あれもこれも
 僕の父は、ミュージシャンです。母?も、ミュージシャンです。
 戸籍上の父もミュージシャンです。
 母?の父は俳優です。母?の祖父は実業家です。
 兄は医学生です。
 僕の周りで仕事をしている人はこんな感じです。
 さて、僕の将来は何を目指したら良いのでしょう?



「あ、聖。おはよう!」
 母?は今朝も可愛いです。
「おはよう、陸。」
 僕は母?の頬にキスを落としました。とても満足げな表情です。
「どうしたの?元気ないけど。」
 母?に、隠し事は出来ません。
「うん、職業選択に迷っているんだ。」
「じゃあさ、あそこ行ってみたら?子供が職業体験出来るっていう…」
「やだ。」
 …この人はその施設がどれ位の年齢をターゲットにしているか、知らないのでしょうか?
「果たして大学に行くべきか、専門の資格を取るべきか、裕ちゃんの仕事を手伝うか、キ筑竹くんの言うようにマネージメント業をするか…悩み中。」
 すると、この人は
「なんだ、そんなことか。悩め悩め。」
 そう言って自分の仕事に取りかかってしまいました。
 なんて薄情…。
 でも、本当はわかっているのです、自分で決めなきゃいけないこと。
 なのに、やりたいことが見つからない…。



「んー、僕の場合はマザコンな理由だからなぁ。」
「夾ちゃんはマザコンじゃないと思うよ。ただ、優しいだけ。」
 夾ちゃん…兄は嬉しそうに笑いました。
 あ、兄のマンションへ遊びに来ています。
「聖は何がしたいんだ?」
 最近、講師として教壇に立つことがある夾ちゃんに聞かれるとなんか話さなくてはいけない気持ちにさせられる…危険です!
「何をしたいかが分からないから困ってるのに?」
「じゃあ質問を変えよう、聖が今やっていて1番楽しいことは何?」
 1番楽しいこと?
「…商店街のイベントを手伝うこと…かな?」
「何それ?」
 あれ?夾ちゃんには話してなかったっけかな?
 商店街の活性化を目指して、コッソリ活動していることを伝えました。
「へー、面白そうだね。ならイベント企画とかプロデュース業とか、若しくはいっそのこと商店街で店を開いて自分を含めて活性化をしたらいいじゃないか。」
 プロデュース?
「北海道の大学で情報処理関係の学部があったはず。先生に相談したら良い。」
「経済学じゃなくて?」
「プロデュースを念頭におくなら情報処理かな。学校、調べてみる?」
「お願いします。」
 夾ちゃんはパソコンを叩きながら色々調べてくれました。
「残念ながら、東京を出ることは出来ないみたいだよ。」
「別に、東京を出たいなんて言ってないけど?」
「僕は、聖が一人暮らしをすることを勧めるけどな。もしくは、家に来る?」
 夾ちゃんと?一緒に?
「ううん…考えられない。」
 陸と離れるなんて…。
「相変わらずマザコンだ…って僕と一緒か。」
 そう言って夾ちゃんは笑いました。
「いいよ、聖は陸からいつか離れなきゃいけないって気付けるから。僕は、どうやって忘れようか未だに現実から逃避している。」
「ママのこと?」
「いや、そっちじゃなくて…」
「え?陸?」
「それも、ちゃんと消化した。」
 そうでしょうねぇ…やりたい放題(言い過ぎじゃないっ)したからねぇ。
「誰?」
「聖には言いたくない。」
 …ムカつくんですけど。
「聖は、陸と都竹とどっちが忘れられない?」
 え?なんだか究極の選択です。
「どっちも忘れないしどっちも大好きだからどうしようもないんだけど。あるとしたら次の恋を見つけることかなぁ?陸よりも隼くんよりも好きな人。」
 僕は、できれば両親に僕の子供を抱かせてあげたい。だから女の子と恋をしたい…って思っているけど、好きになる人がいつも男性なんです。
「夾ちゃん、好きな人がいるんだ?」
「うん…ごめん。」
「なんで謝るの?」
「いつか、わかる。」
「ふーん。」
 なんだろう?
「夾ちゃんに調べてもらった大学に行けるか、先生に相談してみるね。ありがとう。」
 僕は夾ちゃんの部屋を後にしました。



「裕二パパ。」
「おっ、聖じゃないか。珍しいな。」
 最近は『パパ』をつけないと返事をしてくれません。実はパパではなくじいじなのですが…。
 実紅ちゃんに裕二さんに会いたいと伝えたら、夕飯には帰ってくるからと暫く待っていました。
「どうした?」
「僕、プロデュース業?をやってみたいんだ。」
「今、商店街でやっていることを極めるのか?」
「知っていたの?」
「まあな。」
「じゃあ、話は早い。僕を雇ってもらえるか知りたい。あ、ちゃんと試験も受けるし落とされても文句は言いません。僕が目指すものが世の中に受け入れられる職業なのか、知りたいんだ。」
 裕二さんは少し驚いた顔をしました。
「聖も、そんな歳になったんだな…。でも。その仕事ならフリーの方が良くないか?」
「それはいずれ考えるとして、最初は組織に所属して一から勉強してみたいんだけど、どうなんだろう?」
 裕二さんは少し考えてから口を開きました。
「なら、大学に行った方がいい。俺も仕事しながら大学に行ったけれど、知らないより知っていることの方が全然良いから。経営については俺が教えてやるから、プロデュース業について学んで来い。」
 そっか、やっぱり大学に行った方がいいというんですね。
「ありがとうございました。今、夾ちゃんにもどんな大学にいったらいいのか調べてもらっているから、学校の先生のも相談して決めてみる。」
 すると、少し視線を落としました。
「聖…陸にも相談してやってくれ。聖の将来に関して相談もなしに決められたら、あいつは相当落ち込むと思う。」
「うん。ある程度調べてから伝えるつもり。ちゃんと最終決定は零くんも交えて三人で決めるから。」
 裕二さんは僕の頭をポンポンと叩きました。
「ありがとう。」
 裕二さんにとって陸は、ずっとずっと可愛い息子なんだね。
 いいなぁ…。



「ただいま〜」
「ただいま」
 零くんと陸が一緒に帰ってきたってことは、今日はACTIVEの仕事だったんでしょう。なんだか久し振りな気がします。
「LIVEでも決まった?」
「何で分かった?」
「どうして知ってるの?」
 二人が同時に声を発します。
「何となく。二人とも楽しそうな雰囲気だから。」
「へー」
 陸に関しては分かりやすですし。
「ご飯食べる?」
 とっくに夕飯の時間は過ぎているので、僕は先に済ませました。
「うん、食べるっ」
「食べたいっ」
 こんな時の二人は無邪気です。
「ご飯と味噌汁と豚の生姜焼きでどうでしょう?」
「完璧っ」
 実は、実紅ちゃんからのおすそわけです。冷蔵庫に寝かしてあります。
「じゃあ支度するね。」
 二人がお風呂に入っている間(我が家の風呂場は男が二人で入っても窮屈ではない大きさなんです)、僕は台所に於いてフライパンで格闘していました。
 料理は嫌いではないけど得意ではないのです。
 だから出来上がった時、見た目で分かっちゃうみたいなんです。
「…ママ?」
 えっそっち?
「ううん、実紅ちゃん。」
「そっか。」
 えっ?そんなあっさり?
 どうして二人はママとなるとこんな反応なんだろう?
 零くんは昔、ママがすっごく好きだったくせに…。
「あのさ、大学のことなんだけど。」
「おっ?決まった?」
「うん。今商店街でやっていることを上手く仕事に活かせないかなぁ…と思って。」
「プロデューサーか。」
 零くんにはすぐにピンときたらしいです。
「コンサルティングとは違うの?」
 え?陸から意外な言葉が返ってきました。
「うん、コンサルティングだと特定分野に限られてしまうけれどビジネスプロデュースだと多岐に渡って活躍できる…らしいよ。」
 そしてそれに対して零くんから詳しい解説が来ました。
 この二人、音楽だけやっているわけではなかったんだと時々思い知らされます。
「そうしたらさ、語学もやっておいた方がいいよ?今僕が習っている英会話の先生がわかりやすいから一緒に行く?」
「え?何時から陸は英会話なんて習っていたの?」
「去年。英語の詩を作りたかったから、ネイティブの。」
 知らなかった…。
「いろんなことを幅広く知ることも大事だから、国際交流のある大学で専門知識のある大学がいいと思うよ。夾に頼んだらいい。」
 二人はビールを片手に生姜焼きをつつきながら、僕の話で花を咲かせていました。

 僕の父は、ミュージシャンです。母?も、ミュージシャンです。
 戸籍上の父もミュージシャンです。
 母?の父は俳優です。母?の祖父は実業家です。
 兄は医学生です。
 僕はやっと目指す道が決まりました。
「あっ、聖。またМVのバイト演ってくれないかなぁ?」
 陸はさりげなく、僕を業界に引き込もうとしているような気がするんだけど…ま、いいかな。バイトだし。


追伸 バイト代、すごく弾んでもらいました。