける零の上に、自ら腰を落とす。
「んっ…あぁ…」
 好き…って気持ちが、こんな感情だと気付いたのは何時だろう。
 僕が零を、恋愛対象にしたのは何時だろう…。
 ずっと、大好きなお兄ちゃんだと、皆が言う、大好きなお兄ちゃんだと、思っていた。
 気付いたら、恋していた。
 誰にも、渡したくなかった。自分だけの零にしたかった。
 こうして、零に抱かれるのを望んだ。僕の全てを零にあげたいと、願った。
「中に…出しちゃ駄目っ」
「馬鹿、無理…くぅっ」
 急いで引き抜き、なんとか間に合ったけど、お互い服がベトベト…。
「急がないと間に合わないっ」
「続きは楽屋だっ」
 …ドンドン、零が変態になっていく気がする…。


「この間、欲しいって言っていただろう?」
 …覚えてて、くれたんだ。
「メリー・クリスマス。」
 楽屋に届けられたのは、真っ赤なボディーのフェンダーのギター。赤は零の色…って勝手に僕が思っているんだけど。
 零は、今でも毎年、僕にプレゼントをくれる。
「陸はお金使わなくていいから。」
って、零は言うんだ。
「陸、さっきの続きは?」
「えっ、本当に?」
「したいなぁ…でも無理だよなぁ…」
 真剣に寂しそうに言う。
「だって…僕にとってのプレゼントは陸だから。いつだって僕のそばにいてくれる、陸がプレゼント。…愛してる…。」
 僕は、幸せです。
 愛する人に愛されて。幸せです。


 世界中の人に、幸せが訪れますように…
 メリー・クリスマス



                                                                                                            <クリスマスプレゼント>END