星の花束を抱いて番外13
2016−17 炬燵で紅白を見ながら年を越す
 僕が髪を伸ばしているのには訳がある。
 でも、それは誰にも言わない。


「ねぇねぇ」
 聖がこんな風に声を掛けてくるときは何か聞きたいとき。
「なに?」
「陸のパパってどうして髪が長いの?ミュージシャンとかだったらわかるけどさ、俳優なのに」
「そうだね」
「…それだけ?」
「うん」
 だって…母が似合うって言ったからなんて、聖には言えない。
「じゃあ、」
「言わない」
「何もいってなーい」
「僕のことだって初めからわかってた」
「ちぇっ」
 僕の家系は単純なくせに頑固だ。
「零くんは髪の長い陸が好きみたいだよ?前に髪切った時がっかりしていたから」
「え?あ、うん、それは聞いた」
 聞いたのに、どうして顔が熱くなるんだろう?きっと今顔が赤くなっているはずだ。
 でも、聖はそれには触れずに手元に視線を戻した。
「年末のテレビ雑誌なんだけど、今年は三人で年越しできるかな?」
「うん。今年も一日の二時からの公演だから、八時までは寝ていられる。紅白見て初詣に行こう」
「うん」
 聖が膝の上で広げていたテレビ雑誌のページには、年始特番の時代劇があって、その主演に父の名を見つけた。
「へぇ、パパが時代劇ね。知らなかった」
「見たことないよね。でもポニーテールが似合ってる」
 ポニーテールでいいのか?
「家で大掃除するときはいつもその髪型だったけどね」
「僕も見たことある。庭の草むしりしてた」
「へぇ、意外」
 髪を結んでいたことが意外だったのか、草むしりが意外だったのか…別にどうでもいいか。
「ねぇねぇ」
「なに?」
「学校でね、この人の黒いうわさが立っているんだけど、事実はどうなの?」
 聖は今人気のロックバンドのボーカルを指さしていた。
「黒いうわさって?」
「二股しているとか」
「それは僕にはわからないな。でもいい子だよ。」
 見た目は交流をご遠慮したいような、強面で派手なファッションの子たちだけど、初めて歌番組で一緒になった時は、わざわざ楽屋に挨拶に来てくれて、
ファンだと言われた。…いや、ファンと言われたからいい子なわけじゃないけど、本当はACTIVEのような曲を演りたいと言ってくれて、いつか自由が利くよう
になったら書いて欲しいと言ってくれた。
 相手に気を遣える子はきっといい子に違いない…と言うのは僕の持論。
「そう言えば、出ないんだね、ACTIVE。」
「出ないよ、SMAPも出ないしね」
「…交流あった?」
「ない」
「だよね?」
「零の好きな言葉だよ、『スポーツ・ミュージック・アッセンブル・ピープル』」
「陸の好きな言葉は『天地明察』」
「違う、プロフィールには『未来永劫』って書いてあるでしょ?」
「僕の会心のボケだったのに、岡田くんの映画…諸行無常、疑心暗鬼、天地晦冥、快眠快食?」
「分かった、悪かった。」
「和室に、炬燵を買わない?」
「それと蜜柑」
「いいね」
「炬燵に蜜柑で紅白見ながら年越し」
「そして十二時回ったら初詣」
「いいねいいね」
 僕達は意気投合して、零をすっかり無視して炬燵を買う予定を立てた。


「三人用には大きくないか?」
 零には内緒で買って来た炬燵は、ぎゅうぎゅうに座れば10人くらい行けそうなサイズ。
「剛志くんと斉木くん、呼ぶ?」
「なら隆弘のとこも。一応初にも声かけなきゃ角が立つし。」
「もう全員呼んでもいいよ。鍋やろう、年越し鍋」
「翌日LIVEだけど?」
「話のネタになって喜んでもらえるって」
「じゃあ、呼ぶ?」
「わーい、楽しみだなぁ」
 僕等はすっかり年末気分です。
「じゃ、張り切って大掃除しようか!」
 …なんで二人とも返事をしない!!
「提案なんだけどさ…」


 八百屋に行って白菜とニンジン、豆腐屋で豆腐を買う。キムチ鍋とすき焼きをやることにした。
 メンバーの家族だけのつもりだったのに、いつの間にか加月と野原の家からもやってくることとなり、大人数になる。
 掃除は専門業者に頼んだ。自分たちでも出来るのにもったいない気もするが時間の節約になるらしい。
 …節約する意味もよく分からないけど、こういう時零に逆らうと根に持つから従うことにした。僕も相当大人になったと自覚している…って自分で言っている
んだから成長はしていないな。
 美味しい牛肉は手配すると父が言うので任せた。
 本場のキムチが家にあると初ちゃんが言うのでこちらもお願いした。
 キムチ鍋では大きな声では言えないけど、大手事務所所属の某グループの某さんがラジオで言っていたカルボナーラを試したいと常々思っていたので今
回実行に移す。
 ちょっと奮発してネットでチーズを仕入れた。
 家を新築するとき、全員で暮らせたら楽しいだろうと思っていたけど、まず第一歩の年越しパーティー。いいないいな。
 …聖には内緒だけど、都竹くんにも声は掛けてある。
 来るといいけど…難しいかな…。
 今日は一日、すっかり仕事を忘れて楽しんでしまった。
 明日は仕事、しないとなぁ。
 新人の曲の編曲、済んでないからなぁ。
 …ため息…


「こんばんわ」
「お邪魔しまーす」
「来たよ〜」
 続々とメンバーが集まってきた。
 いよいよって感じでわくわくする。
 あの後、僕は一日で仕事を終わらせて、準備に専念した。
 やっぱり楽しい時間を長く使いたいからね。
 気付いたら、聖の高校の同級生が数名混じっていた。まぁ、聖だって友達と過ごしたい夜もあるよね。
 でも、ちゃんと親には許可もらっているのかな?何て言って来たんだろ…。
「聖」
「大丈夫、パパとママの名前出した」
 何故僕の考えていることがわかる?
「だってずっとこっち見てハッって顔したじゃないか。誰だって気付くよ」
 え?そうなの?だからドッキリ関係の番組はいつも僕がターゲットなの?…なんだかがっかりだ。いつかのメンバーを探せ企画も、結局僕は何も仕掛け人らしい
ことはしなかった…がっかりの二倍だ…。
「陸ぅっ、こっち皿が足りない」
「はーい」
 忙しいのにボーっとしていられないっ。


「紅白って決定事項なの?」
「うん」
 ただ単に僕が見たいの。
「夕べのレコード大賞も見てたよ」
「陸は子供のころから歌番組が好きなんだよ」
 おーい、どうしてパパはこんな時だけ思い出すっ。
「零も好きだったよな?」
 えっ?お義父さん、そうなの?
「零はアニメだったわよ?」
 ええっ!知らなかった。
 炬燵組、リビング組、ダイニング組でそれぞれわいわいと鍋をつつく。
 そろそろ鍋の具材も終わる頃を見計らって、アルデンテで仕上げたパスタを投入。
 チーズと生クリームで仕上げたカルボナーラはラジオで絶賛された通り美味だった。
 紅白が始まる時間に合わせて全員で炬燵に入って鑑賞の時間になった。
「僕の中では、紅白は出るものじゃなくて観るものなんだよね。」
 出場者が次々と中央の階段から降りてくる。
「この会場って狭いよね」
「うん」
「楽屋もないしね」
「うん」
 などと他愛もない会話をしながらぼーっと見ている。
「SMAP出てないと寂しいね」
「そうだね。いつもいたもんね」
「でももっといつもいた北島さんが出なくなっても別に変わらないからさ」
「そうよ、チータ出なくなってどんだけ経つと思ってるの?」
 母は少しずれている。
「僕はV6いるから別にSMAP居なくても平気」
「俺はTOKIOの演奏が気になる」
「うんうん、茂ちゃん気になる」
「達也くんのベースも聴いてよ」
 初ちゃんが呟く…けど聞かないふり。
 蜜柑の皮の山がどんどん増えていく。
 なんて幸せな大晦日だろう。
 やがてテレビから蛍の光が流れ、子供たちはすっかり客間で寝入ったころ。
 当然、ジャニーズカウントダウンで年を越した。
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「ハッピーニューイヤー」
 テレビに合わせて起きている全員で大合唱。
「一昨年まではあっち側だったよな」
「そうだね」
「…こっちもいいな」
「うん」
「もうすぐ幕が開くけどな」
「それも、楽しい」
「うん」
 2017年が、皆様にとって素晴らしい年でありますように。

明けましておめでとうございます。



                                                                             <炬燵で紅白を見ながら年を越す>END