第九十九話  変更
「おっちゃん!」

「おっちゃんってば!」
「…俺のことか?」
「他に誰がいるんだ?」
 遥、42歳である。
と言うことは当然響も航も同い年なので42歳。なのに…。
「響にいちゃんはさ、どーして結婚しないのさ?」
と、完全なる線引きをしているのは航の息子、小学生6年だ。
「響に聞いたらいいじゃないか!」
 待合室で患者が読み散らかした雑誌をラックに片付けたり、スリッパを並べ直したりと夕方の診療に間に合わせるために遥は忙しい。
 あれからも遥は航の病院に勤めていた。辞めようとしたのだが、他に人がいないからと引き留められ今に至る。
「おっちゃんがいるから良いって言うんだぜ?変だろ?」
「響がそう言うんだからそうなんだろ?」
「おっちゃんはとうちゃんの愛人なんだろ?」
「…いつの話だよ…」
「だってとうちゃんがおっちゃんの写真しかない外付けハードディスクを病院の金庫に仕舞ってるんだぜ?そうしたら響にいちゃん独り相撲になるんだよな?」
 なんと答えたらいいか、一人逡巡する。
「宝、お前いつそれを見たんだ?」
 診察室から現れた航が息子を窘める。
「あれはとうちゃんの秘密の宝箱だから勝手に見るなよな。いいか?遥と響は法的には結婚できないけど夫婦みたいなもんなの。とうちゃんが遥に横恋慕して
たの。」
「おっちゃんを?どこがいいんだよ」
 航の息子―宝は、母親にそう言われて育ったから、遥の敵なのだ。
「俺が嫁なんだろーな」
「だろーな」
 遥は相変わらずだ。
「悪い、ちょっと家に行ってくる」
「…早く戻れよ」
「うん」


「響?」
 薬局は市販薬も扱っているので、処方箋以外の客もいる。
 殆どが女性客だ。
「響さん、咳も出ないのに喉が痛むのは風邪?」
 などと次々客が舞い込む。
「あら、遥さんじゃない。今日はもう終わり?」
「いえ、こいつは放っておくと飯を食わないんで支度をしに…」
 余計なことを言ったと後悔した。
「なら私が、」
「結構です」
 響が突如、拒否の言葉を発した。
「プライベートに関しては関知しないでいただきたいんです。」
 女性客は何か囁き合い出ていった。
「明日、ややこしい噂が流れるぞ。」
「流しておけ」
 部屋に上がろうとした遥を響が制する。
「戸籍を、一緒にしよう。」
 先日、新しい法律が成立した。
 婚姻以外でも新しく戸籍を作ることが出来るのだ。新しい世帯を作ることが可能になった。