星の花束を抱いて番外15
〜「嘉辰令月」19周年記念〜君を好きだと感じた瞬間
《零の場合》
 あきらちゃんが、僕に教えてくれた。
 「零にもう一人弟か妹が産まれる。」って。
 その時、なぜだか心臓がギュッと痛くなった。
 夜空の星を見上げたら鼻の奥がツーンと痛くなった。
 あきらちゃんのお腹が大きくなるにつれ、会いたい気持ちが募った。
「そんなに早くから気になっていたの?」
 聖がそんな風に聞くけど、気になっているとかのレベルじゃないんだ。
 本能的にこの子は僕が守るべき存在だと、知っていたんだ。
 僕が2歳9か月の時に、陸が産まれた。


《陸の場合》
 時々、お隣に住むおじさんとおばさんが二人で住んでいるお家に、ぼくと同じくらいの歳頃の男の子が遊びに来ていた。
 時々、その男の子は、僕と遊んでくれた。
 時々、その男の子は弟と呼ばれる小さい男の子を連れて来て一緒に遊んだ。
 僕はその弟と呼ばれる男の子が羨ましかった。
 どうすれば弟と呼ばれる存在になれるのか、知りたかった。
「陸は、僕の弟なんだ。」
 僕の上で神様が微笑んだ瞬間だった。


《聖の場合》
 いつも、零くんを独り占めしている陸が嫌いだった。
 だけど、いつも陸がぎゅってしてくれるから。
 あったかくて、イイ匂いがして、優しい気持ちになれる。
 いつか、僕が陸を独り占めしたいと、思った。


《夾の場合》
 小中学生の時は、面倒だった。
 なんで兄ちゃんは僕に陸ちゃんのお守りをさせたがるのだろう?
 別に喧嘩が出来ない子じゃない。ちゃんと言葉にして反論できる。
 手出しはしないけど、足は出す。
 決して弱くはない。
 でも、それは兄ちゃんが陸の話を聞きたいだけだったんだ。
 嫉妬した。
 兄ちゃんは、僕の兄ちゃんなのに。
「夾ちゃん。どこか痛いの?」
 痛いんじゃない、辛いんだ…と思って振り返った時…恋に落ちていたんだと思う。


《実紅の場合》
 …わかんない。
 でも。
 多分。
 綺麗だったから。
 ふわふわっと笑った顔とか、くしゃくしゃっと泣いた顔とか、どれも好き。
 ずっと…好き。
 変わらず、好き。


《辰美の場合》
 もう存在自体が神ですから。
 こんなに素晴らしい人間がこの世の中に存在するってことが奇跡です。
 そして、その人のマネージャーになれたっていうことは僕にも何かしらのチャンス…じゃない、陸さんのお役に立てているのだと信じています、はい。



「あの…」
「ん?」
「これ、何のインタビュー?」
 聖がパソコンになにかを打ち込んでいる零の背後から声を掛けた。
「何かインタビュー記事が出ているの?」
 僕も興味津々で近づいた。
「インタビューじゃないよ。僕のライバルたちの傾向と対策を練るための作戦用コメント。」
「ライバル?」
「つまり、陸のことが好きな人を集めたの。」
「ふーん…って一番肝心な人が抜けてるよ?」
「あ…」


《裕二の場合》
 俺にそれ聞いてどうしたい?
 陸を俺に返してくれるのか?
 まったく…
 俺がどれだけ陸を愛して大事にして来たか、零が一番良く知っているよな?
 大体、陸がこの世に生まれ落ちたのは何と言ったって俺の努力と勇気と愛の結晶だからな。
 聞かれればいくらだってしゃべるよ?
 陸がどれくらい好きかって?
 命に代えてもいいくらいだ。
 拓と美路には実紅がいるじゃないか。
 陸には零がいる?
 えーい、不愉快だな。
 お前は何しに来た?
 分かったよ、陸は零のことが大好きだもんな。
 当てつけかよ。帰れ帰れっ。



「…聞かなくても分かってたね、答え。」
「うん…」


<君を好きだと感じた瞬間>END