乙女ゲーの脚本を書いてみた
【一】
 乙女ゲーだけど、登場人物は男だけ?それってBLだよな?
 ま、乙女って指定だからウケは女と思って書けばいいんだよな?
 脳内変換、脳内変換!
 で、そのウケとなる主人公は就活中の大学生で川越翔流(カワゴエカケル)。
 登場人物の指定は十人。それぞれにカラーを持たせないといけない。

2021.09.26
【二】
 一人目は…。
「どんな職種が希望ですか?」
 就職活動支援室の担当エグチさんは、小柄で笑顔が可愛らしい、多分四十代だ。僕からしたら大人だ。
「もう、何でも良いです。全然受からないんです。」
 何社受けても採用通知が届かない。
「それは、川越くんに合った会社を選んでいないからだと思うよ。」
 もう何十回と通った支援室、エグチさんとは仲良しだ。
「なら、エグチさんはどんな職種なら僕に合っていると思う?」
 うーん、と少し悩んで、書類を捲り始めた。

2021.09.27
【三】
「これは?」
 開いた先には、小さな工場の名前があった。
「川越くん、プラモデル好きだったよね?ここはプラモデルの部品を作る工場なんだ。すごく業績がよくて今回増員するんだけど、どうかな?設計を学んだんだからって思っているかも知れないけど、何年かしたら設計も任されるかもしれない。これが、大手のゲーム会社だと何年たっても同じ作業ばかりやるだけなんだよ。」
 エグチさんは、予め調べておいてくれたみたいだ。
「ありがと、エグチさん。行ってみる。」
 エグチさんの助言は素直に受け入れられる。なんでだろう?

2021.09.28
【四】
 面接の翌日。
「エグチさん!ありがとうございます!受かりました!」
「そうですか、良かったです。私も今期限りでこちらを退職します。長い間お世話になりました。」
 エグチさんは深々と頭を下げた。
「お世話になったのは僕の方です。どうかお元気で。」
 何故だろう?エグチさんに会えなくなると聞いただけで胸がざわつく。
「川越くんが卒業するまでは居ますからね。」
 その笑顔に僕は癒されるのだ。

2021.09.29
【五】
 それからも僕は用もないのにエグチさんのところに通っては雑談をして帰るのが日課になった。
 しかし、遂に学校に来る用事がなくなったのだ。
「エグチさん!あの…」
「川越くん。お元気で。」
 突然、突き放され、気付いた。
 僕はエグチさんが好きなんだ。
 なのに、突き放され、もって行き場のなくなった気持ちをもて余し、途方に暮れていたところに、就職先の工場から連絡が来た。

2021.09.30
【六】
「どうして?」
 目の前にエグチさんがいた。
「先月で父が引退しまして。今月から私が社長になりました。」
 会社の社長室にはエグチさんと二人きり。
「あの、エグチ…社長!」
「これからは、浩(ヒロシ)と呼んでください、翔流…愛しています。」
 夢のようだ、僕は今、浩の腕の中にいる。

2021.10.01
【七】
 こんな感じでいいと、編集部に言われたので、二人目に。

「ほぁ?」
 頭をポンと叩かれ、睡魔との戦いにケリがついた。
 頭を叩いたのは心理学の教授だ。
 加治羽月、時々こうして僕を戦いから救出してくれる。
「羽月せんせ、ありがとうございました。」
 毎回、教授の部屋にお礼に行く。
「夕べも研究か?」
「はい。」
 僕は今、設計に必要な数式の研究にはまっている。これが完成すればいい論文が書けるのだが。

2021.10.02
【八】
「私の部屋の資料も貸してあげようか?」
「え?良いのですか?」
「勿論。役に立ててやってくれ。」
「ありがとうございます、助かります。」
「ただ…持ち出しは出来ないから、部屋で閲覧出来るか?」
「先生がお邪魔でなければ。」


2021.10.03
【九】
 羽月先生の部屋は本で一杯だ。
 その本を見せてもらえるなんて夢のようだ。
 僕が部屋の中で端から物色していると、先生はヨガのポーズを始めた。
 前にヨガにはまっていると聞いたけれど、目の当たりにするとは思わなかった。
 目をつむって瞑想している顔は、なんだか官能的でドキドキしてしまう。
 本探しに集中しようとしても、目が先生を追ってしまう。

2021.10.04
【十】
 加治教授とは、大学に入学する前からの知り合いだ。
 国会図書館で古い書籍を閲覧していたとき、声を掛けられた。
 それが縁でこの大学を選んだ。
 その時から僕は教授が好きで。だから業と名前で呼んでいる。
 教授はまだ35歳、なのに独身だ。少しでもチャンスはあるだろうか。
「翔流、家に来るか?親父の蔵書の方が役に立つだろ?」
「いいんですか?」
「当たり前だ」

「羽月…せんせ…」
 僕は教授の家で、度々逢瀬を交わしている。

2021.10.05
【十一】
 少し、エロかったかな?
 しかし、編集部からは絶賛された。
 よし、三人目だ!

「こんにちは!」
 子供の頃から知っている喫茶店のマスターは、去年からマスターになった。
 それまでは海外を放浪していたのだ。
「康にいちゃん、コーヒー!」
「アメリカンか?」
 こちらも見ずに答えた。

2021.10.06
【十二】
「えっと…エスプレッソ」
「え?」
 にいちゃんが顔を上げた。
「子供が手を出すもんじゃない。」
「えーっ、でも田中さんちでは出してくれたよ?」
 田中さんは駅前に古くからある珈琲ショップ。
「にいちゃんのエスプレッソが飲んでみたい」
「仕方ねーなー」
 にいちゃんは渋々と淹れてくれた。

2021.10.07
【十三】
「ほいよ」
 約10分後、目の前に置かれた小さいカップには、色の濃い液体が入っている。
「いただきます」
 そういって早速口に含んだ。
「…旨い」
 にいちゃんは何も言わずに、ニヤリと笑った。
「これが本場のエスプレッソだ。」
 ほろ苦くて香り高い、まるで…。
「もっと旨いコーヒー、飲ませてやる。口、開けろ」
 そこにコーヒー豆が一粒放り込まれ、唇を塞がれた。
 息が出来ないほど激しく舌を吸われた。
「どうだ?」
 僕は声も出せずに息も絶え絶えに康にいちゃんの肩に掴まるばかりだった。

2021.10.08
【十四】
 少し短かったかな?でも喫茶店のマスターって言ったら寡黙なイメージだもんな。
 よし、四人目だ。

 最近、家の近くにプラモデル屋が出来た。
 店長さんは、店番しているお兄さんの如く、常に何かを組み立てている。きっと根っからのプラモデル好きなんだろう。
「こんにちは、また来ちゃいました。」
 僕は彼がプラモデルを組み立てているのを見るのが好きだ。
「野田さん、野田さんが作った作品はどうしているんですか?」
「これ?小さい子にあげてる」
「いいなぁ、僕も欲しいなぁ。不器用だから上手く出来ないんですよね。」
「不器用って、便利な言葉だよな。よし、次から手取り足取り教えてやるから、少し時間の余裕を持って来い。」
「え?本当に?いいの?」
「俺は楽しいことしかしない」

2021.10.09
【十五】
「だーかーらぁ、このパーツはここに真っ直ぐ入れる!」
 真っ直ぐ…入れてるけど?
「気に入らないなら帰れ!」
「ごめんなさい、教えてください」
「つーか、本当に不器用って存在するんだな、ごめん。甘く見てたわ。」
 吉城さん(名前呼びを強要された)は、深くため息をついた。
「解ったよ、今夜も店に来い」
 え?
「夜間教室を開催してやる。無制限一本勝負だ!」

2021.10.10
【十六】
 あれから1ヶ月が過ぎたが、一向にプラモデルは完成しない。
 しかし、僕たちの仲はかなり深まり、週三は泊まりに来ている。

 よし、四人完成だ。五人目…やっつけじゃないぞ。

2021.10.11
【十七】
 大学の先輩に教えてもらった居酒屋。創作料理が旨い。
「大学生の癖にまた来てるのか?」
 店長の阪下さんは超絶イケメンだけど、口が悪い。と、思ったら僕にだけで他の人には寡黙らしい。
「寡黙とかじゃなくて、人見知りなんだよ。」
 照れ臭そうに笑う顔もイケメンだ。
「黙って立ってればいい男なのにな」
「別に、そんなのはいいんだ…」
 そう言うと、厨房に消えた…すぐに出てきた。
「秋田に追い出された。」
 料理長の秋田さんと店長は料理学校から一緒で仲良しだ。
 …少し、妬ける。
 そうだ、僕は店長目当てでここに通っている。

2021.10.12
【十八】
「阪下店長は包丁握らないの?」
 ダメもとで聞いてみた。
「やるよ、秋田が休みの日。」
「えー、食べてみたい」
「それは、ダメ」
「なんで?」
 店長が口を噤んだ。
「店長?」
「俺の料理、食べたかったら…えよ。」
「え?」
「だから!俺と付き合えって言ったんだよ!」

2021.10.13
【十九】
 よし、半分クリアだ。
 五人目だ。

「阪下、油売ってないでこっちやってよ。」
「はいはい」
 行きつけの居酒屋で、自慢の腕を振るうのは秋田料理長。
 甘いマスクで、多くの女性ファンを持つ。
 大学の先輩に連れられて来て、一目惚れした。

2021.10.14
【二十】
 正しくは一口惚れだな。
 初めて煮魚がこんなに旨いものだと、秋田さんの料理が教えてくれた。
 それからは週に三回は通っている。
「あ、翔流くん、こんばんは。」
 毎回、こうして声を掛けてくれるから、勘違いしてしまう。
「翔流くんにおねがいがあるんだけど。」
 不意に秋田さんが照れ臭そうに言う。
「これ、食べてみてくれるかな。」
 出されたのはおでんだった。

2021.10.15
【二一】
「出汁を変えてみたんだけど、何か足りない気がするんだ。阪下に聞いても、はっきり言わないし…」
 僕は出された皿から大根を持ち上げ、口に入れた。
 咀嚼するとじんわりと濃い昆布の出汁が口の中に広がった。
「旨い」
 もう一口と箸を伸ばしたら、秋田さんの手が僕の手に重なった。
「それ以上食べ進めると、ヤバイかも。」
 え?
「翔流くん、俺に惚れるかもよ?」
 いや、既に手遅れです。

 曖昧か?わからないか?
 でもたまにはこんな終わり方でもいいだろ?

2021.10.16
【二二】
 さて、七人目だ。

「おはようございます」
「あ、おはようございます」
 ぺこりと頭を下げる。
「今日はこれから大学の授業ですか?」
 飯野牧夫さんは、僕が暮らす町にできた、携帯ショップの店長だ。
「いや、今日は…客です。」

2021.10.17
【二三】
「え?あれ?この間買い替えましたよね?あれ?」
 飯野店長は可愛い。特にこんな風に慌てると可愛さが倍増する。
「ワイヤレスのイヤホンを購入しようと思って。」
「ああ、いま流行りの!でも、それはここじゃなくて電機量販店の方が種類も多いし…」
 僕は、店長の手を握った。
「飯野さんに、見立てて欲しいんです。」
 僕の手が、振り払われた。

2021.10.18
【二四】
「川越さーん、ありがとうございます〜」
 そう言いながら抱きついてきた。
「いやぁ、嬉しいなぁ。」
 耳元で大きな声を出す。
「本当に、私で良いんですか?」
「はい、飯野さんが、良いです。」
 「美味しく、頂いちゃっても?」と、小さく囁いたから、小さく頷いた。

2021.10.19
【二五】
 エピソードが少ない気がするけど。ま、いっか。
 よし、八人目。佳境だな。

 我が家から犬のゴウがいなくなって、はや五年。
 ペットショップのまえを通る度に、同じ犬種に目を引かれる。
 でも、また死んでしまったら寂しい。

2021.10.20
【二六】
「持田店長、比較的長生きな犬っているの?」
 店長の持田豪は、メチャクチャ強面なのに、メチャクチャ犬好きだ。
「犬はだいたい同じくらいだな。お前がどんだけこいつらに愛情掛けられるかが左右するよ。」
 そう、客商売なのに僕のことをお前、動物をこいつらだ。
 でも、メチャクチャ可愛がるから、みんな店長に懐いている。

2021.10.21
【二七】
「持田店長以上に愛情は掛けられないかな?」
 すると、顔を真っ赤にして照れる。
「バカ、変なこと言うなよ…ありがとな」
 照れ屋で素直すぎる。
「なぁ、川越。」
 え?僕の名前、知ってたんだ。

2021.10.22
【二八】
「こいつ、預かってくれねーか?」
 そう言って小さな雑種を手渡された。
「もう、飼えなくてさ、家で。お前ならいいなと。」
「いいよ。でも…」
「なんだ?」
「条件が、ある。」
 翔流、勇気を出すんだ!
「その子、時々会いに来てくれる?」
「里心がつくから、」

2021.10.23
【二九】
「僕が…僕がここに来る理由を奪わないで!」
「それは、違う」
 店長に腰を抱かれ引き寄せられた。
「嫌いじゃなかったら、預けねーよ…つーか、切っ掛けが掴めなかった。」
 僕は店長の背に腕を回した。
「好き…です」
「バカ、先に言うなよ」
 店長は僕にそれ以上言葉を発せないように、口を塞いだ。

2021.10.24
【三十】
 強面店長も、落としたか、翔流。
 次は九人目だ。

「あ、こんにちは!」
 バイト先の本屋で度々やってくる青年。
 年の頃は僕と同じくらいだろうか?
「こんにちは。今日は何をお探しですか?」
「ことわざ辞典みたいなのがあれば欲しいのですが…」
「ありますよ、ちょっと待っててくださいね」
 確か倉庫にあったはず。

2021.10.25
【三一】
 倉庫の棚をいくつか探したら三冊見付かる。
 僕はイソイソとそれらを手にし、彼の元へ急いだ。
「ありました」
「いつも、ありがとうございます、お陰で仕事が捗っています。」
 え?社会人だったのか!
 「私、こういうものです。」と、手渡された名刺には『宮城丈 放送作家』と書かれていた。
「お若いから、大学生かと思っていました。」
「よく、言われます。これでも38です。」
「うそ、全然見えないです!」
 マジ、驚いた。

2021.10.26
【三二】
「川崎さんは、」
 え?
 「あ、名札」と言って僕の胸元を指差した。
 照れ笑いで誤魔化しておいた。
「大学生ですか?」
「はい」
 なんだろう?どうして僕のことを知ってもらえると嬉しいのだろう?

2021.10.27
【三三】
 その後もアイドルの写真集とか、謎解き本とか色んなジャンルの本を買っていった。
 放送作家ってかなりお金がかかる職業だなあ。と、気付いたらいつも宮城さんのことを考えている。
 街を歩きながら、遂に幻影まで…ん?
「あ」
「あっ…見つかっちゃいました。」
 彼は、手に沢山の本を抱えて、図書館の前に立っていた。

2021.10.28
【三四】
「…流石に全部は買いきれないので、こんな風に図書館で借りたりして…そうです、貴方に会いたくて書店に通っていました。」
 僕に?
「はじめは好印象だなって。次に一生懸命さが可愛いなって。それで、好意を抱いていると気付きました。でも、言えないなって。気持ち悪がられたらおしまいだって。」
 おしまいだって思ったのに、言ってくれたんだ。
「僕も、気付いたら宮城さんが来る日を心待ちにしていました。」
「おじさんだけど?」
「その前に男です」
 二人して、顔を見合わせ笑った。

2021.10.29
【三五】
 よし!九人目クリア!
 最後の十人目だ!

「桃!」
 僕は自室の窓から隣に住む幼馴染みの部屋の窓に向かって、名を呼んだ。彼は直ぐに顔を出した。
「カケル、呼び出すのは構わないけど、桃は止めないか?」
「なんで?桃は桃だろ?他に何て呼んだらいいんだよ?」
 桃太郎は嫌がるくせに。

2021.10.30
【三六】
「…なら、スマホで呼び出したら良いじゃないか。」
「世間に桃って呼ばれてるのを知られるのが嫌なのか?」
「そうじゃ、ない。」
 普段は無口な桃太郎は、僕に対しては饒舌だ。
「俺が…」
 言うと顔を上げた。

2021.10.31
【三七】
「こっち、来ないか?」
 僕たちの部屋は、屋根を伝って行き来が可能な距離だ。
「おうっ」
 僕は窓枠を越えて桃太郎の部屋へ足を踏み入れた。
「お邪魔しま…んっ」
 桃太郎は僕が部屋に入ると、必ず抱き寄せる。
「桃?」
「翔流、何も言わずに聞いてくれ。」

2021.11.01
【三八】
 大学に行ってから格闘技に目覚め、この四年で身体が出来上がっていて、ここ最近は抱き寄せられるとかなり息苦しい。けど、これがないと不安になる。
「結婚、しないか?」
「…」
「俺達、家族にならないか?」
 ん?

2021.11.02
【三九】
「幼馴染みじゃ、物足りなくなった。」
 ちょっと、待て!
「翔流、返事は?」
「何も言わずに聞けって言った。」
「あ、ごめん。」
「いいよ。結婚、しよ?」
 桃太郎が、他の人のものになるのは嫌だった。
「翔流、愛してる」

2021.11.03
【四十】
 よし!全員クリア。
 と、編集部からメールが来た。
『全員と絡め』
 なに!?
 全然バラバラなのに?
 ムリだろ、これ。

2021.11.04
【四一】
 すると、編集部から、『地元の大学って設定ならいけるだろ?』と、きた。
 まあ、確かに…。
 くっつけた体はなしでいいのかな?
『いい、兎に角全員に気を持たせるような、娼婦のような設定で!』
 無茶を言うな。

2021.11.05
【四二】
「はぁ。」
「なんだよ、朝からため息ついて。」
 桃太郎とは幼馴染みで、大学まで同じだ。
「就職が思うように行かないんだ。」
 もう何社、落とされただろう。
「相談室に行った?」
「いや、まだだけど。」
「行ってみたらいいよ。」
「わかった。」

2021.11.06
【四三】
 進路相談室には、求人がたくさんあったが、なかなか利に叶ったものがなかった。
 ふと、隣に目をやると就職活動支援室というプレートが掲げられていた。
 僕のように理想と現実が掛け合わない人にアドバイスをくれるそうだ。
「あ!」
「こんにちは」
 そこにいたのは時々学食で会うエグチさんだった。

2021.11.07
【四四】
「エグチさん、助けてください!」
 その時、背後でドアの開く音がした。
「川越くん、君は研究室に残る選択肢はないのかな?」
 心理学の加治教授が突然やって来た。
「はい、僕はゲームの設計をしたいんです。だから、」
「教授に推薦することは出来る。」

2021.11.08
【四五】
「加治先生、川越くんは今、進路相談に来ているんですよ?」
 エグチさんが少し苛立ちを露にして苦情を申し立てた。
「だから、川越くんにいいと思って…余計だったかな?」
「そうですね。」
 なんか…火花が見えるんですけど?気のせいですか?

「ふぅっ…」

2021.11.09
【四六】
 康兄ちゃんの店の扉を開けると、プラモデル屋の野田さんが先客で居た。
「あれ?野田さんもここ、来てたんですね。」
「土師さんの淹れてくれるコーヒーは絶品だからね。」
「へー、そうなんだ。良かったね、兄ちゃん。」
 すると、野田さんが康兄ちゃんの顔を見た。
「兄弟?」
「いえ、こいつがガキの頃からチョロチョロしてたんですよ。それでね。」
 何故に言葉尻を濁した?

2021.11.10
【四七】
「おいっ、カケル!」
 いきなり扉が押し開かれ、桃が飛び込んできた。
「どうすんだよ、あの二人。」
「エグチさんと羽月センセだろ?なんだろね?」
「は?お前なぁ。」
 すると、康兄ちゃんが桃の肩を掴んだ。
「なんだ?その話は?」

2021.11.11
【四八】
 這う這うの体で逃げ出した僕は居酒屋に逃げ込んだ。
「阪下さん、秋田さんっ、助けてください!」
「どうした?」
「どうしたの?」
 二人が同時に振り返った。

2021.11.12
【四九】
 そこに桃がやって来た。
「カケル、お前なにやってんだよ!」
「何もしてないよ〜」
 半分以上涙目だ。
「じゃあどうしてマスターと模型屋の店長がカケルに迫ってるんだ?」
「なに?」
「なんだって?」
「迫ってないし!」
 なんだよ!行く先々で変な感じだ。

2021.11.13
【五十】
 トボトボと家路に着く。
 なんで皆で虐めるんだよ。全く。
「あれ?川越さん?」
 声を掛けてきたのは飯野店長だ。
「あ、飯野さん!」
 飯野さんなら何でも話を聞いてくれそうだ。
「それは…」

2021.11.14
【五一】
「あれ?翔流?」
 そこに持田さんが通りすがった。
「え?川越さん?」
 隣に宮城さん。
 なんだか今日は色んな人に会うな。
「おい、飯野、お前何翔流泣かしてんだよ!」
「泣かしてないし、年下の癖に呼び捨てだし!」
「そーだよ、何してんだよ、飯野」
「宮城、お前まで?」

2021.11.15
【五二】
 あれ?三人友達なのかな?
「あ、この二人、高校の後輩です。」
 ええー!
「ついでに居酒屋の阪下さんと秋田さんは先輩。」
 ひえー。
 世間は狭い。
「おーい、カケル〜」
 そこにまたまた桃が追い付いた。
「いい加減、帰ろう」
 手首を掴まれ、グイグイと引き摺られた。

2021.11.16
【五三】
「痛いから!離せって!」
「カケル、お前八方美人過ぎるだろ?何人に色目遣ってんだよ!」
「は?何、それ?」
 飯野さんと持田さんと宮城さんが、背後でクスクス笑っている。
「桃ちゃん、子供ん時からずっとカケルくんのこと好きなんだね。」
 くるっと振り向くと、鬼の形相だ。
「カケルはオレんのだから、手を出すなよ?」

2021.11.17
【五四】
「は?何言っちゃってんの?俺は…」
 俺は、今、何を言おうとした?
 まさか!
 いやいや、あり得ないから。
 あの人のことを思い浮かべるなんて…。


 全員登場させたぞ。
 結末?
 それは、自分の好きなキャラで遊んでくれっ。
 俺にはこれ以上こ無理だ。

2021.11.18
【五五】
 作者が放り出したので僕、翔流が結末をお教えしましょう。

 あの後、僕は「エグチさん」の会社に就職したのです。
 当然、一番有利に進められるのはエグチさんを選ぶことです。
 ところが!!
 プラモデル屋の野田さんの実家は、プラモデルの大手メーカーだったのです。
 設計をやりたい僕は、エグチさんを蹴り、大学に残してくれるという羽月先生を蹴り、プラモデルの設計をしながら、野田さんと楽しくプラモデル制作をする道を選んだのでした。
 桃?ああ、相変わらず僕の後を追いかけてきてギャーギャー騒いでいますが、放置しています。
 野田さんが意外に喧嘩が強かったので、桃も太刀打ち出来ないんです。

2021.11.19 完