99.days
「こんばんは!daysです」
 初めてのコンサートツアー。第一声は初コンサートと同様だった。
「daysってdayの複数形、つまり日の複数形で日々。僕たちと一緒に日々を送ってもらいたい、そんな願い
がこもっています。」
 そう、日々。ボクたちと、過ごして欲しいんだ…。


「こんばんは!daysです。」
 二年後のコンサートツアー。
 しかし、メンバーに神宮寺くんと悠希がいない。
「城です」
「心です」
「完(たもつ)です」
「了(りょう)です」
「新制days、よろしくお願いします」


 それは突然だった。
 増上さんから告げられたのは会社の方針で初めから決まっていたとのこと。
 神宮寺くんと悠希はコンビで活動を続ける。
 ボクと心くんはdaysに新メンバーを迎えて活動を続ける。
 その内、ボクらも卒業してコンピかソロかどちらかで活動する。
 そう、ボクたちは「days」に固定メンバーとして残ることが出来ないのだ。
 だから、学校へ行っていた。
 daysも学校で、同様に卒業していくという意味だったんだ。
 相変わらず、個人の仕事はある。
 だけどなんだか空しくなってしまった。
 折角四人で頑張ってきたのに、新しいメンバーは努力もせずに栄光を掴んでいるのだ。


「ただいま」
「お帰りなさい」
 ボクら四人はまだ一緒に暮らしている。
 別々に暮らすことも考えたけれど、この形がしっくりくるんだ。
 プライベートは確保されてるから。
 でも、ここでdaysの話は一切しなくなった。
 折角築いてきたものがなんだか簡単に崩れ去っていくのを目の当たりにしている。
 二年前の楽しかった時間は何だったんだろう?
 悠希の口から語られる、神宮寺くんとの新しい仕事については全然耳に入ってこなかった。
 初めから知っていたら、こんな気持ちにはならなかったけど、一生懸命にもならなかっただろう。
 自分の人生なのに、誰かに左右されるのってなんだか違うって気がして仕方がない。
 でも、モヤモヤはボクよりも悠希と神宮寺くんの方が大きいと思う。


 個人での仕事は続いている。
 心くんは主にテレビドラマで、ボクは映画が多い。
 この間は初めて時代劇に出演した。殺陣が相当難しかったけど、殺陣師の先生について何とかクリアできた。
 今控えているのはコミックスが原作の大学生の青春もの。久しぶりに楽器の練習に勤しんでいる。
 ボクはdaysでアイドル歌手になるのが夢だった。
 だけど、事務所の方針は俳優業が7割で、バラエティは1割程度。daysは2割。
 心くんは俳優業が5割にバラエティが3割。daysは同じく2割。
 他の二人は全てがdays。だって踊れない歌えないだからね。
 神宮寺くんは悠希との新しいコンビでデュオとして活動しているけどこれも2割。
 あとは舞台でミュージカルが8割。すっかりテレビからは遠ざかっている。
 悠希は逆にテレビの仕事が多い。クイズ番組が3割、バラエティが3割。後の2割はCM関係で、出演しているも
のもあるけど、ナレーションもある。
 そう、ボク以外は結構夢を叶えているようなんだ。
 ボクの中では、初期のdaysが消化不良になっている。
 メンバーが変わったら、もうこれは違うグループなんだよ。
 その声が事務所の上層部に届かない。
 いくらボクらがお試しアイドルだったからって、こんな方法は間違っていると思う。
 だけど、批判したり反抗すると、この業界に残ることが出来なくなる。
 ボクらは飼い殺し状態になっていっていた。


 そして、こんな想いとこんな忙しい状態が、淡々と続いていた。