やっちゃう?
 ACTIVEは、小ホールでライブを行ってきた。
 理由は音響に拘ってきたからだ。
 でも、夢がある。
 それは、ビートルズと同じ舞台に立つこと。
 いつか、武道館に…。


「最終公演は武道館でいこうかと思う。」
 初ちゃんがさらりと言う。
「武道館?」
「武道館?」
「武道館なのか?」
「武道館で?」
 全員の視線を一身に浴び、少したじろぐ。
「うん。今回を逃したらなかなか難しいからな。」
「なんで難しいんだ?」
「しばらく空いてない」
「紛らわしい言い方をするな」
 零が突っ込む。
「最終が武道館か、いいな。」
 剛志くんが頷く。
「Disはデビューイベントが武道館だだったんだって。」
「アイドルはステータスだから。バンドマンは夢だよ、憧れだよ。」
 隆弘くんが感慨深げに話す。
 ふと、気付く。
「セット、要る?」
 初ちゃんが考え込む。
「少し、欲しいかな」
「なら、昔使ったACTIVEのロゴ、あれをリメイクしよう!」
 それに対して剛志くんが反論した。
「もっとデジタルにしないか?あまりにもアナログだろ、それじゃ。」
「デジタルって?レーザービームみたいなの?」
「それじゃ、それこそアイドルだな。」
 どうしたいんだよ。
「武道館ライブ、見に行こう!」


「いつでも招待するからさ」
 伊那田和海…Disの和海に頼んでコンサートにやって来た。
「武道館でライブするのにさ、セットをどうしようかと思ってさ。」
「バンドにセット要る?」
 和海は開演二時間前のリハーサル終わりに、楽屋へ呼んでくれた。
「折角だから派手にバーッと…要らないか。」
「アイドルのセットを見ちゃうと、欲しくなるかもよ。」
 和海が不敵に笑った。


 コンサート終了。
 和海の言った意味がわかった。
 レーザービームが飛び交う中、彼等は縦横無尽に会場内を駆け巡る。
 まるで翼が生えたかのように、軽やかに、しなやかに、美しく。
 そして、セットの豪華なこと。
 鉄骨で組んであるのだろうか?上から沢山のリボンが下がっている。
 兎に角派手で華やかなのである。
「ギター持ってたら、走れないだろ?」
「うん」
 でも、ライトを照射して貰うのは使えそうだ。
 セットはシンプルでいい、ライトを駆使してみよう。
「参考にはなった。ありがとう。」
「それはよかった。陸の役に立てるなんてなかなかないからな…俺たち、解散するんだ。だからタイミングが良かったよ。」
「なん…」
 何でと聞きそうになって止めた。
 グループで活動していると、なかなか上手く意見がまとまらないのが世の常だ。
 ましてや大人になればなるほど、自己顕示欲が強くなる。
 自分の力を試したくなる。
 アイドルとバンドの違いだ。
「和海、歌手は続けるの?」
「続けるよ。」
「ソロアルバム、プロデュースしてあげようか?ACTIVEで。」
 和海が戸惑う。
「あ、ムリなら」
「それ、Disで頼めないか?本当のところみんな辞めたくはないんだ。でも、CDの売上が見込めない。ACTIVEに頼めれば、もう少し頑張れる気がする。」
 こんなにお金を掛けたコンサートをしていても、色々大変なんだな。
「派手なコンサートを一度やってしまうと、後には引けなくなる。」
 僕の疑問を和海が引き受けてくれた。
「ならさ、バラード中心でいいかな?アイドルだってバラード集みたいなのもあるんだろ?そうしたらセットは地味でも良さそうだけど。」
 和海が少し考え込む。
「それは、僕の一存では決められないかな。」
「なら」


「ただいま」
 家に帰ると、零がリビングで一人イカの塩辛をつまみにビールを呑んでいた。
「珍しいね」
「暇だったから」
「そうか」
 聖も隼くんもいなくなった家は、静かだ…まだ聖は帰ってくるけど。
「本格的に聖が隼の家に越したら、寂しくなるな。」
 本当に、今夜はどうしたのだろう?
「零?」
「ん?」
「僕が、いるよ?」
「うん」
 満面の笑みで抱き寄せられた。
「その陸が、今夜は浮気してるからさ。」
「浮気なんかしないから」
「わかってる。けど、言いたかった。」
 零?何か不安なことでもあるのだろうか?
「アイドルのコンサートはものすごく派手で真似できるようなものではなかったよ。」
「だろ?でも、借りたらどうだろう?そのまま借りたら、解体だけで済む。」
「そうか!その手があったか!実はね、和海と話してて…」
 僕は帰り際に和海と話したことを伝えた。
「それもいいな、面白いかも。」
 そう言いながら、零の掌が僕の太股を撫でている。
「もっと、話を聞かせてくれるかな?ベッドで。」
 うーん、それは、ムリ。


「あ…ん…陸…気持ちいい」
 零の手が僕の髪を優しく掴む。
 僕は零の股間に顔を埋めて零のペニスを口一杯に頬張ってしゃぶっている。
 既に怒張しきっているそれは、血管が浮き出てピクピクと独立した生き物のように蠢いている。
「聖も、隼のペニスをしゃぶっているのかな?」
 零にしては珍しく下品な話だ。
「あんなに小さかった聖が、誰かのことを想って、欲して、番になろうとしている。」
 僕は、口を放した。
「零?どうしたの?具合でも悪い?」
「別に?どうして?」
「だって…なんか、違うから。」
 いつもの零じゃない。
「零、挿れて…」
 思いっきり抱き合って、気持ちよくなったら、元に戻るかもしれない。
「陸、やらし」
 なんと言われても、零が気持ちよくなってくれたら、それだけでいい。
 零のペニスを、僕のアナルに導き、自重で繋がった。
「んっ…あ…」
「陸…」
「零…」
 愛してる。零、愛してる。
 僕の気持ちは、変わらないから。
 身体を繋がなくたって、気持ちは繋がっているって、思ってた。
 でも、違うんだ。
「あんっ」
「可愛い、僕の、陸」
「あっ、イク…」
「まだ、待って」
 それまで僕の動きに合わせてゆるゆると出入りしていたそれは、零の意思の元に、激しく、強く、時に優しく、僕を翻弄した。
「ああんっ、零」
 イクっ…僕の身体は、中でイクことを覚えていた。
「すっかり、牝化しちゃったね、ごめん。中がキュンキュンしてる。」
 そこまで言い終えると、突然黙った。
 自分がビクビクと直腸を痙攣させていたので、零が射精したことに気付くのが遅れた。
 じっとりと最奥が濡れていく。
「もっと、もっといっぱい、欲しい」
 更に締め付け、零の精液を搾り取った。


「おはよ」
 目覚めると零は既に目を覚ましていて、僕の寝顔を見ていたらしい。
「起こしてくれれば良かったのに」
 零の指が僕の髪を透く。
「久し振りに、陸とセックスして思った。僕は陸と家族じゃなくて恋人でいたい。つまり、もっとセックスしたい。」
 な。
 なんて恥ずかしい。
 慌てて顔を零の胸に埋めた。
「セックス、して」
「聖がいなくなったら、腰が抜けるくらいセックスしよう?」
「うん」
 良かった。零が零だ。


 ただでさえ、過保護ぎみな零は、その日からスキンシップも増えた。
 気が付くと尻を揉んでいたり、背中を撫でていたり、腰を抱いていたり…。気付かなかった。零はそんなに聖が居なくなることが寂しかったんだ。
 ごめん、もっと優しくしてあげなきゃ、うん。
 零にとって、聖は家族なんだ。
 そして、僕は家族ではなく、恋人なんだ。
 前に言ったよね、僕たちは半身だって。
 そうか、半身はアダムとイブなんだ。
 確かに家族じゃなくて恋人だね。
 でも、なんか淋しい。どうしてだろう?


 和海と僕が相談して決めたのは、合同ライブだ。
 これならセットは半々でいいし、客層も広くなる。
 たまにはこんなのもいいんじゃないかな?
 そこで、Disのアルバムプロデュースを発表すれば、一石二鳥だ。
「単独でも、いいんだけどさ。折角だからどうかなぁって。」
 初ちゃん以下、全員黙っている。
「いいんじゃないかな?」
 そう言ったのは零だ。
「小さい箱に慣れてて、気後れしているから、一度慣れるために助けてもらわないか?」
「そうだな」
 初ちゃんが、頷く。
「やってみるか」
 剛志くんが顔を上げる。
「ドラム、新調してもらわないとな」
 隆弘くんが微笑む。
 こうして、僕たちの初めての武道館ライブが決まった。


「あっ…んんっ」
 あれから調子に乗った零は、三日と開けず求めてくる。
「やっぱり、陸が一番可愛い」
 ん?
「やっぱり?一番?二番がいるの?」
 零の上に跨がって、今まさに挿入…というところで、僕が噛みついた。
「言葉のあやだよ、今は陸しかいないこと、知っているくせに」
 零の胸を押して拒む僕を、腰を抱いて無理やり貫いた。
「揚げ足を取るな…陸だけだから…僕の片割れは陸しかいない。」
 深く、穿たれる。
「んっ…ああんっ」
 だめ、絆される。
 下から激しく突き上げられ、僕の口からはあえぎ声しか出なかった。
「陸は、ずっとそばにいて。離さない。」