去年。
カウントダウンライブを行っていたにも関わらず、肝心なときに話し込んでしまってカウントダウンせずに年が明けてしまった。
そこで今年は都竹くんがタイムキーパーを務めてくれている。
ちゃんと台本も作った。
まず、11時50分になったときに一度都竹くんから合図がある。
ここからトークに入る。
当然、去年の失敗を振り返りながら今年は完璧にしたいからと客席にも時計を気にしてもらって、僕たちは呑気に話し込む。
「なんだか全然責任感が感じられない設定だな。」
初ちゃんがぽつりと呟いた。
「だったらどうする?」
すると全員黙ってしまう。
「11時50分は同じで良いけどそこから先は音楽で行かないか?一応ミュージシャンだし。」
言い出しっぺの初ちゃんは、プランを持っていたようだ。
「なら、9分40秒で構成しないか?」
零が言う。
「いいね、10秒で調整して、10秒でカウントダウン。」
「うん、いいかも。」
「でさ…」
いよいよ当日。
そわそわしながらそのときを待つ。
ライブの開始時間は22時だ。
大抵のバンドがそうだと思うけど、リズムをとるのはドラムの仕事だ。
ドラムが決まった速度で演奏してくれれば9分40秒はきっちり決まる。
つまり。
今夜の大役は隆弘くんのお仕事というわけ。
まぁ、隆弘くんがそんな失敗をするわけがない…という全メンバーの信頼が実は隆弘くんの重圧になってしまっていた。
都竹くんから10分前の合図が来た。
隆弘くんがカウントを取る。
初ちゃんが最初の音を出す。
続いて剛志くんと僕が音を出す。
そして零のボーカル…ん?
剛志くんを見る。
剛志くんは初ちゃんを見た。
零はそのまま歌い続けているけど、ほんのちょっとだけ、テンポが速い。
このまま行ったら確実に9分で終わってしまう。
演奏をしながら僕は隆弘くんの所へ移動した。
「どうしたの?」
「ごめん、ミスった」
完全にテンパっている。
そしてこともあろうかさらにテンポが上がった。
「逆逆、速過ぎる。」
ここはメドレーで構成している。
でも、僕は曲の繋ぎ目であえて演奏を止めた。
そしてそれに気づかれないように、剛志くんがキーボードでバラードに繋げる。
ここにドラムはいらない。
隆弘くんと目が合う。
もう、大丈夫だ。
何とか9分45秒で曲が終わる。30秒前から都竹くんが合図を出してくれている。
「今年も一年ありがとうー。皆で一緒に!」
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
明けましておめでとう
2016年もよろしく
加月零
三澄初
畑田剛志
遠山隆弘
野原陸
今年もこの5人で演っていくからね。
「ホント、ごめん!」
終演後、隆弘くんが僕らメンバーとスタッフに向かって頭を下げる。
「何で?隆弘くん悪くないし。何かあったらフォローするためにメンバーがいるんでしょ?」
僕は本気でそう思っている。
「陸、それはさ、ベースの初の仕事だよ。」
零が笑いながら言うけど、違うと思う。
「なんで?それは変だよ。自由に動けるのは僕だし、出来るなら問題はないでしょ?」
「陸は器用だから有りだよ。別に普通になんか拘らなくていいって。陸は陸らしく、好きにやったらいい。」
剛志くんが言ってくれたから僕は安心したんだ。
形になんか拘っていないし、義務とか義理とか関係ない。
僕はこのメンバーが好きで、誰かが困っていたら助けたいし、ファンの人には最高の音と最高の時間を過ごして欲しいから、出来ることは精一杯やりたい。
それはみんなわかっていること。
だけど、越権行為なのかな?
「陸、俺さ、気付いてなかった。陸が動いて初めて気付いた。ありがとう。」
初ちゃんが、僕をフォローしてくれた。
仲間ってさ、こういうものだよね。
何も言わなくても分かり合えて何もしなくても気付いてくれる。
そ れが無くなってしまったら思いやる気持ちもなくなったってことだから、一緒にはいられない。
でも、僕は一生この人たちに着いていきたい。
一生一緒に歩いていきたい。
だから、そのために努力をするんだ。
そして、言いたいことは出来るだけ言う。
僕のことを理解して欲しいから。
「陸、ありがとう。」
隆弘くんが僕を抱きしめながらそう耳元に囁いた。
「うん」
「…今夜、どう?」
僕は慌てて隆弘くんから離れた。
<カウントダウン>END |