| 「こんばんは!daysです。今夜でボクたちは卒業します。」 あれから二年、ボクと心くんはdaysを卒業した。
 
 
 「今後の方針だが…、」
 増上さんは経営側になっていて、すっかりお偉いさんだ。逆らったら抹殺されてしまうかもしれない。
 「何か、やりたいことはあるかな?」
 え?
 「神宮寺くんと桧川くんのデュオ、最初は良かったんだけどさ、段々尻すぼみ状態なんだ。そこで考えたん
 だけど、君たちもデュオでやらないか?」
 まだ、ボクに歌う機会を与えてくれるらしい。
 
 
 神宮寺くんと悠希のデュオは『Red winds』という。
 心くんとボクのデュオは『白雪』っていうお酒の銘柄みたいな名前。
 そしてこの二組が一緒になると『rainbow』となる。
 でも、daysの曲は歌えない。
 神宮寺くんと心くんが詩を書いた。
 悠希とボクが曲を書いた。
 皆で編曲をした。
 だったら、今の事務所にしなくてもやっていけそうだけど、ボクらはこのままでいることを選んだ。
 「前にさ、十年後自分たちはどうしているかなんて考えたけど、まさか名前を変えてまだ活動しているなんて
 思ってもいなかった。」
 「神宮寺くんはどんな未来を想像していたの?」
 「俺はうちの会社が得意としているミュージカルを専門にしていると思っていた。実際やっているけど、まだア
 イドルを続けているとは思っていなかった。」
 rainbowがアイドルかどうかは微妙だ。
 「オレは裏方になっていると思っていた。元々世話好きだからさ。」
 確かに悠希は一歩引いてしまう嫌いがある。
 「僕はドラマ出たりバラエティやったり、ごくごく普通のことをやっていると思っていた。」
 …ごくごく普通って何だろう?
 「そう言う城くんは?」
 「ボクはdaysがずっと続いて、毎日忙しくレコーディングしたりコンサートやったりしていると思っていた。今の
 まま。」
 そう。rainbowなんて名前だけど、ファンの子たちは現状にとっても満足してくれている。
 new daysなんて呼んでいる。
 会社の方針がどうであれ、グループというものはメンバーが変わったらもうグループではない。
 同じ三年一組でも次の年はメンバーが違う、これは十分に違う三年一組だ。
 歌う歌は同じでも、歌う人が違ったら思いが違う。
 ボクは悠希のために歌う。
 一年後、五年後、十年後も、悠希と一緒にいるためには、歌い続ける。
 ボクが憧れたのはアイドル歌手だから。
 
 
 「こんばんは、daysです。」
 翌年。
 ボクたちに名前が帰ってきた。
 メンバーを入れ替え続けたらファンが暴動を起こした。
 ファンの力は偉大だ。
 今まで不可能だと思われていたことも、可能にしてくれる。
 ずっと歌いたかった歌が戻ってきた。
 離れ離れになっていた恋人に会えたような気分だ。
 daysを名乗っていた後輩は、新しい名前を公募して新たにデビュー曲から始めた。立派なライバルになっている。
 いつか、ファンのみんなにボクたちの本当のことを話したいと思う。
 でもそれは十年…二十年後までとっておこう。
 
 
 「慧くん。これからもよろしくお願いします。」
 「俺の方こそ、よろしくな。」
 「城、今度こそ…」
 「うん、今度こそプロポーズをお受けします。」
 「えっ」
 「えっ」
 神宮寺くんと心くんが驚く横で、ボクは悠希に抱き締められていた。
 ボクは悠希と一緒に歩んでいきます。
 「心、結婚しよう、今すぐっ。」
 「勿論だよ、慧くん。…あーあ。まさか城くんに先越されるなんて思ってもいなかった。」
 
 
 ボクたち四人は今、いつでも四人での仕事だけで手いっぱい。
 アイドルグループdaysです。
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