第一話  仁志 和隆
 同好会…というものはあってないようなもの。真面目に部に昇格しようと活動している所もあるが、大抵は中だるみ状態だ。
 たいした予算もない、設備がない等の理由から解散した会もある。
 ここ、行動心理研究会は名前は立派だがその実「恋愛相談所」。相談者は生徒だけど相談を受けているのは顧問教師。それもこれも活動費を増やす…というのが名目なんだが…

 仁志 和隆(にし かずたか)、生物学が専攻のどちらかと言えば研究職の方が向いている内向的な性格。なのに教職を選んだのは父親の「公務員は失業しない」という押しつけがましい持論の為。
 出来ることなら大学に残って顕微鏡を覗いていたかった。
 就職先に選んだのは父親の言う通りに公立高校の理科教師。生物だけというわけにはいかず、化学と物理も担当している。
 良く考えれば解る事なのだが、国立大学の大学院へ進んで研究職に着く…ということも可能だったのだが、親の言葉に逆らえない、自己主張は苦手だった。
 あまり人とは関わりたくない…そんな人間なのに何故か生徒からは絶大の人気だった。
 同好会の活動テーマは生物の行動における心理研究なのだがこの『生物』がいつの間にか人間限定になっていて、恋愛に対しての相手の出方などを相談される。
 生徒達は無難な回答では納得出来ずかなり細かく突っ込んでくるのだが恋愛オンチの仁志にはかなりな難関である。
 そして、相談にくるのがなぜか男子生徒の方が多いのが気に掛かっていることなのだが、まぁ、女子生徒は別に相談相手がいるのだろう…程度にしか思っていなかった。
 この柄凛木高等学校は至って普通の共学校だ。女子生徒はちゃんと男子生徒と同数だけ、教室に座って居る。
 仁志のルックスが飛びぬけて良い…ということはお世辞にも言えない。今奥様方のアイドルとなっている韓国の俳優になんとなく似ていなくもないが、まあそんな程度だ。
 しかし生徒には絶対的に人気がある。
 そこはかとなく漂う存在感…それが仁志の魅力…ということにしておこう。
 これには実はわけがあるのだが詳細は後述。