雅之&克巳シリーズ 番外
「足跡」

 夕方から雪だそうだ。
 さっき事務の女の子が言っていた。


 一時間前に送ったメールに対して返事はない。
 雅之は傘、持っているのか…。


 退社時間を十分程過ぎているが、普段に比べたら数段早い時間に帰路に就いた。
 部下も全員帰らせた。
 東京は少し雪が降っただけでも電車が動かなくなる。
 既に人がまばらなエントランス。
 鞄の中から折り畳み傘を出した時だった。
 背後から力任せに引き寄せられた。
「返事くらい書けるだろ。」
「あんなメール寄越すから…女の子なんて…」
「女の子がどうかしたか?」
「…別に」
 わけがわからない。
「この靴、滑るんだ。底がすり減ってるの忘れてたんだよ。ABC-MARTに寄って…わっ!」
 消えた。
「…間に合わなかったな。」
「ケツ、びしょ濡れだ。」
 なんか、聞いたことのあるフレーズだ。
 手を差し伸べ、立たせてやる。
「歩いて帰るなら、靴買わなきゃダメだな。」
「ユニクロで下着とパンツを買って、電車で帰る。」
 電車の運行状況を教えてくれるサイトにアクセスした。
「止まってるぞ、電車。」
「なに?」
「…お前がさ、返事を寄越さないからホテルの予約を入れた。クリーニングしてもらえばいい。ネクタイは予備があるだろう?」
「下着と靴下がない。」
 なんだか違う意味に取れるな。
「なんで、ホテルなんだ?」
「たまには良いじゃないか。」
「まあね。」


 二人並んで雪道を行く。
 後にはただ、足跡が残るだけ。


終わり


師匠の2012年誕生日用に書き下ろしました