66.バレンタイン
 学校に着く早々、心くんの周りに女生徒がわらわらと集まって来た。
「川崎君、これもらってくれる?」
 そーかそーか、バレンタインか…と、呑気に構えていた城くん。
 あっという間に両手一杯に抱えている心くんに対し、城くんは手ぶら。
 同じグルーブのアイドルなのに…。


 結局、教室でも帰り道でも、城くんに渡されるチョコレートはなかった。


 今日はラジオ局でのお仕事。
 入り口では入り待ち出待ちの女の子たちが大勢たむろしている。
 城くんと心くんは学校から直でここへやって来た。
「きゃー、心くん〜」
 又しても朝と同じ状況。
 スタジオへ向かうと、神宮寺くん、桧川くんも同様に一杯の荷物を抱えていた。
「僕って人気ないんだ」
と、ぽつり呟いたけど、そんなに気にしている風でもない。


 仕事が終わり、帰路着く。
 マネージャーに送ってもらって各々の部屋へ戻っていく。
 城くんは部屋へ辿り着くと小さな紙袋を抱えて、
「ちょっと悠希んところへ行ってくる」
と、駆けだした。
 心くんは何処かへ電話を掛けていた。


「はい、バレンタインのチョコレート…と思ったけど、アクセサリーにした。」
「城…ありがとう。だけど今日はまだ12日だよ?」
 そこで城くん、はたと気付いたのです。
 今年のバレンタインは日曜日だったことに。
「みんなが配っているからてっきり今日だと勘違いしてたよ。」
「だけどもう用意してくれてたんだ、ありがとう。」
 桧川くん、大胆にも玄関先で城くんをぎゅっと抱きしめました。
 気を付けないと隣室の人に見つかるのに。
「城、二人で暮らさないか?ここを出てマンション借りようよ?」



 日曜日の夕方。
 事務所にひとり呼び出された城くん。
 会議室に山のようなプレゼントが積んでありました。
 全部、城くんあてのチョコレート。
 羨ましいような可哀想なような…。
 城くんはそれを全て持ち帰り、全ての手紙に目を通したのでした。


 チョコ?
 まだ冷蔵庫に眠っています。