第百話  それから。
「せんせー」
 廊下をバタバタと駆け寄る女生徒に視線を移す。
「廊下を走るな」
 南中道は今日不機嫌だ。
「ねーねーせんせーはどんなタイプの子が好きなの?」
「仁志先生」
「本当に?一緒に暮らしてるって本当?」
「プライベートに関しては一切ノーコメント。相談事なら乗るけど。」
「先生が好きなんです。どうしたら…」
「しつこい!僕は仁志先生が好きなの!」
 くるり
と、方向転換すると理科準備室に消えた。
「ごめん、南中道先生愛想がなくて。」
 半べそをかいている女生徒を慰めるのは仁志。
「昨日嫌なことがあったらしくて機嫌が悪いんだ。今朝は無視され通しだよ。」
 その言葉を聞いたら女生徒は納得して帰った。
 後から理科準備室に来た仁志は
「南中道先生、生徒に気分で対応しないでください。」
と、一応大人の対応をする。
「和隆さんが!…東埜さんになんか会いに行くから…分かってても、ヤダ。」
「君だって毎晩尋之くんと電話しているじゃないか。…って、この話は帰ったらにしないか?」
 しかし、何故か南中道はケロッと機嫌が直っていた。


 仁志の妹は好きな人が出来て父親の思惑には参加しなかった。南中道には初めから勝算があったのだ。
 南中道の家族が経営する会社は相変わらず順調で特に問題はない。
「親族経営をしないことにしたので僕は気が楽なんです。好きな研究も出来る。理事長が話の分かる人で良かった。」
「ノーベル賞狙いじゃないか?何年か前に若い人がもらったじゃないか。真人はいくつか論文を出しただろう?」
「学会には呼ばれませんよ?」
「だからノーベル賞なんじゃないか」
「よくわかりません」
「実は僕もよく分からない」
「僕が分かったことは一番知りたいことです」
「なに?」
 南中道は黙って仁志を押し倒した。



長い間ご愛読いただきありがとうございました。全く可愛げのない登場人物になってしまいましたが、私は南中道が好きです。でも主人公は仁志です(笑)