| 何度も何度もリダイヤルしたけど、流れてくる音声は不通通知。 既に解約したんだ。
 分かっていた、そんなこと。
 手を放したのは自分自身。
 身代わりではなかったなんて嘘だ、いつだって僕の心の中には一人の人が住んでいた。
 だけど離れて初めて知る自分の想い。
 どうか、あなたが幸せになれますように。
 僕が叶えてあげられなかった未来像を、愛する人と描けるようになりますように。
 
 
 解約した携帯電話を握り締め、何度となく溜め息をつく。
 彼の横で微笑む少女の姿を思い浮かべ自分自身に納得させる。
 その方が似合っているよ、と。
 人生に遠回りはない、全て必要だから進む道。
 二人の道が違えたのは必然。
 どうか、僕のためになんか涙を流していませんように。
 
 
 「んっ…」
 深く、奥深くに穿たれた彼の楔。次の瞬間喪失感を与えられ身震いをする。
 しかし直ぐに再び奥深くまで打ち込まれる。
 「あんっ」
 繰り返し繰り返し抽挿され、声がカラカラになりながらも内側の甘い疼きに歓喜する。
 「れいっ…」
 愛しい男性の名を呼ぶ。
 「陸っ」
 その唇が自身の名を囁く。
 「好き」
 「愛してる」
 背中に腕を回してきつくしがみつく。
 「そんなにしがみついたら、動けない」
 零が耳元で小さく笑う。
 僕たちの願いはただ一つ。
 いつまでもこうして抱き合いたい。
 
 
 「雨か。」
 窓辺に立ち、呟く。
 きっと、あの人は今頃、恋人に抱かれているのだろう。
 反り返った喉元の白さ、額に張り付く前髪、薄く開かれた瞼、怪しく光る瞳、丸く開いた唇…宙を漂う足指、背中に食い込む爪。
 何度振り払ってもたった一度の行為は脳裏に焼き付き夢に現れる。
 忘れたい、忘れたい、忘れたい…今はただそれだけを願っている。
 
 
 「もしもし?」
 
 
 <七夕に願いを込めて>END
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