〜番外11〜七夕に願いを込めて
 何度も何度もリダイヤルしたけど、流れてくる音声は不通通知。
 既に解約したんだ。
 分かっていた、そんなこと。
 手を放したのは自分自身。
 身代わりではなかったなんて嘘だ、いつだって僕の心の中には一人の人が住んでいた。
 だけど離れて初めて知る自分の想い。
 どうか、あなたが幸せになれますように。
 僕が叶えてあげられなかった未来像を、愛する人と描けるようになりますように。


 解約した携帯電話を握り締め、何度となく溜め息をつく。
 彼の横で微笑む少女の姿を思い浮かべ自分自身に納得させる。
 その方が似合っているよ、と。
 人生に遠回りはない、全て必要だから進む道。
 二人の道が違えたのは必然。
 どうか、僕のためになんか涙を流していませんように。


「んっ…」
 深く、奥深くに穿たれた彼の楔。次の瞬間喪失感を与えられ身震いをする。
 しかし直ぐに再び奥深くまで打ち込まれる。
「あんっ」
 繰り返し繰り返し抽挿され、声がカラカラになりながらも内側の甘い疼きに歓喜する。
「れいっ…」
 愛しい男性の名を呼ぶ。
「陸っ」
 その唇が自身の名を囁く。
「好き」
「愛してる」
 背中に腕を回してきつくしがみつく。
「そんなにしがみついたら、動けない」
 零が耳元で小さく笑う。
 僕たちの願いはただ一つ。
 いつまでもこうして抱き合いたい。


「雨か。」
 窓辺に立ち、呟く。
 きっと、あの人は今頃、恋人に抱かれているのだろう。
 反り返った喉元の白さ、額に張り付く前髪、薄く開かれた瞼、怪しく光る瞳、丸く開いた唇…宙を漂う足指、背中に食い込む爪。
 何度振り払ってもたった一度の行為は脳裏に焼き付き夢に現れる。
 忘れたい、忘れたい、忘れたい…今はただそれだけを願っている。


「もしもし?」


                                                                                                            <七夕に願いを込めて>END