ハートがモヤモヤ
【一】
 最近、転職した。
「栗ちゃん、今夜は歓迎会するからね」
 転職先は高校の同級生が集まって始めたイベントの企画会社だ。
「わざわざいいよ、一応俺も皆と一緒の立場だし、知らない仲じゃないし。」
 そう、全員発起人で全員知り合いだ。
「でも、栗ちゃんだけ1ヶ月遅れたしなぁ。」
 前職を辞めるタイミングで合流が皆より1ヶ月遅れた。
「七尾さぁ、毎晩宴会ばっかりじゃないか。」
「しっ!湊都、それはトップシークレット!」
 俺たちは高校時代、実行委員会で三年間共に過ごした仲間だ。
 委員会活動なのにクラブ活動より楽しかった。
 新入学生の歓迎会から始まって、文化祭、体育祭、先輩の修学旅行から各学年の遠足、夏のキャンプ、冬のスキー旅行、スケート大会、マラソン大会、ありとあらゆるイベントを企画運営していた。
 その経験を活かして起業しようと、樺山湊都(かばやまみなと)が声を掛けてくれた。
 広瀬七尾(ひろせななお)と俺、栗城揚羽(くりきあげは)に、一年後輩の安堂穂高(あんどうほだか)が今回起業したメンバーになる。
 湊都が社長、七尾と俺が副社長、穂高が専務と一応肩書きは揃えた。

2021.06.23
【二】
「揚羽、三田先輩のこと覚えているか?」
 湊都が唐突に聞いてきた。
「覚えてるよ、実行委員会に俺たちを引き込んだ張本人だ。」
「その三田先輩がさ、うちの情報をどこかから仕入れたらしくて、参加させろって…どうする?」
 俺は、言葉を発せられなかった。
「栗ちゃん?」
 七尾が心配そうに覗き込む。
「それ、決まったこと?」
「いや?今、こうして理事会に掛けているところ。」
「あ、そうか、ごめん。栗ちゃんの元カレだっけ?」
「そうそう、三田先輩が揚羽を落としたって自慢してたな。」
 俺は大袈裟に一つため息を落とす。
「知ってたのか?」
「うん」
 二人が声を揃えて肯定した。
「穂高が悔しがってさあ。」
「俺達は初めて七尾の家で酒を飲んで吐いたっけ。」
「そうだ、あの時だ。実行委員会全員、ハートブレイクだよな。」
「全員?」
「うん。今回は、逃がさないよ?栗ちゃん。」
「逃がさないって?」
「仕事は楽しく、恋愛は奔放に。」
 七尾が背後から俺を抱き締めた。
「好きだよ、栗ちゃん。」
 耳元で囁く。
「七尾…」
「揚羽」
 湊都も俺の名を呼んだ。
「俺達と、恋愛しようぜ」
 顎を捕らわれ、強引に唇を奪われた。
「ん」
 ダメだ、脳が痺れる。
「だから、歓迎会、しようよ?」
「そうだな、歓迎会して揚羽を口説く!」

2021.06.24
【三】
「だーかーらーぁ、実行委員会ははじめから、揚羽が目的で集まったメンバーだったんだよ。それを三田先輩がさぁ、」
「そう、かっさらってTHE END。」
 湊都と七尾がくだを巻く。
「俺達じゃ、ダメか?」
「あ、えっと、その…」
 三田先輩は俺を他の奴らから守ってくれていた。
 俺は、好きな人がいたから。
「遅くなった!」
 穂高が出先から戻ってきた。
「あ!栗城先輩!1ヶ月ぶりです!」
「ほーだーかぁー!お前俺らと揚羽の態度が180度違わねーか?」
 七尾が絡む。
「当たり前じゃん、栗城先輩は俺の初恋だもん。」
「だから!どうしてお前らは揃いも揃って平気でそんなこと言うんだ?」
 すると意外にも湊都が身を乗り出した。
「どんな女よりも美人だし、性格はいい、無理難題も簡単にクリアする、頭のできもいい、何より…ノリがいいし、感度もいい」
「感度って、俺は誰ともヤッてないぞ?」
「誰とでもキスはするけどな」
 う。
 それには、訳があって…。
「揚羽の好きな人って、アイツだろ?」
 俺は、高校時代に想いを馳せた。

2021.06.25
【四】
 最悪だ。
 俺は別に大学進学を目標にして高校進学を選んだ訳じゃない。
 進学高校じゃなくていいんだ、もっとおおらかに楽しく過ごしたかったんだ。
 なのに、どうして進学校に決まった?
 抵抗したのに…。
 高校の入学式で俺は項垂れていた。
 だから、マイクの前に立った人に気付かなかった。
「これから第71期生の入学式を執り行います」
 懐かしい、聞き覚えのある声に意識を戻される。
 顔を上げると、その人がいた。
「この春、私も転任してきました。同じ新人です。よろしくお願いします、栗城郷茂(くりきさとしげ)です、一年の担任を受け持ちます。」
 さとちゃん。俺の初恋。そして、従兄弟である。
「揚羽がここに進学したって聞いたから、転任願いを出してみたら受理されてさ、」
 楽しそうに話す。
「さとちゃん、ならどうして担任にはなれなかったのさ?」
「それはオレの一存では決まらないからなぁ」
 もう、死んでもいい。
 さとちゃんと三年間過ごせるなんて夢みたいだ。
 さとちゃんは実行委員会の顧問で、三田先輩は実行委員会の副委員長で、楽しかった。
 俺が簡単に誰とでもキスしたのは、さとちゃんとキスしたかったからだ。
 どさくさに紛れて何回か…三回です…キスした。
 なのに。
 さとちゃんは、事もあろうか俺達が卒業した二年後、三田先輩と結婚してしまったのだ。
 この時代、同性婚なんて当たり前だけどさ、まさかの裏切り行為だ。
 一体、誰から俺を守っていたんだよ!
 だから、会いたくない。

2021.06.26
【五】
「んっ…ん」
 息が出来ない。
「あげは…」
 切ない声で名を呼ばれた。
 思わず両腕を広げて、声の主を抱き寄せた。
「愛してる」
 ん?
 重い目蓋を無理矢理抉じ開けた。
「揚羽」
「みなと?」
 俺は慌てて腕をほどいたが、湊都の腕は俺を抱き締めたままだ。
「セックス、したい」
 え?
えぇっ!
「ちょ、ちょっと待って、何言って…」
「好きなんだ、誰にも渡したくない」
 湊都の唇がリップ音を立てて首筋から下へと下りていく。
「みなとっ、待てってば!」
「やだ、可愛い顔で無防備に寝てるお前が悪い。もう我慢が出来ない。」
 ブチブチッと音がしてシャツのボタンが弾け飛んだ。
 湊都の舌が、俺の乳首を下から上に舐め上げる。
「あん」
 マズイ、ヤバい!
 その時、足元で扉の開く音がした。
「湊都、一人で始めるんじゃない。揚羽の同意を得なきゃダメだろ?」
「七尾は我慢できるのか?」
「だから隣の部屋にいたのに。」
「穂高は?」
「まだ寝てる。」
「なら、いいじゃないか」
「揚羽には、幸せな結婚をして欲しい。そう思うだろ?湊都」
 なんなんだ?俺は取り残されていないか?
「幸せな結婚、つまり愛し合ってこそ!まず信頼を勝ち得なければ愛し合うのは無理だ。ってことで、湊都の負け。な?揚羽。」
 俺は大きく頷いた。
 七尾は普段、俺の事を栗ちゃんと呼ぶ。今は態と湊都と同じ名で呼ぶのだ。
「湊都、裁縫道具持ってきて。シャツのボタンつけるから。」
 七尾がテキパキと指示をする。
 俺は飲み会でかなり飲んだようだ、途中からの記憶がない。それで湊都の部屋にいたのか。七尾もいてくれて良かった。
「栗ちゃん…これからは俺も揚羽って呼ぶよ?」
「わかった。」
「せんぱいっ、おれもぉ、おれもあげはって、呼んでいい?」
 隣室から這うようにして、穂高がやって来た。
「いいよ、皆で名前呼びすれば。」
「よしっ!じゃあ、これから一日一アプローチな!それ以上はダメ。決まりだからな!」
 かくして、俺は毎日社内で口説かれることになった。

2021.06.27
【六】
「揚羽」
 朝、会社に着くなり湊都に抱き締められ、唇を塞がれた。
 ここへ来てから湊都に何回キスされたのだろうか?
 俺は湊都の胸を押し返す。
「今日は、おしまい。」
 俺は身体を離し、デスクへ向かう。
「おはようございます」
 そこには穂高がいた。
「おはよう」
 後ろから抱き締められ、首筋にリップ音を立てられた。
「吸うな」
「ん」
 確実にキスマークを付けられた。
 大きくため息を着くと穂高の頭を押し返す。
「お前もおしまいだよ」
「えーっ!一日一アプローチじゃ足りない」
「お前達は何しに来てるんだよ?」
「時には仕事より大事なこともあるんです!」
 奥から七尾が出てきた。手にはマグカップを持っている。
「あ、おはよう揚羽。キッチンにコーヒーメーカー買ったから、良かったら使って。お前のマグカップも用意してある。」
「サンキュ。おはよう。」
 七尾はニッコリ笑うと自分の席に着いた。
 ん?お前は何もしてこないのか?それはそれで、落ち着かない。
 それでも業務が始まればそんなことは考えている暇もなかった。

2021.06.28
【七】
 昼は隣の弁当屋か仕出し弁当を頼むらしい。事務員がいないから留守番がいない。
「事務員、雇うか?」
「もう少し軌道に乗ったらな。」
 弁当を食べながら湊都が言う。
「揚羽、知ってるか?うちらの学校の実行委員会、今はないんだ。それでさ、掛け合ってみたんだ、修学旅行の企画。通った。」
 え?
「マジで?」
「ああ、栗城先生に、会えるぞ。」
 さとちゃん。
「…会いたいな。」
 従兄弟なのに、会えなくなってしまった。
 母校にいるのに、会えなくなってしまった。
 それもこれも、元カレの三田先輩のせいだ。
「三田先輩はどうしてうちに来たいって言ったのかな?」
 ふと、疑問に思ったことを口にした。
「高校時代が楽しかったからに決まっているじゃないか」
 俺たちは一斉に振り向いた。

2021.06.29
【八】
「先輩?」
「断ったはずですけど?」
「不法侵入です」
「わっ!」
 四者四様である。
「どんな会社か、見たかったから押し掛けた。無理は言わないよ。まぁ、揚羽もやりにくいだろうしね。しかし、狭いなぁ。」
 先輩は態と俺の名を出す。
「別にいいんです、三年後には移転するから。」
 湊都が挑発に乗る。
「ほぉ、それはお手並み拝見。まぁ、君たちなら大丈夫だろう。」
「三田先輩」
 七尾が一歩前に出る。
「揚羽先輩は、私たちが守ります」
 しかし、三田先輩の胸倉を掴んだのは穂高だった。
「安堂くんは高校の時にもそう言って僕に出し抜かれたよな。」
 口許に不適な笑みを浮かべて、先輩は踵を返した。

2021.06.30
【九】
「先輩!」
 俺は三田先輩の後を追った。
「郷茂に会ってないんだろ?」
「従兄弟だから、いろんな話は聞いてます。どうして…」
 先輩は俺の唇に人差し指をあてた。
「子供が、出来た。」
 え?
「僕にね、子供が出来たんだ。」
 先輩に、子供が?
「だからもう郷茂とは一緒にいない。今なら間に合うよ。」
 どういう、こと?
「郷茂と結婚していた時、今の嫁とも結婚した。で、嫁に子供が出来たから郷茂とは別れた。」
 二股婚。同性婚と共に別性なら二股婚が許される法律が決まったのだ。
 これにより、今までよりぐんと出生率が上がった。
「知らなかったんだ。ごめん。」
「先輩、さっきから何を言っているんですか?俺にはさっぱりわからない」
「え?だって…郷茂が…?待って…わかった、順を追って話すから。」

2021.07.01
【十】
「で?どうしてホテルなんですか?」
 皆にメールをして先輩を追って来たら、ホテルの一室に連れて来られた。
「郷茂とは別れたから。だから僕と結婚しないか?」
 この人は、何を聞いていたんだろう?
「先輩、俺は本当のことが知りたいんです。」
「だって揚羽は一度もセックスさせてくれなかったじゃないか、だから今したい。」
 俺は部屋のドアへ足を向けた。
「先輩は変わらない。あの時から俺のことをからかってばかりだ。」
「からかってなんかいない。おいで。」
 この一言に、どうしていつも振り回されるのか。
「僕は、最初から揚羽が好きだった。揚羽が従兄弟を好きだって言ったから、他の男から守ってやりたいと言ったのは事実だ。けど、僕の方をいつか見てくれると信じてた。なのに…従兄弟が郷茂なんて、聞いてない。」
 先輩の腕が、俺を捉えた。
「揚羽は、その名の通り、男心を翻弄する麻薬のような香りを、日本刀のような輝きを放つ…捕まえたら離せない。」
 着いてくるのではなかった。
「教えてやろうか?郷茂は…ネコだ。」

2021.07.02
【十一】
「んっ…ダメ…」
 ずるずるとベッドに引き込まれ、抱きすくめられた。
 俺は、抱かれたかったのだろうか?郷茂を抱いた男に。
 しつこいくらい丁寧に愛撫され、息も絶え絶えになったところを貫かれ、揺さぶられ、イカされた。
「揚羽、やり直さないか?」
「ヤ…だ…んっ」
 中をしとどに濡らされ、硬度を取り戻したものに再び抉られ、擦られた。
「も…ヤだ…イキたく…ない」
 高校時代、入学早々上級生に嬲られた。そこを助けてくれたのが三田先輩だった。
「ごめんな、あの時の男達と、同じだな。だけど、湊都も七尾も穂高も、揚羽を狙って瞳をギラつかせている。そんな所に揚羽を置きたくはない。」
「捨てたくせに。さとちゃんを選んで、俺を捨てたくせに。あっ…」
 質量が増した性器で、際も中も奥も満遍なく擦られた。
「くっ…うっ」
「揚羽を…うっ」
 マズい、イカされる。
 腹筋が収縮し、太股が痙攣した。
 この人の子を、受胎するかもしれない…。

2021.07.03
【十二】
 俺の父親の家系は、最初に生まれた男が妊娠が出来るという、特異体質だ。
 俺も郷茂も最初に生まれた男だ。肛門に子宮が隠れていて、中でイクとその道が開ける。受精しないと女性のように経血のようなものと一緒に卵子が流れ出る。普段はない。つまり、セックスして初めて卵子が出来るしくみだ。
 三田先輩が言っていた匂いや輝きと言うのも特異体質で、種の保存意識が高い種族が嗅ぎとることが出来るらしい。
 この厄介な種族に、俺は悩まされてきた。
 俺にも生殖能力はある。
 女の子とセックスすれば、子供を作ることが可能だ。
 しかし、心が惹かれるのは男ばかりだ。
 寄りによって、同族の郷茂とは…。
 ごぼごぼと音を立てて性器が抜かれた。
 肛門から先輩の精液が溢れ出る。
「これだけ注ぎ込んだら、妊娠するよな?」
「こんなにされたことがないから、わからない。」
 大きく脚を開き膝を抱えて、自分の孔から出る、白濁した液体を見詰める。
「孕んだら、生んでくれるよな?」
「生むけど…崇には連絡しない。」
 三田先輩の名前は崇だったことを、孔を見ていたら思い出した。
「あいつら、俺と恋愛して結婚したいんだってさ。だから、もしも孕んだら、育ててくれる男を選ぶ。」
 言って、思い出す。
 この男の生殖器の固さと太さ。
 下半身が、疼いた。

2021.07.04
【十三】
「揚羽。」
 翌朝、なに食わぬ顔をして出社した。
「三田先輩と、話は着いたのか?」
 七尾に問われて、下を向いた。
「ごめん。」
「やっぱりな。あの人、人一倍強そうだからさ。で、結婚するの?」
 顔を上げると、泣き出しそうな瞳に出くわした。
「俺達、本気なんだけど。揚羽と本気で一生を添えたらいいなと、願っている。」
「嫌なんだ。こんな体質、変だろ?男に抱き寄せられたら突き放す力もない。強引に迫られたら、指一つ動かせなくなる…」
 頭を抱えて泣き言をいう俺なんて、なんの利点もない。
「揚羽、聞いて?俺は実行委員会で様々な案を考えて実行に移すところや、縁の下の力持ちもなんの衒いもなくやってくれるところとか、全部終わったときの笑顔とか、いろんな顔を知っている。それらを含めて、好きなんだ。揚羽が妊娠できる体質だと知ったのは、心惹かれた後だ。」
 ダメだ、七尾は仕事仲間だろ?
 なんで?なんでこんなに疼くんだ。
 そうだ、全部先輩のせいだ。
 夕べのセックスが、気持ち良かったからだ。
 あんなセックス、知らなかった。
 いつも暴力的に抱かれるばかりで、愛撫なんてされたことがなかった。
 七尾は?七尾はどんな風に愛撫するんだろう?
「あのさ…週末、俺の部屋に来てくれないか?」
 明日になれば妊娠の可否がわかる。

2021.07.05
【十四】
 朝、目覚めたら、ベッドが悲惨な状態になっていて、慌てて洗濯機を回した。
と、同時に安堵した。
 なんの問題もなく、七尾を迎え入れられる。
 何故だろう、心が浮き立つ。
 俺は、七尾が好きなのだろうか?
 モヤモヤした気持ちのままで出社すると、湊都と穂高はいつも通りにアプローチしてくるけど、七尾は挨拶をするだけだ。
 そうか、ツンデレなんだ、こいつ。
「揚羽、行くぞ」
 湊都に促され、母校へ出向く。
 校門から校舎を見上げると、昔に引き戻される。
 郷茂が居たこと、皆に会えたこと、上級生に回されたこと、先輩に助けられたこと、実行委員会に誘われたこと、体育館裏に呼び出されたこと、男女問わず告白されたことなど、いろんなことが思い出された。
「先生が、待ってる。」
「うん」
 湊都が、俺の肩を抱き寄せた。
 途端に身動きが取れなくなる。
 また、心臓が大きく鳴った。

2021.07.06
【十五】
「揚羽!」
 郷茂はとても歓迎してくれて、仕事も順調に打ち合わせが出来、そのままの流れで昼飯を共にすることとなった。
「さとちゃんは、ずっと異動がなかったんだね。」
「うーん、教育現場ではまだまだ同性婚が受け入れがたいみたいでね、現状維持が続いてる。」
 あれ?
「でも、三田先輩に子供が出来たから別れたって聞いたけど?」
「なに?それ。今朝も崇は家から出掛けたけど?」
 また、からかわれた。
「それに…」
 郷茂が言葉を濁す。
「崇茂くんは三歳でしたっけ?」
 湊都が口を挟んだ。
「え?さとちゃん、子供生んだの?」
 誰も教えてくれなかった。
 なら、本当に先輩は俺とセックスしたいだけだったのだろうか?
「そうなんだ。だから別れるなら慰謝料を沢山貰わないとな。」
 今度こそ、先輩と二人きりで会わないようにしよう。
「さとちゃんが幸せで良かった。」
 本当にそう思った。

2021.07.07
【十六】
 郷茂とは店で別れて帰社した。
「栗城先生、どうだった?」
「うん、会えて良かった。でも子供のこと知っていたなら教えてくれれば良かったのに。」
「先生から聞きたいかと思った。…俺のことを真剣に考えてくれないか?」
 また、湊都の腕が俺の肩を抱き寄せる。
「先輩、揚羽を抱いたんでしょ?俺もそろそろ限界だ。」
 周囲から隠れるようにキスが降ってきた。
「毎晩、揚羽を想って抜いてる。」
「変態」
「揚羽は、どうしているんだ?」
 どうして?
「誰を想像して抜くんだ?」
「誰も。夢精がある。」
「まだ?」
「俺は、他人と違うから。」
「そんな寂しそうに笑うな。誰でもいいから番を選べ。」
「誰でもは、嫌だな。愛する人の子供を生みたい。」
 俺は、中途半端な人間だ。
 求められれば簡単に身体を開く。
「湊都。一回なら。」
 湊都の足が止まる。
「任せろ、俺なしでは居られない身体にしてやる。」

2021.07.08
【十七】
 週末が七尾、翌水曜が湊都。身体が保つかな。
 穂高が私鉄から依頼を取ってきた、イベント案を考えながらそんなことを思っていた。
 そうか、穂高の時間も取ってやらないと不公平か。
 俺はスマートフォンを操作して、穂高にメールをした。
《来週末、空いてる?》
 返事はすぐに来た。
《空いてなくても空ける。》
《なら、家に来てくれないか?》
《わかった、行く》
 これで、全員平等だな。
 …前職を辞めるのに時間が掛かったのもこれだ。
 社長と部長に口説かれ絆され、断りきれなくなった。
 避妊はしたから心配はなかったけど、それでも自分の淫乱さに腹が立つ。
 因みに部長に は女性だ。
 そうだ、イベント案は電車に乗って恋愛シミュレーションゲームをするのはどうだろうか?
 企画案をまとめたところで、19時を回ったので、パソコンの電源を落とし、帰宅の準備を始めた。
 部屋の扉が開いた。
「あれ?揚羽まだ居たんだ。お疲れ。」
 七尾だった。
「あぁ、今帰るところ。そうだ、私鉄のイベント、いい案が浮かんだんだ。明日には下敷きを作るから見てくれないか?」
「わかった。…飲みに行かないか?」
 少し逡巡して、答えた。
「なら、家で飲まないか?」

2021.07.09
【十八】
「あっ、あぁ」
 帰り道、コンビニでビールを買い込み、昨夜仕込んだぶり大根と白菜の一夜漬けをつまみに、二人で昔話に花を咲かせながら飲んだ。
「揚羽ってマメなんだな、シーツが干してある。」
「あぁ、それは今朝、受胎しなかった卵子が流れたんだ。」
「誰かと、セックスしたんだ。」
 あ、しまった。七尾のこと、誘ってたんだった。
 しかも、今はやたらと身体が疼く。
「した。」
「先輩か?」
「うん」
「…好き、なのか?」
「わからない。」
「揚羽って、栗城先生以外、好きにならないのか?」
 それに対しては返事が出来ない。
「セックスしたら、好きになってくれるのか?」
 ダメだ、今七尾の目を見たら、身体を開いてしまう。
「揚羽」
 七尾の手が、俺の肩を掴み、顔が近付く。そのまま口付けられた。
「七尾…して、抱いて!」
 その一言を口にしてしまった。
 転がるように寝室に行くと、其々着衣を脱ぎ捨て裸で抱き合った。
「揚羽、あげはっ」
 既に孔は濡れそぼっていた。
 深く浅くキスをして息が上がり、乳首を爪で摘ままれて男性器を屹立させた。
 七尾は俺の身体中を強く吸い、あちこちに充血の跡を残す。
「ななお…んむっ」
 俺は七尾の男性器を口に含むと、じゅぼじゅぼと音を立てて吸った。
「あげ…はっ、ダメだ、イクっ」
 ビクビクと痙攣を始めたので、口を離す。
「七尾、挿れて、早く」
 俺は脚を開くと、七尾の硬く屹立した男性器を奥深く迄受け入れた。
「気持ち、い…から、もっと突いて」
 七尾は俺の言いなりに、腰を振っている。
「揚羽、揚羽っ、好きだ」
「うっ、あんっ、いいよ、いいっ、気持ちいい」
 身体の変化を感じる。
「中、一杯擦って、イカせて」
 もっと、もっと奥を突いて。
「あぁ、あん、あん」
 ヤバい、喘ぎまくってる。
「揚羽、可愛い…」
 そう言って深く口を吸われた。
 気持ちいい、気持ちいい。
 キタ、イク、イクっ。
 腹筋が収縮し、太股が痙攣した。
「七尾、出して」
 俺の子宮に、届きますように。

2021.07.10
【十九】
「先輩、揚羽先輩っ!」
 穂高は部屋に入るなり、抱き締めてきた。
「ムリです、先輩を犯すなんて。ちゃんと恋愛してから自然に、」
「しないなら、帰っていいよ。」
 俺は穂高を突き放した。
「セックスしないなら、必要ないから。」
「…わかりました」
 言うと顔が近付いてきた。
 息が出来ないくらい長い時間、キスをした。
「先輩、今までもこんな風にセックスしてたんですか?」
 今まで?
「うーん、今までは俺の意思に関係なく、誰かが乗っかってきてた。」
 穂高はまた、長いキスをした。
「揚羽先輩、好きです!付き合ってください!」
 両腕でしっかりと抱き締められた。
「こんなこと、繰り返したらだめです。僕が、僕だけが貴方を抱くのじゃ、ダメなんですか?」
「穂高、だからしてみるんだってば。」
「へ?」
「相性のいい人を探している。」
 別に俺自身は一人でも構わない。しかし、気付いたらこんなことされているのなら、誰か一人に決めた方がいい。
 出来ることなら郷茂が良かったけど、彼には夫がいる。
 なら、俺の運命の人を見付けたい。
「先輩のここ、濡れるんですね」
 身ぐるみを剥がされると、早速身体のあちこちに跡をつけ始めた。
「これ、湊都さんですよね?上書きしてやろう」
 そう言って湊都が付けた跡を消していく。
「ちょっ…あっ」
「恥ずかしい?」
 こくこくと頷く。
「揚羽先輩、やっぱり可愛い。」
 唇を塞がれながら、身体を繋がれた。
「んんっ…ふ…」
 上も下も繋がってる…そんなことを考えた。
 穂高の舌が、口腔内を舐る。上顎を擦られるとぞくぞくした。
「んんっ」
 繋がれた楔が、中で存在感を増す。
「動いて欲しい?」
 唇が触れるか触れないかの位置で、穂高が囁く。
「一杯、動いて」
 それを合図に穂高は俺の腰を掴むとガンガンと突きいれてきた。
「あ、いい、気持ちいい」
 穂高の砲身が肉壁にピタリとはまり、動く度に快感を生む。
「ほだ…か…ん」
 頭の芯がボーッとしてきて、俺は中でイクのが止まらなくなった。
「イヤ。止まんない…穂高、気持ちいいよぉ」
 両腕でしっかりと穂高の背を抱いた。

2021.07.11
【二十】
「マジか…」
 確かに、穂高とのセックスは気持ち良かった。
 でも、皆それぞれに良かったのに。
 朝、出勤して湊都に伝えた。
「妊娠、したみたいだ。内勤に変えてもらっていいかな。」
 三人は俺を見て、穂高を見た。
「揚羽先輩、俺の子?そうだよね?」
 穂高は踵を返すと、鞄を開けて何かを取り出した。
「揚羽先輩、結婚してください!」
 穂高は婚約指輪を用意していたのだ。
「ありがとう」
 穂高は昔から俺を慕ってくれていた。
 誰にも憚らず公言していた。
 こんなに想われて、俺は幸せだ。
 けど、何故か心に引っ掛かるものがある。
「揚羽、ちゃんと医師に診断してもらったのか?体質だけで判断していないか?」
 七尾が心配そうに俺を見た。
「いや…そうだな。産科に行ってみるか…」
 俺は今まで何度か産科へ行ったことがある。
「穂高、返事は少し待っててもらえるか?」
「はい」
 しかし、穂高は自分の子だと信じているようだ、満面の笑みで手を振っている。
「揚羽、一緒に行くよ」
 湊都が追って来た。
「一人で平気だよ。なんどか堕胎したことがあるから。」
「そうなのか…」
「うん。」
 誰彼構わずヤッた結果だ。
「揚羽、今は好きな人がいないんだな。俺達とヤッても、そいつらと同じなんだろ?」
「ごめん。気持ちいいんだ、でもそれだけで…」
 好きな人と結ばれると、世界が変わるらしい。
「妊娠したら、世界は変わるよな…」
「変わらないんじゃないか?栗城先生も変わったようには思えないが。」
 その時、下腹部に激痛が走った。
 俺は慌てて腹を庇った。
 しかし、不受胎の証は体外に押し出された。

2021.07.12
【二一】
「前に言いましたよね?受精するような行為をしたら、必ず受診しなさいと。身体が傷付いていて、受胎しにくくなっています。暫く性交は控えて、身体を労ってください…と言っても、貴方は男性を引き寄せる性のようです、発情しないよう、薬を処方しますから半年ほど服用してください。」
 医師はそう言うと付き添いの湊都を見た。
「特異体質と言うのは特別なので虚弱体質の人が多いのです。週に三回なんてもっての外です。自粛していただけますか?」
 湊都は苦笑しながら「すみませんでした、大事にします」と、答えていた。
 湊都の運転で会社に戻る最中、湊都に問われた。
「栗城先生と、寝てみたら?」
「え…」
「好きな人とのセックス、どんな風かわかるかもよ?」
「いや、さとちゃんとは出来ない。」
 湊都が笑った。
「そんなこと言ってたら、俺らは全員浮かばれないよ。」
「暫くは真剣に仕事するからいいだろ?」
「まあ、な。」
「それより、穂高になんと言ったらいいか、悩むなぁ。」
「穂高は本当に揚羽一筋だからな。」
「卒業してからも毎日メールがくるんだ、今でも。」
 湊都が感嘆の声をあげる。
「なぁ、うちの妹、覚えてるか?」
「うん、三美(みよし)ちゃんだよな。」
「あいつ、揚羽のことをやたらと聞きたがるんだ。」
「ごめん、女の子は苦手だ。昔気持ち悪いって言われてから、」
「会ってくれないか?」
 畳み掛けるように湊都が言う。
「俺の妹だ。な?普通に会社に連れてきて、昼飯一緒に食べる程度でいいんだ。…俺はさ、妹の恋路を邪魔しようとしているんだ。揚羽が求めるのは常に男だ、だから会えば諦めると思って…諦めて欲しい、俺のために。」
 最後は独り言のように呟いた。
「俺だって、穂高に負けないくらい、揚羽だけ見てきた。今回だってどうしたら揚羽と一緒にいられるかを模索しての起業だ。だからさ、譲る気はない。」
「七尾は?」
「あいつは昔から解らないんだよな。今だって全然アプローチしないだろ?」
「でもセックスは上手かったよ。」
「ムカつくなぁ」
 車は、会社に着いた。

2021.07.13
【二二】
「次、頑張ります!」
 鼻息荒く、穂高は言った。
「半年は自粛だけどな。」
 一斉にブーイングの嵐だ。
「いいよ、その間に愛を深めよう。今度こそ愛し合って抱き合おうな?」
 七尾からはじめてのアプローチだ。
「なぁ、愛し合うってなんだろ?」
 不意にそんな言葉が口をついた。
「寝ても覚めてもその人のことばかり考えてて、その人が幸せでいてくれたら嬉しくて、それを共有出来たら愛し合えるんじゃないかなって思います、僕は。」
 穂高が真面目な顔で俺を見ている。
「僕はいつでも揚羽先輩の幸せを祈ってます。出来れば一緒に幸せになれたら嬉しい…です。」
「うん、そうだな。」
 俺の幸せって、なんだろう。

2021.07.14
【二三】
 一人、部屋に帰り付くと、まず冷蔵庫を開ける。
 ビールが五缶冷えている。
 トマトを切って、チーズを添えて。
 フランスパンがあるから、ガーリックトーストにしよう。
 夕飯が決まったから、クローゼットでスーツを脱ぎ、Tシャツに短パンへ着替えた時、インターホンが鳴った。この音はエントランスだ。
 リビングへ行き、訪問者を確認する。
「珍しいですね」
「そうか?半年振りか。」
 エントランスの鍵を開けて迎え入れた。
 玄関のドアを開いて訪問者を待つ。
「こんばんは」
「悪いな、突然押し掛けて」
「突然はいつものことです」
「そうか?」
 この人は実行委員会の委員長だった、渋谷曜一朗先輩…先輩が卒業後に俺が三田先輩と別れたことを知り、付き合って欲しいと言われて付き合っている、今カレだ。
 あいつ等には言っていない。
 しかし最近は海外に行くことが多く、会うのは年に二回程度。
 俺に新しい男が出来ても構わないから別れないと言われていて、少し戸惑っている。
「簡単なものしかないですよ?」
「そう思って買ってきた」
 曜一朗さんは、寿司折を差し出した。
「ビールでいいですか?」
「あぁ。」
 一応、予定していたトマトとチーズを持ってリビングに行くと、曜一朗さんが掠める程のキスをした。
「テーブルに置くまで待てないんですか?」
「待てない。三田と会ってただろ?」
 嫉妬はするんだ。
「転職もしましたよ?湊都も七尾も穂高もいます…三人と寝たし。穂高はプロポーズもしてきたし。」
 この人は、どうするのだろう?
「うーん…そう言えば揚羽とは二年くらいしてないか?今夜、どうだ?」
「残念でした、ドクターストップが掛かりました。避妊に失敗したんです。」
 曜一朗さんの目の色が変わった。
「お前さ、浮気するならゴム使えよ。」
「二年もしてないことに気付かない恋人なんてもう、恋人じゃないです。」
「…別れたいのか?」
「恋人じゃなくなったら、会わないんですか?」
「普通はな」
「俺は、普通じゃないから…」
 肩を引き寄せられ、深く口付けを交わした。
「半年以内に仕事を片付けてくるから。東京に戻る。そしたら、一緒に暮らそう?妊活しよう?」

2021.07.15
【二四】
 ほろ酔い気味で一緒に風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。
「だから、ドクターストップだって、」
 抱き合って寝る体制に入った途端、下着の中に手を突っ込んできた。
「挿入しなければいいんだろ?咥えてやるから。」
 布団を跳ね上げると、短パンと下着を剥ぎ取られて、男性器を咥え込まれた。
「嫌っ、ダメ…」
 大抵の人は、俺に子宮があると知っているから、直ぐに挿れたがる。
 でも、曜一朗さんは、いつも男として扱ってくれる。
 男はどこが善くてどこでイクか、熟知している。
 ま、俺と散々してるからな。
「あっ、あ…」
 態とじゅるじゅると音を立てる。
「曜一朗…さん、エロい…」
 見下ろす俺と目が合うと、目が笑う。
 この顔が、可愛いと思う。
 腐れ縁っていったらそうだけど、俺がいないと死ぬんじゃないかって思わせるんだ、この人は。
「んっ…曜一朗さんっ、出るっ」
 一瞬身体が硬直して、ビクンッと身を震わせる。
 ごくり
 喉仏を上下させて飲み込んだ。
「曜一朗さん、俺にもさせて」
 曜一朗さんは、ベッドボードに背を預けて座ったままの体制。なぜならこの後俺をいたぶるからだ。
 曜一朗さんのは大きくて太くて長い。咥えるのは至難の技だ。
「ん」
 それでも気持ち良さそうに眉根を寄せる。
「んんっ」
 不意に乳首を抓られて、思わず声が漏れた。
 抓ったり、指の腹で撫でたり、弾いたりするから、乳首が立ち上がり余計に感じてしまう。
「揚羽、こっちに尻向けてよ」
 いわゆる69だ。
「ふっ、ふ…」
 鼻息が荒くなる。
 蜜口を棹を舌でちろちろと舐め、尻をパンパンと掌で打つ。
 俺は長大なあんたのモンで苦労しているのに。
 二度目の射精感に身震いしていると、砲身が大きく跳ね、爆発した。
 喉の奥に出されたので、そのまま飲み下した。
「揚羽、俺の知らないところでイイコト散々しやがったな?フェラが異常に上手くなってるじゃねーか」
 俺は口許を拭いながら、言ってやった。
「二年も放置していた奴に言われたくない」

2021.07.16
【二五】
「半年後に本気でプロポーズするからな、身辺整理と妊娠できる身体にしておけよ」
 そう言って曜一朗さんは再び海外へ向かった。
 …カメラマンなのに、国内でなんの仕事をするのだろうか。
「揚羽、夕べ渋谷先輩がお前の家に行かなかったか?」
 社内でボンヤリしていたら、不意に七尾に言われて、動揺が顔に出てしまった。
「一時帰国したから泊めてくれって。」
 苦しい言い訳をする。
「そうか、なら俺も混ぜてもらえば良かったな。三年ぶりかな?元気だったか?」
「うん。七尾は、」
「あんなことがあったから、心配で様子を見に行った。…あのさ、昔みたいにキスして良いか?」
 良いとも悪いとも言わせず、七尾は深く口付けた。
 なんか、罪悪感だけが胸を占める。
 男を誘う性、男を拒めない性。なんて厄介なんだ。
「俺のことも忘れないで欲しい。」
 七尾は外回りに出掛けた。
「あいつ、納得してないぞ」
 今度は湊都だ。
「何で渋谷先輩が一時帰国したらお前の家に止まるんだ?」
 俺の座っている椅子の背もたれに手を置き、もう片方の手で俺の顎を押さえた。
「納得していないのは、湊都だろ?」
 湊都の顔が近付いてくる。
 俺は目を閉じることが出来ず、開けたままキスをした。
 口腔内を蹂躙される。
 気持ち良さに目蓋を閉じてしまう。
 長い時間、そうされていたが、そっと離れた。
 まだ、湊都の顔が近くにある内に、「七尾と穂高が帰ってきたら教えてやる」

2021.07.17
【二六】
「三田先輩とは卒業と同時に別れたんだ。あの当時は俺もまだ子供だったし。卒業を切っ掛けに付き合い始めたのが、渋谷先輩なんだ。」
 三田先輩には本命…郷茂がいたってことだ。
「渋谷先輩と?全然知らなかった。」
「口止めされてたからな。」
 三田先輩との付き合いは本当に健全だったなぁ。逆に曜一朗さんは、初めから爛れていた。当時の俺には丁度良かったのかもしれない。
 曜一朗さんと久し振りに会って、夜を過ごして気付いた、結婚は身近に居て信用と信頼がおける人としたい。決して曜一朗さんが該当しないわけではない。半年後に戻ってきて共に過ごしてみてから答えを探そう。
「そうだな、一人増えただけだもんな。」
 七尾が静かに闘志を燃やした。

2021.07.18
【二七】
 その日を境に、全員が積極的にアプローチを始めた。
 今までのように気持ちをぶつけてくるのではなく、俺の気持ちを揺さぶるような発言だったり行動が増えてきた。
 とどのつまり、誉めて伸ばす方式だ…自分で言うか?
「揚羽、今夜空いてるか?」
 七尾の誘いは飲み会だ。
「ごめん、これからジムに行くからムリだ。」
 全員が振り向いた。
「ジム?」
「言ってなかったか?プールで一時間くらい泳いで、適当に機械を使ってくる。」
「プールが目当てか?」
「ああ。」
 全員の考えが手に取るようにわかる。
「じゃ、」
「俺も行く」
「俺も」
「僕も」
 やっぱり。
「揚羽の水着〜♪」
 節を付けて歌うな!
「言っておくけど、教えないからな!」
「おー!」
 って…皆頼もしいな…そりゃ。
 置いてかれているのは、俺じゃねーか。
 華麗にクロールでターンする者、バタフライで監視員に怒られる者、のんびり平泳ぎの者様々だ、
 俺はゆっくりクロールで1000m泳ぐ。
 泳ぎきったらシャワーを浴びる。さて、今日は…。
「揚羽、腹筋を鍛えないか?」
「いやいや、自転車漕ごう」
「バーベルだよ、バーベル!」
 …走ろう…。
 黙々と走る。
 全員黙って走る。
 30分走って終わらせた。
 風呂に入って今夜は帰るぞ!
 …。
「おいっ!どこへ行く?」
 三人に抱えられるようにして連れ去られた。

2021.07.19
【二八】
「カンバーイ」
何が乾杯だ!
 帰りたい。
「なんだよ、揚羽はダイエットか?」
「そうじゃないけどさ」
 出産と子育てには体力が必要なんだよ。
 俺は昔から父親に子供が生めることを言われ続けたせいで、大人になったら子作りしなければいけないと、強迫観念に襲われている。
 女性を孕ませようとは思わないのが難点だ。
 実家…そう、我が家に母親はいない。父親一人きりだ。
 父の頃はまだ同性婚が可能でなかった。だから黙って抱かれて一人で生んで育てたそうだ。
 父親の理解者は祖父と叔父だ。
 つまり、男系家族だ。
 だから女性には頼らず、男性を欲する。
「揚羽?どうした?」
「帰る」
「え?」
 乾杯だけして、店を後にした。

2021.07.20
【二九】
 違うよ!動いてストレス発散してるんだよ!
 何でお前らはわからないかな。
 お前らは、セックスしなくても平気なのか?
 曜一朗さんも全然しないけど、他でしてるのか?
 こんなに依存しているのは俺だけなのか?
 誰か教えてくれ!
 もしかして、飲んで発散しているのかな?
 でも、俺はダメなんだよな。
 家に帰ってストレッチしよう。
 とりあえず、歩いて帰る。
 イライラするとそればかり考えちゃうから、週末何するか考えよう。
「あ!揚羽」
 誰だよ!険しい顔で振り返ってしまった…。
「さとちゃん…」
 郷茂が、そこにいた。
「どうしたの?」
「喧嘩した。だから子供置いて出てきた。」
 三田先輩が一人であたふたしながら、子供を寝かしつけている光景が目に浮かぶ。
「ラッキーだな、こんなところで揚羽に会えるなんて。本格的に家出してやろう」
「そうだよ、たまには三田先輩を困らせてやったらいいんだ。」
 俺に嘘を付いてまで関係をもちたかった理由をまだ聞いていない。
「家に泊まったらいい。」
 当たり前のように手を繋いだ。
 どうしよう、やはりドキドキする。
 医師はなんと言っていた?
 俺が受け入れることはダメだと、そう言っていたよな?
 なら。
 郷茂を抱くのなら。
 どうなんだ?
 三駅分、歩くつもりだったが郷茂を連れてタクシーを拾った。
「嬉しいな、俺を頼ってくれて。」
「え?あ、うん。」
 …違うな、これは。
「何処に行くつもりだったの?」
「フラフラして帰るつもりだった。」
 なんだよ、それは家出じゃないよ。
 タクシーを降りたところで、郷茂は躊躇った。
「家を空けても平気かな?」
「たまには良いじゃないか。この間、先輩も泊まって行ったよ。」
「そうなのか?」
 再び手を取ると、マンションに伴った。
 部屋の鍵を開けて、招き入れる。
「さとちゃん、一応言っておくけど、俺、ずっとさとちゃんのことが好きだったんだよ。」
「知ってる。でも僕も揚羽も妊娠体質だから満足しないだろ?揚羽は僕を抱ける?僕は揚羽を抱けない。」

2021.07.21
【三十】
「さとちゃん、俺、童貞じゃない、経験は、ある。」
 手を放さず、リビングまでたどり着くとソファに座らせた。
 郷茂の身体を抱き締める。俺の好きな匂い。
「揚羽、聞いて。従兄弟は駄目なんだよ。僕もさ、揚羽が好きだった。だから高校を異動してまで追いかけたんだ。だけど、じいちゃんがさ、」
 え?
「子供は作らないから!」
「違うんだ、粘膜が触れ合うと最悪死ぬかもしれない。僕は、揚羽に生きていて欲しい。結ばれなくても生きていて欲しい。」
「粘膜って、キスはしたじゃないか」
 あ…。
「思い出した?」
 そうだった。原因不明の高熱。
「樺山くんが教えてくれた。揚羽は未だに僕の幻想に囚われているって。だから崇なんだよ。僕が揚羽に拘っているから崇を、在学中から誘った。」
 こんな近くに郷茂がいるのに。
「わざわざ、こんなことのために来てくれたんだ。ありがとう。」
「参ったな、揚羽には直ぐばれる。」
 郷茂は俺の手の甲にキスをした。
「これで、僕の想いは遂げた。揚羽は?」
「俺はずいぶん昔に、諦めていたよ。」
 暫く腕を解かず、そのまま抱き締めていた。

2021.07.22
【三一】
 二人ならんでベッドで眠り、翌朝には郷茂は帰っていった。崇茂が気になるそうだ。
 また、湊都に借りを作ったけど、黙っていよう。
 週末。
 とりあえず洗濯をしよう。
 ワイシャツと下着を洗濯機に放り込む。
 仕上がるまでコーヒーを淹れよう。
 なんか、転職してから久し振りにゆっくり過ごす時間な気がする。
 そうだよ、郷茂の結婚を知った時、俺はもう一人でいいと、そう思った。
 だから曜一朗さんにも、他に好きな人が出来たら振ってくれと頼んだ。
 身体だけの関係なら、誰とでも結べる。
 身体の相性がいいのは穂高だ。挿入された途端、背中がぞくぞくした。
 相談事は湊都に限る。けど、セックスも気持ち良かった。
 話をしていて楽しいのは七尾だ。でもセックスも上手い。
 曜一朗さんの神出鬼没なのも嫌いじゃない。突然現れてガンガン突かれるのも悪くない。
 三田先輩のねちっこいセックスも良かったな。
 …結局、誰か一人になんて選べない。
 コーヒーがキッチンからいい匂いを運ぶ。
 その時、ふと思った。
 その日の気分でコーヒー豆を選ぶように、相手もその日の気分で決めれば良いんじゃないか?
 今と変わらないけど、そういうものだと割り切ってしまえば。
 気持ちが楽になった。
 誰か一人を番として選べないのなら、全員と契約してしまえばいい。
 洗濯機が止まった。

2021.07.23
【三二】
「ちょっといいか?」
 週明け、自分の考えを全員に告げた。
「いくら考えても、全員のいいところばかりしか思い浮かばないんだ。誰かを選ぶとか、誰かだけを愛するとか、難しいんだ、ごめん。」
 俺は深々と頭を下げた。
「避妊をすると言う条件付きで、週末同居しないか?四人で。」
「渋谷先輩はどうする?」
「あの人は半年間帰ってこないから。」
 湊都が考え込む。
「今は、渋谷先輩が頭ひとつ抜けているってことか?」
「そう言うことに、なる。」
「ならその提案、受ける。それに、セックスもしなくていい。俺のセックスアピールをすればいいんだな?」
「まあ、そう言うことだ。仕事とは違う、プライベートの顔が知りたい。」
「なら、俺も受ける」
 七尾が言う。
「はい!僕も当然行きます!」
 穂高が慌てて手を上げる。
「あ、それと、栗城先生のことはもう平気だから。気にしないでくれ。」
 この件については、全員わかっていたようだ。

2021.07.24
【三三】
 まさか、本当に食べて飲んで、大騒ぎしただけで皆満足するとは!
 俺も皆で雑魚寝しててもなにもなかった。
 医師からもらった薬が効いているのかもしれない。
 男と見たら発情していたのに。
 高校時代に戻ったように、週末が待ち遠しい。
 そして、ますます三人といる時間が愛おしい。
 そう、思っていた。
 三ヶ月が過ぎた頃、あろうことか穂高から突然告げられた。
「揚羽先輩、本当にすみません。湊都先輩の妹さんと、恋に落ちました。今付き合っています。」
 俺に会いに来た三美ちゃんが、穂高と会って恋に落ちた。
 更に一ヶ月後、七尾が見合いで会った女の子と、家族との話し合いで結婚が決まった。
 早く跡継ぎを迎えたいと言う家族の意向だ。
 その翌月、渋谷先輩の乗った飛行機が、消えた。
 止めは湊都だ。
 七尾と穂高が離脱したことで、自分も距離を置きたいと言ってきた。
「仕事では全員一緒だからな?」
 なんて、蛇の生殺しみたいな台詞を吐かれた。
 誰一人としていなくなった。

2021.07.25
【三四】
 仕事場では皆、今まで通りなのに、家に帰ると虚しい。
 そんな生活を二ヶ月続けてふと気付いた。
 性欲がない。
 そうか、楽しみがなくなると欲も消えるのか。
 確かに食欲もないし寝付きも悪い。
 出るのはため息ばかりだ。
「揚羽?」
 職場でぼんやりしてしまった。
「最近、企画が冴えないけどどうした?」
 どうした?決まっている、精気がないんだ。しかし、黙って首を振った。
「何でもない」
「俺じゃ、頼りないか?相談相手にもならないか?」
 湊都が俺の肩を抱いた。
「…止めてくれ!」
 俺は湊都の手を払った。
「距離を置いてくれなんて言っておいてそれはないだろう?俺は、もう…頭がおかしくなりそうだ!」
「で?」
 なんだよ!俺が何を…。
「誰を、選ぶ?」
「誰って、穂高はお前の妹と、」
「付き合ってないよ?」
「だって、七尾は見合いで」
「してないよ。だけど、渋谷先輩は誤算だった。まだ見つからない。」
 ちょっ…。
「揚羽がさ、『四人で暮らそう』とか言い出しそうだったから、三人で集まって決めた。だって揚羽は虚弱体質だって言われたろ?交互にしろ三人は体力が保たない。なら、俺たちが自粛するしかないだろう?」
 そんな…。
「揚羽は優しすぎるんだよ。誰かを選んでくれよ。四人でなんて俺達が苦しいんだ。だって考えてもみろよ、好きな人が目の前で他の男とセックスしてるんだぜ?心臓が破ける。」
 顔を背けることしか出来なかった。
「当然、渋谷先輩を選んでもいい。本当に好きな人を見付けてくれ。」
 俺は逃げていたのか。
 皆が苦しんでいたなんて、頭の片隅にも思わなかった。
「湊都、ありがとう。きちんと考えてみる。」
「揚羽、考えるんじゃない、心に素直になればいいんだ。失って困る人。常に一緒にいられなくても、揚羽の元に帰ってきて欲しい人だ。」
 帰ってきて欲しい人…か。

2021.07.26
【三五】
 このモヤモヤした気持ちの中、俺が常に求めていた人。
 その人がきっと、俺が愛した人なんだと解った。
 穂高は可愛い後輩だ、幸せになって欲しい…三美ちゃんは嘘だったらしいけど。
 七尾は友達だと思っていたから、今回の件で見方が変わった。
 湊都はいつでも俺の弱った心を癒してくれる、看護師のような人だ。
 曜一朗先輩は腐れ縁のようにズルズルと関係を続けてきた。
 1ヶ月経っても、半年経っても戻って来なかった。
 飛行機はトラブルにより砂漠の真ん中に不時着したそうだ。
 不時着なので生きているはずなのに。

2021.07.27
【三六】
「渋谷先輩が戻ってくるまで選べないと言うことは、渋谷先輩を選ぶと言うことでいいのかな?」
 七尾が不意に言った。
「最近の揚羽、見ていられない。」
 俺は、首を横に振った。
「俺ってさ、自分が思っていた以上に淫乱なんだな。さとちゃんはひとりの夫で大丈夫なのに、俺は何度考えても、三人を切ることが出来ない。これってさ、三人とも好きなんじゃないのかな?」
 湊都が俺を抱き締めた。
「俺の、勝ちだ。」
「え?」
 三人は、なかなか誰かを選ばない俺に焦れて、作戦を立てた。
 それでも誰も選ばなかったら、覚悟を決めようと。
「俺と、籍を入れてもらう。あとの二人は同居だ。三人で暮らそう?」
 湊都の言葉に涙が出た。
「キングサイズのベッドを買って、毎日喘がせてやる。」
「でも…」
「挿入しなくても、セックスは出来る。」
「渋谷先輩が戻ってきたら、その時考えよう?」
 七尾が俺を抱き締めた。
「湊都…先輩、僕が相手じゃダメなんですか?」
 泣き顔で穂高が訴える。
「ダメだ、穂高は自分の感情に走りすぎて渋谷先輩が戻って来たときにすぐ対応できないだろ?」
「出来…ません、揚羽先輩を連れて逃げます。」
 さっきから違和感を覚えていたが、穂高だ。
「穂高?なんで湊都にタメ口じゃないんだ?」
 七尾が吹き出した。
「穂高は負けたんだよ。だから湊都に絶対服従。」
 何に負けたんだ?
「揚羽先輩は、僕を選んでくれると信じていました。だけど、湊都先輩は、誰かを選ぶことはないって…」
 穂高がメソメソと泣きながら訴える。
「穂高、選ばないんじゃない、選べないんだ。だから、誰も正解していない。な?湊都。」
 湊都が悔しそうに首を縦に振った。
「結婚は、しない。前回同様、俺を妊娠させてくれた人と結婚する。」
「揚羽、お前子供が欲しいのか?」
 七尾が問う。
「…多分」

2021.07.28
【三七】
「あっ…ん…」
 半年振りのセックスだ。
 医師の許可を得て、出来るだけ妊娠しやすい日を選んだ。
 女性のように排卵があるわけではない。精子を迎え入れて初めて卵子が排出される、特別な体質。
 待てよ?自分の精子と卵子が結合することはないのだろうか?
 もしかしたら超近親相姦?だよな…。
「揚羽、セックスに集中してくれよ、美人が台無しだ。」
 そう言って最奥まで突き上げてきた。
「まっ…んんっ…や」
 七尾の大きなモノに何度も何度も突き上げられれば、理性も思考も手放す。
 背中に爪を立ててギリギリと肉に食い込ませる。
「なな…お…イグっ」
 子宮の奥に、七尾の熱い精子が注ぎ込まれた。
「あぁ、腹が…焼けそうに熱い」
 わかる、今、七尾の精子が俺の子宮に到達したんだ。

2021.07.29
【三八】
 ニ年後。
 渋谷先輩は海外に渡り、今日もカメラマンとして写真を撮り続けていた。
 カメラを手放すことができずに、俺を手放したのだ。
「孔雀!いい加減片付けろ!晩飯にできないだろ?」
 俺は七尾の娘、孔雀を育てるのに手一杯だ。仕事は七尾に任せっきりだ。
 でも、今夜七尾が帰ってきたら、孔雀は七尾の部屋で一晩過ごす。
 なぜなら、俺は今夜、穂高とセックスするからだ。
 俺は、年に一回だけ、妊娠しやすい日があるらしい。その日にだけ、三人と順番にセックスすることになった。
 年に一回と決められれば、無闇矢鱈に発情しなくなり、穏やかに暮らせるようになった。
「揚羽、今夜も美人だ。愛してるよ。」
 リップ音を立てて、何度も何度もキスをする。
「おぉっ、やっぱり揚羽の中は、いい。」
 こんなこと思うなんてはしたないと思うけど、今の台詞に嫉妬を覚える。
「…や…だ」
 同時に、とてつもない快感も知る。
「…ほだ…かぁ…」
 背に腕を回すと必死にしがみついた。
「誰?誰と比べたの?」
「え?」
 穂高の動きが止まった。
「揚羽が、それを言う?僕はずっと、ずっと貴方だけを追いかけてきたのに、貴方は相手を次々と代えてきた。今だって…」
 俺の中の穂高が、硬度を増す。
「織姫とは三年に一回しかこうして情を交わすことが出来ないもんな?そして子を成さなければ惨めな日々を過ごすんだ。」
 身体をグッと進めるとそれからは物凄い勢いのピストン運動で擦られた。
「あぅ、穂高っ、気持ちいい…んんっ、ん」
 俺をずっと好きでいてくれてありがとう。
 こうして肌を合わせていることが、君を愛しているってことなんだけど、わかってもらえない。
「揚羽、出る、出るからっ」
「うん、いっぱい頂戴」
 来た、穂高の熱い精子。
 ビリビリと雷に打たれたような衝撃が走った。
「揚羽?」
「あ…あ、あ、うぐっ」
 手足が痙攣した。

2021.07.30
【三九】
 翌年、俺は穂高の子を産んだ。
「白馬。良い名前だろ?」
 穂高が幸せそうに微笑む。
「でも、男の子だ。俺と同じ、子宮を有していた…」
「だから?僕は今の揚羽が好きだ。白馬に何の問題がある?」
 そうだった、穂高は俺にベタボレなんだった。
 白馬は孔雀より美人だ。
 男を誘う性なんだろう。
 父の気持ちがわかってきた。

2021.07.31
【四十】
「同情か?」
 湊都が俯く。
「正直、俺は今嫉妬しかない。お前を孕ますことが出来ず、二人の子を指を咥えて見ている。だからって、一度拒否された入籍をすることは、惨めすぎる。」
「違うんだ、二人の…孔雀と白馬のためなんだ。」
 ただでさえ産みの親が男だということで、肩身の狭い思いをしているのに、片親というだけで更に辛い思いをしている。
「正式な父親?が、必要なんだ。」
 俺も、最初は一人でいいと思っていた。
 七尾も穂高も子供たちを可愛がってくれている。
 でも、庶子扱いなんだ。
「湊都の子も、産みたい」
 これは嘘だ。
 子供を産むことがゴールじゃない。俺の理想は親友であり共同経営者であることを前提に、生活を共に出来たらいい。
「揚羽、無理してるだろ?お前の父親も一人でお前を育てた。」
 そうだ、父も学生時代にまわされて誰の子かわからない俺を産んで育てた。
「だから、きちんと父親のわかる子を産んだ。」
「わかった。」
 湊都が、俺の「夫」になった。

2021.08.01
【四一】
 湊都と寝室を共にした。
 毎夜、俺の男としての性を開発していく。
「ほら、ちゃんとやってやれば、これだけになる。」
 最近の俺の性器は小さく縮んでいて埋没しそうだった。
「俺は、メス化した揚羽なんていらない」そう言って擦ったりしゃぶったりして精を吐き出させた。
「揚羽、お前自分でしてないだろ?」
 確かに、要らない精だった。
「次、俺が挿入する時、男の性も女の性もイカせてやる。」
 それは、少し怖いかも。
「父に、言われた。うちの家系で二人も子を産んだ男はいないそうだ。まあ、一度で懲りるけどな。」
「懲りることなのか?」
「うん。」
 あまり詳しくは言いたくない。自然分娩は無理だから帝王切開だ。しかも月足らずで産む。育ちすぎると胎内で死んでしまうそうだ。
「七尾も穂高も、子作りに成功したことで、揚羽を抱く権利がなくなったからな。これからはじっくり俺が揚羽を俺好みに調教してやる。」
「子供たちのところへも帰してくれ。」
「わかったよ。」

2021.08.02
【四二】
「も…許して…死ぬ…」
 毎晩毎晩、湊都は俺のオスとしての性を目覚めさせる。
 感覚がなくなるくらい、性器を扱かれ、一滴も残らず吐精させられる。
「なんも、出ない」
 本当に、いきり立つ性器はビクビクと震えるけれど何も出てこない。
「精子は嚢胞で作るのに3日かかるからな、何も出なくても不思議ではない。」
 そう言いながらまた口に咥える。
「や、ほんと、ムリ」
 なのに、空イキが気持ちよくなってきた。
「ん…いくっ」
 全身をビクビクと痙攣させて果てた。
「揚羽、良いことを教えてやる。」
 散々イカされて、ぐったりと力尽きていたところに、告白された。
「オレはゲイで、受けだ。」

2021.08.03
【四三】
「中、スゲー、良い!」
 俺は今、自分の性器を湊都の尻孔に入れたり出したりしている。
「イイ、スゴく、感じる…揚羽っ」
 まさか、湊都がゲイだったなんて。
 いや、俺にプロポーズするんだから、ゲイだよな。
 でも、俺が受け…を当然のように受け入れた。
「あ、揚羽…中に、いっぱい出してくれ」
 後になって知ったことだが、湊都は極端に精子の数が少なく、受精の可能性が低いのだそうだ。
 だから、俺と添い遂げるために、受けになった…らしい。
 そんなこと、気にしなくていいのに。
 俺は、湊都が好きだから。

2021.08.04
【四四】
「あげはー」
「なんだ?」
「ななおがね、孔雀はほだかのお嫁さんになるんだって言うんだよ。そんでね、白馬はななおのお嫁さんになるんだって。」
 お前らは子供をなんだと思ってるんだ。
「間違ってない。揚羽と添えなかったからな、お前の血を受け継いだ子を貰う。抱き潰してやるんだ。ヤリマンにしてやる。」
 だから!
「孔雀は15、白馬は13まで待ってやる。それまでに、体質改善してこい。俺たちは毎晩湊都の喘ぎ声ばかり聞かされてウンザリだ。三人でヤらせろ。」
 七尾に迫られた。
「揚羽は俺たちの覚悟をなんだと思ってるんだ?」
「ごめん」
「子を成せばいいってもんじゃない。揚羽を愛しているんだ。」
 抱き寄せられ、口付けられる。
「ん」
 口腔内を擦られて腰から崩れた。
 そのまま七尾の部屋に連れ込まれて、散々犯された。
「もう一人、産んでくれ。男の子が欲しい。」
「ごめ…ムリ…二人が限界って…じいさんが…」
 わかっていて三人と結ばれたんだ、ごめん。
 だから、湊都の子が産めない。
「やっと、白状したな。だから湊都なのか?」
 無言で頷いた。
「よし、俺は白馬を嫁にするぞ。」

2021.08.05
【四五】
 彼らは有言実行、子供たちをそれぞれ嫁にして毎晩部屋から嬌声が駄々漏れている。
「あん…あん…気持ち良いよぉ、七尾ぉ」
「ううっ…あは…ん…穂高、穂高…イイ、気持ち良い」
 全く、俺の子供は淫乱だ。
「揚羽、俺たちも盛るぞ」
 湊都は俺を押し倒し、ズブズブと性器を出し入れし始めた。
「あ…んんっ…湊都っ、気持ちいい…」
 …。
 因みに、仕事は順調にいっている。湊都の営業力が半端なくて、三田先輩にバカにされたマンションの一室から、オフィスビルに移転した。
 穂高の企画力は昔から定評があったし、七尾の創造力は努力の賜物だ。
 俺は経理と事務を担当している。
 子供たちも俺の配下だ。
 そして。
 今、俺は三人目の子育て中だ。この子は次男だから特異体質ではない。
 湊都の子供を孕んで、男の子に恵まれた。
 更に白馬も妊娠中で、我が家は大賑わいだ。
 俺は、何だかんだで幸せな人生を歩んでいる。
 子供たちは…性的に喜んでいるから、きっと幸せだろう。怖くて聞けないが。
 渋谷先輩にはあれきり会っていない。
 さとちゃんは…俺の三人目と同級生の男の子を産んだ。
 三田先輩も頑張った。
 きっと、皆幸せなはずだ。
 うん。

2021.08.06 完