僕のとなりは君しかいない
【一】
 いち、に、さん、よん、ご、ろく、しち、はち…。
 自分以外に八人も居るのか。
 どうやったら目立つかな?
 今度、先輩に聞いてみよう。
 「リーダーは古浦(こうら)君にお願いしたから。彼は皆の中で一番年上です。もうすぐ二十歳になります。」
 うえっ、二十歳だって、ジジイじゃないか。
「府吾(ふあ)君と茶原(ちゃばら)君は十八歳、心空(ここあ)君と小樋(こひ)君は十七歳、そして千世(ちよ)君、狩流(かる)君、丹作(たんさ)君の三人は十五歳です。」
 ダンスの先生は八人を紹介して一息ついた。

2021.03.29
【二】
「先生、僕は?」
 蚊帳の外にならないよう、自己主張する。
「あ、ごめん!もう一人十五歳、センターの斉田(さいだ)君です。」
 周りがざわついている。
 かくいう僕も動揺している。
 僕が?
「先生、リーダーがセンターじゃないんですか?」
 「いえ、社長から斉田君でと言われています。でも」言うと先生は全員を見渡した。
「全員にチャンスはあります。メンバーは同士でありライバルであってください。」
 この一言が、僕たち九人をぎくしゃくした関係にしてしまった。

2021.03.30
【三】
 僕らは、大手芸能事務所に所属する、アイドルを夢見る男の子ばかりの研究生だ。
 去年、僕をセンターにして九人グループを結成したが、まだデビューしていない。していないどころか、名前も決まっていない。
 僕はいいけど、リーダーの古浦君は二十一歳になってしまった。
 毎日、レッスンばかりしている。
 時々、先輩のコンサートでバックにつくことがあるけど、他のデビューを待っているグループに比べると、露出が少ない気がする。
 センターが悪いと言う陰口も耳に入っているけど、先輩は気にするなと言う。
 先輩は、今をときめくキラキラのアイドルだ。
 僕は彼に憧れて研究生になった。
 面接の時にそう告げたら、先輩が所属するグループのコンサートに何回かバックダンサーで出演させて貰い、仲良くなった。
 今でも時々先輩には会いに行く。
「斉田君」

2021.03.31
【四】
 ある日、次のコンサートのためにレッスンをしていた時、古浦君に呼び止められた。
「君、桜先輩に会っている?」
「はい、バックダンサーだったので。」
「今日から会わないで。あの人が僕らのデビューの邪魔をしていたんだ。」
「そんな」
「君のダンスの才能に嫉妬したらしい。」
「ウソ…」
 先輩が?
「これからは悩みがあったら僕の所に来て欲しい。」
 そう言った古浦君はカッコ良かった。
「はい」

2021.04.01
【五】
「はい」
 この時の僕の判断は間違っていなかった。
 桜先輩と距離を置くことで、メンバーとの距離が縮まった。
 同い年の千世君、狩流君、丹作君とはウソのように仲良くなった。
 三人は同じ高校に通っていたが、僕は小学校からのエスカレーター式で目に余るくらい成績が悪くなければ、大学まで進める。
「三人は大学、どうするの?」
「うーん、デビュー出来るなら別に行かなくてもいいかなぁって思ってる。斉田君は?」
「僕はこのまま進学するつもり。英文科で英語を専攻して、英語がもう少し理解できるようになれば、歌詞も覚えやすくなるかなぁって。」
 本音のところは英語が話せれば、差別化出来ると思ってる。

2021.04.02
【六】
「古浦君は英語とフランス語が出来るんだって。」
「そうなの?知らなかった。」
 ジジイ(僕が勝手に心のなかで呼んでいる)はバイリンガルなんだ。
「府吾君は新体操が特技、茶原君は日曜大工、心空君はイラスト、小樋君はアクロバット。」
 「僕はプログラミングが特技」と言ったのは千世君、「僕は料理」とは狩流君、「僕はテレビゲーム」とは丹作君。
 みんな、きちんと特技と言えるものがあるんだ、羨ましい。
「僕は、これって言う物がないんだ。ずっと続けて習っているのはピアノとバイオリンで、ギターと絵画は趣味でやってる。それと、」

2021.04.03
【七】
「まって、まだあるの?それ十分特技だから。」
「でも、一つも極めてないや」
「いや、僕たちも極めてはいない。」
「なら、みんなと被らないゆるキャラのぬいぐるみ集めにしようかな?」
「それ?」
 みんなが笑う。
「でも、斉田君はダンスが上手いからね。」
 そうそう、と頷く。
 その時、茶原君がレッスン室に駆け込んできた。
「社長が、呼んでる」

2021.04.04
【八】
「君たちのグループ名が決まったよ。『DoLinQ』略してDLQいい名前だろう?」
 …略さなくていいのに。
「デビューは9月5日だよ。」
 全員がざわついた。
「デビュー曲は君たちの大先輩に当たる田邑敬彦くんが作曲してくれた。作詞は…私だ。」
 社長自ら?って言うか、田邑敬彦さんって…世界のキーボーディストだよね?
「振り付けは桜君に頼んだ。斉田君をセンターでデビューするけど、次々とセンターを入れ替えていく。全員をセンターに出来るよう、頑張って欲しい。」
 なんか、凄いことになってきた。

2021.04.05
【九】
「結局、桜先輩と関わることになるんだな」
 振り写しの最中、古浦君が僕の隣でポツリと呟いた。
「でも、僕一人じゃなくてみんなと一緒だから平気。」
「うん。」
 古浦君が僕を見るとニコリと笑った。
 すると千世君が、
「そうだよ、斉田君はもう僕らのモンだからね。桜先輩には渡さない!」
と、声高に言った。
「なんか、恋のライバルみたい」
 僕は、笑い話にするつもりでそう言ったんだ。なのに「違うの?良かったー」と、真顔で言われた。

2021.04.06
【十】
「千世君、本気で心配していたよ?斉田君は桜先輩に食べられちゃったのかなぁって。」
「食べ…って、ないない!だって桜先輩には恋人がいるもん。」と、僕は余計な情報を漏らしてしまった。
「なら、もっと僕らを見てね。」
「うん」
 千世君に他意はないと信じたい。

 デビューが決まって、僕ら九人は合宿所で一緒に暮らすこととなった。
 社長がデビューを決めるとそのグループは次のデビュー組が決まるまでここで暮らすように作った建物だ。
 それぞれに部屋はあるけど、家政婦さんが食事の世話や掃除、洗濯をしてくれる。

2021.04.07
【十一】
 朝と夜は食堂に用意されている。
 僕らは寝るときだけ部屋に居て、後は殆ど食堂に居る。
「振り写しだけど、小樋君のとこ、間違ってない?」
 古浦君から指摘が入る。
「どこ?」
 譜面を広げると、古浦くんは小樋君の振りを完璧に踊った。
 「スゲ」と、思わず声が漏れた。
「僕、自分の所で手一杯だった。」
 もう、古浦君のこと、心の中でもジジイなんて絶対に言いません。
「柊(しゅう)」
 突然、古浦君が僕のことを名前で呼んだ。
「柊はセンターなんだから、周りを気にせず精一杯踊れ。フォローは僕の仕事だ。」
 あー!やっぱり古浦くん、カッコいい。
 今まで桜先輩が一番だと思っていたけど、古浦くんに完全にシフトしたよ。

2021.04.08
【十二】
 僕は最強のメンバーに恵まれた。
 食堂に大きな鏡がある。歴代の住人は絶対にここでダンスのレッスンをしたはずだ。
 僕もジーンズにYシャツへ着替えて鏡の前に立った。
「柊、なんでその服装なんだ?踊りにくくないか?」
 茶原君が不思議そうに僕を見る。
「え?だって衣装になったら動きにくいから、始めから動きにくいものを、着ておいた方がいいかと思って。」
 先輩方の衣装はどれも奇抜で重い。
 もしも軽くて動きやすかったらラッキーだと思えばいいんだ。
 鏡の前に立つと、自分のパートを踊る。すると、ため息のような音が漏れた。
「うーん、確かに否定できないよな、斉田君のセンター。キレイだよな、誰よりも。」

2021.04.09
【十三】
 キレイ、なのか?
 手足を大きく動かしてみる。
 再びため息が漏れる。
「パントマイムを見ているようだ」
 などとドンドンエスカレートしていく。
「み、みんなも練習すればいいのに」
と言ったのを覚えていたらしく、散々僕を誉めたら、嬉しそうに練習を始めた。

2021.04.10
【十四】
 デビュー日前日。
 民放テレビ局で同時刻一斉に、僕らDLQのデビュー曲がCMで流れた。
 その途端、インターネットのCD予約サイトが、パンクした。
 零時を回ると同士に、ダウンロードサイトにアクセスが集中した。
 前代未聞なデビュー曲の認知度となった。
「DLQのセンター、柊くんカッコイよね!」
「真ん中で踊ってる子、何て言う名前?」
と、瞬く間に僕の知名度が上がり、センターを外せなくなった。
「な?柊がセンターで正解だろ?」
 古浦君が僕を抱き寄せる。
「柊は頑張った!」
 誉めて貰えて嬉しかった。

2021.04.11
【十五】
 セカンドシングルを翌月に発売することになった。
「今回は心愛君とツートップで行こうと思う。」
 社長がそう提案する。
「サードシングルは茶原君とスリートップ、フォースシングルは狩流君と丹作君でスリートップのようにグルグル回す。でも、センターは柊君、君だよ?」
 何で?なんで僕ばかり特別待遇なの?
 そりゃ、最初はトップになりたいと思っていたけど、古浦君の方がカッコいいと思う。僕じゃ、DLQがダメになっちゃう。
 そう、皆に伝えると
「僕たちは柊のこと、信じてるから」
と、言われた。

2021.04.12
【十六】
「だって、仲間だから。」
 仲間?
 なんか、幸せな響きだな。

 なんで僕がセンターか、ちょっとわかった。
 背が低いからだ。
 後ろに行ったら見えない。
 そして、メンバー全員が優しい。
 常に僕を励まし、支えてくれる。
 …後に判ったが、皆、センターにはなりたくないという、アイドルの風上にも置けないヤツらだった。

2021.04.13
【十七】
 最初の一年は順調に売れていたが、その後は安定した人気になっていた。
 それは僕らの性格が災いしていた。
 センターになりたくない、だからMCも笑ってみているだけで参加しない。
 コンサートでも話しているのは古浦君と茶原君と僕の三人が殆どだった。

「柊!」
「なに?計。」

2021.04.14
【十八】
 府吾君の名前は計という。僕だけ名で呼ばれるので、僕からも呼ぶようにした。
「新曲の柊の隣は僕なんだ。」
 初めてのことだった。
「だから、一緒に練習しよう?」
「うん、頑張ろう」
 約束したのには訳がある。
 そう、僕らはデビューして一年を経過したので、寮を出たのだ。

2021.04.15
【十九】
 心空君と狩流君と丹作君は実家に戻った。
 小樋君と千世君と計は共同生活をしている。
 僕は古浦君と茶原君と三人で共同生活をしている。
 なので、計は今夜、僕たちのマンションに泊まりに来るのだ。
「計、そこ違う」
 二人で練習をしていると見かねた古浦君が参加してくれる。それが狙い。
 結局四人で練習になる。
「柊は古浦君を巻き込むのが上手いよな」

2021.04.16
【二十】
 茶原君と風呂に入っている時に言われた。
「古浦君が柊をメンバーに入れてくれと頼んだんだ。」
 え?
「最初は八人だった。でも柊がいないと戦力にならないって社長に直談判した。内緒だよ?」
「うん」
 ドキドキした。
 バレないと、いいな。

2021.04.17
【二一】
 僕は古浦君に憧れている。古浦君みたいな男になりたいと思っている。
 その人に推薦してもらえたなんて、光栄しかない。
「瑠依君は好きな人いるの?」
 茶原君の名前は瑠依。一緒に暮らすようになって名前で呼ぶようになった。
「それは異性に対して?それとも尊敬する人ってこと?」
 ん?
「好きな人…そうか!恋愛対象ってことか…うーん、なら、目標にする人?」
「柊」
「え?」
「僕の目標は柊。柊みたいに踊りたい。だから寮を出たあと共同生活しようと持ち掛けた。」
 瑠依君の手が、僕の頬に触れた。
「センターは、柊だ。」
 ドキリとした。
 僕の心臓、もつかな?

2021.04.18
【二二】
「古浦君、ここの振りなんだけど…」
「フミアキ。柊は僕の名前、知らないのか?」
「し、知ってるよ!文明って書いてフミアキでしょ?」
「瑠依のこと名前で呼ぶのに、なんで僕だけ名字なんだよ?」
 それは…
「そ、そうだよ、リーダーだから」
「そんなん、いらない。今日から名前で呼べ」
 呼べ?そう言われたって…って、ワンコみたいに待ってる?
「ふ、文明…君。」
「良し!」
 そう言うと、顔が近付いてきた。
 キスされる!そう思った。
 でも、頭をポンポンされただけで、離れていった。
 僕、どうしてキスされると思ったんだろう?キス…したかったのかな?
 あ、振りの確認忘れた…。

2021.04.19
【二三】
 デビューから三年が過ぎた。
 桜先輩のいるグループには程遠く、僕らは「人気グループ」という冠をつけられていた。
 そんな時、社長から通達が来た。
 『年内にデビュー曲並みのヒット曲がなかったらグループを二つに分ける』と。
 二つに?
 みんなと離ればなれになるの?
「文明君、やっぱり僕がセンターだから?」
「違う!」
 文明君の語調は強かった。
「僕らには足りないものがある。ヒットしようとする気持ちだ。先輩たちは新曲が出るときに何て言ってる?前の曲も好きだったけど、もっと好きな曲って、そう言ってないか?でも僕らは違う、また素敵な曲をいただきましたって、そう言ってる。作ってもらったんだから、僕らの曲なんだ。」
 全員、目から鱗だった。
 そうだ、もう、僕らの曲なんだ。
「デビュー曲を越える、いいね?」
 全員、頷いた。

2021.04.20
【二四】
 計に彼女が出来た。
 勿論、誰にも秘密だ。
 でも、社長公認だ。
 何故なら、社長の妹さんの娘さんの友達だからだ。
 そして、最悪の事態が訪れた。
 彼女が妊娠したのだ。
「ごめん、僕は脱退する。脱退してDLQのマネージャーにしてもらった。」
 僕らは、ヒットする前に八人になった。

2021.04.21
【二五】
 僕は大学生とアイドルの二足の草鞋を履いていた。
「文明君、僕が大学に行っているからヒットしないのかな?」
「柊は大学で何を学んでいるんだ?」
「西洋音楽史」
「なら、役に立つ」
 そう言いきる文明君は、やっぱりカッコいい。
 色々考えたけど、音楽活動に役立ちそうな学科を選んだ。
「文明君は、好きな人いないの?」
「いるよ」
「そっか」
「柊は?」
「わからないんだ。計が結婚して、考えたんだけど、僕はずっと男子校で、グループも男ばかりで、大学で初めて女の子と机を並べたけど、話はできないし、緊張するし、なにも前進していないんだ。」
「急がなくていい、いつか、気付けるから。」
「うん、ありがとう」
 そっか。いつか、わかるのか。
 でも、胸の奥がチリチリする。

2021.04.22
【二六】
 心空君と狩流君と丹作君が、僕を問いただす。
 「どうして古浦君を名前で呼ぶの」と。
「一緒に住んでるから」
「そうか」
 納得したようだ。
「僕らも古浦君のこと、名前で呼びたい」
 彼らにとっても文明君は憧れの人だ。
「きっと良いって言ってくれるよ」
 ところが、文明君はうんとは言わなかった。
「心空君は僕に名前で呼ばせてくれないじゃないか。狩流君は一番最初に柊のことを名前で呼んだのに、自分のことは名字のままだ。丹作君は…恥ずかしい。」
 え?丹作君の名前は確か…ミチル。恥ずかしいか?
「うちの姉と同じ名前なんだ」
 あ、そんな理由。
「ハル、ナオキ、ミチル。僕が呼び慣れたら呼んでいいよ。」

2021.04.23
【二七】
 小樋君はクロキ、千世君はサトシ、皆名前で呼び合うようになり、かなり親密になった。
 この一体感がなかったために、計をメンバーから失ってしまったのかもしれない。
 でも、マネージャーとしての計は有能だった。
 まず、冠番組をゲットしてきた。
 先輩たちはデビューしてすぐに冠番組が決まったけど、僕らはずっとなかった。
「計も一緒に出て欲しかった。」
 素直に伝えると、計は「僕は、タレントに向いていなかった。いずれ、経営者になるんだ。」と、次の夢を語った。
 もう、計は後を振り返らない。

2021.04.24
【二八】
 自室でベッドに寝転び、年度末試験のことを考えていた。
 勉強をする気にもならず、かといって頭からも離れず、振りでも身体に覚え込ませるか…と、立ち上がったときだった。
 部屋の扉が叩かれた。
「ごめん、寝てたか?」
 瑠依君だった。
「ううん、だらだらしてた。」
「そっか…あのさ…一緒に暮らさないか?」
「一緒にいるじゃないか」
 瑠依君は、いきなり僕の頬を両手で挟んだ。
「柊が、好きだ。」
 え?
「恋人に、なって欲しい」
 は?
「僕のものになって」
「待って!僕たちアイドルだよ?誰かのものになるなんて、絶対に許されない」
 瑠依君の手が離れた。
「うん。今のは、忘れて。」
「うん」
 翌日、瑠依君は社長に、グループの分割を申し出た。

2021.04.25
【二九】
「僕の力が及ばなくて、申し訳ない」
 皆の憧れだった、文明君が謝る。
「文明君のせいじゃないよ、社長はもともと九人なんて大所帯、望んでいなかったんだ。でも、どうして五人と三人なんだろう?」
 そうなんだ、瑠依は僕と離れたかったのだろう、なのに文明君と瑠依君と僕の三人に決まった。
「柊のダンスに着いていけるのは、文明君と瑠依君だけだもん。僕たちはムリだもんね。歌で勝負する。」
 DLQの名前は僕らが引き継いだ。

2021.04.26
【三十】
「柊、よく聞くんだ。いいか?」
 部屋に戻ると文明君が改まって言う。
「今回、三人になったのは、はじめから社長が見越していたことなんだ。そして、この三人になるのは、僕と瑠依の希望だ。」
 文明君が一歩、僕に近寄る。
「柊、好きなんだ。」
 え?
 ってか、また?
「どちらかから、選んで欲しい」
 真剣な目で、そう言った…けど。
「僕の気持ち、無視?」

2021.04.27
【三一】
 それからはさんざんな目に遭った。
 風呂に入っていると、突然ドアが開いて、誰かが一緒に入ってくる。最初のうちは一緒に入るだけだったのに、段々エスカレートしていき、身体を触れられ、遂には…恥ずかしくて言えない。
「瑠…依…く…あっ」
 下半身の一番敏感なところを、舌で舐めたり口腔でしゃぶられたりし始めたのだ。
「ふみ…あ…くぅ」
 何度も、何度も二人にイカされた。

2021.04.28
【三二】
「も、やだっ!僕はDLQを辞める!」
 こんな、セクハラされてまで居続ける必要はない。
「柊。君はアイドルだ。顔は世間に知れ渡っている。今更逃げてどうする?その身体、もて余して闇に堕ちるか?」
 あの、憧れていた文明君とは思えない、そんな台詞。
「文明、もういい加減、オンナにしちゃおうよ。快楽を知ったら抜けられなくなる。」
 瑠依君が恐ろしいことを言った。

2021.04.29
【三三】
「あっ…あっ…苦し…んっ」
 どれくらい時間が経過したのか。
 グズグズに溶かされた身体は、難なく男達を受け入れ、流された。
「ここ、気持ちいい?」
「ん、気持ち…い」
 もう、ムリ…。
 僕は、大学へ行く振りをして、逃げた。

2021.04.30
【三四】
「文明君と瑠依君がDLQを脱退した」
 大学へミチル君が報告に来てくれた。
「ハルもナオキもクロキもサトシも皆戻る…って言うか、もともと辞めてないんだ。文明君と瑠依君に追い出されて、社長があの二人を何とかしようとなって。まさか柊を虐めていたなんて知らなくて…ごめんな。」
 いや、虐めじゃ、ないけど。性的虐待だから。
「戻ってくれるよね?ちゃんと、僕らが守るから」

2021.05.01
【三五】
 どうして、流されてしまうんだろう。
 僕は、どうしてアイドルにしがみついているんだろう?
 桜先輩が、テレビの中でカッコよく踊っていたから憧れた。
 そうだ、僕はDLQの桜先輩になりたかったんだ。
 いつも笑っているのは止めよう。
 たまには、素の僕も出してみよう。

2021.05.02
【三六】
 文明君と瑠依君が抜けた後のシングルがヒットした。
 デビューシングル以上に売れた。
 やっと、人気グループじゃなくなった。
 そうか。
 僕には年上の文明君も瑠依君も計君も目の上のたんこぶだったんだ。
 ハル君はいい、僕に従順だから。

2021.05.03
【三七】
「クロキ君、そこ、や」
 二人に開発された身体を使って、クロキ君を誘惑した。
「柊、可愛いよ、柊…」
 見事にクロキ君ははまった。
 そして、僕のことを所有物のように扱い始めたことで、社長から注意を受け、脱退となった。
 だって…。

2021.05.04
【三八】
「あんっ、ああん」
「柊は悪い子だ。」
「だってぇ…んんっ」
 僕は、社長にスカウトされた日から、こうしてベッドで飼われていたのだから。
「今度は、誰を咥え込むんだ?」
「もう、しないからぁ」
「今度、誰かとセックスしたら、この部屋に監禁するからな。」
「やっ、僕、セックスもしたいし、ダンスも踊りたいの」
「わかったから。」
「ああんっ」

2021.05.05
【三九】
「柊君、寝てる?」
 ミチル君が心配そうに覗き込む。
「あんなに一杯、社長の精子を注ぎ込まれたら、身体によくないよ?それに…僕の分も取っておいてよ。」
 ミチル君が聞き捨てならないことを言った。
「え?」
「社長は、僕のだから。」
「なんで?」
「僕の方が先にペットになったのに。」
 ポロポロと涙を流して泣く。
「社長の精子がないと、僕、死んじゃうよ。」
「やらないよ。社長は渡さない。」
 僕は、ミチル君を貫いた。

 僕たちは解散した。

「ふみ…あ…んっ…」
 結局、僕は文明君の元に舞い戻った。
 社長に解雇され、行く先を失い、熟れた身体をもてあまし、最後には彼を頼ったのだ。
「柊、言っただろ?僕のとなりは君の指定席だと。」
「うん…あ…気持ちいいよぉ、文明…くん」
 僕はソロ歌手で活動している。
 稼いだ金は全て文明君が吸い上げていく。
 それで、いいんだ。
 僕を満足させてくれるから。
 リビングの窓に両手を着いて、裸体を窓ガラスに写し出し、背後から揺さぶられている。
 なんて、エロチック。
 なんて、浅ましい。
 なんて、惨め。
 なんて、僕に相応しい。
 そして今夜も、窓ガラスに派手にぶちまけた。

2021.05.06 完