| あきと、約束をした。 病院へは行かない。
 姉の子として産まれてくる我が子。
 どんな手を使ったらそんなことが出来るのだろう。
 我が父ながら驚くほど見事な手際だ。
 でも。
 どんな手を使ってもいい、あきと俺の子がこの世の中に誕生するという事実が大事だったから。
 
 
 「陸っ」
 また、母に怒られている。
 大人しいくせにいつもちょろちょろとしている。
 目を離すといなくなる。
 何処に遊びに行くのか追跡すると途中で消える。
 全く…ルパンと銭形みたいだ。
 もうすぐ5歳の誕生日。
 今年は何をプレゼントしようかな。
 また、ママが欲しいなんて言われたら、どうしよう。
 今のところ、結婚の予定はない。あきら以外に愛する女を見つけられない。
 いや、陸以上に愛せる対象が見つけられないというのが正しいだろう。
 目の形は、あきらにそっくりだ。
 けど、輪郭とか鼻の形とか唇の厚さは俺に似ている。
 日に日に、似てくる。
 「陸、誕生日に欲しいものはあるのか?」
 「うん!お兄ちゃん!」
 また、無理難題だな。
 「お兄ちゃんはお店で売ってないから無理だな。他にないのか?」
 「んー…んー…ないっ。」
 今度は断言か。
 「陸は最近何して遊んでいるんだ?」
 「えっとぉ…お絵描きとか、滑り台とか、紙芝居。」
 「紙芝居?」
 「うん!図書館でお兄ちゃんが読んでくれるの。だから読んでくれるお兄ちゃんが欲しい。」
 そういうことか…。
 「絵本を読んでくれるパパじゃダメか?」
 「いいよ。毎日読んでくれる?」
 「毎日…頑張る。」
 映画のロケが入ってしまうと、帰れない日がある。そんな日は我慢してもらうか…。
 「じゃあ、絵本をプレゼントしよう。」
 「ううん、絵本はいっぱいあるから要らない。」
 そうだった、絵本は親戚から要らなくなったものが一杯送られてきたんだった。
 「じゃあ、今夜は特別に2冊読んであげようか?」
 「うん!」
 ニッコリ笑うと、天使だな本当に。
 
 
 「パパぁ、どうして僕のママなのに意地悪するの?」
 俺の腕の中で陸がじたばたと暴れた。
 心臓がバクバクと脈打つ。
 血液が頭に集中しているのだはないかと思うくらい、顔が熱い。
 陸が、あきらに会ってしまった。
 正確にはあきらが陸に会いに来た。
 「陸に、本当のことを教えてやる。さっきの人が陸の母親だ。」
 そして、やっぱり俺はあいつが好きだ。
 会わないようにしていたのに、会えば心が乱される。
 「パパが良いって言ってくれたら、僕にはママもお兄ちゃんもお姉ちゃんも出来るのに。」
 「パパが良いって言っても涼が…零くんのお父さんがいるだろう?」
 「零ちゃんのパパがいるとどうして僕のママがママになってくれないの?」
 陸、ごめん。最悪の誕生日にしちゃったな。
 「それは、俺の片想いだから。」
 「そっか!そう言うことなんだね」
 おいっ、どうしてそこで納得するんだ。
 「じゃあ、ママはいらないから零ちゃんにお兄ちゃんになってもらってもいい?」
 陸には、それが一番うれしいプレゼントなんだな。
 
 
 
 
 「えーっ、ママよりお兄ちゃんって言ったの?」
 涼とあきらが、実紅と子供たちに会いに来ると、必ず俺も巻き込まれる。
 「そうだよ、5歳の誕生日だから何か欲しいものがないかって聞いたら、お兄ちゃんだと。」
 どうしてあの二人は惹かれ合ったのだろう?
 「零はね、陸がお腹の中にいたときから、陸が生まれてくるのを一番楽しみにしていたの。…裕二さんよりも。」
 そうか、2人は魂の段階で惹かれ合っているのか。
 「なら、どうして同性で生まれ落ちたんだろう?」
 「だから、惹かれ合うのかもしれない。」
 …今まで黙っていた涼がぽつりとそんなこと言うと妙に説得力がある。
 「でも、相変わらず陸の誕生日会は拒否されているの?」
 そうなんだ、陸の誕生日会をやりたいと言っているのに家族がやってくれるからいらないって言うんだ、腹立つ。
 「なら…」
 あきらの提案は、いつも陸が怒っている内容だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「パ…お父さんっ、いつ合鍵作ったの?」
 今日の仕事は早朝から次のアルバムに関しての打ち合わせをしてきて、昼前には家に着いた。
 玄関ドアの鍵を開け、玄関に入ると異変を察知した。
 「合鍵じゃなくて零に借りた。」
 「零〜っ」
 零は何がいけないのって顔してるけど、僕としては新しい家にはもう少し、三人だけでいたかったのに…。
 絶対に合鍵作ってるから、父と母の分。
 「で?今日は何の用?」
 半分怒りながらズンズンと部屋の奥へと入っていった。
 「陸、お誕生日おめでとう〜」
 リビングに辿り着くと、そこにはメンバーとスタッフと家族が勢ぞろいしていた。
 「どうしたの?皆。今日は仕事が忙しいって急いで帰ったのに…」
 また父が無理を言ったんだろう…。
 でも、まぁ、たまには誕生日を祝わせてあげるか。
 だって、誕生日は親に感謝しろって、最近の風潮だし。
 だけど、僕と聖の場合、手放しで親に感謝できない諸事情があるわけで…。
 あとでこっそりお礼を言っておくかぁ。
 
 
 
 <陸の誕生日>END
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