| さて。ここへ来て解決していないカップルがいました。潤と湊です。 秩父の農家に婿へ出された潤は、子作りを放棄し…いや、正確には出来なかったのです。
 居たたまれなくなり遁走しました。
 一方湊の方は逆に必要なくなってしまい、やはり家を飛び出し再び東京で仕事を再開しました。
 
 
 それだけ。
 本当にそれだけです。
 再び合い見えることもなく淡々と時は流れたのです。
 
 
 「遥」
 「ん?」
 「湊さんに会った」
 「本当?元気だった?」
 「ああ。店に来たんだ。昔の滞納金、忘れずに払ってくれたよ。」
 晩ご飯が済んでまったりした時間。ふいに響が思い出したように伝えた。
 「仕事上手くいってるんだね。」
 「…自分は人生の選択をすべて間違えたと、そう言っていた。…潤じゃなくて遥を選びたかったと、まだ言っていた。でもそれは遥に未練があるんじゃなくて、
 潤を不幸にしたことを悔いていたみたいだ。」
 「潤は不幸じゃないよ。」
 遥は潤が逃げ出して直ぐに探し出した。実家から遠くないところにいたのだ。
 「一人だけど、兄貴と過ごした時間を大事にしているよ。」
 「…教えたら、ダメかな?」
 「自分で探し出せばいいんだ。何年経っていると思う?13年だよ?」
 みんな、中年になってしまった。
 それでも想いは変わらない。
 「兄貴はいつも詰めが甘い…人のこと言えないけどさ…」
 
 
 「だってさ。」
 翌日、響の元にやってきた湊は肩を落とした。
 そうしてとぼとぼと踵を返した。
 そこに、一人のくたびれた中年男が、立っていた。
 
 
 
 「あの二人、どうなるんだろうな」
 響は、腕の中でウトウトとしている遥に、独り言のように聞いた。
 「…ん」
 でも、遥は既に睡魔に勝てず、眠りの底に落ちていた。
 「なんだかんだ言ったって、兄貴が大好きなんだよな、遥は。」
 
 
 この人々の人生がいーんだか、悪いんだか。
 そんなのは関係ない。
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