リビングのパソコンを立ち上げたら、壁紙が今までと違っていた。
仕事熱心というか、本当に自分の好きなことを見つけた人間はそれしか見えなくなるらしい。
謙一郎は今、花にばかり目が行くようだ。
「それ、綺麗だろ?新聞で見かけたから検索掛けてみたら結構写真が出てきてさ、思わずデスクトップに飾っちゃった。」
大きな木に白い花が咲いていて雪のようだ。
「夏のクリスマスツリーとか言われている、ヒトツバタって木だよ。新宿御苑にあるらしいから見に行ってこようかと思うんだ。」
「謙一郎」
「ん?」
「一緒に行きたい」
「珍しいね、あっちゃんから行きたいなんて言うのは。」
別に花なんてどうでもいい、肝心なのは謙一郎だ。…とは言い出せなかった。
「じゃあ日曜日の午後に。五時までには戻らないとパートの人が上がれなくなっちゃうからさ。」
うちのバイトを臨時で貸し出しても良かったけど、謙一郎が楽しそうだからやめた。
なんだか、最近の謙一郎は毎日楽しそうだ。自分はいなくてもいいような気がする。
「デートに持ち込めたみたいだな」
一郎さんも楽しそうだ。
「謙一郎を花に取られそうで嫉妬しっぱなしです。」
冗談でいったのだが、
「最近はあっちゃんの話より花の話の方が多いものな、あながちあり得なくはないな。」
と、冗談だか本気だかわからない回答がきた。
「花とは愛し合えません!」
少し、ムキになった、大人気も無く…。
「でも、愛情をかければちゃんと返してくれる」
一郎さんの恋人が庭師だったのを忘れていた。
「あっちゃん。」
翌日。帰宅するなり謙一郎は僕に耳打ちをした。
「日曜日、朝から出掛けられる。」
一度、身体を引いて僕の顔色を確認している。
「アレンジメントフラワーのスクールで知り合った人なんだけどね、お店をいっぱい持っているんだ、その人のところで働いている社員の人が僕の代わりに入ってくれることになったんだ。」
「その人物、初耳だな」
「初めて話したもん」
思わず謙一郎を抱き締めた。
「お願いだからこれ以上寿命が縮むようなことは言わないで欲しい…」
「でも…せっかく二人で夏のクリスマスツリーを見に行くんだからあっちゃんにプレゼントをって思ったんだけど。」
だめだ。謙一郎のそばにいる限り長生きは出来そうもない。
「あっちゃん…ヒトツバタゴは別名、なんじゃもんじゃの木って言うんだよ。何でかって言うと昔の人があまりにもきれいに咲くからこの花はなんじゃって言ったからなんだって。笑っちゃうよね。」
謙一郎はそれでも延々と、花の話を続けていた。
おわり
なんじゃもんじゃの木(勝手にリンク) ありがとうございます
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連載終了後ですが、その後…を書いてみました。またちょくちょく、花を見つけたら登場するかもしれません。 2007.06.18
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