第五十九話  振り出し
 結局、遥は航と別れることが出来なかった。別れるどころか今は心が揺れている。
 家に帰り着いた遥は、自己嫌悪に陥っていた。響になんと言い訳しようかと…

着信 響

 携帯電話が響からの着信を告げる。
出たい
けど
出られない
 しばらくの葛藤ののち
出たい気持ちに負けた


「もしもし」
『今どこ?』
「部屋」
『そっか…さっきさ、航から電話が来て、遥がいるって言うからさ、遥優しいからまた流されちゃったかな、って…ごめん、責めてるわけじゃない、自分に自信がないだけなんだ。』
 響の声を聞くと響が好きなんだと思う。
 響を不安にさせたくないと思う。
「響、どうしたらいいかな…航は諦めないって言うんだ。オレなんか追いかけたって何も出ないのにな。」
『そんなことない』
 響は断言するー当たり前と言えば当たり前だ。それを今まで悩んできたのだから。
「さんきゅ」
 遥も間抜けな返事をしていた。
「あのさ、航になんて言ったらわかってもらえるかな?」
『多分、無理』
 やっぱりなー遥もそうじゃないかと思っていた。
『言われて応えるのは嫌いだよ…ごめん』
「なんで響が謝るんだよ、オレが言ったのに…でもそっか」
『それでも諦められなかったのは、遥と寝たからだよ。それだけ。遥はかなり罪なことしてる。一度目があったら二度目以降を期待する』
 二度…
「二度となければ諦められる?」
『わからない』
 試してみようーとりあえず前進あるのみ、である。