第百話  そして
 さて。ここへ来て解決していないカップルがいました。潤と湊です。
 秩父の農家に婿へ出された潤は、子作りを放棄し…いや、正確には出来なかったのです。
 居たたまれなくなり遁走しました。
 一方湊の方は逆に必要なくなってしまい、やはり家を飛び出し再び東京で仕事を再開しました。


 それだけ。
 本当にそれだけです。
 再び合い見えることもなく淡々と時は流れたのです。


「遥」
「ん?」
「湊さんに会った」
「本当?元気だった?」
「ああ。店に来たんだ。昔の滞納金、忘れずに払ってくれたよ。」
 晩ご飯が済んでまったりした時間。ふいに響が思い出したように伝えた。
「仕事上手くいってるんだね。」
「…自分は人生の選択をすべて間違えたと、そう言っていた。…潤じゃなくて遥を選びたかったと、まだ言っていた。でもそれは遥に未練があるんじゃなくて、
潤を不幸にしたことを悔いていたみたいだ。」
「潤は不幸じゃないよ。」
 遥は潤が逃げ出して直ぐに探し出した。実家から遠くないところにいたのだ。
「一人だけど、兄貴と過ごした時間を大事にしているよ。」
「…教えたら、ダメかな?」
「自分で探し出せばいいんだ。何年経っていると思う?13年だよ?」
 みんな、中年になってしまった。
 それでも想いは変わらない。
「兄貴はいつも詰めが甘い…人のこと言えないけどさ…」


「だってさ。」
 翌日、響の元にやってきた湊は肩を落とした。
 そうしてとぼとぼと踵を返した。
 そこに、一人のくたびれた中年男が、立っていた。



「あの二人、どうなるんだろうな」
 響は、腕の中でウトウトとしている遥に、独り言のように聞いた。
「…ん」
 でも、遥は既に睡魔に勝てず、眠りの底に落ちていた。
「なんだかんだ言ったって、兄貴が大好きなんだよな、遥は。」


 この人々の人生がいーんだか、悪いんだか。
 そんなのは関係ない。