100.new days
「こんばんは!daysです。今夜でボクたちは卒業します。」
 あれから二年、ボクと心くんはdaysを卒業した。


「今後の方針だが…、」
 増上さんは経営側になっていて、すっかりお偉いさんだ。逆らったら抹殺されてしまうかもしれない。
「何か、やりたいことはあるかな?」
 え?
「神宮寺くんと桧川くんのデュオ、最初は良かったんだけどさ、段々尻すぼみ状態なんだ。そこで考えたん
だけど、君たちもデュオでやらないか?」
 まだ、ボクに歌う機会を与えてくれるらしい。


 神宮寺くんと悠希のデュオは『Red winds』という。
 心くんとボクのデュオは『白雪』っていうお酒の銘柄みたいな名前。
 そしてこの二組が一緒になると『rainbow』となる。
 でも、daysの曲は歌えない。
 神宮寺くんと心くんが詩を書いた。
 悠希とボクが曲を書いた。
 皆で編曲をした。
 だったら、今の事務所にしなくてもやっていけそうだけど、ボクらはこのままでいることを選んだ。
「前にさ、十年後自分たちはどうしているかなんて考えたけど、まさか名前を変えてまだ活動しているなんて
思ってもいなかった。」
「神宮寺くんはどんな未来を想像していたの?」
「俺はうちの会社が得意としているミュージカルを専門にしていると思っていた。実際やっているけど、まだア
イドルを続けているとは思っていなかった。」
 rainbowがアイドルかどうかは微妙だ。
「オレは裏方になっていると思っていた。元々世話好きだからさ。」
 確かに悠希は一歩引いてしまう嫌いがある。
「僕はドラマ出たりバラエティやったり、ごくごく普通のことをやっていると思っていた。」
 …ごくごく普通って何だろう?
「そう言う城くんは?」
「ボクはdaysがずっと続いて、毎日忙しくレコーディングしたりコンサートやったりしていると思っていた。今の
まま。」
 そう。rainbowなんて名前だけど、ファンの子たちは現状にとっても満足してくれている。
 new daysなんて呼んでいる。
 会社の方針がどうであれ、グループというものはメンバーが変わったらもうグループではない。
 同じ三年一組でも次の年はメンバーが違う、これは十分に違う三年一組だ。
 歌う歌は同じでも、歌う人が違ったら思いが違う。
 ボクは悠希のために歌う。
 一年後、五年後、十年後も、悠希と一緒にいるためには、歌い続ける。
 ボクが憧れたのはアイドル歌手だから。


「こんばんは、daysです。」
 翌年。
 ボクたちに名前が帰ってきた。
 メンバーを入れ替え続けたらファンが暴動を起こした。
 ファンの力は偉大だ。
 今まで不可能だと思われていたことも、可能にしてくれる。
 ずっと歌いたかった歌が戻ってきた。
 離れ離れになっていた恋人に会えたような気分だ。
 daysを名乗っていた後輩は、新しい名前を公募して新たにデビュー曲から始めた。立派なライバルになっている。
 いつか、ファンのみんなにボクたちの本当のことを話したいと思う。
 でもそれは十年…二十年後までとっておこう。


「慧くん。これからもよろしくお願いします。」
「俺の方こそ、よろしくな。」
「城、今度こそ…」
「うん、今度こそプロポーズをお受けします。」
「えっ」
「えっ」
 神宮寺くんと心くんが驚く横で、ボクは悠希に抱き締められていた。
 ボクは悠希と一緒に歩んでいきます。
「心、結婚しよう、今すぐっ。」
「勿論だよ、慧くん。…あーあ。まさか城くんに先越されるなんて思ってもいなかった。」


 ボクたち四人は今、いつでも四人での仕事だけで手いっぱい。
 アイドルグループdaysです。