中編集2020
するのがお仕事です
その一
「はぁーっ」
 自宅に辿り着くと思い切り大きな溜息をついた。
 今日も一日仕事だけをして終えた。
 これから冷凍庫の冷凍食品を出してチンして食べて、風呂入って、寝る。そしてまた、起きて出掛ける。
「はぁーっ」
 溜息しか出ない。
 疲労もピークだ。
 今、誰かに優しい言葉を掛けられたら、一発で、落ちる。


「おはようござ…います」
 語尾が揺れる。
「あ、おはよう。」
「おはよう、港くん」
 目の前の男二人は、朝から盛っていた。
「時間が勿体ないので、僕に構わず済ませてください。」
 二人を背にして、席に着いた。
「悪いね。夕べ徹夜したら起っちゃってさ。」
と、言い訳をしながらもキチンと最後までヤッていた。
 疲労がピークに達すると、何の刺激が無くても勃起することは、ある。
 でもこの二人は別の意味だ。態と僕に見せつけているんだ。
 身形を整えると、何事も無かったかのように声を掛けてきた。
「港くん、夕べの企画書、あれでO.K.だ。」
「ありがとうございます、豊島社長」
 そう、一人は社長。
「最近、港くんは頑張っているからね。それで…」
「目黒専務、そのお気遣いだけで大丈夫です!」
 つーか、二人とも役員なんだから役員室作ってそこで盛ってくれ!…とは言えない。
 なんてったって弱小企業、社長と専務ともうすぐギリギリでやって来る愛妻家の渋谷部長に平の僕、四人しかいない。
「もうっ、港くん、僕の話の腰を折らないでよ。港くんをね、課長に昇格して、新人を採用することにしたんだ。港くんで新人教育を苦労したから、新卒は止めて、即戦力になる中途採用にしたよ。」
 ん?何気にディスられた?
「中途採用なら、その人を課長にした方が良いんじゃないですか?」
 少し不貞腐れて言う。
「そうは言ってもだな、港くんは入社三年目、中途採用の子は社会人二年目だ。いくら高学歴で優秀だとしても君より下の子をいきなり課長にするわけにはいかないよ。それに私は港くんがタイプだからね、君を最優先にしている。」
「そうなんだ、社長は港くんを顔で採用したからね。」
 …朝からヤッてた二人から、まさかの告白。
「僕に構わず、お二人で愛を育んでください…」
「そりゃもう…」
「そっちは完璧だから問題ないよ、港くん。」
 豊島社長には他にもセフレがいる…らしい。
 そして目黒専務には妻がいる。
 なので、僕は不安に駆られている。いつ、豊島社長に狩られるか…。

 昼過ぎ、社長と専務が言っていた新人がやって来た。
 勤務は明日からなのだが、事前に職場を見ておきたいとのことだ。
「中野?」
「港!」
 昔、人気漫画を読んでテニスをやっていた時に一緒になったのがこの中野だ。同級生で、ダブルスを組んだこともある。
「なに?中野は一年ダブったの?」
「タブったっていったらタブってるんだけど、イギリスに留学してた。」
 わー、キザだな。
「…なんでウチに入社した?」
 社長が高学歴で優秀と言っていたが、ウチの仕事に不必要な優秀さのように感じる。
「新卒で銀行に勤めたけどさ、楽しくないんだ。折角なら自分が楽しめる仕事がいいと思って。港は?」
「僕は…」
 性癖と実益を兼ねて…とは言いにくい。
「大学の時にさ、バイトしてたんだ。そのまま社長に入社を勧められて、楽しかったから入った。」
「港が楽しいって言うなら大丈夫だな。これから宜しく。」

 中野が帰った後、渋谷部長から昨日の企画書の試作品について説明があった。
「これからは港くんが試作品についての交渉も担当して貰うことになる。『港課長』に。」
 やっぱり。
「その代わり、商品の管理、出荷、手配は新人の中野くんの担当になる。港くんは企画、試作品に特化してくれ。引き継ぎは目黒専務から。」
 え?試作品って渋谷部長の担当じゃ無いんだ。
 専務の仕事を引き継ぐ…不安だ。

「試作品はフリーのデザイナー、秋葉さんに依頼している。彼と会っておいた方がいいな、これから行こう。」
 今日は直帰出来る。それだけで夢のようだ。

「これが前回ご依頼頂いた試作品です。」
 トレーに置かれた小さな器具。これが専務企画の試作品。
「いつもありがとうございます。…所で秋葉さん、使ってみました?」
「ええ、大変好評でした。」
「それは良かった。私も楽しみです。これからはこちらの港もお願いに上がります。今後とも宜しくお願い致します。」
 秋葉さんの事務所を辞去すると、目黒専務に腕を取られた。
「試作品が出来あがったから、実際に試すぞ。」
 え?
「最初だからな、特別にホテルを使ってやる。来い。」
 ええっ!?

「ん…」
 着衣のまま、試作品で刺激を与えられる。
「どうだ?」
「感じます…けど、弱い…です」
 日本AG株式会社は、豊島社長と目黒専務が立ち上げた、アダルトグッズの企画、製造、レンタル、販売の会社だ。
 二人が大学生の時に立ち上げた、今年8年目の会社である。
「そうだな、勃起していない。じゃあ、スラックスを脱いで。」
 素直にベルトを外し、スラックスを脱いだ。
「淳生(あつき)に怒られそうだな。」
 社長の名前を出され、貞操の危機を悟る。
「下着の上からならどうだ?」
「んあっ…んっ、イイです」
「でもそんなに勃起していないじゃないか。なら」
 専務はいとも容易く、下着を脱がせた。
 直に鈴口に充てられた途端、中途半端な勃起のまま、吐精した。
「あっ、あっ…スミマセン、出ちゃいました…」
「それは良い、どうだった?」
 見ていただろうが!
「充てられた途端イキました!」
「ふむ。その前に刺激してしまったからな。私に使ってくれないか?」
 なに!?
 しかし、僕に否定の権利は無く、勝手に下半身を露出した専務に、いきなり押し付けた。
「あぅっ」
 一言悶えて、イッた。
「凄いな、これは!これなら中高年が歓喜する。」
 自画自賛だ。
「…秋葉さんの彼氏は、50代だ。」
 専務、ごめんなさい、訂正します。
「ウチの奥さんは直ぐに濡れるし、渋谷部長は全面拒否だし、あとは港くん頼みだ、よろしく頼んだぞ。」
 ん?
「専務、ちょっといいですか?試作品の実験も私が行うのですか?」
「他に誰がいる?次からは社長が直々にしてくれるから、しっかりあっちも綺麗にしておきなさい。因みにアダルトグッズの会社だから、セクハラじゃ無いぞ!」
 …やられた。
「はい」
 力なく、頷いた。

 直腸の洗い方を丁寧にレクチャーされ、今夜も深夜の帰宅だ。
 晩飯は専務に奢って貰ったので、今夜は…シャワーも済ませたんだっけ。
 寝よ。

「おはようございます、豊島社長。」
 そうだ、今日は専務、休みだと言っていた。
「おはよう、港くん。」
 いきなり、肩口に頭を埋めてきた。
「試作品、試しても良いか?」
 来た…。

 こんな部屋が、あったのか?
 廊下を出てエレベーターで12階まで上ると、マンションになっていてその一室に連れて来られた。
 扉を開けると、ワンルームで部屋にはベッドがひとつあった。
「今までは陸彦(たかひこ)と使っていたけど、あいつ子供が出来たんだ。だから、港くん、今日からよろしく。」
 意外と早く、危機はやって来た。

「ん…はぁっ…」
「気持ちイイか?」
「は…い」
 ベッドに腰掛けさせられ、下着の上からまだ育っていないそれに充てられる。
「あっ」
「少し、起ってきたな。」
 顔が逆上せる。
「ん…ふぅ…ん」
「良い感じだ」
 起ちきったそれの裏筋を下から上に、下から上にと何度もなぞられた。
「ヤッ、それ、イヤだ」
「気持ち善くないか?」
「イイ…ヒッ」
 腰が浮いた。
「こんな風にされたことは?」
「ない…です」
 言ってて切ない。
「そろそろフィニッシュだ。」
 下着の中から、最大限に勃起したそれを取り出された。
 でも、僕は今、頭の中でイキたいしか考えられない。
「社長、イカせてください」
「イッていいよ、港くん可愛いね」
 鈴口にちゅっとキスをされ、試作品を充てられた。
「あぁっ、あーーっ」
 ドクンと、吐き出した。

「んふふふ」
「社長、ご機嫌ですね?」
「わかるか?」
「遂に…ですね?」
「まだまだ。これからだ。」
 …何の話をしているんだ。
「港さん、パスワード間違えたみたいです。すみません。」
 社長と部長の会話にソワソワしていたら、中野から声を掛けられた。
「どれ…」
 キーボードを叩くと、管理画面が開く。
「最後のアルファベットを間違えて覚えたみたいです。」
「簡単に覚えられるパスワードだったらセキュリティにならないから。それでイイ。」
 まずい、自分で発した言葉で、朝のことを思い出してしまった。
「港さん?顔が赤いですよ?具合悪いんですか?」
「いや、大丈夫…」
 額に、中野の冷たい掌が乗った。
「熱はないですね。」
「中野くん!」
 慌てて立ち上がる。
「倉庫、行くよ。」

「食われたのか?」
 ドクっと、心臓が音を立てた。
「何の…」
「今朝。港が社長と一緒に戻って来たとき、ヘンだったから。」
 コイツ、見てたのか。
「ウチの会社、アダルトグッズ作ってるから…」
 棚を指差す。
「これも、使った?」
 棚から商品をひとつ、ピックアップした。
「いや、今までは社長と専務が…」
「俺は当て馬かよっ!」
「な!?」
「ごめん、ちょっと取り乱した。…今の状態じゃ当て馬でもないしな。」
「だから、何の話をしているんだ?」
 壁ドンならぬ、棚ドンで意外なことを言われた。
「アイツ…社長の豊島淳生は、兄だ。」
 え?
「両親が15年前に離婚して、兄は父に、俺は母に連れて行かれた。」
「そう、だったんだ。」
「別に哀れんでくれなくてもいい、何も不自由はしていない。唯一不自由しているのは、兄と恋愛傾向が似ていることだ。」
「セフレがいっぱいいるのか?」
「セフレなんかいないよ。」
 倉庫の入り口に、社長が立っていた。

「俺もコイツも、恋愛対象が同性だ。コイツは中学の時に好きな人が出来たと相談してきた。」
 中野は目を背けた。
「港くんが入社してきたときに気付いたよ、コイツの想い人だとね。」
 え?僕?
「しかし、厄介なことに俺も港くんに恋してしまった。因みに陸彦とは商品チェックしかしてないからな。この間だって素股だからな。」
「ちょっ、待ってください、僕は、」
 社長は履歴書を僕の目の前に突き付けた。
「…はい、そうです。」
 バイトの時に根掘り葉掘り聞かれて、つい白状した、性的指向『男性』と。それが履歴書に赤いボールペンで記入されていた。
「そこで提案だ!」

 商品企画部商品開発課 課長、それが今の僕の肩書き。
 これから、僕が想像すら出来ない日々が待っている…らしい。

2020.07.26
その二
「はぁーっ」
 自宅に辿り着くと相変わらず大きな溜息をつく。
 今日も一日『仕事だけ』をして終えた。
「風呂入って寝よ。」
 もう、食欲もない。
「はぁーっ」
 溜息しか出ない。
 疲労がピークだ。
 今、誰かに優しい言葉を掛けられたら、一発で落ちる…かな?


「おはようございます」
 室内に入ったが一歩引く。
「おはよう」
「おはよう、港くん。」
「おはよう、匠海(たくみ)!」
 三人の視線が痛い。
「今日の試作品はありませんが?」
 すると、「ちっ」と言う音が二つ、聞こえた。
 三人を背にして、席に着いた。
「港くん、試作ではなく、本番でも、」
「社長、セクハラです。」
「うっ」
「それと目黒専務、」
「なにかな?」
「妻子ある人は試作品もセクハラです。」
「え…」
「中野」
「なんだい?匠海。」
「名前で呼ぶな。」
「ぐっ」
 毎朝これを繰り返している。もう、疲れた。
「港くん、今日は秋葉さんの所に行くんだっけ?」
「はい」
 渋谷部長はまともに対応してくれる。
「それさ、」
「渋谷くんっ、レンタルの件だけど!」
 豊島社長が慌てて遮る。
 嫌な予感。

「久し振りにグロい作品です。驚きました。」
 トレーに置かれた試作品は、キュウリとナスが真ん中で繋がっている。
「これ…」
「互いの孔に挿入れて使うものです。」
…やっぱり。
 「普通は女性の同性愛者がセックスに使います。」
「あ、説明、ありがとうございます。」
 でも、もう止めてくれ。
 急いで紙袋に隠し(仕舞い)、カバンの一番下に押し込み(万が一にも飛び出すなよ)、抱き抱えて帰社した。
「ただいま帰り…」
 待て。
 これは誰と誰が試験するのか?

「あ、それは俺だ。」
 やっぱり。
「港くん、行くぞ!」
 また、残業確定。
 ズルズルと通称『宿直室』に連行される。
 すると、部屋の前に中野がいた。
「社長、私は根本的に不利です。」
「お前はお前の方法で口説くんじゃなかったのか?」
「でも!社長は今日、匠海を破瓜しちゃうんでしょ?狡いよ。」
「おい、それ、本当か?」
 中野に詰め寄った。
「匠海のカバンに入っているキュウリとナスの商品名、『匠職人』だからな」
 目の前が暗くなり、その場にへたり込み、二人を見上げ、叫んだ。
「僕の名誉のために言うが、バージンではない!」
 …名誉か?
「誰だ!匠海を傷物にしたのは!」
「淳士(あつし)!お前ってヤツは!」
 この兄弟、大丈夫か?

 とりあえず、三人で室内に入る。
「中野、お前は仕事があるだろう?まだ企画書も出てないし。」
「俺が仕事に戻ったらアニキが襲うだろ?…匠海、いい加減わかってくれよ、中学の時から好きだったんだよ。」
 中野は僕の手を取りぶんぶんと上下に振る。
「これは、『仕事』だから。」
 そう、仕事。僕はアダルトグッズを試すのが仕事なんだ。
 カバンの底から試作品を取り出す。
 紙袋の中から出て来た「キュウリ」には、トゲトゲの棘が付いていた。
「港くん、受け取るとき確認しなかった?」
「これ、確認しますか?」
「難しいですね、普通は。」
 覗き込んでいた中野も溜息をついた。
「だからグロいと言っていたんですね、秋葉さん。電話してきます。」
 急いで部屋を後にした。

 渋谷部長と二人で残業中。
「港くん、大学時代にここにバイトに来たのは、なんで?」
 突然初歩的な質問が飛んできた。
「えっとですね…社長が大学生で起業したってあったので、イロハを学ぼうと思ってたんです。でも仕事自体が楽しくて居着いちゃいました。」
「ってことは、なにかやりたいことがあるんだ。」
 渋谷部長、鋭い!
「文房具が好きなんです、僕。」
 その時、廊下の方で微かな音が聞こえたような気がしたけど、その後は聞こえなかったので気のせいだと思い込んでいた。

「ふっ…んんっ…あ…」
 『宿直室』で、試作品を使用中である。
 今日は僕の企画書による、一人エッチの道具だ。
 シリコン素材でスイッチを入れると締め付けたり緩めたり裏筋を下から上に刺激する。
 つい、胸に手をやってしまった。
「い…ああん」
 …空しい。
 あの兄弟に言えば飛んでくるだろう。けど、まだ僕の気持ちは定まっていない。
 なら、どっちを想像したらイケるか、やってみるか。

「改良点?」
「はい。これだけだと空しいだけなんで、囁きボイスが付いていたら満点だと思います。」
「で?港くんは誰の声でイッた?」
「やっぱり、そうなりますよね。俳優の、」
 ガタッ
「匠海…可愛いよ」
 社長に耳元で囁かれた。社長の足元には椅子が転がっている。
「港くん、私は本気だよ?」
「な!?」
「私なら、いつでも君をイカせてあげる。腹上死も厭わない。」
 社長のしなやかな指が、頬を首をゆっくりとなぞる。
 身体中がゾワゾワする、決して嫌な意味ではなく。
 顎をくっと上向かせられ、今にもキスが落ちてくる寸前、社長のスマホが着信を告げた。
「残念だ」
 慌てて社長の前から辞した。
 席に戻ると、中野がスマホを握り締めて目に怒りをありありと表している。
「匠海は、社長が好き?」
「中野…くんには言いたくない」
 胸が、苦しい。

 定時で会社を後にした。
 今日も仕事しかしていない。
 たまにはデートしてみたい…相手がいないと出来ないか…空しい。
「港くん」
 背後から社長に肩を抱かれた。
「決めかねているようだから、今夜はデートしないか?」
 ドクンと、胸が鳴った。

 食事して酒が入って、そこそこいい気分になっていた。
「社長〜次は何処行くんですかぁ?」
「家に帰る」
「もう、帰るんですか?」
「ああ」
 タクシーで連れて来られたのは、社長の家だった。

「ん…社長…や」
 僕の敏感な所をさっきからずっと社長がしゃぶっている。
「もう…苦し…」
「俺だけのモノになってくれるか?」
「わかん…ない…」
 自分でもわからない、なんでイエスと言えないのか。
 こんなに胸が高鳴り、股間を屹立させているのに、どうして欲しいと言えないのか。
「バージンじゃないと言ったな?」
 社長の指が、昼間散々に煽ってきた指が、中で蠢いている。
「んっ、い…あっ…イイ」
 凄く気持ちイイ。
「くれ」
 指が引き抜かれると、熱い塊が貫いた。
「うあ…んふ…イイ…あっ」
 体内で社長のモノが擦り上げているのがわかる。
「ああっ…ふ…んあっ…もっと、もっと擦って…い…あっ」
「匠海、愛してるよ」
「しゃ…ちょ…んっ」
 こんな場面でも、言えない。
「あっ、あっ、イク…出るっ」
 太股から腹筋からブルブルと震わせて吐精した。
 僕の中でも熱い飛沫がしとどに放たれた。

「昨日と同じシャツ。」
 中野に指摘された。
 わかっていたけど、そのまま来た。社長が新しいシャツをくれると言ったが、サイズが合わないので断った。
 ギリギリと歯軋りする音がする。無意識にやっているらしい。
 …終わったら、帰れば良かった。気持ち良くて寝てしまった。
 抱かれるのは、何年振りだろう。
 僕は、社長の好意に気付いていながら、弄んでいたのかもしれない。
 ちゃんと、向き合わないと。

2020.07.27
その三
「はぁーっ」
 自宅に辿り着くと習慣のように大きな溜息をつく。
 今日も身体が鉛のように重い。
「寝よ。」
 優しい言葉を掛けられたとしても、落ちるのは…眠りだな…つまんね。

「匠海、マヨネーズ付いてる。」
 頬に付いたマヨネーズを指で掬い、口へ持って行く。
 まるで少女漫画のヒーローのような仕草。
 昨夜の社長とは、選ぶ店も食べる物も頼む酒も全く違う。
「中野ってさ、テニス全然出来なかったよな。なんで通ってた?」
 頭を掻きながら恥ずかしそうに言う。
「匠海と同じ、テニス漫画のせい。あとは匠海のせい。」
 中野の視線が、痛い。
「匠海、もう行こうか。」
 重なる中野の手が、熱い。胸の奥でチリリと小さな痛みが走った。

 中野の家は、社長の部屋とは全く違って簡素だった。
 ベッドに横になると、直ぐに中野が指を絡めて重なってきた。
 目を閉じると唇が重なり、舌を吸われた。
「ごめん、ガツガツしてて。夕べ、アニキが抱いたと思ったら早くしたくて。」
「社長とは、何もないよ?」
 中野に気休めの言葉を吐く。
「ありがとう」
 中野はきっと、既に社長から聞いているのだろう。
 掌に潤滑剤を取ると、そのまま僕の砲身を握ぎり、ゆっくりと優しく上下に動かした。
「ん…」
 握られた瞬間、イキそうだった。
 なんだか、胸がいっぱいになり、泣きそうになる。
 中野の舌が口の中で蠢く。舌を絡め、歯列をなぞられ、上顎を擦られ、思うままに蹂躙される。
 上と下を刺激され、太股が痙攣し始めた。
「んんっ、んっ」
 中野の狙いが変わる。尻を撫で回し、奥の窄まりを探り当てた。
 潤滑剤と先走りが混じった指は、あっさりと中に受け入れられた。あとはぬぷぬぷと指で犯されていく。
「あんっ、あんっ」
 声が、止まらない。
「中、イイっ、あ、淳士の指…ん…飲み込んでる…」
 何か言っていないと快感に流されてしまう。
「匠海、凄くイヤらしい顔だ。もう、挿入れさせてくれるか?俺を受け入れてくれるか?」
「ぃ…て…」
「聞こえない。ちゃんと聞かせて。」
「挿入れて、ぐちゃぐちゃにして」
 その言葉に呼応してゆっくり、ゆっくりと挿入いってきた。
「痛くないか?」
「うん、大丈夫」
 最後の一突きで最奥まで挿入いってきた。
「動くよ?」
「うん、いっぱい、突いて」
 中野はぎゅっと目を瞑ると、ガンガンと突いてきた。
「たくみ、たくみ…」
 ずっと、耳元で僕の名を囁く。
「ああっ、やあっ、あつし…イイ、イイっっ、すごっ、なにっ、イイ、イッちゃう、イッちゃうぅぅっ」
 止め処なく漏れる喘ぎ声。
 ベッドに接しているのは頭と尻だけで、全身仰け反って空イキした。
 腹を鉛の玉で撃ち抜かれたような衝撃だった。
「ヤダ、ヘンになる、もう、ヤダ…」
 空イキした後も、中野は内壁を擦り続ける。
「んんっ…ヤダよぅ、中、気持ちイイ…」
 今までセックスでこんなに気持ち善かったことがない。
「匠海、もっと、もっと善がって」
「ムリ…も、苦し…気持ち善すぎて…苦し…」
「匠海…」
 入れられっぱなしで、何度も射精と空イキを繰り返した。中にもいっぱい白濁を注がれ、結合を解いたときには、尻を伝ってシーツを濡らした。

 二人ともシャワーを浴びることも、手足を動かすことも出来ないくらい疲労困憊だった。
 それでも中野は僕の身体をぎゅっと抱き締めたまま眠っていた。
 長い睫毛に水滴が堪っている。
 汗?それとも泣いていたのだろうか?
 思わず舌で舐め取った。
 中野が小さく身動いだ。
 そのうち、自分も瞼が重くなり、眠ってしまった。

 やっと、金曜日。
 今夜も社長にデートに誘われたけど、3日連続は流石に辛いので丁重にお断りした。
 先日のキュウリとナスの試作品(やり直し)を受け取りに、秋葉さんの事務所に来ている。
「港さん、こっちの部屋にあるんで、来て頂いていいですか?」
 秋葉さんにしては珍しく、持ってきてはくれないらしい。
 扉の前に立つと、三歩退いた。
「僕、ネコなんです。港さんもそうですよね?」
 そこは、秋葉さんの私室だった。
 秋葉さんは手を伸ばし、僕の背に腕を回し、胸元にグイと引き寄せた。
 反対の手で尻を撫でる。
「御社で試せるのが港さんだけだというので、なんなら僕がって、立候補したんだ。」
 必死で身体を離そうと手で押したが、ビクともしない。
「だから、一度不良品を掴ませた。」
 退路があるのに逃げられない。
「豊島社長に、許可は貰ってある。」
 そういう、問題じゃあ、ないっ!
 必死で引き剥がそうとしているのに、なんて馬鹿力だ。
 頭を抱えられ、唇を塞がれた。
「んんっ」
 ダメだ、流されちゃ。
 背中からシャツを抜くと、素肌を掌で撫でられ、ゾワゾワと悪寒がする。
「イヤだ」
 首筋に降りてきた唇から、「拒めば今後の取引、なくなりますよ?」と、脅された。
 本当に社長はこんなこと、許したのか?
 腰から肌伝いに手が降りてくる。
 直接、尻を掴まれた。
「だから、僕はネコなんですってば。」
 クスクス笑いながらも攻め続ける。
「も、ヤダ…」
 泣きたい。
「ムリムリ、はい、お終い。」
 秋葉さんは両手を挙げて降参のポーズをとった。
「ホント、港さんは可愛いです。淳生さんが惚気るのも仕方ないなぁ。今のは冗談なんで許してください。」
 え?
「正直なところ、据え膳状態ですけどもあの兄弟に割って入る自信はないです。でも、」
 ふっ…と、耳に息を掛けられた。
「あん」
「一目惚れだったことは白状しておきます。因みにさっきのは全部嘘です。僕はタチです。」
 ええ!?
 僕は跳び退った。
「一つ、教えてあげます。一人に決めなくてもいいんです、僕とも淳生さんとも淳士くんとも、楽しめばいいんです。その為に僕たちは仕事をしているんでしょ?」
「あ」
「ね?」
「そう、ですね。でも…恋をしたいです。」
「うん。素直で良い子、僕もそれは一番念頭にあります。でも決められなかったらまずは全部受け入れてから最高のパートナーを見付けたら良いんです。一応、僕も待っていますよ。」

 キュウリとナスを無造作にカバンに放り込み、帰路に着いた。
 二人とも精力が強すぎて相手をし続けるのには無理がある。
 それに、僕に愛がない。

「んっ、んっっ」
 社長に倉庫に連れ込まれて、また絆された。
 スラックスとパンツを膝まで下ろされ、バックから挿入れられた。
 突き上げられる度に踵が浮いて爪先立ちになる。
「港くん、これは製品チェック…だから」
 僕の股間には一人エッチ用の製品が填まっている。
「これっ、違っ…んんっ」
 気持ち善すぎて反論できない。
 肩口に噛み付かれた。
「マーキングだ」
 言って、中でビクビクと跳ねた。

 腰をさすりながらデスクに戻ると、今度は中野から言葉で攻めたてられる。
「どんな風に抱かれた?気持ち善かった?何回イッた?アイツん時も空イキすんの?」
「中野。」
「なに?」
「仕事しろ。」
「匠海だって!」
「僕は…するのが仕事だから。」
「そんなの…知ってる。」
 言うなり強引に椅子を回転させ、中野の方を向かされた。
「俺が、俺が天国以上に善くしてやるから、だから…こんな仕事辞めて匠海の夢、叶えないか?…心配なんだよ、不安…なんだ。俺だけが口説いてるんなら落とす自信はある。けど、アニキが相手だと勝てないんだよ。アニキのって、そんなに善いの?」
 泣きそうな顔をして言われても、なにも言い返せない。
「僕の夢なんて、今更なんになる。」
 机に向き直ると、何事もなかったように仕事を再開した。

 社長に抱かれても、中野に抱かれても、心は動かない。どこかで中野に言ったとおり仕事だと思っている。
 秋葉さんに煽られても二人とも…なんて無理だ。

「いっその事、港くんは平日宿直室に住んだらどうだ?そうしたら私としては、やり放題だしな。」
 社長は僕の左乳首を舐めながらそんなことを言った。
 『宿直室』に、中野は入れない。仕事内容に試作品の確認作業がないからだ。
「中野から僕を引き離すんですか?」
 舐めていた乳首に歯を立てられた。
「痛っ」
「港くんが私のプロポーズを受けてくれないから、淳士を排除するしかないんだよ。」
 歯を立てられたことでぷっくりと立ち上がった乳首を再び嘗め回す。
「んっ」
 商品の試用はどうした?と、頭の隅で思う。
「なら、どうして中野を入社させたんっ…あっ」
 股間で起ち上がった肉棒を扱かれた。
「淳士の話は後だ。今は私の熱を感じろ。」

 試用もなく、ただひたすら社長に翻弄された。
 声も枯れ、身体にも力が入らないくらいぐったりとしていた。
「淳士にバレたんだ、君がウチの会社にいるって。去年の社員旅行で撮った写真をスマホの待ち受けにしてたのが原因なんだけどな。…アイツ、本気らしい。」
 返事も出来ないくらい疲労困憊だ。
 中野に会えなくなったのは僕がテニススクールを辞めたからだ。
「俺も、本気だよ?匠海」
 力なく首を左右に振った。
「そっか。」
「違っ…」
「どうした?」
 何でだろう、涙が止まらない。

「職権…乱用…だよな」
 中野の部屋のバスルームで、バスタブに片足を乗せ、抱き抱えるように挿入されている。本当に串刺しにされているようだ。
「んあっ、んっ、わかんっ…ない」
「うん、匠海は、俺ので可愛く喘いでて。」
「イヤッ…もっと…奥…突いて」
立ったままなので、入り口付近を擦られるだけだ。
壁に背を預け、両脚を抱え上げられた。
「やっ…怖い…でも、深い」
「善がって、俺ので善がり狂って」
 何でだろう、中野とセックスすると、悲しくなる。
 僕の、空いている所を埋めて欲しい。
「中…野…イクっ」
「イって」
 気持ちイイ、中野とのセックスは誰よりも気持ちイイ。
 ドプッ
と、音がするかのように大量に精を吐き出した。
「ああん…イクのが止まんないっ」
 目の端に見えた吐精口が、全てを吐き出してもまだ物欲しそうにパクパクとしていた。

2020.07.29
その四
「はぁーっ」
 自宅に辿り着くと習慣のように大きな溜息をつく。
 でも今夜はちょっと違う。
 胸の奥がチクチクするのだ。
 僕の心に小さな灯りが点った。
 やっと、答えが見えてきた。

 空を見上げたら、真っ青だった。
 そこに飛行機雲が一筋浮かんでいる。
「匠海?」
 名を呼ばれて振り返る。
「なに?」
 初恋はいつ?誰に?と、問われた。
 初恋。
 少し考える。
「ない」
 誰かを想って胸を焦がしたことがない。
「付き合ってた人とは付き合わないかと言われて何となく。でも、」
 もう一度空を見上げる。
 飛行機が上空を通っている。
「結局今も流されてて、あの時と変わらない。仕事だと割り切らなければやっていられない。」
 目の前の人を見た。
「仕事は、します。でもプライベートは勘弁してください。」
「それが、港くんの答えなんだね?」
「はい。身体を重ねれば、ドキドキするんですけど、なんか違うんです。」
 豊島社長が俯いた。
「潔く、諦めるよ。」
「ありがとうございます。で、」
 その横に立つ人を見た。
「中野と、」
 三度空を見た。
 飛行機雲の形が崩れていた。
「中野淳士と僕を、年内いっぱいで退社させてください。」
 涙が零れ落ちた。
「この先の人生を、二人で歩いていきたいんです。」

 切っ掛けは些細なことだった。
「ごめん、俺さ、渋谷部長との話を聞いちゃったんだ。文房具の開発がしたいって。」
 中野の部屋に呼び出され、またヤラれるのかと覚悟して行ったところ、企画書がテーブルに置かれていた。
「銀行にいたとき、融資の営業しててさ、ちょっとツテを辿って調べてみた。匠海となら、上手くやれそうな気がする。」
 その日、中野は一切手出しをしなかった。真剣に文房具のデザインについて熱心に調べて語ってくれた。
「考えてみてくれないか?…人生のパートナーになれなくても、仕事で繋がれたらそれでいい。糸が切れてしまったら」
 まただ、また、中野が泣きそうな顔をしている。
「今度こそ永遠に会えない気がする」
 思い出した。
 昔、テニスの練習試合で中野とダブルスを組んで負けたんだ。
 そのタイミングでクラブを辞めてしまった。
「中野、若しかして僕がクラブを辞めた理由、中野のせいだと思ってる?」
 俯いていた中野が、顔を上げる。
「他に、理由がある?」
「あるある!あの時盲腸になったんだ。二週間休んだら、行き難くなって、辞めちゃったんだよ。…中野にあわせる顔がなかったし。」
 目の前に、中野の嬉しそうな顔があった。
 そうだ、僕は昔から中野に笑って欲しかった。
 それだけのことだったんだ。
 答えはすぐそこにあったんだ。


「それ…は、ちょ…っと…んんっ」
 社長の野菜シリーズ、今回はマツタケだ。
「そのまんま…なんじゃ…あぅっ」
 深く、浅く抜き差しされる。
「だから石突きに尻尾を付けようかと思うんだよ。」
 豊島社長自ら、入れたり出したりしている。
「あっ…でも…気持ちイイ…です」
 当然、笠の部分が擦れて気持ちイイ。
「よし、わかった。続きは淳士に頼め。」
 豊島社長は商品を手に、宿直室を出た。
 また、放置プレイだ。
 自分のスマホから淳士にショートメールを送る。
早く来て
 それだけで中野は跳んでくる。
「匠海っ」
「あ、淳士」
 次の瞬間、中野は見事な昂りを突き入れてくる。
「ああんっ」
 エレベーターの中でファスナーを下ろしながら来たのではないかと疑うくらいの早さだ。
「気持ちイイ」
「うん、俺も。」
 チュッと、肩口にキスを落とす。
 なんてことはない、初めから身体は正直だった。
 中野だから気持ちイイのが尋常じゃなかったんだ。
「淳士、中、ちょうだい」
 精一杯の愛情表現。
「匠海、大好きだよ」
「うん」
 まだ、好きと言えない。
けど、中野がいい。

「声、ガラガラだな…」
 社長の指摘。
「そりゃあ、二時間も宿直室に篭もってればな。」
 専務は時計を指差す。
「港くん、中野くん、残業だからね。」
 部長に淡淡と告げられ、頭を垂れる。
「あ、港くんちょっと時間良い?」
 社長に手招きされる。
「あ、はい。」
 立ち上がろうとすると手で制される。
「皆にも聞いて欲しい。港、中野両戦力を失うのは当社としては大変残念だ。そこで慰留条件として、我が社に文房具部を作るのはどうだろうか?」
「アダルトグッズと文房具は天と地の差がありますね。」
 目黒専務が手に持っているボールペンを眺めながら言う。
「でも…ボールペン…アダルトグッズに使えそうですね。」
 我が意を得たりとばかりに豊島社長が目を輝かせる。
「だろ?港くんがアナルにボールペンを何本も挿している姿を想像しただけで勃起出来る。」
「しゃ、しゃ、社長!」
「想像するのも止めて欲しいんですけど。」
…中野?怒ってる?
「でも…匠海の夢を叶えてくれるなら、何処でも良いです。ね?匠海?」
「…試用がなければ、いいです。」
 すると社長が徐に立ち上がった。
「馬鹿を言わないでくれ!試用は港くん以外誰がするんだ!そんな…夢も希望も無いようなこと、言わないでくれ。」
「つまり、匠海の身体目当ての新部署設立ですか?」
「…試用くらいいいじゃないか、ケチ。本当はカタログのモデルになって貰いたかったんだけどさ、都の条例に排除されたしさ、俺なんか夜な夜な港くんの善がり声を思い出しながら独りでするだけだし、見るくらい良いじゃないか…」
「ダメです、貞操観念が強いんです。」
 え?
 全員の視線が痛い。
「ま、それは冗談としても、文房具部、考えてみてくれ。万が一しくじっても蓄えがある。任せろ。」

「どうする?アニキの提案、俺は良いと思う。文房具の新規開発って20年くらいかかるらしいんだ。そうなると確実に資金が底を突く。」
「でも…試作品の実験台になりたくないんだ。…その…淳士以外に肌を晒したくない。」
「匠海。好きだよ。」
「う、うん。僕も。」
「僕も?」
「うん…ぃ…る」
「なに?」
「イジワル!好きだよ!」
 言った!
「なら、結婚してください」
「はい…って、え?」

「社長、証人になってください」
 翌朝、中野は婚姻届を社長に突き付けた。
「受理されなくてもいいんです、これを書くことに意味があるんですから。今後一切、匠海の○んこに触れないでください。」
「そんな書類にサインなんかするか!触れちゃいけない、資金は出せって悪魔かお前は?」
「知ってるんだからな!オマエは匠海のこと、そんなに好きじゃ無いってこと!」
「何のことだ!」
「俺の嫁に手を出したんだ、慰謝料貰うのは当然だ!」
「ならなんでウチの株を買うんだ?」
「保険だよ保険。」
 いつまで続くんだ、この兄弟喧嘩。
 いい加減にしてくれ。
「中野、承認はいらない。それと、試用は続ける。」
「え?」
「本当か!?」
 二人が振り返る。
「但し!相手は中野限定で。ならやります。」
 社長が一分ほどフリーズした。
 しかし、解凍後渋々承諾した。

「港くん、考えたんだけど、宿直室をこのスペースに持ってこないか?壁は全てアクリル板。透け透けってヤツだ。これなら港くんの乱れる姿が見られる。」
「社長、まだ元気なんですからイ○ポのオヤジみたいな発想、止めましょう?試用は自宅でやります。」
「え?なら、宿直室廃止?」
「そうなります」
 僕の肩書きは
文房具商品開発部部長兼玩具開発部試作担当となった。
 因みに目黒専務は副社長に、渋谷部長は専務に昇格した。
 中野はと言うと営業部部長だ。文房具もアダルトグッズも営業して回る。
 僕たちは、今日も毎日が充実して楽しく仕事をこなしている。
 そして相変わらず毎日喘いでいる。
 それが、仕事なんで。

2020.07.30
【雨(番外編)】
 秋葉さんは、どちらかに決めずに、二人とセックスライフを楽しめば良いとアドバイスしてくれた。
 正直、気持ち良ければ二人とセックスしててもいいかな?と、思っていた。
 社長は一度部屋に連れて行ってくれたけど、基本は宿直室だった。
 淳士はいつも自分の部屋で、最初こそ焦っていたけれど、それからは丁寧に扱ってくれた。
 淳士のことを好きだと認識してからは、社長は僕のことを焚き付けているように感じられた。
 僕が、淳士を好きになるように、好きだという事実に気付くようにしてくれていたようだ…その割には必ず突っ込んで来たけどな。
 ダンボールに荷物をしまい込みながら、色々考えてしまった。
 キッチン周りの荷物が一つ、衣類が二つ、その他が一つ。あとは家電と家具だ。
 家電も家具もリサイクルショップに引き取って貰う。
 大学から七年半、ここで暮らした、単身者用の小さいマンション。
 玄関のドアが開く。
「準備できたか?」
「うん」
 ダンボールを抱えて立ち上がる。
「そっちの荷物は?」
「一回行って置いてきた」
 ローンでマンションと車を買った。
 二人とも荷物が少ない。
「やっぱりベッドが欲しい。」
 不意に淳士が言った。
「淳士ので良いじゃないか。」
「だから、狭いだろう?」
「…狭い方が、良い。」
「え?」
 淳士の口元がほころぶ。
「淳士、エロい」
「匠海に言われたくない。」
 言いつつ、背後から抱き付いてくる。
「匠海、散財させたけど、良かったのか?」
「ま、決意表明みたいなもんだ。つーか、荷物運ぶぞ」
 勿論照れ隠しだ。
 都内でも比較的地価の安い場所を選んだので、会社までが少し遠い。
 遠い方が社長が来られない…大きな利点だ。
 マンションを購入した理由は一つ。防音だ。
 淳士には言っていないけど。
 荷物を積み終わると淳士に任せて部屋に戻った。リサイクルショップがそろそろ引き取りに来る頃だ。

「お疲れ」
 新居に到着すると、淳士が出迎えてくれた。
「なんかいいな、こういうの。」
 そう言って抱き寄せられた。
「毎日、やりたい放題?」
「それじゃあ、社長と一緒」
 でも、こんなことも今までは躊躇いがあって出来なかった。
 二人きりの空間なら、誰にも遠慮せずにいられる。
「夕飯までに時間がある。」
 淳士の唇に自分の唇を重ねた。
「する?」
 淳士の意思で、口付けが深くなる。
 口腔内を舐め回され、気持ちイイと感じてしまう。
 舌と舌を絡めあい、息が上がる。
「も、欲しい」
「俺も、欲しい」
 そのままリビングで、抱き合う。
 淳士の膝に抱きかかえられ、スエットと下着を一緒に引き摺り下ろされた。
 剥き出しになった双丘をギュッと握り締められる。
「あ…ん…」
 次の行動を思い声が出る。
「期待してて良いよ」
 ツプっと、指が挿入され、内壁を擦られる。
「あんっ、んんっ」
 耳朶を甘噛みされ、また声が出る。
「ああんっ」
「可愛い」
 下半身からヌプヌプと音がする。
「イヤッ」
「いや?」
コイツ!
「嫌じゃ無い…」
「なら、もっとしていい?」
「もっとして」
 中に入っている指に沿って、もう一本中指が挿入される。
 二本で入り口をグニュグニュと蠢く。
「ああんっ…」
「これからは俺の腕の中でだけ鳴いて」
「んんっ…う…ん」
 返事をしたいのに、別の音が喉から漏れる。
「ほんと、可愛い」
 頭を左右に振る。
「匠海、自分で挿入れてごらん。」
 指を引き抜くと、淳士が悪魔のようなことを囁いた。
「うっ…無理っ」
「ま、徐々にってことで」
 グイと尻を浮かされると、淳士の屹立目掛けてストンと落とされ、ズブズブと亀頭を飲み込んだ。
「ひあっ…んうっ」
「こんな、中途半端でいいのかな?」
「いやぁっ、もっと奥、引っ掻いて欲しい」
「なら、自分で動いて、全部入れて」
「ううっ…頑張る」
いつもいつも、されるばかりじゃ悔しい。
 少し力を入れて腰を落とすが、何かに引っ掛かっているかのように、進まない。
「淳士、怖い」
「よしよし、良い子だ」
 ティーシャツの下から直に背中を摩られ、二人の間で涎を垂らしていた屹立を扱かれ、思わず悲鳴をあげた。
「ひゃっ…」
 グチュと、音を立てて竿の部分を飲み込んだ。
「全部入ったぞ、よしよし」
「うん、お腹いっぱい」
「でかいってことか?」
 その辺は笑って誤魔化した。
「次は自分で動いてごらん。ドコを擦ったり突いたら気持ちイイか、教えて」
 ドコ?
 淳士の肩に手を置き、腰を浮かせる。ズルリと抜けるときにザラリと内壁を擦られゾワリと快感が走る。
「あ、今の、気持ちイイ」
「うん」
 今度は腰を落とす。グチュと奥に進むときに耳に届く音の卑猥さとツルリと擦られるくすぐったさが相まって、更に奥へと誘導してしまう。
「あは…んっ」
 最奥の一番気持ちイイ場所に当たる。
「ひあっ」
「ここ、イイの?」
「ん…イイ…」
 淳士は、僕がグズグズとしているのにしびれを切らしたらしく、腰を突き上げたりグラインドさせたりと、激しく動き始めた。
「あ…やっ、イイ…凄い…奥、気持ちイイ…」
「スゲー、エロい。匠海がこんなにエロいなんて…」
「なんて?」
「中に出して良い?」
 話を逸らされた。
「まだ、ダメ。もっと中、いっぱい擦って」
「ん、やっぱり匠海エロい。」
 繋がっている部分だけ晒している状況もエロいよな。
「あーっ、イイ、もっと、もっと擦って、中ぐちゃぐちゃにしてぇ」
 態と煽るように喘ぐ。
「も、ムリ、保たない…出すよ、出る、出るっ」
ドクッと、最奥に熱い飛沫が注ぎ込まれた。
「あぁっ、出てる、中、濡らされてる」
 淳士が肩口に頭を預け、荒い息の元囁いた。
「匠海がエロくて、良かった…俺だけがおかしいのかと思ってた。妄想しすぎて夢に見るくらい、匠海が好きだった。」
 え?
「淳士、淳士が僕のこと、どんだけ好きなのか教えてよ。」

………

 梅雨時でその日も雨がしとしとと降っていた。
 匠海は水色の傘を差してきて、楽しそうに水たまりを避けながら歩いていた。
 テニスクラブでは雨天は基礎練習ばかりで、生徒の数が少なかった。
 その中で黙々と素振りをする匠海が目に飛び込んできた。
 フォームが綺麗だった。
 素振りをする匠海が綺麗だった。
 その日から気付けば匠海のことを目で追っていた。
 そのうち見ているだけでは飽き足らず、声を掛けていた。
 声も綺麗だった。
 もう、何もかも綺麗だと思うようになっていて、好きなんだと自覚した。
 あの日、水たまりを避けながら歩いていた姿に、恋をした。

……

「ああ…んっ、あ…ん、ふ…ぁっ…う…」
「もっともっと、喘がせたい。」
「中野…鬼畜…」
「匠海に関しては貪欲と言ってくれ」
 引っ越し当日、ベッドへ移動してからは、一切抜こうとせず、僕を乱し喘がせ続けた。
「も…中…ぐちゃぐちゃだよぉ」
「匠海に聞きたい。」
「ごめん、ムリ。気持ち善すぎて、これしか考えらんない」
「誰が、お前のバージンを…」
「絶対、言わない」
 言えるわけない。
「言わなきゃ抱き潰す」
「潰されても、殺されても言いたくない」
 僕が、家族の話をしないこと、どうして気付かない?
「あっ、そんな奥、突かないでぇ、気持ちイイ」
「ダメだ、このまま匠海の中に溶けてしまいたい。気持ち善すぎて抜きたくない。」
 粘膜が擦れすぎて腫れている気がする。それでも僕は、淳士と同じ気持ちだった。

「流石に鬼畜過ぎだな、ごめん」
 頭を左右に振りながら「僕は変態だから」と、答えた。
「それと、初体験のことも、ごめん。言いたくないんだな。なら」
「父親だよ。」
「え」
「盲腸もウソ。母が出て行ってテニスクラブを止めた。だって父親に犯されてんだよ?中学卒業して、祖父母の家に逃げ込んだ。」
 淳士が僕のことをぎゅーぎゅーと抱き締めた。
「本当にごめん、あんな…酷い抱き方して…」
「酷くされなきゃ、感じないって言ったら?半端な抱かれ方だと、演技してるって言ったら?」
「そんな」
「だから言いたくなかった。でも…いつも今日みたいに抱いてくれるなら、本気で気持ちイイから、その、して欲しいって思った。イヤか?」
「ううん、抱かせて。」
「アダルトグッズの会社にいる理由、わかった?」
 本当は抱かれたくて抱かれたくて仕方なかった。
「大切に、酷いセックスしても、いい?」
「それ、へん。」
 淳士なら、僕を大切にしてくれる。
「酷くして」
 外は夕方からずっと雨が降り続けていた。

2020.07.31
一日一回
【一】
「そんな…無理だ!」
 長年思いを寄せていたミチオに、一世一代の告白をしたが、無理難題を吹っ掛けられた。
「なら、付き合えない。」
 ミチオは寂しそうに目を伏せた。
「どうして?だってそうだろ?いきなり…その…」
 オレはミチオの肩に手を掛け、グラグラとその身体を揺すった。
「ボクが、『多淫症』だから。今日もこれから病院で治療なんだ。」
 なに!?
「病院の治療より、一日一回のセックスの方がいい…っていうことなのか?」
「うん、先生がそう言ってた。」
 壁際に追い詰められ、股間を押し付けられた。
「熱い」
 煽られ、燻っていた性欲に火を点けられた。
 そうだよな、普通に付き合い始めたら順を追って、段階を踏んで、その、なんだ、まあ、性交するんだよな。しなくてもいいんだろうけど。何言ってんだ?オレ。
 でも、告白の場所を放課後の教室に選んで良かった。
 そっと、ミチオに口付けた。
「んふ…」
 喉の奥から声が漏れる。
 ああ、やっぱり可愛い。
 オレにとってはミチオは天使だ。保育園で一緒にタオルケットに包まったときから、天使だった。
「ホントに、いいのか?」
「早く…スグル」

 そりゃあ、正常な未成年男子なんで、性欲はある。
 好きになった人に告白したら付き合う条件として、一日一回挿入を伴う性交をして欲しいと言われて、戸惑いはしたが嬉しくないわけがない。据え膳食わぬはなんとやらだ。
シャツの下から手を入れて、乳首を挫く。
「も、そんなのいいから、早く入れて。」
 え?前戯なし?
 ミチオは、自らズボンとパンツを下ろすと、机にうつ伏せになり、尻たぶを掴みグイと開いた。
 奥の窄まりが露わになる。
「ここに、スグルの、太くて熱いの、ちょうだい?」
 ゴクリと、唾を飲み込んだ。
 硬く屹立したムスコを、ヒクつく入り口に押し当てた。
「あっ」
 小さく喘ぐ。
 グッと力を入れて亀頭を押し込んだ。
「あんっ」
 嬉しげな喘ぎが漏れた。
「もっと、奥まで入れてよぉ」
 尻を広げたまま、お強請りされた。
 少し力を入れて竿の部分を押し込む。
「ああんっ」
 尻孔にムスコが突き刺さっている状態を見て、興奮した。
 ミチオの腰を引き寄せ、一気に突き入れた。
「ああっ…ひぃぃっ」
 ギリギリまで引き抜き突き入れる、尻孔の皮膚が捲れては押し込まれる。
「ああんっ…中、いっぱい擦ってぇ」
 鳴きながら懇願する。
「こっちも、イイ…よ…」
 ぐちゃぐちゃと出し入れする。
「もっと、もっと擦ってぇ」
 内壁が絡み付く様に砲身を包み込む。
 両腕を自分の胸元まで引き寄せ、上体を反らせることで、角度を変えて突く。
「あっ、あっ」
 喉を反り返らせ気持ち良さそうに喘いでいる。
「気持ちイイよぉ」
 肩越しに見える、ミチオの蜜口から透明な蜜がダラダラと溢れ出ている。
「気持ちイ…から…カウパー、出ちゃうのぉ」
ヤバっ、腰にくる。エロいだろ!
 ガンガンと腰を打ち付けると、繋がった場所が泡立つ。
「ひっ…はあっ…イイっ…イク、イクッ」
 内壁が収縮し、蜜口から白濁を放出し机を濡らした。オレはギューギューと精子を搾り取られた。
「ミチオ、スゲー、スゲー良かった。」
「ダメっ、まだ抜かないで」
 え?
「もっとして、もっともっと中を擦ってぇ」
 ここで?え?
 繋がったまま、ミチオの体勢を反転させ、向き合わせになる。
「なら、顔見せろ。」
「いやん」
 女みたいな声を出す。
「イヤと言いながら、」
 グッと身体を進める。
「ああんっ、そこ、ヤバっ」
「いいのか?」
「うん、イイ…あんっ」
 それからミチオはあとか、いとかア行の言葉で短く喘いでいる。
「ミチオ…毎日してやる。」
「嬉しい、スグル大好きっ」
 なんか、良いように使われているような気がしないでもないが、今日のところはよしとしよう。

2020.08.04
【二】
「スグル、この体位、深いっ」
 顔を赤らめてはいるが、嬉しそうにオレのムスコを飲み込んだ。
 他のクラスは授業中。
 たまたまウチのクラスは自習となったので、使っていない視聴覚室に潜り込み中から鍵を掛けた。
 ミチオのズボンとパンツを太股まで下ろし、膝に抱えた。
 そのままの体位で身体を繋ぐ。
「スグル、スグルぅ」
 耳元でミチオが俺の名を呼ぶ。
「なに?」
「気持ちイイ」
 その台詞は腰にくる。
「もっと突き上げて、奥まで擦って」
 言われてその気になって、腰をガンガン打ち付ける。
「いっ…あ…はあっ…ふ…んんっ…イヤっ…あ…イイっ」
 膝の上でミチオが踊る。
「スゴイ、深いっ、奥までごりゅごりゅされる」
 ミチオの口をキスで塞ぐ。
「ん…んんっ…んふ」
 それでも喘ぎ続ける。
「んんっ…んーーっ」
 慌ててミチオのムスコを掌で包んだ。
「はっ、ああっ、」
「イッた?」
「うん、イッちゃった」
 掌を広げるとミチオの精子がベッタリと付いていた。
「ミチオのせーし。」
「うん、ボクのせーし。」
 二人でペロペロと舐めた。
 なんだか、気恥ずかしい。
「もっと、擦って?中でイってみたい」
ん?中でイク?
「すっごく気持ちいくて天国に逝っちゃうらしいよ?」
 身体を繋げたまま、腰を使って中を自らかき混ぜている。
「精進します」
 なんせ、テクニックも知識もない。
「今は、心太で勘弁。」
 再びオレは、ミチオを踊らせた。
 オレたちは同じ保育園で育った。
 だから二歳から一緒だ。
 共に両親が共働きで、迎えに来る時間もほぼ一緒だったので、一緒にいる時間もほぼ一緒。
 親と居る時間より、互いが一緒に居る時間の方が長かった。
 なんせお昼寝のときは同じタオルケットで一緒に包まって眠っていた仲だ。
 それくらい長い時間一緒に居たのに、ミチオが多淫症なんて知らなかった。

 扉のフックにズボンとパンツが二組ぶら下がっている。
 体育館の男子トイレ。
 ミチオがタンクを抱え、オレはミチオの腰を抱え、繋がっている。
「ふっ…んっ…ふうっ…」
 ミチオは声を出さないように必死で堪えている。
 ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅと、卑猥な音だけ個室内に響く。
「んっ…んーーっ」
 便器にミチオの白濁がパタパタッと落ちる。
 肩で息をしながら、首を後ろに向けてキスを強請ってきた。
「キス…して」
 胸を抱き寄せ、キスをした。
「明日の日曜日、どこでする?」
 小さくなったムスコを、ミチオの尻孔から引き抜き、ゴムを外した。
「なあ、デートしないか?そんでどっか良いとこあったらそこでやらね?」

2020.08.05
【三】
 ミチオは肩で息をしている。
「も…ムリ…」
 言って座り込んだ。
「もう少しだから」
 オレは手を引いた。
 シーズンオフの登山道。すれ違う人も居ない。
「頂上に良い場所があるんだ」
 その言葉にミチオは嬉しそうに頷いた。
 視界は360度。
 見渡す限り自然しかない。
「ああんっ…スグルぅっ…気持ちイイよぉ…もっと、もっといっぱい突いてぇ」
 大自然の中でするセックスは、ついつい声が大きくなってしまう。
 ミチオはまた、半分だけズボンとパンツを下ろすと、四つん這いになって貫かれている。
 ゆさゆさと揺さ振り、ゴリゴリと掻き回し、オレも最高に気持ちイイ。
「ミチオ、大地に出してやれ」
「んっ…地球にせーし、掛けるっ…気持ちイイ、気持ちイイ…スグルっ、スグルぅ…大好きっ」
 え?
 ミチオの中でイって爆じけた。
 ミチオもパタパタと草木に精子を撒き散らした。
「はあん…気持ちイイ、スグルのセックス、気持ちイイ」
 オレたちはパンツとズボンを履いた。
「スグル、お腹空いたね。お弁当食べよう?」
「うん、そうだな。」
 ミチオ、オレのこと、好きなんだ。
 スゲー、嬉しい。
 てっきり多淫症の治療のためだけに付き合っているんだと思っていた。
 良かった。

 月曜日は体育館での体育の途中舞台下の資材置き場で、火曜日は昼休みに音楽室の前のトイレ(人が余り来ない)で、水曜日は昼休みに屋上で、木曜日は放課後の教室で、金曜日は離れにある科学室の裏で、土曜日は社会科準備室(社会科の先生方が他校で研修会でいない)で、本当に毎日セックスした。
「次の月曜日は図書室でしよ?」
 ミチオがズボンを履きながら言う。
「うん、それでいいよ。でさ、明日なんだけどウチ来ないか?」
「スグルんち?いいの?」
「ああ、ウチ相変わらず共稼ぎで明日も両親居ないんだ。ま、居てもオレの部屋は防音になっているからへーきだけどな。」
「スグルは一人っ子だもんな。ウチはアニキが同じ部屋だから、一人エッチも出来ないよ。」
 その時、ふと気になった。
「ミチオ、あのさ…」
「なに?」
「あれ?なんだったっけ?」
 ど忘れした。
「ごめん、聞くこと忘れた。」
「珍しいね。昔から記憶力は良いのに。」
「そっか?」
 それは、ミチオのことに限ってだよ…ずっと好きだから、ずっとキミを見ていた。

2020.08.06
【四】
「ベッド、初めてだから照れる。」
 ミチオがモゾモゾと服を脱ぐ。
「素っ裸も、初めてだ。」
 ミチオの裸は見慣れてる。それでもこれからすることを考えれば気恥ずかしい。
 ベッドに腰掛け、キスをした。
 浅く、深く…舌を吸い、絡め、口腔を舐め、唾液を掬い取り、飲み下す。
 ミチオの息遣いが荒くなる。
「ふ…ぅ…ん」
 薄目を開けてミチオの表情を見ると、気持ち良さそうに顔を上気させている。
 両手の親指の腹で乳首をグリグリと捏ねる。
「ふっ…んんっ」
 ぷっくりと立ち上がったところで、片手をもう一つの敏感な場所に親指の腹を充てる。
 既に完起ちしていて、ねちょねちょと蜜が溢れていた。これを蜜口から亀頭から塗り込めるように、クルクルと円を描くように捏ねる。
「ふっ…ふっ…」
 まだ、唇は解放してやらない。
 蜜が垂れ、茎を濡らす。
 ゆっくり、身体をベッドに横たえた。と、ほぼ同時にミチオとオレのムスコを一緒に握った。
 熱い。
 ミチオのムスコがビクリと揺れた。
 二つ一緒に扱く。
「んーーっ」
 ミチオが暴れて腰を引く。
「死ぬ」
 唇を重ねたままでミチオが言った。
「オレは、気持ちイイけど?」
「気持ち良すぎて、死んじゃうんだってぇ」
 再び深く口を吸う。
 くちゅくちゅと音がする。
 ムスコたちもくちゅくちゅと音がする。
 それでもあまりの気持ち良さに、恥ずかしいという気持ちはなかった。
「ん…ふぅ…ん」
 ミチオの息遣いは相変わらず荒い。
 やっと、唇を解放してやる。
「はっ、はっ、ん」
 直ぐに首筋に噛み付く。
「んんっ」
 ミチオの表情に、全く余裕がない…のが、可愛い。
 もっともっと、追い込みたい。
 ムスコたちも仲良く頬ずりし続け、蜜を垂らしている。
「ああんっ…」
 今度は乳首に吸い付いた。
「はあんっ」
 乳首をチュウチュウと吸い上げ、舌で転がす。
「ん…ふぅ…んんっ…気持ちい…ぃ」
 どんどん、ミチオの表情が色っぽくなる。
「ミチオ、もっともっと感じて」
 両乳首がピンと起ち上がる。真っ赤に熟した桃のようだ。
 身体をずらして、ミチオのムスコにキスをした。
「は…あん」
 ビクビクっと、跳ね上がる。
 口に含むと亀頭を上顎で擦る。
「ひゃ…あっ」
 小さく悲鳴をあげた。
 その隙に尻孔に指を突き入れた。
「そ…な、いっぺん…ムリ」
 三箇所を攻め続け、ミチオの背は仰け反り返る。
「はあんっ…イイ…イキそう」
「ばだだべ(まだだめ)」
「やぁっ…喋んないでぇ…イクっ…イグぅ」
 ドクッと、精が放たれた。
「スグル?ダ、ダメ、飲んじゃダメぇ…あっ」
 ミチオが暴れても止める気はない。
 尻孔の指は中を擦り続ける。
「んんっ…」
 再び起ち上がりつつあるミチオのムスコをジュボジュボと音を立ててしゃぶる。
「ああんっ…あん…あんっ」
 指を三本に増やし、前立腺だけを擦る。
「あっ、またイグぅ…イクっ…イクっーーーー」
 ドプッと、再び精を放つ。
「スグル、虐めないでぇ、スグルのちんちん、挿入れてよぉ」
 ん?
 多淫症って、挿入しなくても、射精すればいいはずなんだけど?
「ミチオ、これだけ出しておけば、空イキ、出来るはずだ。」
 はっ!と言う顔をして、ワクワクを押さえられないといった目つきだ。
「は、早くっ」
 両脚を大きく開いて腰を上げた。
 ムスコにゴムをして、ミチオを犯す気満々で入り口に押し当てる。
「はっ…はっ…」
 ミチオが興奮している。
 ズブズブと、突き入れた。
「ああんっ」
 歓喜の声を上げ、中をギュッと締め付けた。
「ミチオ、可愛い。好きだよ。」
「ん、ボクも、好き。スグル、好き。」
 ミチオの最奥をガンガンと突く。
「えう!?なに?なになに?!ヤッ、なんか!ヘンっーーー」
 ミチオの太股が痙攣し、足指がギュッと閉じられた。
「あ」
 ミチオの内壁の収縮も尋常じゃなかった。
「どした?」
「…た」
「え?」
「逝った」
「ん?」
「スゲー、天国どころか、地獄に突き落とされたかと思った。気持ち善すぎるよぉ」
 あ、空イキ出来たんだ。
「スグル、ありがと。一人で大人の玩具を突っ込んでも、イケなかったんだ。」
「あ、思い出した。ミチオさ、」
「あん」
 そうだった、入れたまんまだった。
「とりあえず、オレもイッていい?」
「うん、イッて。ボクの中で出して。」

2020.08.07
【五】
「だって!スグルってば全然気付いてくれなかったし、ボクはスグルで一人エッチばっかしてて、悔しかったし…ああ言えば、毎日出来るし?」
 なんだ、そうだったのか。
「良かった」
 思わず抱き寄せていた。
「多淫症って、どうやって治すのか色々調べてたんだけど、直接セックスして治すとはどこにも書いてなかったんだ。だから、本当に良いのか、心配だった。」
 ミチオの腕がオレの背を抱く。
「ごめんなさい。」
「いいよ、気持ち良かったから。でもこれからはほどほどにしような。」
「ほどほど?」
 え?
「毎日でも平気だけど?」
 言った側からムクムクと起ち上がる…勿論オレもだけど。
「もう一回、出来るよ?」
 言うなりオレを跨ぎ、ズブズブと挿入した。
「んっ…スグル…気持ちイイ」
 自ら腰を振ってオレから精子を搾り取ろうとしている。
「スグル、種付けして」
 種付けって。
「やっぱミチオはエロい」
 「うん、スグル仕様なの…ひあん」

 オレたちは、やっと普通(?)の恋人同士になった。



「んんっ…」
 なんだかんだと、相変わらず毎日セックスしてる。
 体育館の放送室は、普段使わない。
「や…ゴム、イヤ…スグルの…そのまんま…」
「そりゃ、ムリ。」
 確実に中出ししちゃうから。
「ウチですんとき、な?」
「うん…あっ、そこ、イイ」
 ミチオは膝の上で踊る。
「あん…気持ちイイ…気持ちイイよぉ」
 露出は少なく繋がっている部分だけ。
「んっ、出ちゃう、出ちゃうぅ」
 慌てて掌で覆う。
 熱い飛沫が掌にぶち撒かれた。
 そのまま、イッたばかりのムスコを扱く。
「ヤッ、ムリ、ムリムリっ、またイッちゃう、イッちゃうぅぅ」
 ムスコはドクドクと力強く脈打っている。
「前も後ろも悦んでる。」
「んっ、んっ」
「ミチオ、帰りにウチ寄って」
「あ…あ…」
 口を開いてみたが喘ぐ方が忙しく、首を縦に振った。

2020.08.08
【六】
「あん、あんっ」
 何かと言えば繋がっている。
 制服が皺になるから、スグルの部屋では基本裸。
 四つん這いになって腰を高く持ち上げられた。
 そのまま身体を繋いだので、ボクに見えるのは、プランプランと揺れる、自分のムスコだ。
 なんかヤラシイと思いながら眺めていたら、スグルが手を添え扱き始める。
 蜜口が自分を狙う銃口のようだ。
 このまま死んでも良いくらい、毎日幸せ。
 ボクの心臓には既にスグルの撃った鉛の玉が深く刺さっている。
 だからこんなにも好きなんだ…。
「あっ…」
 自分で撃たれた…。

「ミチオ、試験中はセックス禁止な。」
 なに!?
「何で?」
 「何でって…お前は成績いいから問題ないのか…オレは試験勉強しなきゃ、無理だ。…してもあの程度…」
 試験勉強?
「なにそれ?」
「は?ミチオ試験勉強しねーの?」
「試験勉強…その響きからすると試験前に勉強するということかな?したことないな。スグルはするの?あ、するからしないのか。」
 うーん、受け入れがたい事態である。
「だって!オレさ、ミチオと同じ高校行きたいから必死で勉強したさ。留年できねーから何とか食らい付いてんだけど、欲望に勝てねーんだよ、ムラムラしちゃってさ。ミチオに教えて貰おうかとも考えたけど、無理だ、押し倒しちまう。なんで…」
「え?ムリムリっ、今から試験まで?二週間だよ?二週間もしないなんてもう無理だから。教える、勉強なら教えるから考え直して?二時間勉強してちょっと入れてくれれば良いからさ?」
 ちょっと…って言うのは語弊があるけど。
「ミチオ、オレの話聞いてた?ミチオに教わったらムラムラして何も頭に入らないの。」
 そんな…。
「二週間も、生きていけない…」
 これは、死活問題だ。

2020.08.09
【七】
 ヤバい。
 身体が疼く。
 学校でスグルの声が聞こえただけで勃起する。
 姿を見たらカウパー線液漏れてパンツにシミが出来た。
 「ミチオ?」と、名を呼ばれ、出た。
「スグルの、馬鹿ぁ」
「どうし…あ…大丈夫か?」
 制服の股間に大きなシミが出来た。
「ちょっと待ってて。」
 教室に戻ると手にジャージを持って出て来た。
「更衣室行こう?」
 手を引かれてとぼとぼと着いていく。
「ミチオ、そんなんなっちゃうんだ…ごめん。」
 更衣室の鍵を掛けると、スグルはミチオのムスコに唇を寄せキスをしたかと思うと、パクリと口に含んだ。
「す、スグル?」
 頭を動かして射精を促す。
「まっ…あ、気持ちイイ…」
 ジュボジュボと吸われあっという間に精液も搾り取られた。
「…ミチオ、本当に多淫症なんじゃね?」
「スグルのせいだもんっ、スグルの声が聞こえるから、スグルの姿が見えるから、スグルが声掛けるから…我慢できないんだもん」
 下半身丸出しのボクを、スグルは抱き締める。
「ごめん、オレは自分のことしか考えてなかった。毎日は無理だけど三日に一回なら大丈夫か?」
「うん、全然ないよりいい」

「あーーっ、すっごい、すっごいのぉ」
 その日の放課後、スグルに手を引かれるようにスグルの部屋に連れて来られた。
 その場で裸に剥かれると、ベッドに押し倒された。
「スグル、そんなに急がなくても…」
「オレが待てない」
 両脚を頭の横まで持ち上げられ、物凄く恥ずかしい体勢をとらされ、尻孔を露わにされた。
「恥ずかしいから、止め…」
 スグルは、そこに舌を差し入れ舐め始めた。
「やっ、ダメだって、汚いよ」
「ミチオが汚いわけない」
 生温かい舌が出入りする。
「あん…んっ…ひっ」
「ダメだ、ごめん」
 恥ずかしい体勢を解かれ、そのままミチオの熱い肉棒に串刺しにされた。
「あーーっ、すっごい、すっごいのぉ」
 今までにない快感だった。
 真っ赤に焼け爛れた鉄の棒を突っ込まれたように熱かった。
「んーーっ、気持ちイイ」
 あっという間に中で達した。
「スグル、また中がイッた」
「完全にメス化だな」
「ん、スグルにメスにされるの、好き…ああん」
 スグルがボクの腕を引き上体を起こされる。
「見ろよ、ミチオの尻孔を出入りしてるの、エロいだろ?」
 エロいけど、嬉しい。
「エロいの、好き…」
 スグルのピストンが早くなった。

 結局、スグルに苦手科目を教えてやることで試練を乗り越えた。
「ミチオのお陰で何とか乗り越えられた。ありがとう。」
「うん。でもこれからは授業中に理解しちゃおうね?」
「そ、それが出来るならとっくにやってるよ」
 情けない顔で項垂れた。
「大丈夫、スグルなら出来る。そしてまた一緒の大学行っていつか一緒に暮らそう?」
 ボクはスグルが居てくれれば、何にも要らない。
 スグルにだけして欲しいと思うし、スグルとだけしかしたいと思わない。
「スグル、しよ?」
 一日一回、セックスしよ?

2020.08.10
少年倶楽部
【一】
「ほんとーに、大丈夫です。それに俺、まだ21ですし。」
 配達に行った先で、見合い話を持ちかけられた。
「ウチの息子たちも頑なに拒否するのよねー。」
 そりゃあ、そうだ。
 お宅の次男坊と俺は、小学生の時から少年クラブ公認の恋人だ。

 小学校に入学すると同時に、この辺りでは少年クラブに入会する。
 週に一回の集まりと地域貢献が活動内容だ。
 俺とクリーニング屋の次男坊である団(だん)は同級生で幼馴染みだったのでいつも一緒だった。
 行動するのも一緒、違うのは帰る家くらいだった。
 互いに大好きだと公言していたので、クラブ公認の仲だった。

「ダン〜…うっ…」
 空しい。
 いくら公認の仲でも、本人がここに居なければ何にもならない。
 今夜も俺はベッドの中で、一人で団を想いながら、扱いていた。
 あと一歩でイケる…と言うところでスマホが鳴った。
「ったく、誰だよ…あ」
 表示には『団』と出ている。慌てて電話に出た。
「もしもし?」
『あ、慶!寝てた?』
「いや、団を想って一人エッチしてた。」
『またまた〜。あのさ、今年の祭りだけど俺パスね。アニキにも伝えといて。』
「え?だってお前いないと俺パートナーいないし。」
『それ、なんとかしてよ。俺、課題が忙しくて戻れないんだ。』
 団は東京の大学に行っている。
「団、今日もさぁお前の母ちゃんに見合いを勧められたよ…そろそろ伝えてくんね?俺たち恋人同士だって。」
『慶、そのことなんだけどさ、俺はお前を恋人とは思ってないんだけど。こっちで付き合ってる娘いるし。」
「え?」

2020.08.10
【二】
「慶、お前には悪いことをした。」
 クリーニング屋の長男、元(げん)ちゃんが深く頭を垂れた。
「ガキの頃のことだから、真に受けていないと思っていた。ずっと、団を好きでいてくれたんだ。ありがとうな。」
「いいんです、俺の独り相撲だったんだから。」
 団にフラれるなんて考えもしなかった。
 いや、付き合ってさえいなかったなんて。
 じゃあ、高校時代に毎日のようにキスしたり抜いたのはなんだったんだ?
 元ちゃんには言えないけどな、そんなこと。
「男同士でマスかくことは、良くあることだ。」
 耳元で囁かれた。
「え?」
「知ってるよ、俺。偶々見ちゃったんだ。」
 見られてたのかぁ。頭を抱えたくなる状況なのにー。
「今夜、青年団、来るよな?」
「はい…」
 もう、どうでもいいや。

「それでは始めます。今年の祭りですが、姫役が決まっていません。」
 元ちゃん司会で始まった青年団会合。少年クラブから自然と持ち上がって未婚男性の集まりである青年団に所属する。
 今日は団を除く六人による祭りの話し合い。
 何にも考えられなくなってて、オレはぼーっと座っていた。
「…と言うことで慶くん以外満場一致で決まりと言うことで良いですか?」
 ん?呆けてる間に何か決まったらしい。
「はーい!元ちゃん、意見良いですか?」
「どーぞ、悦(よし)くん」
「姫を口説いて落とした人が皇子役になったら良いのではないですか?」
 元ちゃんの表情が強ばった。
「いいね、それ」
「欠席裁判ではないもんな。遠慮はいらない…そうだよな?元。」
「…ああ。」
「では期限は二週間。ダメなら今年の皇子役は新婚の始さんに頼もう。」
 呆けている間に、更に何かが決まった。
 途端、俺の周りに青年団のメンバーが集まってきて腕を引かれた。
「慶、飲みに行くぞ!」
 は?
 なぜにいきなり?

2020.08.11
【三】
 ボクらはクリーニング店の二階に移動した。昔は家族で住んでいたが、今は元ちゃんだけが一人で住んでいる。
 俺が配達に来るのは元ちゃんが飲む酒と昼間おじさんとおばさんが飲む水や清涼飲料だ。
「へ?」
 俺が?姫役?
「女性陣、いないじゃないか。みんな東京に行っちゃって、残っているのは中学生以下。なら、慶がやるのが適任…」
「待て!何故俺が姫なんだ?」
「可愛いから」
「は?」
「身長160センチだしな、サイズ感も丁度良い」
「訳分からん!」
「そんなんどーでも良いんだ、団が手放したんなら俺らにもチャンスがあるってことだろ?慶、口説かれろ!」
 は?
「なんだ?元ちゃんも、悦くんも、陽(はる)くんも、大(だい)ちゃんも、貞(さだ)くんも、俺で良いの?」
「馬鹿だな、慶がいいの!いままでは団が慶のこと独り占めしてたから手出しできなかったけど、これからはみんな積極的になるからな!」
 なんか…いきなりモテ期?
「で?慶は団じゃないとダメなの?」
「うん、今はフラれたばっかりだから、ちょっと…」
「なら…」
 おい!人の話を聞け!
 五人の目の色が、変わった。

 五人が代わる代わるボクにキスしてきた。
「なん…、みんな酔ってる?」
 笑いながら問うたが、真剣な顔で流された。
「まず、俺たちをその身体に刻んでくれ」
 え?身体に刻む?
「ちょっ…何する!」
 全員の手で着ていた服を脱がされる。最後のパンツも簡単に脱がされた。
「止めろって!んっ」
 声を出さないようにと、唇を塞がれる。
「んんっ…んっ」
 くそっ、キスとか久し振りすぎて…気持ちイイ。
「んふ…」
「慶の声が変わったな」
「気持ちいいんじゃないか?」
「よしよし」
 え?
 身体の真ん中にあるオトコの象徴を貞くんが触った。
「んんー」
「きもちい?」
「んんー、んっ、んっ」
 あ、しゃぶられてる…気持ちイイ。
「んふ…ん…」
 その内、乳首にしゃぶり付く者、怒張を握らせる者、脇の下を舐める者がいて、全身嬲られた。
「んふ…ん」
 快感が全身を走る。
「おい。」
 元ちゃんの声だ。
「慶はバージンだからな、バックは口説いたヤツの特典としないか?」
「それ、良い案だな。慶とセックス出来るヤツは一人だけ。」
 せ、せ、セックス?
 首を左右に振り、キスをかわした。
「待て!セックスって、なんだよ!」
 元ちゃんがその答えを教えてくれた。
「団が慶を守ることを自ら退いたので、みんなでその役割を奪い合っているんだ。」
「なら、そんなことしなくても…」
「さっき、陽が言っただろう?慶の身体に俺たちを刻んでくれと。」
 ブルッと、身体が震えた。
「イヤだ、イヤだイヤだイヤだ!」
 首を左右に振り続ける。
 その間もぺニスは吸われ、乳首は弄られ身体を勝手に自由にされていた。
「そんなに暴れたら、キスが出来ない。」
 元ちゃんが頭を押さえに来る。
「俺の、しゃぶって。」
 ジャージのゴム部分を腰までずらし、ガチガチに勃起したそれを口に押し当てられた。
「ほら」
 鼻を摘ままれてしまった。
「いつまで我慢出来るかな?」
 口を少しだけ開けて息を吸ったのが、バレた。
「はーい、慶の負け。」
 グイと押し込まれた。
「歯を立てないでね」
 圧倒的な大きさに歯を立てるなんて状態じゃないことを悟る。
 仕方ないので黙って口を開けていた。
 元ちゃんは勝手に出し入れしている。
「はぁー、慶の口まんこ、気持ちイイ。」
 なんだよ、それ!
「元ちゃん、代わってよ。」
「イッたらな」
「おう」
 イッたら?どこに出す気だ!
「うっ、出る」
 喉の奥に熱い飛沫がぶち撒かれた。
 ゴクリ
 音を立てて飲み下して…しまったじゃないか!
「お、良い子だ。大、代わるよ。」
「やった。」
「その前に慶、脚を閉じてて。」
 貞くんが両脚を閉じさせた。
「ここでね、擦って貰うんだよね」
 素股かよ!
 俺の脚の間を貞くんのチンポが擦るから、俺のチンポも擦れて気持ちイイ。
「ほーら、慶ちゃん、お口が疎かですよ〜」
「ぐぅっ…」
 また、チンポが口に突っ込まれる。
「ひやっー、気持ちイイ。」
 大くんが歓喜の声を上げる。
「慶ちゃん、お手々も握ってね?」
 悦くんが俺の乳首を捏ね回しながら、俺にぺニスを握らせている。
 部屋中に淫靡な音と声が響く。
 いつまでも、乱交は続いた。

2020.08.12
【四】
「誰が絆されるもんか!」
 俺は全員を正座させると、宣言した。
「姫役はやらない!」

 とは言ったものの、翌日早速、悦くんがやって来た。
「慶、デートしよ?」
「行かねー」
 地元の大学は夏休み。俺は今日も朝からボンヤリと店番をしていた。
「慶は大学出たら酒屋を継ぐんだ?」
「うん。いつかそこに角打ち作ってみんなが集まれるようにするからな。」
 商店街の活性化は俺の悲願だ。
「じゃあさ、車出すからホームセンター見に行かね?」
 …もう、絆された。

 ホームセンターの帰り道、夜の田んぼの畦道に車が止まった。
「んんっ…止め…ろっ」
 シートベルトで固定されているため、身体が上手く動かせない。
 悦くんの手は、淫らに俺の肌を弄る。
「気持ちいい?」
 パンツの中でゴソゴソ動かされ、イカされた。
「悦くんの、バカ」
 でも、すげー気持ち良かった。

 翌日は大ちゃんがウチの倉庫にある、10年ものの古酒を受け取りに来た。
「はいよ」
「さんきゅー」
 ガタッ
「んっ」
 倉庫の中、棚にずらりと並んだ酒瓶を倒さぬように大ちゃんの暴挙を受け止めた…ところ、キスされた。
「やっ、離…」
 大ちゃんのキスはしつこかった。
 いつまでも追い掛けてくる。
「マジ…止めろ…って」
 ちゅっ、ちゅっと、吸い付いてくる。
「俺の姫にならねーか?」
「だからっ、俺は姫役はやらねーつってんだろっ」
「姫役なんかどうでも良い、俺の姫になれって言ってんだよ。」
 ちゅっ、ちゅっと、キス責めはいつまでも止まらなかった。

 陽くんは高校の一年先輩。
「こんにちはー」
 家は食堂を経営している。
 瓶のコーラとオレンジジュースを配達に来た。
「おっ!慶」
 ニパッと笑って手を振る。
 イヤな予感…。
 ケースから手を離す直前、背後から抱き締められた。
「慶…」
 首筋に荒い息を吹きかけられた。
「ちょっ…何す…」
 耳をペロペロと舐められた。
「ひっ」
「やっぱり、ここが弱いんだな」
 耳と首と…またパンツの中だ。
 もうっ!毎日毎日、そんなに出ねーよっ!

「イヤだって!」
 貞くん家は陶器屋。
 配達帰りに家の前を通ったら手を引かれて連れ込まれた。
「残念ながら、客は来ねーよ。」
 レジ裏に連れこまれ、乳首をしゃぶられ、勃起したところを兜合わせ。
「あっ…気持ちイイ」
「だよな…気持ちイイよな」
 あっという間に二人とも爆ぜた。

 いい加減、俺も警戒しろってところだが、毎日気持ちイイだけで大きな損害はなかった。
 だから、安心していた。
 みんな、優しいし。

2020.08.13
【五】
「元ちゃーん」
「おう!二階に持ってきてよ」
「はーい」
 元ちゃんから缶ビールを2ダース、注文を貰ってホクホクとやって来た。
「もう仕事終わりだろ?一緒に飲まね?」
「いいね」

 二時間くらいまでは覚えてる。
 でも、すっかり出来上がってグーグー眠り込んでいた。
 そう、油断していた。
 たった五日前、この人に散々乱されたのに。
「んっ…んんっ…」
 何の音だろう?
「あっ…んんっ…」
 なんだか淫らな声音…
ビクッ
 身体が跳ね上がって、目が開いた。
「あ、起きちゃった」
 俺の股間に顔を埋めた元ちゃんがいた。
「なに…あ…んんっ」
 チンポをしゃぶられ、尻孔を穿られていた。
「まだ、誰もここは弄ってないだろ?俺の言ったことに騙されてんだよ。」
 そんなことより、ケツ!ケツから指を抜け!
「止めて」
 なんなんだ?なんて淫らな声!
「いいね、股間に響く声だ。」
 響かなくていい!
「団とヤッてるとき、見てて興奮してた。でも団には釘を刺した、慶が女を抱けなくなるぞって。」
「な…ら…んんっ」
 口を開くと喘いでしまう。
「もう、こんなもんでいいかな…」
 なにが?なにがいいんだ?
「俺が、慶をオンナにしてやるよ。きっちり、見とけよ?」
 大きなクッションに背を預け、自分が犯される様が見えるように脚を大きく開かれた。
「止めて、止め…あーっ」
 ツプッと、元ちゃんの亀頭が入った。
「痛くないだろ?ずっと解してたからな。」
 痛くはないけど、気持ち悪い。ゆっくりと竿が押し込まれる。
「ヤダぁ」
 元ちゃんの、オンナにされちゃう!
「んふんっ…」
 だから!なんて声出してる!
「慶の中、キュッとして、絡み付いてくる」
 キュッとして、絡み付いてくるぅ? そんなわけないだろ!
「あはん…」
 ダメだ、口を開くな!
「ちゃんと、見ろ。慶の孔に俺のチンポが吸い込まれていく様を」
 吸い込んでなんかない!突っ込まれているんだ!
「ああっ…んんっ…気持ち…」
 待て!待て待て!今なんて言おうとした、自分!
「慶、見てくれ!俺たち一つに繋がってる。」
「あっ…あっ…」
「善いのか?」
 首を左右に振る。
「やらぁ…チンポ…」
 その時だった。外側から部屋のドアが開け放たれた。
「やっぱりな」
 悦くんと陽くんと大ちゃんと貞くんがやって来た。
「元ちゃんが言うからさ、元ちゃんが犯るんだろうと、思ってた。」
「あ…やあ…んぅ…」
 中で元ちゃんのモノが大きくなった。
「慶、俺たちも受け入れてくれ?」
 なに?なにを言ってるんだ?こいつら。
 悦くんが前立てを開け放ち、中から勃起したモノを取り出すと、俺の口に突っ込んだ。
「順番待ち。元ちゃん早く済ませて。」
 悦くんが前に立っているから、元ちゃんの表情が見えなくなった。
「悦、それを仕舞え。」
 元ちゃんの低い声が轟いた。
「今日は、俺が慶を口説く日だろう?それこそ順番待ちだ。」
 悦くんは渋々、俺の口から逸物を引き抜き、仕舞った。
「俺は、きちんと手順を踏んで、慶を口説いた。口説いた上で慶がしてくれと強請るから抱いた。なんか文句あるか?慶、そうだよな?」
 え?ええ!?
「…多分」
「覚えてねーのかよ。元ちゃんの好きにしてって泣いて強請ったくせに。」
 元ちゃんは繋がりを深くした。
「四人に、特別に慶の鳴き声聞かせてやるから。明日から頑張れよ。」
「ヤダァ…抜いて…見られたくない」
 いやいや、ここはされたくないだろ?俺がおかしい。
「ああっ、そんな…突かないで…んんっ…そこ…ダメ…ダメなの…ヘンに…なるぅ」
 四人が固唾を飲んで見詰めている。
「やあん…んんっ…気持ちイイ…そこ…気持ちイイの…あんっ」
 もう、訳わかんねー。
「そこばっか擦らないでぇ」
 どうしよ、気持ちイイ、気持ちイイ。
「元ちゃん、出ちゃう、出ちゃうから、止めて…ああっ」
 背を反らせるほど気持ち善くなり、精を放った。
「すげ」
 大ちゃんがぼそっと呟いた。
「もう、元ちゃんでよくない?」
 悦くんが一歩退いた。
「俺、慶をあんなに乱す自信ないぞ。」
 陽くんは真っ赤な顔して興奮している。
「俺は…したい。慶とセックスしたい。」
 貞くんが三人に言った。
「貞、勇気あるな。」
「だって、今を逃したら永遠にないぞ?自分で慶をあんな風に乱れさせたら俺、もう一生しなくてもいいかな。」
 他の三人も悩む。
「まだ、もう一回ずつチャンスはあるからな。そんなわけで慶、覚悟してくれ。」
 待てー!俺の意思は無視か!…でも。
 気持ちイイならいいか。

2020.08.14
【六】
「悦くん、待ってよ」
「待てない。」
「や…ん…」
 悦くんは商店街に住んでいるけど、オヤジはサラリーマンだ。
 犯されるのを分かっていて、俺は悦くんの部屋に来た。
「昨日、気持ち良かった?」
 キスの合間に聞かれる。
「ん…分かんない」
 気持ち良かったから、ここに居るんだが。
「じゃあ、今日は分かるようにセックスしような。」
「ん…ヤダァ…」
「慶のヤダはイイってことだって気付いちゃった」
 因みに、悦くんもサラリーマン。
 今日は有給休暇をとって家に誰もいない隙に連れ込まれている。
 着ていたシャツもジーンズも脱がされて、パンツ一つだ。
「昔から慶は可愛かった。」
 可愛いって言われてもあまり嬉しくない。
「ここ、使われて鳴いてイカされて…そそられた。」
ツプッ
 悦くんの指が中を犯す。
「ん…」
「指1本でも食い付いてくるんだ、すげー」
 なんのこと?
「んんっ…悦くん、気持ち悪い」
「でも痛いのは嫌いだろ?」
「うん、痛いのはイヤ」
 ヌプヌプとしつこく指が出入りする。
「昨日、あの後元ちゃんから渡されたんだ、ローション。」
 元ちゃん、用意周到。
「なぁ、本当に昨日のことは同意だったのか?」
「…うん」
 そう言えと、帰り際元ちゃんに念を押された。
「慶、好きだよ」
 ドキッと心臓が音を立てた。
「あ、ありがと」
 でも。俺はこんなことになっても、まだ団が好きなんだ。
 腰から下を抱え上げられ、真っ直ぐに悦くんは挿入した。
「んっ」
「見える?繋がってるの、分かる?」
「ん、分か…る」
 腹の中、押されてるからな。
「すげー、幸せだ。慶ん中に挿入れられるなんて。」
 みんな、なんで俺に拘る?
 抜かれる度に内臓が引っ張られる。入れられる度に内臓が押し込まれる。
「悦くん、この体位、ヤダ…苦し」
「でも、慶はさっきから一度も見てないじゃないか、俺たちが一つに溶け合ってるところ。」
 溶けてなんかいない…けど。
「腹の方に突き上げてっ、そこ、いっばい擦って」
 自分が感じる場所は、昨日元ちゃんが見付けてくれた。
「あっ、そこ、そこがイイっ、あっ…んんっ」
 超絶気持ちイイ。
「悦くん、気持ちイイ…気持ちイイよぉ」
 「慶、もっと感じてくれ」と、言う割にはさっさと先にイッてしまった。

「あっ…あっ…」
 大ちゃんの膝の上に座らされ、下から挿入された。
 物凄く奥まで大ちゃんのモノが刺さっている。
「俺の、長いんだよな。直腸破れないか?」
「分かん…ない」
 けど、気持ちイイ。
 毎日こんなに気持ち善くて、この先大丈夫か?
 少し腰を上げて大ちゃんの首に腕を巻き付けた。
「あん…善いとこに当たってる。」
「ここが善いんだね?覚えておくよ」
 大ちゃんがゴリゴリと前立腺を突く。
「あんっ…あっ…んんっ…はぁっ…」
 身体を全て預けて喘ぐ。
「この身体に俺の形を覚えさせたい。」
「大ちゃんのチンポ、長くて気持ちイイ」
「慶の中もめちゃくちゃ絡み付いてくるよ」
 尻にグッと力を入れるすると、大ちゃんが呻いた。
「ごめん、イッた。」

 食堂のテーブルがガタガタと音を立てる。
 陽くん家の食堂、今日は休み。
 陽くんの両親は不在だった。
「テーブルが、汚れちゃう」
「拭けば良い」
 俺はテーブルに腰掛け、陽くんは立ったまま、下から挿入し、腹を目掛けて突いてくる。
「やっ…ああんっ…イイ…イイ」
 参った。完全に挿入れられて感じる身体になってる。
「陽…くん…キス…して」
 両腕を伸ばす。
 陽くんは俺の脚を肩に担ぐと、善いところに当たるようにして、キスしてくれた。
「あっ、イクっ、イクイク、イグぅ」
 陽くんと俺の腹に挟まれた格好で、ドプっと、音を立てて射精した。
「ごめ…ん、シャツも汚した。」
「いいって。慶の精液に塗れたシャツだぞ?暫くおかずになる」
「は、陽くん!」
 多分、俺は真っ赤な顔をしていたと思う。顔から耳からとても熱かったから。

「暴れると、陶器が落ちてきて怪我するからな。」
「それより、こんなとこで…」
「恥ずかしい?」
「うん」
 店から少し離れた場所にある倉庫で貞くんとエッチしてる。
 下唇を噛みしめ、声を押し殺す。
「ん…ん」
 棚に手を付き、後ろからペニスを扱かれる。
「慶」
 顎に手を掛けられ、唇を求められ重ねた。
「んふ…んんっ…」
 すると、貞くんは俺のペニスを上下に振り始めた。
「んんっ…」
 てめー、んなことしたら、倉庫んなかぶち撒いちゃうだろ!
「貞…」
「しっ、黙って」
 つーか、イテーよ。
「んんーーっ」
 マジ出るっ!
ギュッ
 おいっ!根元を握るなっ!寸止めか!
「商品、汚すと面倒なんだ」
「だっ…たら」
「でも、虐めると慶が可愛いからさ」
 変態!
 心の中ではずっと悪態をついていたが、挿入れられたら最後、絆される。
「んっ…んんっ」
 相変わらず根元は握られたまんまだ。
 後ろから中を掻き回され、散々感じている。
「貞くん」
「慶、ありがとな」
 なぜか貞くんはお礼を言って果てた。

2020.08.15
【七】
「も、死ぬ」
 最初の夜同様、元ちゃんの部屋に集まり、乱交が続いている。
 今回は挿入されているので俺の身体への負担は増している。
「お願…い…も、休ませて」
 元ちゃんの下で突っ込まれながら、泣く泣く懇願した。
「慶」
 元ちゃんが口付けてきた。
 まだイッてないペニスを引き抜き、抱き締められた。
「慶…好きなんだ。何回抱いても治まらない。慶…君の人生を俺にくれ。」
 すると、悦くんは横から俺を奪い取り抱き締めた。
「俺だって慶をずっと好きだったんだ。これからも俺の下で鳴いてくれよ。」
 …ヤケにゲスい殺し文句だな。
「俺も!」
 大ちゃんが背後から抱き締めてきた。
「団が慶と結婚するもんだとばかり思っていたから我慢していたけど、フリーなら彼氏に立候補する。」
 それを受けて陽くんも抱き締めてきた。
「俺も!俺も慶が好きだ。この先の人生、共に歩んでください。」
 しかし、貞くんは何も言わなかった。
「貞はリタイアか?」
 元ちゃんが聞いた。
「俺は…慶を大切にする自信が無い。抱くときもイジワルしてしまう。こんな俺を慶が選ぶわけが無い。」
 陽くんの腕を解き、俺は初めて自分の気持ちを皆に伝えた。

 祭りの日。
 村に未婚の女性がいないことから、姫役を俺に務めてくれと青年団で決めたが、俺の意思で否決された。
 新婚の始さんと奥さんにお願いして異例ではあるが既婚者が姫を務めた。
「慶が姫をやると思ってた。」
 祭りには帰ってこないと言っていた団は、浴衣姿の俺の横で祭りを見ている。
「お前が、俺を捨てたからな。」
「ごめん」
 団には、他の五人みたいな決意が無かったのだ。
 俺を独占できていると知っていたから、平気で東京の大学へ行ってしまった。
「まさか、そんなことになるとはな…アニキが慶のこと好きなのは知ってた。でも手を出すなんて思わなかったんだ。母ちゃんが見合いをさせたがるのはアニキの気持ちに気付いていたのかもしれない。」
「そうかもな」
「で、どうなったんだ?その複雑な多角形状態は?」
「それなんだけどさ。」

「俺は姫役なんてやらない!誰も皇子役には選ばない。それでいいだろ?もう、イヤなんだ。こんな…破廉恥な性生活、ヘンだろ?ただ自分たちの気持ちを俺にぶつけてきて、俺の意思はどこにもなくひたすらセックスばかりして。そりゃあ、気持ちイイさ、気持ちイイところを弄られるんだから。でも、俺はまだ失恋の痛手から立ち直ってないんだ。ほっといてくれ。」
 そう言い放ち服を着るとさっさと家に帰って本日に至る。
「アニキが相当弱っててさ、俺に助けを求めてきた。」
 団が祭りの前夜、やって来て告げた。
「そんなに、俺が好き?」
「…好きだよ。ずっと、ずっと団との未来しか見ていなかった。」
 そう、俺は馬鹿みたいに団との未来しか見ていなかった。
「団が東京で開業するなら、追い掛ける気でいた。」
 団は、東京の大学の医学部にいる。
「俺は、この村の医療体制に不安を感じたから東京へ行った。しかるべき時が来たら戻ってくる。」
「…東京の彼女も連れてくるのか?」
「別れた」
 俺は団を見た。
「馬鹿だろ?アニキから顛末を聞いて嫉妬したんだぜ。俺の慶を傷物にしたってな。」
 団が俺を見た。
「一緒に、なるか?」
 俺は、首を左右に振った。
「団には幸せで居て欲しい。」
「なら、尚更一緒に居てよ?」
 もっと、早く言ってよ。
 こんな、淫らな身体になってしまって、団に着いていくことなんて出来ない。
 毎夜、団を求めてしまう。
 足枷になりたくない。
「寝る?俺と。」
 耳元に団が囁いた。
「って言うか、慶が知らない間にオトコを誘う身体になってて、嫉妬してる。抱かせてくれ。」
「やだ。団が好きだから、イヤなんだ。」
 一度寝たら次も欲しくなる。
 どんどん欲張りになる。
 今だって尻孔がヒクついている。
 串刺しにされて喘ぎまくって中出しされて、腹下したっていいからいっぱい中出しされたい。
 中、ぐちゃぐちゃにされたい。
 団が、俺のペニスを握り締めた。
「止め…ろ…お願いだから止めてくれ」
「止めない。」
 そのまま神社の裏に連れて行かれ、浴衣の前を開ろげられ、尻孔に指を入れられた。
「こんなに、欲しがっているのに?」
 ピクピクと孔がヒクつく。
「だから。こんな身体なんだよ。」
「俺に埋めさせてくれ」
「やだ。」
 団は後ろから挿入した。
「や…だ、したくない。」
 入れられてなお抵抗した。
「慶、簡単に亀頭が入った。ホント、ヤラシイ身体になってる。もう、竿も飲み込んだ。」
「やらぁ、やめ…て」
 涎を垂らしながら抵抗する。
 グッという衝撃があった。
「俺のチンポ、慶の尻孔が根元まで咥え込んだ。このまましゃぶってくれ。」
 団も、他の人と同じだ。俺の意思に関係なく、俺の身体を求める。
 グチュグチュと音がし始めた。
「ああ…イイ…気持ちイイ」
 もう、抵抗できない。
「んっ…イイ…イイんだ」
 団が切なく喘ぐ。
 抽挿が早くなる。
「ごめん、イク」
 ズルリと、団は引き抜き、俺の脚に精を放った。
「どうして?」
 なんで中に出さない?
「俺、本気だから。」
 え?
「マジで慶を娶る。決めた。遠回りしてごめん。怖かったんだ、男同士なんて汚れてるって。でも、今ので分かった。俺は慶が欲しいんだ。」
 今更…遅いよ。
「もっと、早く気づけよ。散々高校まで俺の身体を弄ってたくせに、突然突き放すなんて。」
 手扱きも兜合わせもしてきた仲なのに、挿入だけ出来なかったって、何でだよ?
「アイツらに、何て言えばいいんだよ。」

2020.08.16
【八】
「お、団、帰ってきてたんだ。」
「よお、団!元気だったか?」
「なんだよ、団帰って来ちゃったのかぁ」
「団、どうだった?」
 元ちゃんを除く四人の反応はこんな感じだった。
 元ちゃんが団の耳元で何か囁いていた。
 途端に真っ赤に顔が染まった。
「で?慶の結論は出たのか?」
「な!なんでそうなる?」
「慶の意思を尊重しただろ?」
「団が皇子役なのか?」
「俺でも良いぞ?」
 みんな相変わらずだ。
「慶が団を選んでも、身体が疼いたらいつでも声掛けてくれ」
 陽くんの言葉に団が反応した。
「そんなこと、させないから。」
「でも団は側にいないだろ?慶、どうするんだ?慶の身体、ヤラシクなったぞ?」
「…知ってる。みんなで散々開発してくれたみたいだな。」
「団が手放したんだから当然だろ?前から忠告してたはずだ、慶を独占したいなら泣かすなって。」
 陽くんが団にそんな風に言うなんて意外だった。
「団、行くぞ!」
 俺は団の手を引くと、大股でその場を後にした。

「あんっ…ああっ」
 元ちゃんの部屋で身体を繋いだ。
「慶、けいっ」
「だんっ…んんっ」
 互いに名を呼びながら抱き合う。
「中、いっぱい出して良いから、もっと擦って。」
 気持ちイイ。
 誰のチンポより、団のが一番気持ちイイ。太さも長さも、俺の直腸にぴったりだ。
「んんっ…亀頭が擦れるぅ」
 ググッと硬度が増す。
「中に、種付けしてっ、熱いの、欲しいんだ」
 自ら腰を振る。
「慶、ホントヤラシイ。でも、良いな、ヤラシイ慶。そそられる。」
 じゅぶじゅぶと尻孔を出入りするチンポ。飽きることなく見続けられる。
「んっ…団のチンポ、俺の尻孔出入りしてる、一つになってる」
「俺のチンポ、溶けそうだ。中熱くて絡み付いてきて、昔から馴染んでたみたいだ。」
「食い千切ってやる」
「していいよ」
「嘘だよ、まだ、抱き合いたいから」
「ん、そうだな」
 グポッ、ヌプッ、グポッ、グチュと、一晩中その音は止まらなかった。
 明け方、酔っ払った五人が帰ってきた。
「あ…んっ」
「おいおい、何時間やってんだよ」
 まだ盛っていた俺たちを見て、団が引き剥がされた。
「俺らにもやらせろ!」
「あうっ」
 早速大ちゃんが突き入れ、突き上げてきた。
「やっぱ、団に譲りたくなーい」
「イヤっ、止めてよ」
「慶、団だけが男じゃないぞ」
「んんっ…」
 団が暴れているが、全員で取り押さえているので身動きが取れない。
「団、よーく見とけ、慶がどんだけヤラしくて、魅力的か」
 大ちゃんが予想できない動きで俺を翻弄した。
「うわぁっ…止め…ううんっ…あっ…ぐぅっ」
 ダメだ、制御出来ない、気持ちイイ。
 シーツを握り締め、背を反らす。
 尻孔をぎゅーぎゅー締め付けてしまう。
「慶、気持ちイイだろ?気持ちイイって、言ってご覧。」
 ヤダ、団の前でしないで。
「んんっ」
 大ちゃんが前立腺ばかりを擦るから、気持ちイイのが止まらない。
「ああんっ」
 突如、唇を塞がれた。
「んぐっ」
 溢れた唾液を舐めて拭き取る。
「慶、もっと乱れて良い」
「団…イヤだ」
 団の手が俺の反り返ったペニスを扱く。
「出して良いよ」
「イヤ…くぅっ」
 ドクンっと、団の手に精を放った。その掌を団が舐める。
「そんな…」
「慶の精子、美味しい」
 その口で俺に口付けた。
「んんっ」
 相変わらず大ちゃんは気持ちイイところだけを擦っている。
「もう、起ってる」
 また、団の手で扱かれる。
「も、止め…」
 大ちゃんが中で大きく膨れて弾けた。
「あっ…中、熱い」
 グポッと、抜けた。
「次、俺ね。」
 陽くんのチンポが突っ込まれた。
「んんっ」
 団がずっと俺のチンポを扱いてる。
「あんっ…あんっ」
「貞くん、一緒に入れないか?」
 え?二本差し?
 貞くんはサドだ。
 陽くんのチンポに沿わせて貞くんのチンポが入ってきた。
「んんっーー、壊れる、壊れる、直腸破れるっ」
 二つのチンポが、交互に出入りする。交互だからチンポ同士も擦れる。
「陽、気持ちイイぞ、これ」
「気持ちイイ」
 俺の意思!また無視されてる。
「ああっ…ああっ」
「慶、気持ちイイ?」
「あんっ、気持ち…イイ」
 二本分の精子が注ぎ込まれた。
 ドロッと、孔から溢れる。
 間髪入れず悦くんが挿入した。
「こんなに入れたのにまだ締め付けてくる。」
「はぁっ、中、気持ちイイ」
 悦くんも前立腺ばかり、擦ってくる。
「団、キスして」
 ずっと俺の顔を見ていた。
「慶、綺麗だ」
 こんな乱れている自分が綺麗なわけない。
 くちゅくちゅと音を立てて口付けをする。
「慶、出るっ」
 悦くんの精子も追加された。
 元ちゃんは、孔の周りをペニスで擦ってきた。
「な、んっ」
 なんでこんな場所が気持ちいいんだろう。
 でも、挿入して欲しい。
「孔がヒクついている。これ、欲しいんだ?」
「うん、欲しい、挿入れて」
 グブッと、ペニスが入ってきた。
「んっ」
「慶っ」
ビシャッ
 団の精液が顔に放たれた。
 はぁはぁと息が上がっている。
 俺の身体中に六人分の精液が次々と放たれた。
「な、団、エロいだろ?」
「けど!皆で回して良いなんて一言も言ってない!今後は手出しすんな!」
 団がやっと、宣言した。
「エロい慶を見て興奮したくせに」
「どうせ団は東京に戻るんだろ?まだ四年も東京だし?」
「こんなエロい身体を慶が一人で慰めるのは不憫だ」
「酷くされるの、慶は好きだぞ」
 布団の上でぐったりと倒れている俺自身は、相変わらず蚊帳の外だった。
 ま、いいか。
 気持ちイイの好きだし。
 みんな、俺のこと大好きみたいだし。
 団もいずれ帰ってくるってわかったし。
 言い争う男達を放って、俺はシャワーを浴びる為に部屋を後にして、浴室へ向かった。

「慶!」
 最近、団は暇を見付けると帰ってくる。
「勉強、間に合うのか?」
「愛があれば勉強なんて」と、訳の分からない言い訳をしている。
「慶が皆の慰み者になっていると思うと、居ても立っても居られない。ほらな?」
 俺の手を団の股間に導く。
「起ってるだろ?」
「お前は変態か?」
「変態結構、しよ?」
 団は俺とのセックスに填まってしまったようだ。なら、もっと早くに掴まえておけば良かった。
 五人の男達も諦め悪く誘ってくる。俺も団に内緒で会う。
 だって!
 気持ちイイんだ。
 物凄く気持ちイイだ。
 団が帰ってくるまでだから、許せ。
 その代わり帰ってきたときはいっぱいしていいから。
 男の生理は男にしかわからないだろ?
 今夜も俺は、誰かの下で喘ぎ、誰かの腹の上で踊る。
 …留年しない程度に。

2020.08.17
【それを僕は受け入れられるのか】
【一】
 それは、突然来た。
「貴水(たかみ)先輩、入学式の日からお慕いしています。好きです。」
 高校二年の誕生日の朝、通学途中に一年の後輩から告白された…男が男に。
「あ、ありがとう。」
「これ、誕生日プレゼントです。良かったら使ってください。」
 僕の好きな、リ○ックマのスポーツタオルだ。…スポーツタオルまであるんだ…と、感心していたら、後輩が手を握ってきた。
「良い返事を待っています」
 ん?良い返事?
 後輩は去って行った。
「ははは、こんなこともある…ん?」
 一緒に通学している幼馴染みの航平が、手にしているのは東急ハ○ズのプレゼント包装。
「俺からも。おめでと。」
 え?生まれて初めて、航平からプレゼントを貰った。
「あ、ありがとう。でも、どうしたんだ?」
「うん。貴水は、さっきの子の名前を知ってるのか?」
「鈴木くんだろ?同じバトミントン部の後輩だよ。」
「そっか。…あのさ、俺も、貴水が…好きって言ったら…ダメかな?」
 えっと、今日は僕の誕生日以外に何かあったっけ?四月一日じゃないし。
「まあ、男子校だしな。うん。」
 全く答えになっていない。
 そんなこんなで学校に着いた途端、担任教師に呼び止められた。
「おはよう、木澤(きざわ)、三津木(みつぎ)。」
「おはようございます、高見沢(たかみざわ)先生。」
 すると、高見沢先生が、僕の耳元で囁いた。
「木澤、今後のことで話がある、ホームルームの後で廊下で待ってる。」
 今後のこと?って、なに?
「は、はい。」
 緊張する。
 正門を抜け昇降口に辿り着いた。
「おはよう、木澤。あ、三津木はちょっと席外せるか?」
 そう言って航平が、外された。
「おはようございます、佐和田(さわだ)先輩。」
 バンッ
 いきなり、壁ドンされた。
 顔が至近距離にある。
 思わず目を閉じた。
 すると、直ぐ近くに吐息を感じ、少しだけ目を開けたら不敵に笑われた。
「木澤、これからは名前を呼んでいいか?三津木みたいに。」
「はい。後輩も名前で呼んでくれてます。」
「貴水。」
 いきなり呼び捨てかよ!
「付き合ってくれ」
「…何にですか?買い物?下見?」
 佐和田先輩とは何回か一緒に出かけている。
「不純同性交友…ダメか?」
 え?また?
「えっと…その…」
「考えておいてくれ」
 おーい、なんなんだよ!学校全体で僕にドッキリか!?
 教室へ向かう道々、誕生日プレゼントが僕を襲った。その数、七。
 教室で待っていた航平が、ビビった。
「マジか?」
「それ、僕のセリフ」
 両手にプレゼントを抱えた図なんて、今までの僕からは想像も出来ない。とりあえずロッカーに放り込んだところで、高見沢先生がやって来た。
 目が合い、心臓がドキリと鳴る。
 ホームルームは難なく終わり、教室を出た。
 それを追うように高見沢先生が扉を開けた。
「木澤。」
「はい」
「誕生日おめでとう…今夜、お祝いさせてくれないか?教師としてではなく、一人の男として。」
 高見沢先生の目を見ると、ウルウルとした光をたたえている。
「今夜…ですか?今夜は先約があるので、明日…とかは?」
 あからさまにガッカリした表情をしたが、直ぐに立ち直り「じゃあ、明日」と言って去って行った。
「期待してくれて、いい。」
 な、な、な、何を期待するの?
 なんなんだ、一体!

2020.08.23
【二】
 結局、その後もクラスメートやら旧クラスメートやらと、色々なところから計十二個のプレゼントとお誘いがあった。
 「とりあえず今夜は航平と約束してたからな。」と、言った途端に思い出す、今朝の一言。…あのさ、俺も、貴水が…好きって言ったら…ダメかな?って、ダメだろ、普通。
 男が男に惚れるのか?
 分からない。
 航平はいつもと変わらずに僕の横に居る。
 そう言えばいつの間にか僕より背が高くなったんだな。
「貴水、今夜は…」
 目が合った。
「どうし…」
 気付いたら航平の腕の中に居た。
「あんなの、見たくなかった。」
 あんなの?
「なに?何を見たんだよ?」
 抱き締められていることの動揺よりも、何を見たかの方が気になる。
「貴水、誰と付き合ってたんだよ…」
 え?ええっ!?
「航平、何?」
「一昨日の晩、SNSに貴水のイヤラシい動画が流れてきた。」
 え?
「なに、それ?」
 心当たりが無い。
 航平を引き剥がし、その動画の内容を聞き質した。
「裸の貴水が男に後ろから抱き締められて、首元にキスされて…喘いでた。」
 ……あ。
「それって、30秒くらいじゃね?」
「身に覚えが有るんだ」
「航平、僕には兄弟が何人居るか、知ってるな?」
「泰斗、大輝、大賀、太陽、貴水、拓人の6人。泰斗が社会人、大輝と大賀が双子の大学生、太陽が高校三年、拓人が一年。あ。」
「その、あ、だよ。太陽と拓人。」
 あいつら〜。
 上三人は家を出てる。でも高校生の三人がまだ、家に居る。
 太陽と拓人はいつも僕で遊ぶんだよ。参った。
「まさか、あの動画が原因?」
 航平は大きく溜息をついて僕の顔を見た。
「多分。俺も煽られた。「貴水、明後日誕生日だよな?プレゼントは、俺で良いか?」って言ってて…」
 なんなんだよ!それ。
「焦ったよ、貴水に彼氏がいたなんて、こんなに近くに居たのに気付かなかったなんて。」
 ん?待て。
「貴水、俺と付き合ってよ。」
 待て、待て待て。
 拒絶すれば良いだけなのに、出来ない。
「航平は…僕が、好き…なの?」
 悪いが、僕は女の子が好きだぞ、って返せば良いんだ。
「んっ」
 待て、待て待て待て待てーー!
 なんで航平とキスしてんだ?
 しかも、気持ちイイなんて。
 くちゅんと音を立てて唇が離れた。
「航平、」
「好きだ」
 航平の顔を見た途端、何も言えなくなった。
 幼稚園から一緒に居るんだ、太陽と拓人と同じく兄弟同然に思ってた。
「今夜、来てくれたら…嬉しい。けど…」
「ごめん、航平。行けないよ。だって、」
「なら、高見沢先生なら行くのか?」
 顔を上げ航平を見た。両目から涙がポロポロと流れていた。
「そう言うことなら、行かない。だって僕は…恋を知らない。」
 そうなんだ、僕はまだ、恋をしたことが無いんだ。
「泰斗が彼女を連れてきたときも、大輝と大賀がエロ動画見ながら女の子の話してたときも、太陽と拓人がイヤラシいことしてきても、好きな人が居ないからピンとこないんだ。…航平、恋するってどんな気持ち?」
「なら、今夜来て。教えてやるから。」

2020.08.24
【三】
「太陽!」
 家に帰り着くなり、自室に居た太陽にクレームを入れた。
「お前ら二人で、何してくれたんだよ!」
「いいじゃん、そんなに沢山プレゼント貰ったんだから。それにさ、動画流したの今回が初めてじゃないし。」
 太陽がしれっと言った。
「ま、今までは顔出ししてないからな。」
 そう言いながらタブレットを弄って何かを表示した。
「全15作」
 なに?
 僕は慌ててタブレットを手に取り、動画を再生した。
『やめろって…んっ』
 これは、太陽が僕に抱き付いてきて…乳首を弄くったときのだ。
『なにす…んんっ』
 これは拓人が寝起きに首筋を舐めてきた。
『いい加減にしろよなぁ〜』
 シャワーを浴びているときに太陽がドアを開けた。
 寝ているときパジャマを開けられていたり、尻を出されていたり、どれもこれも兄弟同士で他愛もなく戯れているもので、どれも短い動画だ。
「いいじゃん、貴水は彼女いないし、男心をそそる身体してるし。」
 え?男心をそそる?
 太陽が耳元で囁いた。
「…じゃなきゃ、こんな動画撮らないし、プレゼントもこんなに来ないよ?やらせてくれるって、思われてるんじゃね?」
 やらせて?
「教えてやろうか?男のカラダ」
「だから、僕で遊ぶな!」
 どいつもこいつも!
「俺は、好きだよ?貴水が。」
 な。
「そんなこと、信じるわけ無いだろ?どうしてそんな簡単に好きとか言うんだよ!」
 太陽の腕が僕の腕をとり、引き寄せられた。そしてそのまま抱き締められた。
「貴水が、ここに居てくれるだけで、嬉しい。こうして泣いたり、笑ったりしてくれるのが嬉しい。貴水が怒ると胸が痛い。」
「太陽、協定違反。」
 グイッと後ろに身体が引っ張られた。
「拓人?」
「毎日、貴水のベッドで俺が寝てるの、気付いてないだろ?寝ぼけて抱き付いてくるの、知らないだろ?…俺のファーストキスが貴水だって、知らないだろ?…好きなんだよ、俺ら。」
 おいっ!
「ごめん、今、頭が着いていかない」
 僕はフラフラとその場にへたり込んだ。
 なんか。
 どこに行ってもどこに居ても、貞操の危機ってやつじゃねーか?
 くそー!恋してぇー!
 そうしたら皆に堂々と好きな人が居るって言えるのに。
 今の僕にはなんの決め手も無い。
 ん?
 決め手なんて必要なのか?
 そもそも、僕は男好きじゃない。
 …でも、女好きでもない。
 恋を知らないんだから。
 どーするんだよー!

2020.08.25
【四】
「よく来られたね。」
 航平が大きく溜息をついた。
「ま、太陽と拓人が俺を牽制しているのは、動画のアドレスが送られてきたときに気付いたけどな。」
 僕は一歩後退る。
「だ、だから、まだ、その、誰が好きかは、分からないんで、その、な、答えは、保留…って言うのはダメか?航平っていう友達は失いたくないんだ。」
 航平がずいずいと迫ってきて、佐和田先輩以来の壁ドンをされた、10時間振り?
「望みのある、保留なら受け入れる。望みのない保留なら却下だ。」
 航平の顔が近付く。
「こ、航平って、イケメンなのな。」
 今、それは必要か?
「貴水は、女神のように綺麗だ」
「お、お、お、お、女か…よ…」
 突っ込みに勢いが付かない。
「た、た、拓人がさ、ファーストキスは僕だって言うんだ。なら、僕のファーストキスも拓人なのか?つーか、いつだ?」
 喋っていれば、不穏な空気も払拭できるかと思いつつ…。
 しかし、航平は僕の顎を指で上向かせると、唇が触れるか触れないかの位置で「貴水のファーストキスは、俺」と、囁き、当然の如く口付けた。
「口、開けて」
 一度離して囁くと再び口付ける。
「んっ」
 どうしよう、気持ちイイ。
 くちゅくちゅと音がする。
「んっ…ふっん」
 唇が離れた。
「騙されたと思って、俺と付き合え」
 身体に力が入らない。
「今日は、誕生日なのに。良いことがないよ…」
 航平は僕の身体を抱き締めたまま、「俺と付き合うの、そんなにイヤか?」と言う。
「イヤとか、イイとかじゃなくて、」
「好きに、させてやるから。後悔させないから。」
 ツキンと、身体のどこかが痛んだ。
「ホントに?」
「ああ。」
「なら、仮でいいか?」
「仮でも何でも、貴水の恋人という位置があれば、それでいい。」

2020.08.26
【五】
「なに?」
 太陽と拓人が同時に振り返った。
「だから!航平と付き合うことになった。」
「ヤダ、貴水は俺んだ!」
 拓人が抱き付いてくる。
「暑苦しいな、離れろ!」
 貼り付いている拓人を引き剥がし、太陽が腕を引く。
「誰と付き合ったって、俺のとこに戻らざるを得ないんだ、貴水は。」
「なん…」
 不敵に笑ったかと思うと、噛み付くようなキスをされた。
「貴水は、俺から離れられない。」
 ドンと、ドアに突き飛ばされ、階下から母親が煩いと怒鳴った。

 航平も、太陽も、拓人も、僕の何が良いんだろう。
 何度も寝返りを打ち、やっと眠くなってきた頃、僕の横に滑り込んできた。
「貴水…太陽じゃなくて俺を選んでよ」
 僕の身体を抱き締めてスヤスヤと寝入った。
 …こういうことか。半分寝ぼけているんだな。
 僕は唯一の弟に甘かった。
 すっかり寝入った頃、突然の感覚に身体が跳ねた。
「拓…人?」
「あ、起きちゃった」
 動画にあった光景を上から見ている…なんて冷静に観察している場合じゃない!
「なに、してる?」
「俺さ、貴水と一緒じゃないと寝られないんだ。」
「100歩譲ってそれはよしとしよう、なんでそんな所を舐めてる?」
「だって、貴水気持ちイイでしょ?」
「気持ち悪いわ!」
「えー!?貴水の乳首、感度良いのに」
「兎に角、自分のベッドに戻れ!そして僕のベッドに来るな!」
 参った。前途多難だ。

2020.08.27
【六】
「おはよう…」
「おはようって、やつれてないか?」
 航平はさらりと腰を抱く。
「だから、そういうことはいらないから。」
「ダメ。貴水は俺の彼氏だから。」
 うっ。
「で?太陽と拓人は何を仕掛けてきた?」
 渋々話すと、航平が黙り込んだ。
「航平?」
「今日、話を付ける」
 え?
「俺の貴水に手を出すなと…ね。」
 航平…。
「ありがと。」
「だから言ったろ?俺にしとけって。」
「うん」
 さて、問題の高見沢先生だ。

「返事は?」
「あ、その…実は、僕…恋人が、います。」
 うわぁ、小っ恥ずかしい。
「誰?」
「航平…三津木」
「三津木か…待つよ。別れるまで。どちらにしたって木澤が卒業しないと、結婚は出来ないからな。」
 えっと、日本の法律に同性婚はあったかな?
「木澤は成績も良いし顔も綺麗だ。スタイルも良いし欠点がない。理想の恋人じゃないか。」
 褒められているのか?
「でも、僕は航平と付き合うことに決めたんで、先生とデートは出来ません、ごめんなさい。」
 言った!
 よし、これで回れ右をして帰るんだよ!
 右足を半歩後ろに下げたところで、左手首を掴まれた。
「三津木は…三津木も非の打ち所がない立派な生徒だ。木澤に釣り合うのは三津木しかいない。しかし、私なら直ぐに木澤を幸せに出来る。」
 高見沢先生の左手が僕の腰を抱いた。
「先生、ここ、学校…」
「そうだな…」
 寸での所で留まってくれた。
 流石に二日で三人の人間とキスはしたくない。
 いや、違う。
 先生とはキスしたくないんだ。
 なら、航平はいいのか?太陽はいいのか?
 答えはまだ出ない。

 放課後、部活へ行き、鈴木君と佐和田先輩にも謝った。
「僕…恋人が出来たんです。」
 その言葉に少し気持ちが揺れた。
 仮の恋人なのに?
 まだ、好きじゃ無いのに?
 他にプレゼントをくれた人にも、購買でノートを買って謝りに行った。
 その時、言われた一言に衝撃を受けた。
「貴水君の恋人って動画の人?」
 …動画…忘れていた。

2020.08.28
【七】
「拓人、絶交するぞ…」
 もう、怒る気にもならない。
「なんだよ、この動画。」
 拓人の机の上のパソコンで再生したのは、昨日太陽が見せてくれたタブレットのものとは違った。
「こんな…破廉恥な…」
 手の指先が細かく震えた。歯の根が合わない。カチカチ音がする。
『んっ、んっ』
 拓人の声と一緒に水音がする。
「貴水の、美味しいんだよ?」
「そうじゃ、ないだろ?」
「流石に貴水の下半身は動画で流せないからこれは俺の個人的なコレクション。あと」
 尻孔に指を入れられていたり、カメラに露出されていたり、やりたい放題だ。
「お前、僕を痔にしたいのか?」
 その問いに拓人が大笑いした。
「違う、俺は」
 急に真面目な顔になった。
「俺は、貴水とセックスしたい。貴水のここに捩じ込んで鳴かせたい。」
 拓人の指が僕のズボンの上から尻孔を挫く。
「やめろ!」
「貴水のチンコ舐めて、イカせたい。精液を飲みたい。貴水にいっぱいヤラしいことしたい。」
 両手で顔を挟み込まれ、キスされた。
「んっ」
 ヤダ、ヤダ、ヤダ!
 拓人とは嫌悪しかない。
 ドンドン身体が仰け反っていく。
 離して欲しい。
 強い力で、拓人の身体が引き剥がされた。
「太陽!なにすんだよ!」
「お前は、負けたんだよ。貴水の顔を見ろ。」
 慌てて顔を背ける。
「拓人のことは弟としか思っていませんって書いてあるだろ?」
「太陽は違うのかよ!」
「昨日、見てなかったのか?好きって書いてあっただろう?貴水は、一人じゃ満足できないんだろ?」
 何を言っている?
「淫乱だからな」
「太陽はそうやって自分に都合の良いようにばっかり解釈してるじゃないか!貴水がなんか言ったかよ!」
 そっか、僕が言わないから拓人がつけあがるのか。
「ごめん、拓人。」
「ちょっと待ってよ!それじゃあ、俺には付け入る隙が全くないって事なの?これから本気で口説いてもダメなの?」
 …普通は有り得ないだろう?…と言うのも躊躇われるほど、真剣な目をしている。
「まぁ、頑張るくらいなら…」
「貴水、この何年かで一度でも拓人に絆されたか?」
 なんだか、こんなことに煩わされているのが馬鹿らしくなってきた。
「つーか、二人ともおかしいだろう?僕たちは兄弟で男で恋愛対象にならないだろ?なんで僕なんだよ!もう、ほっといてくれ!」
 三度、太陽に壁ドンされる。なんだかなぁ〜。
「なら、航平とも別れろ」
「なんでだよ!」
「今のお前の屁理屈に合わないからだ。」
「…なんで、航平を敵視する?」
「あいつだけ貴水と同じ高校に行ってるからだ!」
 そんな時だけ二人揃って言うんだ…。
「それは、僕らが悪いんじゃない、お前ら二人が馬鹿だからだろ!」
「それは、否定しない」
「なら、航平は無罪放免だからな!僕には航平が必要なんだ。」
 宿題の提出期限とか課題のグルーブワークとか課外授業とか、兎に角航平が居ないと快適な高校生活を過ごせないんだよ!
「航平が、必要?」
 僕がグルグルと考えている間に、太陽が拓人と何か話し合っていた。
「仕方ない、ヤる」
 ヤる?犯るってことか?逃げないと!
 慌てて部屋を出ようとドアを目指したが、太陽に背後から羽交い締めにされた。
「拓人」
 どうしてこの二人はこんなに息が合っているんだ?
 ズボンを下ろされ下着を剥ぎ取られ、下半身を露出された。
「だーかーらっ!いい加減にし…あっ」
 拓人が敏感な場所を咥えた。
「やめ…ろって」
 上目遣いで僕を見る目が、イヤラシい。
「ホントに、イヤなんだ。」
「貴水の意思は聞いていない、今は身体に思い知らせるだけだ。」
「お前ら…んっ…もっと…頭…使えよっ」
 右足を上げ拓人の肩を蹴り上げ、太陽に肘鉄を食らわす。
「いい加減にしろっ!」
 バンッ
 部屋のドアが開いた。
「貴水!」
 航平が飛び込んできた。
「今夜、話があると言いましたよね?太陽、拓人!」
「航平!」
 下半身丸出しでなんだが、僕は航平に駆け寄った。
「拓人、貴水のパンツとズボン、投げて。」
 渋々拓人が投げて寄越す。
「貴水のアップしてある動画は全部見た。これは、俺に対する挑戦状ってことだよな?なら、一切手を引いて貰おう。貴水は、俺のモンだ。」
「航平、そのことだけど、」
「お前は黙ってろ!」
 え?
「身体をお前らに開かれたら、コイツのことだからそればっかり求めるようになっちゃうだろ?そんな高校生活を貴水に送らせたくない。大体、どうして貴水が俺と同じ高校に入れたか、分からなかったのか?」
 太陽が何か言おうとしていたが、空しく口を閉じた。
「おじさんとおばさんには話してある。俺の家に連れて行く。」
「待って、それだけはやめて!」
 拓人が悲鳴のような声を上げた。
「貴水に会えなくなるなんて、ヤダ…貴水、本当に俺はダメなの?こんなに、好きなのに。」
「ダメだ。」
 航平は一刀両断にした。
「情に絆されたらダメだぞ。お前は一流の大学に行って皆に求められる人間になれるんだ、ここでこの二人に地の底まで落とされていいのか?」
 地の底まで…確かにそうだ。ここで気持ちイイことされたら、そのことが頭を離れなくてきっと毎晩二人を求めてしまう。待て待て、僕がって言う前提自体おかしい、二人が毎晩僕を求めるって言うのが正しいだろう。
 そんな娼婦みたいな生活をしたくない。
「航平、連れて行ってくれるか?」

2020.08.29
【八】
「ちょっ、話が違うだろ?んっ…」
 航平の部屋に着いてからずっと、航平は僕にキスを求めて止まない。
 唇は勿論、首筋やら頬やら背中やら瞼やら顔中ありとあらゆる場所にキスしてくる。
「貴水は、俺の恋人なんだろ?」
「んっ…仮のって、言ったよな?」
「仮の恋人だって、恋人は恋人。世界でただ一人、貴水にイヤラシいことしてもいい人間…だろ?…しないけど。」
 ちゅっちゅっというリップ音が、夜更けまでずっと続いた。
 その内、航平は僕の手をパンツの中に入れさせて、航平のモノを握らされた。
「この、太さと長さを覚えて欲しい。いつか、貴水が欲しいと思ったら、あげるから。」
 んっ…なんか…ジンとする。
「欲しいって、どうするんだよ?」
「それはまだ秘密。貴水は知らなくていい。ただ、さっき貴水の見ちゃったからさ、あいこ。」
 なんだ、そういうことか。
「航平、律儀だな。別に良いのに。」
 航平の勃起したモノは、熱した鉄棒みたいに熱くて、ガチガチに硬くて、親指と人差し指で作った輪よりも太くて、親指の先から小指の先よりも長くて、先端から蜜を溢れさせていた。
「航平、こんなに起ってるけど…手でしてやろうか?」
 航平は口をパクパクさせて顔を真っ赤に火照らせた。
「いいの?なら、俺も貴水の、してやるよ。自分以外の手でされると、相当気持ちイイらしい。」
 へー、自分でするより気持ちイイのか。興味湧く〜。
 航平の手がボクのパンツに入ってきて、ギュッと掴まれた。
「あんっ」
 おいっ!なんて声出してる!
「んっ、気持ちイイ、貴水…こんなことしてたら、太陽と拓人…と同じになるな」
「違うよ、僕たちのはおしっこと一緒、出さないと寝られないから。」
「そっか」
 航平のが、ビクビクと動く。それを感じて、僕もビクビクと動く。
「貴水、気持ちイイのか?」
「うん、気持ち…い」
「手ん中、出していいぞ」
「ん、もう少しで、出そう」
 航平はパンツから僕のを引き出すと、航平のに擦り付けた。
「な、や、気持ちイイ」
 頭が爆発しそうだ。今まで得たことのない気持ち良さだ。
「航平、出るっ」
「貴水、イクっ」
 二本のチンコから精液が溢れ出た。
「ヤラし、航平の顔」
 照れ隠しでそう言ったら、口に噛み付かれた。
 無理矢理口の中に舌を入れられ、上顎をゴシゴシ擦られた。
 すげー、気持ち良い。
 くちゅん…切なげな水音が響いた。
「ごめん、俺も初めての事だから上手く出来なくて…」
「え?初めて?すっげー気持ち良かったけど?」
「初めてに、決まってる」
 航平に抱き締められて、腕の中から見上げた顔は照れくさそうに横を向いていた。
 好きになると、触れたくなるのか。
 だから太陽も拓人も僕にやたらと触れてくるのか。
「好きになるって、切ないんだな」
「そう、片思いって切ない。けど、楽しい。だって頭の中、貴水でいっぱいになって、考えただけで胸がキュンとなるんだ。いつの日かを夢見たり、恐れたりするんだ。」
 航平の胸に頬をすり寄せ、「これが、いつの日か、なのか?」と、問うた。
「まさか」
 航平の腕に力がこもる。
「貴水が俺のことを好きって言ってくれて、初めて恋が成就するもんだろ?」
 再び組み敷かれ、キスが降ってきた。
「んっ」
 航平のキスは気持ちイイ。いつまでもしていたいと、思った。
「明日は、家に帰る。」
「うん。あの二人も反省しているだろうから、もう大丈夫だろ。」
 航平の腕の中は安心して眠れた。

2020.08.30
【九】
「航平に、飼い慣らされたな?」
「そんな感じだな」
 翌日、家に帰ったら相変わらずな二人がいた。
「夕べ、二人で取り決めた。貴水に拒否権はない」
 そう言って手渡されたスケジュール表。
「一日置きに名前が書いてあるけど?」
「ま、楽しみにしておいてくれ」
 どうも太陽は苦手だ。
 夕飯後、部屋で課題を仕上げていると二人が戻ってきた。
「貴水の学校は課題が多いんだな?」
「もう終わったみたいだね」
 終わってなくても終わらせるんだろ?
「一緒にお風呂入ろう?」
 口調は同意を求めているけど、両脇を抱えられて強制的に立ち上がらせられた。
「いいよね?」
 否定するものは何もない。
「狭くないか?」
「大丈夫」
 …大丈夫なわけだ、拓人に背後から抱えられるように湯船に浸からされた。
 当然、拓人の手は股間にある。
「拓…人、やめ…ろって」
 湯の中に先走りがゆらゆらと漂う。
 「父さんと母さんはもう入って寝ちゃったからね、少しくらい長湯でも平気。」
「ん、んんっ」
 夕べの航平とは、違う。
「貴水、イッていいよ?俺の手でイッて?」
 何が、違うんだろう?
「拓…人、気持ち…良くない、出そうにない」
 我慢していない、どんどん気持ちが萎えていく。
「貴水、好き」
 拓人の低く抑えた声が耳に直接囁かれた。
「あ…んっ」
 ビクリと、股間のモノが跳ねる。
「貴水…可愛い」
 反対の耳に太陽が囁く。
 太陽は洗い場でシャワーを手に、股間を念入りに洗っていた。
「これ、味わってみないか?」
 鼻を摘ままれ、口に突っ込まれた。
「んっ…やっ…んぐっ」
 抵抗したが咥えさせられてしまった。
「歯は立てるなよ?唇を窄めて…そう、上手だ」
 ジュルッジュルッと、口の中を出入りする、太陽のモノ。
 拓人のは僕の尻に当たっている。ドクドクと脈打っているのがわかる。
 扱かれて、口を犯されて、ヘンな気分になってしまう。
「貴水…口を…開けろ」
 太陽が慌てて引き出すと、僕の胸に射精した。
「まだ、口に出されたくはないだろ?」
 荒い息の下、太陽が僕の頭を撫でた。
「もう、いいだろ?拓人も手を放せ」
 ザブザブと湯を波立たせて、僕は浴室を後にした。
 太陽をイカせたことが屈辱的だ。
 兄弟と性的な関係にはなりたくない…と言いつつ、既にこんなことになっている。
 キッパリと拒絶しないと、ズブズブになってしまう。
 我が家には子供部屋と称した小部屋が二部屋ある。
 泰斗は三畳間にベッドの下に机を設置した備え付け家具で過ごしていた。大輝と大賀の双子は四畳半に同様の備え付け家具があり、太陽、拓人、僕の三人は六畳間にベッド三つに壁際に机用の棚がある。
 上三人が家を出たときにそうすれば良かったんだ。僕は泰斗の部屋に引っ越した。
 南京錠を付けて二人が入れないようにした。
 これで、被害が減るはずだ。

「だから三人で寝てたのか」
 翌朝、航平が溜息をついた。
「ま、遅きに失した感は否めないが、やらないよりはやった方が良いかな。言ってもダメだとは思ったけど、俺はまだ貴水を手折る気はない。」
 今朝も航平は腰を抱いてくる。でも、嫌悪感はない。
「これだけどさ」
 航平の手を指しながら「太陽と拓人にやられるとムカつくけど、航平だとないんだよな、何でだろ?」と、率直な感想を述べた。
「貴水」
「ん?」
「拓人の動画、全部見てないよな?」
「うん」
「後でアドレスを送る。」
 授業中、それは届いた。早速再生してしまった。
ガタッ
 あまりの動揺に太股が跳ねてしまい、静まりかえった教室内に大きな音を響かせてしまった。
「どうした?木澤?」
 高見沢先生がこちらを見た。
「すいません、そこのゴミをゴキブリと見間違いました。」
 ゴミなんて落ちてないけどな。
「なんだ、ゴキブリ苦手か?可愛いな。」
 …先生…その発言、撤回してください。
 いや、そんなことはどうでもいい、この動画はどうやって消したらいいんだ?
 っていうか、寝ているときに出来るのか?
 わからねー!あー!どうしたらいいんだー!
 頭を抱えていると、航平がやって来た。
「授業中に滅茶苦茶動揺してたな」
 気付いたら授業が終わっていた。
「航平、行くぞ」
 弁当を手にし立ち上がる。
「はいはい」
 航平は黙って着いてくる。
 バトミントン部の部室に飛び込むと、早速航平に質問攻めだ。
「あの動画、一般に公開されているのかな?」
「違うと思うよ?俺に直接送ってきたし、パスワードあるし。ただ、インターネットに詳しい人だと見付けられるかもしれない。」
 定位置に着くと弁当を開け、黙々と口へ運ぶ。
「航平は、どう思う?…やられてるのかないのか」
「素股じゃないのかな?」
「素股…あぁ」
 って、なんだ?どうもそういうことに疎くて。
「いいか、これだろ?」
 航平が箸を口に咥えて、スマホで動画再生する。
「貴水の太股が閉じてるだろ?足の付け根に差し込んでやってるように太股で擦るんだ、で、射精する。女の子でも同じようにするんだ。性器が擦られるから女の子は気持ちイイらしい。」
「航平、詳しいな」
 途中で弁当を口に運んだが、再びスマホを操作して別の動画を再生した。
「これは、コンドームか風船に水溶き片栗粉を手の中に仕込んでタイミングを見計らって出す。」
 こ、航平?
「こっちは、口の中に水溶き片栗粉を仕込んだコンドームを入れて、貴水が射精したかのように装ってる。」
「これは?」
「顔とアナルが一緒に映り込んでいない。多分拓人の尻だろ。」
 え?拓人の尻にこんなに指が入っちゃうの?
「貴水、今指の本数にビビった?」
 え?航平って超能力者?
「貴水を見てれば分かる。その内、貴水と太陽が繋がってる動画をアップすると思う。でも相手は拓人だ。」
 え?太陽と、拓人?
「この動画は俺に当てて作ってるんだ。貴水が二人に触られて嫌悪するって事は、この時の感覚が残ってるんじゃないかな?」
 弁当を食べ終え、蓋を閉める。
 それを見計らったように、航平が迫ってきた。
「貴水、キスしたい」
 僕の返事なんか待つつもりないくせに。
「んっ」
 また、くちゅん…と音を立てて口腔内を舌に擦られる。
 気持ちイイ…。
 うっとりとされるがままでいたら、舌を吸われた。
 ぐちゃぐちゃと湿った音が部室内に響く。
「んんっ」
 煽られるっ。
 薄目を開けて航平を盗み見た。
 貪るように僕に口付けている。
 なんか、わかる気がする。
 僕も、航平としたかった。
 両腕を首の後ろに回し、グイと航平を引き寄せた。
「貴水」
「航平」
 名を呼ぶ間だけ唇を離した。直ぐにまた触れ合い水音を響かせた。
 何でだろ?アソコが、痛い。
 ゆっくりと唇を離した。
「俺、待てるかな?自信がないな」
 航平の切ない呟きを、聞いてしまった。

2020.08.31
【十】
「胸が、痛い?」
 事もあろうか、僕は泰斗のアパートに出掛けて行った。
「うん。航平の事考えるとチクチクと胸が痛くなるんだ。で、太陽と拓人の事考えるとムカムカする。」
 仕事から帰ったばかりの泰斗は、それでも真剣に話を聞いてくれた。
「貴水、初恋はいつだ?」
「うーん、僕は恋ってもの自体がよくわからないんだ。」
「なら質問を変えよう、貴水は俺のことを好きか?」
「うん、いつも相談に乗ってくれるから頼りにしてます。」
「太陽は?」
「イジワルだから嫌い」
「拓人は?」
「可愛いとは思うけど、嫌いかな?」
「大輝は?」
「優しいから好き」
「大賀は?」
「ケチだから嫌い」
 泰斗が笑った。
「なら、航平は家族じゃないけどどうしていつも一緒に居るのかな?」
「え?だって、幼馴染みだし、学校一緒だし、僕のこと褒めてくれる。」
「好き?嫌い?」
「好きとか嫌いとかで括りたくない、大切な友達。」
 ヤバい、また胸がツキツキと痛む。
「ううん、大事な恋人」
「え?恋人?」
「うん、付き合って欲しいって言われて、仮に付き合ってる。」
「そっか。キスした?」
 え?
「言いたくないか」
「した」
 被せるように肯定していた。
「そっか。その先は?」
「その先?」
「ペッティングとか、セックスとか」
「してない、してない!」
 慌てて否定する。
「触りたいと思わないのか?」
 触りたい?
 航平に?
「…キスしたい…のは、触りたいのとは違うのかな?」
「俺は、貴水に触りたいよ?」
 泰斗の手が、僕の頭にそっと触れた。
「可愛くて甘やかしたくて、君の体温…つまり、生きているって感じることかな?ま、それは俺だけどね。あ、俺は貴水のこと抱きたいとかキスしたいとかは思ってないから安心して。純粋に弟として愛してるから。家を出たのは女の子連れ込みたいからでーす。」
 …聞いてない、そこまで。
「キスしたいって、航平に言ってご覧、喜ぶから。その時貴水の心臓がドキドキしたら恋じゃないかな?」
 え!?
「そ、そうなの?」
 僕は急いで家路に着いた。
 途中、航平の家に寄り道した。
「どうした?」
 航平の部屋で、航平の横に座り、航平の顔を見た。
「キス…したい…ダメ?」
 最後まで言うか言わないかの辺りでキスされた。
「んっ…ふっんっ…」
 やっぱり気持ちイイ。
 航平のキスは気持ちイイ。
「んんっ」
 舌を軽く吸ってみた。すると腰を抱かれた。
「貴水、煽んなって」
「ん…だって、気持ちイイんだ。もっと、して?」
 くちゅくちゅといつまでも離せないで居た。
「これ以上してたら、唇が腫れ上がる。」
 航平に止められた。
「こんなに欲しがってくれるのに、好きか分からない?」
 ど、どうしよう…キスしたいって言ったとき、心臓が痛かったかどうか、覚えてない!
「航平!デートしよう、デート。」
 瞬時に浮かんだ言葉。
「貴水とデート出来るなら、行きたいところがあるんだ。」
「どこ?」
「海」
「去年も一昨年も行ったじゃないか」
「太陽と拓人もいない、二人っきりで。ダメ?」
「二人っきりか。いいね。なら、今週末、行こう。」
 七月末になるとクラゲが出るから梅雨の晴れ間を狙って行くのがベストだ。
「幸いにも空梅雨だからさ」
 しかも太陽と拓人は試験勉強が忙しい。
 僕は航平に勉強のやり方を教わってたから、試験勉強をしたことがない。当然航平も。
 二人には教えてやらなかった、別々の高校に行きたいと航平に言われたから。

「ただいま」
 玄関を開けるとほぼ同時に太陽が出て来た。
「遅かったな」
「母さんにはメールしてある」
 これ以上は何も言わないぞ、という勢いで靴を脱いだが、ヒューマンリレーションが負けているのか、また抱き留められてしまった。
「あいつ、あんな事言っておいてお前に手を出しただろ?」
 無視無視。
「双子の部屋で、しないか?」
 無視無視。
「貴水、俺のこと好きだろ?」
 どこからそんな自信が湧くんだろう?少し羨ましい。
「太陽、頭ん中それしか無いのか?」
「ない。寝ても覚めても朝から晩まで、貴水が俺の下で善がり狂う姿しか妄想できない。最近は夢で見ることも出来るようになったぞ。夢の中の貴水は素直で可愛い。」
 流石に玄関先でキスは出来ないらしい。
「父さん、帰ってきてるの?」
「まだだ」
「なら、離れた方が良いよ?外で車の停まった音がした。」
 渋々太陽が腕を離す。と、ほぼ同時に父さんが帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい。遅かったね。」
「貴水もまだ制服じゃないか。」
「うん、泰斗のとこに行ってた。」
 あからさまに態度を変えた気配が横でした。
「泰斗、元気だったか?」
「うん。折角家を出たのにまだ彼女は居ないみたい。」
「それは貴水の目が節穴だな。泰斗にはかなり深い仲の人がいる。」
 え?父さん、聞いたの?
「六人も息子が居たら、大体分かる。太陽、お前も執着している人が居るだろ?」
 太陽?
「いるよ。父さんの、知ってる人。」
「そうか。あまり、困らせるなよ。」
 父さん、困らされ捲ってます。
「貴水、航平くんに迷惑を掛けないようにな。飯は食ったのか?」
「うん、泰斗んとこで。」
 父さんは、部屋に入ってしまった。呆けている太陽を残し、僕も部屋へ逃げ込んだ。
 そう言えば、泰斗に航平とペッティングとか、セックスとかしたのかって聞かれたけど、ペッティングって何だ?
 みんな知ってるのか?
 …この歳になって知らなくて良いのか?
 何だか不安になってきた。

2020.09.01
【十一】
 ペッティングについてはインターネットで調べて分かった…ので、泰斗の質問に嘘をついたことに気付いた。
 航平と、してしまった。
 太陽と拓人には勝手に散々弄ばれていたようだが、同意の上ではないので数に入れない!
 肝心なのは誰もが恋をするのか?みんな性について知っているのか?だ。
「貴水、それは相当の対価を求めても良いのかな?」
 聞く相手を間違えた。
「佐和田先輩ならご存じだと思いまして…」
「ご存じって言うか、貴水は精通、あったよね?」
 無言で頷いた。
「その時、性的興奮はなかったのか?」
「朝起きたら…」
「なんか夢見たんじゃないか?可愛い女の子?男の子?」
「さあ?」
「一般論からすると性的興奮があって精通がある。俺の場合は風呂でシャワー掛けたら気持ち良くなった。何回かしている間に、出た。」
 性的興奮…まさか!
「佐和田先輩、ありがとうございます、大変参考になりました!」
 航平にはこんなこと聞けなかった。
 やっぱり僕の人格形成にあの二人が関わっているんだ。
 同室だったからいけないんだな。
「貴水先輩!僕の精通も聞いてください!」
 男子校、初めてラッキーと思った。
「弟と一緒に風呂に入ってて、洗ったら気持ち良くなったから弟に気持ち良いよって言ったら、やってみろって言われて。で、二人で触りっこしてたら僕だけイッちゃいました。弟はそれから自慰に目覚めてしまっていつでも触ってて母に怒られてました。」
 鈴木君の話から、次々と証言が集まった。
 貧乏ゆすりでイッたとか、エロ本だとか、女の子のパンツ見てとか、本当に十人十色である。
 「同級生の家で触りっこしてたら出た」と証言したのもいた。
 性的興奮は外的要因が主であることも分かった。
 …初恋のタイミングはどうなんだ?
「先輩、恋人がいるのに初恋まだなんですか?」
「いや、あくまでも好奇心というか、取材というか…」
「小説でも書くのか?」
「いや、課題…」
 そんなこと課題で書けるか?
 同級生で隣に座った女の子とか、幼馴染みとか、幼稚園の先生など、そんなに多岐には渡らなかった。
 「初恋は女の子だったけど二度目は男の子だった」というヤツもいた。その子は今、コスプレイヤーになっているらしく、女の子のような顔立ちで身体の小さい子だったそうだ。なんでも「守ってやらないといけない」気持ちにさせられたそうだ。
 僕も、そうなのだろうか?
 「先輩は違います」と、鈴木君が耳打ちした。
「先輩は宝石を手に入れたいって感じです。綺麗なもの独占したい、出来れば泣かせてみたい。」
 …ん?なんか少し前に聞いたな、そのセリフ。

 航平に手を引かれ屋上に続く階段の最上階の踊り場に来た。
「どうした?」
 背中に問う。
「何で、俺に聞かない?」
 まあ、部室で騒いでいたから気付かれるだろうとは思っていた。
「…聞き難いことも、あるんだよ…」
「好きでもないのに?」
「最近の航平、イジワルだな。」
 泰斗に聞いたこと、部室で聞いたこと、全部引っくるめたら僕は航平を憎からず思っているんだと思う。でも決定打がない。
「イジワルなのは貴水の方だ。俺は好きなのに。他の人とイチャイチャされたら嫉妬するのに。」
 え?
「ちょっと待って。あれもイチャイチャに入るのか?そうしたら僕は航平以外の人間には接触出来なくなるぞ?」
 素早くこちらに振り向くと、触れるだけのキスをされた…物足りないと感じる。
「俺は、貴水に触れられて、初めてイッた。」
 ん?
「小三の時、帰り道で手を繋いでて…車が来て端に避けたとき貴水の手の甲が当たったんだ。その瞬間イッた。精通は小五の時、夢で貴水を犯して、朝、パンツがガビガビになってた。」
 な…
「こんな俺が、怖いか?貴水の事ばかり考えてる人生なんだよ。」
 小さく首を左右に振りながら「怖くない」と、答えた。
「犯すとか、ませた子供だったんだな。僕は性的なこと、全く分からないんだ。だから、聞いた。恥ずかしくて航平には聞けないだろ?」
 「恥ずかしいんだ」と、航平が呟いていた。
「んっ」
 航平はきっと、キスをしないと身体が静まらないのだろう、深いキスをしてきた。
 長々と口腔内を犯されて、離れた。
「俺は、恥ずかしくても聞くから。貴水が頼ってくれたら嬉しい。」
 帰ろうと、手を繋いでくれた。

2020.09.02
【十二】
 大輝と大賀は大学の寮に居る。
 受付で家族であることを告げ、部屋に通された。
「二人一緒なんだ?」
「そうなんだよ、少し広いだけで家と変わらないよ」
 大輝はのほほんとしていて、ボンヤリしている。部屋の片付けは一切やらない。
「広い分、掃除は大変だがな。」
 大賀は神経質できれい好き。常に整理整頓している。
 二人を足して二で割れば丁度良いのに。
「何で家を出たか?そんなの決まってるじゃないか。」
 大輝の視線の先を見て納得した。ベッドの横にコンドームの箱があった。
「夕べ、父さんが泰斗に深い仲の人が居るって言われて、女性じゃないと気付いたんだ。そうなると我が家は断絶だな。六人も居るのに。」
「貴水は航平だろ?跡取りには拓人がいるじゃないか。」
 え?普通に航平って言われた。
「えっと、僕何も言ってないけど。それに拓人もダメなんだよ。」
「太陽と泰斗がああだから、」
「ちょっ、なに?泰斗って太陽なの?」
「知らなかったのか?」
 家の兄弟、頭ん中沸いてる。
「なら昨日、見当違いな相談してたんだ」
「貴水は泰斗に何を相談したんだ?」
「最近太陽と拓人に迫られて困ってるって」
「なら、今頃太陽は攻め殺されてるな」
 案の定、太陽はその夜、帰ってこなかった。

 週末。航平と二人で海に来た。
「俺、マジで嬉しいんだけど。邪魔が居なくて。」
「邪魔と言えばさ、泰斗と太陽が付き合ってたって、知ってた?」
「嘘!ならどうして貴水にちょっかい出すんだよ?」
「知らね」
 海の家で着替えて、浜辺に出た。
 既に砂が焼けて熱い。ビーチサンダルを履いていても熱い。
「海入ろう、海海!」
 梅雨明け前の海は、地元民くらいしか海水浴客が居ない。
 少し沖へ出ただけで、人気がなくなった。
「貴水っ」
 なに?なになに?突然名を呼ばれたぞ?
「呼んだ?」
「そこ、クラゲ」
 なに!
 慌てて航平に寄る。
「なーんてね」
 立ち泳ぎをしている最中に腰を抱かれた。
「折角だからくっ付きたかったんだけど、嫌?」
「…良いけど」
 触れられたところが熱い。
「立ち泳ぎだから足を蹴るかもよ?」
「そうか。」
 言いながらキスをされた。
「こ、航平!」
ゲシッ
 …足を蹴った。
「ごめん」
「じゃあ、浜まで競争」
 …おい、それはフライングしすぎだろ!
 ヨボヨボと泳ぎ始めたものの、全然追いつかない。
 キョロキョロと航平を探していたら、水中から現れて抱き締められた。
「好き。貴水が、好き。」
 寂しそうな声が、僕を包んだ。
「俺を、好きになって。俺を、選んで。」
「航平、分かったから。放して。」
 浜の視線を一身に浴びている気がする。
 好奇の目に晒される自信がない。
 砂浜に戻ると、救護員が駆け寄ってきて「大丈夫ですか?」と聞かれた。
 好奇の目ではなく、心配の視線だったのだ。
「あ、俺が潜水して打つかっただけです、スミマセン」
 航平が謝った。
「無事で良かったです」
 救護員は和やかに戻っていった。
「…ふざけるからだ」
「ごめん」
「少し休もうか」
「うん」
 海の家で借りたパラソルの下で、かき氷を食べながら航平を見た。
 航平は、僕を見ていた。
「…どこが、良いんだよ?」
 少し、考えた。
「どこだろ?強いて言うなら存在かな?」
「なんだそれ?」
 僕は笑った。
 そっか、そんなものなんだな。
「深く、考えたらいけないんだな。」
「えっと、考えることではなく、感じるものなんじゃないかな?」
 感じる?
 どうやって感じる?
「俺はさ、触れたところがゾワゾワするんだ。」
ゾワゾワ?
「イヤなゾワゾワじゃなく、嬉しいゾワゾワ。」
「そんなことがあるんだ。」
 嬉しいゾワゾワ。
 身に覚えが、ある。
「…航平、その…好き、かも。」
「え?」
「その、ゾワゾワ、知ってる。」
「ストップ。その先はじっくり聞く。後でな。」

2020.09.03
【十三】
 海からの帰り道、航平の家に寄った。
「航平…と、キスすると、感じる。他の人とは違う」
「俺以外の人とも、キスするんだ。許せないな。」
 航平の手が頬に触れた。
 来る!
 期待に胸が踊る。
「んっ」
 やっぱり気持ちイイ、ゾワゾワする。
「貴水、あのさ、」
 航平にしては歯切れが悪い。
「ごめんっ」
 そう言うといきなり股間を握られた。
「なにする…ん」
 明らかに失望した表情だ。
「ここに、響かない?」
 うん、静かです。
「俺の、こんななんだが。」
 導かれた先は恐怖を感じるほどに硬く屹立している。
「すごっ」
 そこで気付く。
 好きになると性的に興奮するとは、そういうことなんだ。
「あ!だからあの時一緒にヌいたんだ!」
 航平がガッカリした表情で こっちを見た。
「つまり、貴水は俺とのキスだけ、好きなんだな?」
「今のところは」
「ま、いいや。何か一つ、好きでいてくれる所があれば。」
 その時の航平の寂しそうな顔を見て、僕の心は痛んだ。

 元泰斗の部屋を使っているって事は、太陽にとっては凄くイヤなことなんじゃないのかと、気付いた。
「太陽、ちょっと良いか?」
 三人部屋に赴き、呼び出した。
「大輝と大賀から聞いた。僕があの部屋を使ってても良いのか?」
「違うっ!」
 太陽は物凄い力で僕を壁に縫い付けると、唇を塞いだ。
「んっ、やっ」
 顔を左右に振りながら避ける。
「なんでくっ付いたの?」
「犯されたんだよ!好きだって言われて、ホイホイ着いていったらヤられた。続いてるのは、気持ちイイから。でも好きなのは貴水、お前なんだよ。」
「それじゃ、泰斗が不憫だ。」
 僕には好きって感情が分からない。
 誰かに執着する気持ちが分からないんだ。
「太陽、好きって感情がどうして生まれてどうやって育てるのか、教えてよ。僕には、分からないんだ。」
 なぜだか、涙が零れた。
「みんなが必死になって好きとか言うから、羨ましいんだ。誰かを好きになりたい。」
「なら、」
 太陽は、僕を部屋へ引きずり込んだ。
「ヤダ、止めろって」
「…言っただろ?気持ち良くなったら好きになる。」
 部屋に、拓人は居なかった。
 ベッドに押し倒されるとまた、キスをされた。
 パンツに手を入れられて手で扱かれたけど、恐怖から全く反応しない。
「やっ、止め…」
 スエットの下とパンツをズリ下げられて、尻を丸出しにされた。
「なにすん…」
 やだ、あの、動画で見たヤツだ。尻の穴、グリグリするヤツ。
「あっ…ああっ…ヤダっ」
 太陽の指が出入りする。
「こんなことして、何になる!」
「ここを使って、身体を?ぐんだ。」
 身体を、繋ぐ?
「気持ち良くなって、俺に縋って泣くようになる。そうすれば好きになる。」
 わけ、分かんない。
 ぐちゃぐちゃと音がする。
「太陽、太陽の言ってること、ヘン…だよな?身体を?いで気持ち良くなったら好きになるって。なら太陽は泰斗が好きって言ってる。」
 太陽の動きが止まった。
「そうだよっ!俺は泰斗が好きなんだよ!なのに、泰斗は、いつだって貴水の事ばっかり話すんだ。だから…貴水が俺のこと好きになれば、泰斗も俺のことだけ見てくれるかと思った。」
 僕の身体から離れた隙に急いでパンツとスエットを履いた。
「その辺については、大丈夫、僕は…」
 航平を選ぶと、言ってやれば良いのだ。
 でも。
 嘘は言えない。
「兄弟だけは、受け入れることが出来ないんだ。」
 そんな最悪のタイミングで部屋のドアが開いた。
「貴水は、どうしても俺たちを受け入れる気がないんだな…」
 ドアにもたれたまま、拓人が寂しそうに微笑んだ。
「ごめん。感情の前に頭が働いてしまって、太陽も拓人も兄弟としか捉えられない。でも、太陽が泰斗と恋愛してても嫌悪はないから。大輝と大賀にしたって、兄弟だ。」
 拓人がドアから身を離すと、僕の前に来た。
「最後に、キスしていい?そしたら、諦めるから。弟に、甘んじるから。」
 拓人の手が、僕の手を握った。
 顔を上げると、優しくその唇が触れてきた。
「貴水…大好き」
 そう言って胸に顔を埋めた。
「貴水、俺も、ちゃんと兄を演じてみるよ。」
 太陽が、泣き顔のまま微笑んだ。

2020.09.04
それを僕は受け入れる≪それを僕は受け入れられるのか2≫
【一】
 木澤貴水は、17歳の誕生日からモテ期に突入した(らしい)。
 部活の後輩や先輩、担任教師や同じ学校の生徒から幼馴染みに実の兄弟まで、兎に角行く先々で口説かれる始末。
 現状では幼馴染みの三津木航平が一歩リードしている。
 兄弟からのラブコールは何とか解決した。
 しかし、校内がまだ未解決である。

「ん…ふ…」
 航平のキスは気持ちイイ。
 完全にクセになっている。
 昼休みの部室で、デザート代わりのキス。
「貴水ってもしかして恋愛オンチ?」
 今更聞く?
「好きなタレントもいないし。」
 いないね。
「貴水が好きなのって…」
「猫」
「だよな」
 深い溜息。
 昔から猫を飼いたいと言っているが、世話をしなくなったら困るからと母が許さない。
「猫耳買おうかな?」
 なに!?
「でも、俺より貴水の方が似合う」
「そんなことない、航平なら似合う。」
 そしてかなりそそられる。
 ここで僕は禁句を口にしてしまった。
「猫耳の航平となら、出来るかも」

 うわぁーーーーっ!
 出来るって何が出来るんだ?
 航平が言うとおり、僕は恋愛オンチの上に淡白が度を超していて、自慰とか性交とか全く興味が無いので知識として分からない。
 ただ、小学生の時に大輝と大賀が一緒にお風呂に入ってて、剥かれて弄られた。気持ち良かった。
 それから何度か風呂場で触られて精通した。
 双子はそれで満足したらしく、以後なにもしなくなった。
 触らなければ気持ち良くならないんだと悟り、触らないようにした。
 トイレでも小便器は使わずに洋式トイレを使った。
 僕が射精するときは誰かに促されるときだ。
 因みに勃起したら最後、出すまで辛いと教えたのは泰斗だ。
 で、航平と何をするんだ?

2020.09.05
【二】
「それは三津木に聞いたら良いのではないかな?」
 高見沢先生は不貞腐れ気味に答えた。
「そんなことしたら理解する前に実践されてしまいます。」
「俺だって説明できる理性があるか自信がない。」
 階段の踊り場で高見沢先生に遭遇したので聞いてみた。
「木澤が俺と懇ろな関係になる気があるなら、教えることも吝かではないが。」
 ねんごろなかんけい?やぶさか?
 なんだ?
 頭の中にクエスチョンマークが多発しているところ、先生は僕の顎を捉え、口付けをされた。
 胸を突き放し、身体を離した。
「な、な、な、何を!」
「可愛いな、貴水」
 な!なんで先生が名前で呼ぶ?
「放課後、教室に残っていて」
 放課後の教室!?
 何?なに?ナーニー?!
 そして、放課後。
 一度部室へ行って時間を潰し、教室に戻った。
 航平には適当に言い訳をして帰した…かなり不振を抱かれていたが。
「待たせたな」
 高見沢先生がやって来た。
「まず、男女交際についてだ。男女が付き合うのは、子孫を残すという自然な本能による行動だ。しかし、同性同士が交際することについては、全く生産性はない。自身の幸福を追求するのみだ。よく、考えてみろ、昔は見合い結婚が多かったが今はほぼ恋愛結婚だ、それは自身の幸福を追求しているからであって、異性でも同性でも関係ない。これが俺の持論だ。」
 そうか、恋愛は繁殖行為を正当化するものなんだな。
「で、交際するとしたいこと。それは相手に触れたくなる。最初は手を?ぐ、抱き合う、キスをする、素肌に触れたい、裸で抱き合いたい、一つになりたい。こんな感じだ。」
 一つに、なりたい?なんか前にも言われたな?
「お前、アダムとイブとか、古事記とか知らないのか?」
「あ、私の出来過ぎた器官と貴方の不出来な器官?」
「なんだ、知ってるんじゃないか」
「それが、なにか?」
「出来過ぎた器官がペニス、不出来な器官がヴァギナ。」
 そうか…ん?
「もしかして!」
 だから、太陽と拓人は尻孔を弄るんだ!
 そう言えば航平に見せて貰った動画に、そんな物があった。
「分かりました、ありがとうございます!」
 席を立とうと、腕を引かれた。
「淫行教師…だな」
 自らそう言うと、膝の上に座らされた。
「やめて…くださ…んっ」
 シャツの上から胸を触られた。
「ダメ、ヤダっ」
 股間を握られた。
「ヤダ、強くしないで」
「乱れて良いよ、気持ち良くしてあげる」
 やっと、兄弟から解放されたのに。
 幸いにも直接じゃないので刺激は小さい。
 頭の中で(いつも通り)数式を唱える。
 段々冷静になってきた。
 航平、帰さなきゃ良かったと、後悔したところだった。
「貴水、いる?」
 ドアの向こうで航平の声がした。
「三津木はいつも良いところにやって来るな」
 高見沢先生は手を放した。
「続きは恋人にして貰え。三津木、木澤ならここに居る」
「せ、先生?」
「貴水?」
 先生と入れ違いで航平が入ってきた。先生は耳元で何か囁いている。
 真っ赤な顔をして航平が飛んできた。
「なんで?なんで言ってくれないんだよ?」
 なにが?
「痴漢に遭ったなんて…俺が守ってやるから!」
「え?あ…うん」
 僕は思わず航平の胸に顔を埋めた。
「…キス…して?」
 あ。
 航平は慣れた手付きで僕の顎を指先で持ち上げると、そのまま口付けた。
 ヤバい。心臓がバクバクいってて、耳鳴りがする。
 これか?
 これが泰斗の言ってたヤツか?
 なら、僕は航平が好きなんだ。そうか。
 あん。そこ、上顎、そんなに舌で擦んないで。気持ちイイ。
 航平、気持ちイイよぉ。
 その時だった。
 血液が下半身に集まったような感覚に襲われ、目眩がした。
 貧血かと思った。
 ガチガチに勃起していた。
「あっ、ああっ」
 動揺した。
 航平とキスすると、こんなになるんだ。
「航平、ヤバい、起ってる!」
 僕は、航平と生殖行動をしたいと思っている…んだよな?
 なのに、航平は嬉しそうに笑ってて。
「うん?」
 そう言って、制服のズボンのファスナーを当たり前のように下ろした。
「なにす…んっ!バカっ、汚いっ!」
 航平は、ガチガチのヤツを口に咥えたのだ。
 あっ、まっ、やっ…
「イクッ」
 航平の口の中で爆発した。
「はっ、なに、飲んで…バカっ、バカぁ」
「貴水、恥ずかしいのか?俺は嬉しい。俺に感じてくれて。」
 そう言えば、航平の家に泊まったとき、航平が大きさと長さを覚えろって言って握らされたとき、勃起していた。
「航平…も、僕と生殖行動したいのか?何も、生み出せないぞ?」
「貴水、そこには愛が生まれるんだって。」
 …愛?
「好きとは、違うのか?」
 また、分からないことが出来てしまった。

2020.09.06
【三】
 愛してる、愛なんだ、ILOVEYOU、愛しちゃったのよ…そんなタイトルの歌を何曲も聴いた。
 確か、誕生日にプレゼントをくれた人の中に、「愛しています」と、告白してきた人がいた。
 愛と恋と好きは違うのか?

 相変わらずグルグルと悩んでいたところに、泰斗から今夜遊びに来いとメールが来た。
 ワクワクしながらマンションに向かう。アパートより壁が薄くないという理由でマンションになったらしい。
 鍵は開けておくからインターホンを押さずに入ってくるよう事前に言われていたので、ドアノブを開けた。
「やっ、泰斗っ、やめてっ、いやぁ」
 え?太陽?
 何があったんだ?
「たい…」
 言葉を失う出来事が繰り広げられていた。僕はそれから目を離すことが出来ない。
 太陽は唯一肌に纏っているティーシャツを首までたくし上げられていた。
 両脚を大きく広げ、尻孔に指が三本も入っていた。
 その上にのし掛かっている人は、半袖のワイシャツにストライプ柄のネクタイを締め、スラックスも履いている。この男がティーシャツ一枚の太陽の尻孔を弄っているのだ。
「あっ、泰斗、気持ちイイ、もう、入れてぇ」
 強請っているのは、太陽だ。
「ん、良い子だ。太陽、愛してる。」
「あんっ、泰斗…好き」
 愛してるとか好きとか飛び交ってる。
 そうか、のし掛かっているのが、泰斗なんだ。
 泰斗は、スラックスのファスナーを開けると、中から勃起したペニスを取り出した。
 物凄く大きかった。
「どこに、入れて欲しいのかな?」
「お尻、アナルに入れてぇ」
「可愛いよ、太陽」
 泰斗は手に透明の液体を出すと、自分のペニスに塗った。それを太陽の尻孔にゆっくりと埋めていった。
「ああっ、泰斗、入ってくるっ、泰斗ぉ」
 太陽は泰斗の背に腕を回し、ギュッと抱き付いた。
「いっぱい、動いてぇ」
 ジュブジュブと音を立てながら、泰斗のペニスが太陽の尻孔を出たり入ったりしている。
「んっ、んっん…あはっ…」
 息継ぎも出来ないくらい喘いでいる。
「泰斗、気持ちイイよぉ」
 そっか、この二人、性交してるんだ。
 他人に聞けないことは、インターネットで調べれば良いことを悟った。
 男にはヴァギナがないからアナルを使うと知った。
 だから、太陽と拓人は僕の尻孔を弄くってたんだ。
「あっ、あっ、ああっ、イクッ、イッちゃう」
 航平!
 刹那、航平の名を呼んでいた。
 あんな風に、航平に触れられたい。
 航平に、しがみ付いて揺さ振られたい。
 そっか、僕は知らない間に、航平が好きだったんだ。
 いつ?どこで?
 悔しい。
 航平が好きだと、恋に落ちた瞬間を知りたかった。
「貴水?」
 太陽に名を呼ばれた。
「見られたか」
 泰斗は事故にでも遭ったかのように呟いた。
「太陽、そんなに、気持ちイイの?」
「それ、聞く?」
「あの動画、太陽だったんだ。」
「動画?」
 泰斗が反応した。
「何言ってんだよ、貴水」
 あ、泰斗に内緒だったんだ。
「僕、分かったよ。」
「そっか。じゃあ、俺はまだイッてないから、太陽と続きするから。貴水は帰って。」
 なんだよっ!呼び出しといて!
 玄関ドアを閉める前に、再び太陽の喘ぎ声が聞こえてきた。
 よし!
 航平の所に行く!

2020.09.07
【四】
「で?」
 航平の態度がイマイチ。
「また、キスしたいの?」
「ううん。性交したい。」
「は?」
 航平が鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔で僕を見る。
「航平」
 僕はその場に正座した。
 航平も釣られて正座した。
「航平が好きです。」
 航平の手を握った。
「好きって、分かったばかりだから、この先どうしたら良いのかなんて全く分からないけど、航平に触れて欲しい、僕の全部。」
 突然、抱き締められた。
「ホントに?いいの?」
「うん」
「キス、していい?」
「して」
 チュッと優しく触れ、チュッチュッと、くすぐったくなるようなキスをされ、深く重なった。
「んっ、ふっ」
 気持ち良くて声が出ちゃうんだ、そうか。
「貴水。俺さ、子供の時から貴水が好きなんだ。貴水が初恋なんだ。だから、初めてなんだよ。」
「あ、そうか。」
 航平も初めてなんだ。なんか嬉しい。
「二人でゆっくりと気持ち良くなろ?」
「うん」
 結局この日は素股で完結した。
 でも。
 すげー気持ち良かった。
 航平のちんこが僕のちんこの裏を擦ると気持ちイイんだと初めて知った。
「ああんっ」
 なんて恥ずかしい声が出ても、航平は気にしなかった。
 「貴水、可愛いよ」なんて言われてドキドキした。
「あ!」
「どうした?」
 ベッドから飛び降りると、ガサガサとショッパーから何か取り出した。
「猫耳」
「買ってくれたんだ」
「うん」
 次、ちゃんと繋がろうね、その時には付けるから…と、言われた。

2020.09.08
【五】
「あ」
「あ」
 玄関で靴を脱いだところで、後ろから太陽が帰ってきた。
「よっ」
「うん」
 太陽が目を合わせてくれない。
「出来たのか?」
「まだ」
「その割には遅かったな」
「僕はいいんだよ、それより」
 気持ち良かった?と聞いたらぶん殴られた。
「家で言ったら犯すからな!」
 なんだか理不尽だ!
 プリプリ怒りながら部屋にカバンを置いてパジャマに着替えると風呂場へ向かった。
 ドアを開けると拓人がいた。
「貴水…」
 拓人は切なげに顔を伏せる。
「航平と、付き合い始めた」
「そう」
 素っ気なく言われ、風呂場を出て行った。
 拓人が真面目に僕に恋しているとは思いも寄らなかった。
 だから、僕が航平とのことを惚気ても平気だと思っていたんだ。

「貴水。航平君と友達関係以外の関係になっているそうだが、本当か?」
 朝飯の時、父さんに問われて戸惑った。
「…航平と僕は幼馴染みで同級生だから…」
「そうだな、同級生だな。それを逸脱しないように。」
 そう言って、出掛けて行った。
「昔から航平君と貴水は仲良しよね?」
 母さんがニコニコしながらフォローしてくれたけど、僕と航平の付き合いは後ろめたいことなのかな?父さんに釘を刺されるようなことなのかな?
 この間、許してくれたじゃないか。
 折角これから二人で色々なことを経験しようと思っていたのに。
 意気消沈して学校に向かう。
 元気のない僕を見て航平が心配してくれた。
「貴水は男子校だからオープンだけど、普通は同性愛者って言ったら拒絶されるよ。」
 そうなんだ。
「人を好きになるのに、男女の差はあるの?」
「んー、日本の法律の中に、婚姻は男女とあるように、同性婚は認められていない。そこが後ろ指を指される由縁だろうな。…でも、それでも俺は貴水が好きだよ。世間から否定されても罵詈雑言浴びても、好き。」
 そう言われて自信を失った。
 僕は航平をそんなに強く求めているだろうか?
 やっと恋情に気付けたのに。

2020.09.09
【六】
「んっ、んんっ」
 昼休み、部室で航平とキスした。
 航平とのキスは気持ちイイ。何度しても気持ちイイ。
「航平、どうしよう」
 視線の先に、勃起したペニス。
「抜いてやろうか?」
「航平は?」
 手を触れるとビクリと跳ねた。
 二人でそれぞれのペニスを取り出すと、手で扱いた。
「あっ、あ、気持ちイイ。」
「ん、気持ちイイ。」
 男の生理については男の方がわかり合えるのに。
 どうして同性婚は認められないんだろう?
「あ、イクッ」
「ん、イクッ」
 掌に大量の精子を吐き出した。
 それを、航平は躊躇いもせずに口にした。
「ばっ!何してんだよ!」
「え?」
 何のことか分からないと言った表情の航平が、慌てて掌を拭いた。
「俺、貴水の全てが愛おしいんだ、昔から。」
 え?
「自分の記憶だけだと、貴水を好きだと思っていない時間がないんだ。きっと一目惚れ?なのかな。」
 そんなに長い間好かれていたのに、気付いていなかったのか。
「貴水の記憶の中の俺っていつ頃からいる?」
 航平の一番古い記憶…。
「七五三…かな?」
 三歳の時、お互いの家族一緒に氏神様へお参りに行った。
 特別に着飾ったりしたわけではないけど、男の子も三歳でお祝いをするのがこの辺では当たり前で、航平と僕の二人を囲んで近所の家もやって来て騒いだ記憶がある。
「あん時の航平、可愛かったんだよな。」
 やたらと緊張してて、ジュース一杯飲むのが精一杯だった。
「俺、その記憶はない。」
「航平に稲荷寿司を手渡したらすっげー嬉しそうに笑ったんだよ。」
「マジでか?なんで覚えてねーんだ、絶対そん時の貴水は得意満面で笑ったんだろうな、可愛いだろうな。あーあ。」
「航平は?」
「俺の記憶?幼稚園の入園式。貴水は太陽と手を?いでて、すげー悔しかったんだよ。」
「あ、僕もそれ覚えてる!航平が泣くから両手が塞がったんだよな。」
「そうそう…あん時は既に好きだった。」
 航平の目の色が変わった。
「あ、もうすぐ午後の授業が始まる」
 慌てて僕は部室を後にした。…だってこのままこんな所で、初体験はしたくないからね。
 しかし、中途半端に火が点いた身体は、ずっと燻っていて、二人は無言のまま航平の家に向かった。

2020.09.10
【七】
「んっ…」
 玄関ドアを閉めた途端、航平はキスをしてきた。
「待って…こうへ…んっ」
 熱い掌が僕の頬を撫でる。
「もう、無理だ」
「うん」
 転がり込むように航平の部屋のベッドに二人で倒れ込むと、互いに服を脱がせあった。
「航平、して。航平の入れて!」
 今、僕の頭の中は昨日の泰斗と太陽のセックス。
 あんな風に抱き合いたい。ちんこが張り詰めて痛い。
「あっ」
 その張り詰めたモノを航平は舌でチロチロと舐めた。
「あっ…んんっ」
 気持ちイイ。
「こうへ…い、僕も、したい。」
 航平のちんこを舐めたい。
 互いに股間に顔を埋め、ちんこを舐めたりしゃぶったりしてみた。
「んんっ」
 どんどん気持ち良くなる。
 航平は僕の尻孔に指を入れた、これは既に経験済みだから、意外とスムーズに入った。
 ヌチヌチと出し入れしている。二本に増えたけれど相変わらずヌチヌチしている。三本に増えたとき、中で指が動いた。
「あ」
「気持ち悪い?」
「ううん、気持ちイイ。」
 ちんこが腹に付くほど勃起している。
「これぐらいで入るかな?」
 航平は待ちきれないと言わんばかりにゴムを被せた。
「もう少しゼリー塗り込んどく。」
 僕の孔と航平のちんこにベタベタと塗り込んだ。
「貴水、入れるよ?」
「うん、入れて」
 僕の孔に航平のちんこが押し当てられた。硬くて熱い。さっきまで僕が舐めたりしゃぶったりしていたちんこだ。
「ううっ」
 先端が押し入ってきた。
「うぐっ」
 物凄い圧迫感だ。メリメリと小さい入り口が押し広げられる。
「ぐっ…うっ」
 薄い皮膚が裂けそうだ。
「あっ、あっ」
 ズクッと、腹の奥が重くなる。
「入った。」
 途端、痛みも苦しさも忘れた。
「航平、」
「うん、貴水、俺達今、一つに繋がったんだ。」
 僕の中に航平のちんこが、深々と突き刺さっている。
「うれ…しい」
 息がし難いけど、今、繋がってる。
「動いても、大丈夫?」
「ん、ゆっくりと」
 確かに、確かに航平は最初ゆっくりだった。
 内臓を引き出されているような感覚と、それを戻されるような感覚。
 なのに、段々早くなってきて、そして深くまで届くようになり…。
「うぐっぅ」
 身体がビクンと跳ねた。
 なに?なにがあった?
 何度も同じ場所を突かれることで得られる新しい感覚。
「こーへ、なか、へん」
 ビクビクと、勝手に身体が跳ねる。
「やっ、ヘンになるぅ」
「貴水、どうしよう、気持ちイイ」
 航平が気持ちイイなら、嬉し…。
「だめーーっ、そこ、擦らないでぇ」
 なに?なんなの?この、言葉に出来ない感覚。さっきまでとは違う。
「あっ、あっ、あーーーっ」
ビクン
 大きく身体が跳ねた。と、同時にイッた。
 パタパタと、精液が腹を濡らした。
 両腕を伸ばし、航平に抱き付いた。航平の顔が見られない。
「貴水、もう少し動いていい?俺、まだだから。」
「ん、うん」
 返事をしたけど、腕を解けない。
「貴水、イヤだった?」
「違っ、すご…嬉しい」
 大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
 まず、右腕を離してみる。次に左腕。
「航平、中でイッて」
 太陽が言ってたこと、分かった。
 入れられて擦られて抉られるから気持ちイイんじゃない、好きだと思うから気持ちイイんだ。
「こーへー、好き」
 航平が中で存在感を増した。
「んっ、貴水…出るっ」
 僕の中で航平がビクンビクンと跳ねている。
 ふと、窓に映った二人を見て、赤面した。
 大きく足を開いて仰向けになった自分の姿と、その間に航平が這いつくばっている姿は、決してテレビドラマや映画で観るベッドシーンとは違う、生々しいイヤらしさだ。
 昨日の泰斗と太陽のセックスよりイヤラシい。
 けど、この男を大切にしてあげたい、望みを叶えてあげたい、何でも許してあげたい。
 きっと、この気持ちを愛おしいと言うのだろう。
「貴水…もう一回、しても良い?」
 呼吸が整った途端、航平はそう言った。
「航平の好きなだけ、していいよ?」

2020.09.11
【八】
 家に帰って何食わぬ顔で晩飯を食って、課題を終わらせたところで風呂に入った。
 髪を洗っているとき、風呂場のドアが開いた。
「拓人か?ちゃんとドア閉めろよ、脱衣所濡れるぞ。」
「濡れるのは貴水の尻孔だろ?なに?このキスマーク。肩にも背中にも、胸にも…」
 拓人の指が、航平のキスマークの跡を辿る。
「風呂場は響くからな、航平ん家まで、聞こえるかもしれないな。」
 髪がシャンプーの泡だらけになったまま、僕は腕を捕まれ、風呂桶の縁を掴まされた。
「なにす…やめっ」
 拓人のちんこが僕の尻孔に入ってきた。
「止めろ、ヤダ、すんな…」
 耳元に荒い息が吐き出される。
「貴水、貴水…」
 繰り返される自分の名前。
 拓人は、そんなに僕を欲しがってくれるのか?
 こんな、何もない男なのに?
「拓人が好きなだけ、したら良い。」
 その代わり、僕は一切声を出さない。
ぐちゅんぐちゅん
 結合部から音がする。
 暫くすると拓人の存在感が消えた。
 背後から僕に抱き付いて泣いてた。
「貴水が鳴かないから、萎えちゃったよ。」
 スポンッと拓人のちんこが抜けた。
 その日から、拓人が僕に好きだと言うことはなくなった。

 朝。
 家を出る。
 航平の家の前に航平が立っている。
「おはよ」
「うん、おはよ」
 なんか、照れくさい。
 けど。
 自分から航平の手を取り、?いだ。
「身体、大丈夫?」
 航平は前を向いたまま聞いてきた。
「うん。跡はいっぱいあるけど。」
「部活か」
「腹壊したって言って休む」
「そうだな…来る?」
今日もしたいってことだよな?
「跡が残らないなら」
「そっか、ループに填まるか。服に隠れることころ…って、朝からエロいこと考えてるな、俺」
 そんなこと言ったら、僕は夕べから考えてる。
「航平、バイトしないか?」
 僕は、航平を見た。

2020.09.12
そして僕を受け入れて≪それを僕は受け入れられるのか3≫
【一】
「あっ…んんっ…やぁ…イクッ」
 今夜も汗だくになってセックスしている。
「航平、朝、起きられ…寝てる?」
 僕の上で中に入れたまんま、スヤスヤと眠っていた。
「もうっ、重い…からっ!」
 ヌポッと、航平のちんこを抜いた。途端に寂しくなる。
 航平の下からやっと抜け出し、ゴムを外してやると口を縛ってゴミ箱に捨てた。
 風呂場へ行きタオルとお湯を張った洗面器を持って戻り、航平の身体を拭く。
 まだ、硬く張り詰めたままの航平のを、そっと拭く。
 それでも重量感を失わない。
「仕方ないなぁ」
 声に出すのは言い訳。
 喉の奥まで咥え込み頭を前後に動かす。
 じゅぶじゅぶとイヤラシい音がする。
「たか…み?あっ…気持ちイ…イクッ」
 ドクンと吐精した。
 ゴクリと音を立てて飲み下す。
「ごめん、寝てたか」
「疲れてるもんね」
「いや、それを言うなら貴水だって。…しなきゃいいんだけどな…我慢できない。」
「僕も、同じ。風呂、入る?」
 僕は航平に手を差し伸べる。それを航平は受けた。
「んっ…はぁ…」
 ダメじゃないか、睡眠不足なのにまたしてる。
「こんなに、種付けされたら、航平の、なくなっちゃう」
「貴水は下からタンパク質を摂取してるだけだろ?」
 そっか、タンパク質か。
「って、違うから。」
 航平が中に出した、僕が浴槽に出した。

「航平、時間だよ」
「ん〜、行きたくなーい」
 航平はだるそうに身体を無理矢理起こし、ベッドから立ち上がった。
「おはよ」
 挨拶に応えるように唇を重ねられる。
「サンドイッチ入ってるから、着いたら食べて。」
「悪い」
 航平は身支度を調えると出掛けて行った。
 あれから。
 僕たちは二人でバイトをしながら独立資金を貯めた。
 大学入学と同時に、二人で暮らし始めた。
 今、航平は薬学部に居る。薬剤師ではなく薬の開発の方だ。
 僕は既に大学を卒業して、航空会社に就職した。パイロットをしている。今はまだ副操縦士だけどね。
 今日は休みなので夕べ遅くまでしてしまった。反省。
 しかし。
 航平が出掛けて、洗濯して掃除して、かれこれ二時間くらいしただろうか、身体が疼いた。
「なん…で?」
 自分に問う。
 答えは簡単だ、ずっと夕べのことを思い出していたからだ。
 リビングのソファで下着に手を入れてちんこを扱く。
「あ、航平、こーへーっ」
 左手で乳首を摘まむ。
「んんっ」
 刺激が少ない。
 おずおずと左手を後ろに持って行く。
 中指がやっと入る程度で奥には届かない。
 こんなこと、普段はしないのに。
 今日はどうしちゃったんだろう?
「航平…」
「貴水、呼んだ?」
 息が、止まった。

2020.09.13
【二】
「だから!偶々だからね?」
「うん」
 航平は信じていない。
 午後の講義が全て休講になったとかで、僕が休みだから帰ってきたのだそうだ。
 そこで、僕の痴態を目撃されてしまったもんだから、そのまま午後はずっとベッドの中だった。
「高校生の貴水に教えてやりたい、大人になったら一人エッチするぞって。」
「だから!」
 ま、事実ではある。
「それより、泰斗の結婚式、出ないの?」
「出ない」
 そうなのだ、泰斗と太陽はあれから長くは続かず、別れた。
 泰斗は職場の女性との結婚が決まったのだ。
「太陽、どうすんだろ?」
 大輝と大賀も就職した途端、それぞれ別の男と暮らしている。
 その時、エントランスのインターホンが鳴った。
 モニターを見ると太陽と拓人が立っていた。
「どうした?」
「あ、貴水〜、開けて〜」
 …やだな。
「とりあえず、入ってきたら?」
 スイッチを切ると航平が慌てた。
「貴水、なんか着ろ!」
 あ。
 航平がパンツだけは投げてくれたので履いたけど、ティーシャツを被ったところで二人がやってきてしまった。
「なんだ、昼間からヤってた?」
 そりゃ、そう言うだろうな。
「悪いか?」
「貴水が開き直った」
「で?何しに来た?」
 太陽がハッとする。
「危ない危ない。泰斗の結婚式、航平と二人でなんか出し物してくれる?」
「僕は行かない…スケジュールが合わない。その日は北海道三往復だ。」
 嘘だ、泰斗の結婚式は空けてある。
「お前、俺に気を遣ってないか?ま、俺らのセックスしているとこ、見たからな。」
 それだけじゃない。
「性処理なら拓人がしてくれるから平気だ。」
 太陽?
「泰斗は、長男だから。」
 少し、寂しそうな太陽が俯いた。
「父さんがさ、泰斗に見合い話を持ってきたんだ。そしたら泰斗から別れよう、兄弟に戻ろうって。見合いは断って会社の事務の子と一緒になるらしいよ。」
 それまで黙って聞いていた拓人が口を開いた。
「太陽の話はかなり端折ってる。太陽はマンションの部屋を譲られて囲われ者になったんだよ。だから俺が奪ってやった。」
 ん?
「拓人、お前は太陽と?」
「うん。」
「そっか。」
 良かった。太陽は誰かが側にいないと頑張らないタイプだから。
 太陽と拓人は同じホテル業界の専門学校へ進学した。勤務先は違うけれど無事に就職もした。
「俺と泰斗じゃシフトが合わないんだ。それだけだよ。」
 太陽がいいならそれも良いのかもしれない。
「で、泰斗の結婚式、何とかならないか?」
 その時、航平が口を開いた。
「二人で行く。」
「来てくれるか?」
 何故か、太陽が嬉しそうに笑った。

2020.09.14
【三】
「行きたくなかったのに」
「貴水」
 突然、改まって航平が僕に向き直る。
「結婚、しよう?」
 え?
「俺達も結婚しよう?そうしたらあの二人もまとまるんじゃないか?」
 あの二人?
「泰斗に、俺たちの今を見せつけてやったら良い。太陽を手放したことを後悔するか、親の敷いたレールをそのまま進むのか。」
「会社の事務の女の子だそ?」
「何とでもなる」
 僕は少し考えた。
「同性パートナーシップ制度だっけ?区役所に届けを出せば良いのか?」
「うん。ただ、近親者は不可なんだ。」
「僕たちだけ、か。」
 同性パートナーシップ制度は法的に守られたものではない。ただ伴侶として可能な手続きが可能となる有益な制度だ。
「兄弟には不要な制度だろ?」
「確かに。そうと決まれば早速手続きしよう。」
「でも、泰斗はおじさんに連れ戻されたってことだろ?貴水が親の許可を貰うとしたら…」
「難しい。ほぼ勘当されて出て来たから。」
「ま、うちも似たようなもんだ。」

 高校二年の秋。
 僕と航平は想いを遂げた。
 航平の部屋で時間が経つのも忘れて、セックスして家に帰るのを繰り返していたら、互いの親にバレた。
 家で出来なくなったから、こっそり部室だったり、マンガ喫茶だったり、バイトで貯めた金でホテル行ってしていた。
 今までしなかったんだから、我慢すれば良いけど、知ってしまったから無理だった。
 約一年間、そんな風に彼方此方でこそこそとしながら、大学受験。
 出来るだけ家から遠い大学を選んだ。
 学部が違うので大学も違った。
 けど、一緒に暮らすと言ったら、共に両親から叱られ、逃げ出すように家を後にした。

「もう成人しているんだから親の許可は要らないし。」
「それでも、キチンと理解して貰って祝福されたい。」
 航平の言うことも一理あると思い、二人で泰斗の結婚式に行くことにした。

2020.09.15
【四】
 航平の親と僕の親は、随分前に僕たちがこうなることに気付いていて、一度は拒絶するという話になっていたそうだ。
 二人で結婚すると伝えると、許してくれた。
 「航平は子供の時からずっとたかちゃん一筋だったからね。」と、航平のお母さんが言っていた。
「貴水、」
「はい?」
 父さんに名を呼ばれ振り向く。
「結婚式、しろ」
「え?」
「ケジメをつけろ」
 僕は少し考える。
「職場の立場が悪くなるか?」
「いや、それは平気なんですけど、どっちがウエディングドレスを着るのかと…」
「貴水、それを真面目に言っているのか?」
「はい。」
 父さんが僕を抱き締めた。
「お前は…本当に可愛いな。航平くんに可愛がって貰いなさい」
「はい」
 航平は、ずっと僕を大事にしてくれている。
「父さん、僕の仕事も評価してください、先日上司から来年の機長の試験を受けるよう指示がありました。」
 今度は頭をポンポンと撫でられた。
「それはすごいな、頑張れ。」
 久し振りに父さんに褒めて貰い、僕は嬉しかった。
「泰斗は…兄さんは、」
「あいつはな、太陽以外にも手を出してたんだ。だから引き離した。一人の人に執着しろと言った。太陽は平気だ、ちゃんと分かっていた。」
 なんだ、父さんは分かっていたんだ。
「因みに双子は明日、二人で来るぞ。…よりを戻したらしい。俺としては嬉しくないがな。」
 そう言って笑う父さんは、僕らの相手が男であろうが兄弟であろうが受け入れる懐の深さがあった。
 よし、僕がウエディングドレスを着ようと、決意した。

 泰斗の結婚式は滞りなく行われた。
 泰斗は、一度も太陽と目を合わさなかった。
 太陽は、ずっと泰斗を見ていた。
「結婚式?」
「うん、父さんがしろって。」
 航平が運転する車の中で、父さんからの話を伝えた。
「それでさ、やっぱり僕がウエディングドレスを着るんだよな。」
「貴水が着たいなら否定しないけど、別にウエディングドレスを着なきゃいけない決まりはないぞ。二人ともタキシードで良いんじゃないか?」
「そうなのか?なら、僕はパイロットのコスプレでもいいのか?」
 制服は持ち出せないのでコスプレだ。
「いいんじゃないか?」
 航平も嬉しそうだ。
「場所はどうしようか。あ!太陽と拓人に神父やらせよう。本職には頼めないからな。」
「ホテルの式場は神父さんはバイトだからな、良いと思うぞ。」
 ちょっと、楽しみになってきた。
「なあ、貴水、高校二年の時、どうしてあんなにモテたか気にならないか?」
「あー、そう言えばそんなこともあったなあ。あのお陰で航平と付き合えた。」
 全員男だったけどな。
「俺さ、貴水の誕生日に告白するって公言したんだ。そしたらみんなが協力してくれた。どさくさに紛れで貴水に手を出した輩もいたけどな。お前、本当に人気があったんだよ。」
「そうなんだ、知らなかった。」
「俺が焦ってたって言ったら驚く?」
「驚かない。だからキスしたんだろ?すげー気持ちイイ、キス。」
 航平を見て、笑った。
「今考えれば…だからな。」
「…早く帰りたい。帰って貴水を抱き潰したい。」
「エロっ」
「知ってる癖に」
「まーなぁー、ふふふ」
 僕は、理解のある両親と兄弟に友人を持っていてラッキーだ。
 航平と抱き合っていても非難する人間はいない。
「あっ…こーへ…んっ…も、指…や…ちんこ…欲し…入れて」
「ん、俺も余裕ない」
 何回抱き合っても、何回身体を繋いでも、また手を差し伸べてしまう。
 君が欲しい
 ただ、それだけ。
「あんっ、イイ、そこっ、もっと擦って」
「ダメ、もう出そう」
 また、生まれ変わっても君に会いたい。
 会えれば、恋に落ちる。
「ん、ん、やらあ、イグっ」
「ごめ、出てる」
「あっ、あっ」
 君が、好きです。

2020.09.16
【五】
 僕が機長になって初フライトの日、両親と兄弟と友人…と、高見沢先生が搭乗者名簿に名を連ねていた。勿論、航平と両親と兄妹も。(航平の兄は泰斗と双子の間、妹は僕らの三つ下)
 函館に着いたら、みんなで温泉に行く。新婚旅行みたいなものだ。
 僕の初フライトの記念だと言うが、機内ではしゃがないと良いが。
「本日は当機にご搭乗頂きありがとうございます。私、機長の木澤貴水です。本日が初フライトとなりますが、精一杯務めさせて頂きます。」
 ん?機内がザワついている。
「機長、今日は機長の関係者しか乗ってません」
 CAからの報告で焦る。
「家族以外も?」
「はい。」
 誰だ?
「高校と大学の同窓生とご親戚と伺っています。」
 うー。
 航平の両親も親戚を呼んだんだろうな。
 ま、いいか。

 函館のホテルはほぼ貸し切り状態だった。
 夜遅くまで宴会で大騒ぎして、翌日は休暇だったので観光して回った。
 他の人達もそれぞれ観光に出掛けて行った。
「知ってたけどさ、貴水は人気あるんだよな。小学校の時も中学の時も貴水が俺を呼んでくれるから、隣に居られた。だから高校の時、周りから貴水に手を出される前に何とかしようと思ったんだ。間一髪だったな。」
 懐かしそうに航平は言うけど、僕には昨日のことのようだ。
「あん時じゃなくても、どこかで僕は航平と二人で生きて行こうと思ってた…んじゃないかなぁ。」
 五稜郭タワーから五稜郭を眺めながら、伝えた。

2020.09.17
後ろ向きの恋
【一】
 両親は僕が中学の時に離婚し、姉と共に母に引き取られた。それから一年もしないうちに、母が病に倒れ帰らぬ人となり、父に引き取られたが、今度は父が病で呆気なくこの世を去った。
 二人の保険金がそこそこあったので、姉も僕も公立高校を無事に卒業したが、決して裕福ではなかった。姉は高校卒業と同時に近所の印刷所に事務員で入社し、程なく同じ印刷所で職人として働いていた、五歳年上の男性と結婚して娘を授かった。
 僕は姉夫婦と一緒に父の残した家に暮らしていた。
 その姉夫婦が死んだ。
 一人娘の碧(みどり)を僕が預かり、夫婦水入らずで日帰り旅行を楽しんだ帰り道、積載オーバーのトラックが横転し巻き込まれた。
 義兄も天涯孤独だったので必然的に碧の引き取り手は僕になった。碧はずっと一緒に暮らしていた僕を、特に抵抗もなく受け入れたのでそのまま養女にした。
 僕と碧の新しい生活が始まった。

 保育園は運良く年度替わりでクラス替えがあった。
「おはようございます。碧のこと、宜しくお願いしま…え?半井(なからい)?」
 副担任として新しく採用になったと聞いていた男性は、高校の同級生だった。
「新埜(にいの)って聞いたことのある苗字だと思ったけど、お前だったのか。」
「半井が副担任なら安心だ。宜しくお願いします。」
 もう一度、僕は頭を下げ、慌ててその場を後にした。
 半井計都(けいと)。
 高校時代、部活も委員会も参加せず、バイト三昧だった僕を受け入れ、仲良くしてくれていたのが半井だった。
 三年間、半井のお陰でイヤな思いをせず、全て良い想い出にしてくれた。
 半井は確か大学へ行ったはずだが保育士になっていたとは。
 僕は兎に角安定した職業をと思い、公務員試験を受けて市役所に勤務している。碧の為には時間がきっちり決まっているので丁度良かった。

2020.10.10.
【二】
「新埜は毎日必ず同じ時間にお迎えに来てくれるから助かるよ。」
 空がすっかり梅雨模様になった頃、半井が微笑む。
「けいとくん、バイバーイ」
「さよなら、碧ちゃん」
 碧はすっかり半井と仲良くなったようだ。
「碧、先生のこと計都くんって呼んでるの?」
「ダメなの?だってコウのこともコウって呼ぶし、コウのお友達だからけいとくんなの。でね、碧、けいとくんのお嫁さんになるの。」
 突然、心臓が大きく音を立てた。息が出来ないくらい苦しかった。
「あ、碧ちゃん、それはね、もっと大きくなったら、ね?」
 半井が慌てている?
「碧、僕のお嫁さんになってくれるんじゃなかったの?ショックだなぁ」
 まだ五歳だ、よくわからないだろう。
「ううん、コウはパパだからけいとくんと結婚するんだもん!」
「碧、計都くんには彼女がいるからさ、碧は僕で我慢してよ?ね?」
 その時、半井が反論した。
「新埜、僕に彼女なんていない。そんなの、知ってるだろ?」
 え?
 思わず半井の顔を見た。
 唇が大丈夫、と言っていた。
 なんだ、碧のことか。
「それより、「計都」が僕の名前ってよくわかったね?」
「友達じゃないか、忘れるもんか」
「そうか…新埜、」
 再びドクンと心臓が音を立てた。
「光也(こうや)、僕も覚えてる」
「お、おう。じゃ、またな。」
 慌てて背を向ける。
「新埜。」
 立ち止まり、振り返る。
「僕もやっと仕事に慣れてきた。今度?みに…行っても良いか?」
 ドクンと心臓が跳ねた。
「お、おう。いいぞ。」
 碧のことを考えてくれたのか、家に来ると言ってくれた。それを断るわけにはいかない。
「じゃあ、次の金曜日、僕が土曜日休みなんだ。」
 純粋に半井が楽しそうに話すから、僕も釣られた。
「わかった。待ってる。」
「ありがとう。碧ちゃん、また明日ね。」
「バイバーイ」
 碧の手を?ぎ、家路を急いだ。
 大丈夫、バレていないはずだ。
 四年も逢わずにいたのに、会った途端に気持ちが蘇るなんて。
 そう、半井に僕は恋していた。
 でもそれは高校生の時のことで、今更どうしてと困惑するしかなかった。

2020.10.11
【三】
 金曜日。
 碧の好きな玉子焼きを焼いて、ほうれん草のバター炒めを作り、枝豆を茹で、惣菜屋で買った豚の角煮と鶏の唐揚げ。冷蔵庫には一昨日から冷やしているビールと日本酒。
 碧は保育園から帰ると直ぐに風呂に入れ、料理を少しずつ食べさせた。
 ソワソワと半井を待っている自分が何だか惨めになってきた。
「コウ、けいとくん遅いね。」
「明日お休みするから忙しいんじゃないかな?」
 半井と酒を呑む日が来るなんて、一生ないと思っていた。
 碧と二人暮らしになってから、僕も役所の飲み会には参加していない。
 一人で?むことが多かった。
 呼び鈴が鳴る。
 急いで玄関へ向かった。
「ごめん、遅くなって。お迎えが遅い子が一人いてね。」
「大丈夫だよ。上がって。」
「お邪魔します…新埜の家、久し振りだ。」
 高校生の時、何回か家に呼んだ。
「これ、秘蔵のワインとチーズ。今日を楽しみにしてた。」
 半井は職場に他に男がいないから、飲み会も楽しくないらしい。
「新埜に会えて良かった、また飲みに来ても良いか?」
「待ってる」
 僕も半井と飲めたのが楽しかった。
 ささやかな楽しみくらい良いだろうと、思ってしまった。

2020.10.12
【四】
 空が高くなり、気温もグッと高い季節になった。
「コウ、あのね、コウはお嫁さんもらわないの?」
 今夜も半井が夜、呑みに来ると言う日の保育園の帰り道、いきなり核心をつく質問だ。
「僕には碧がいるからね。」
「そうじゃなくてー、碧、ママが居たら良いなぁって思うの。」
 碧?
「碧ね、ずっとコウがパパだと嬉しいって思ってたの。だってコウはカッコいいんだもん。だから今度はコウが嬉しいといいなって。」
 僕は、碧が本気でそう言っているのか、両親の居ない寂しさをそんな風に思うことで紛らわしているのか解らなかった。
 今日も帰ると直ぐに風呂に入れ、夕飯兼つまみになるものを揃えた。
「…ごめん、きっと、僕のせいだ。」
 半井に、帰り道で碧に追われたことを話した。どう対処したら良いか分からなかったからだ。
「…新埜は、早くに結婚したんだなって、碧ちゃんに…言った。そしたら、違うって、コウはパパだけどママはいないって。」
「半井?お前保育園から聞いてないのか?あの子の両親が事故で死んだって。」
「…え?そう…なのか?じゃあ、碧ちゃんは、新埜の娘じゃないんだ…」
 半井の言っていることが理解できない。碧は五歳だ、どう考えても高校生の時の子供になるだろう?
 さっきから動悸が治まらない。
「碧ちゃん、碧ちゃんはパパのこと好き?」
「うん!大好き。」
「僕のことは?」
「好きー」
「僕が…」
 ちらっと、こちらに視線を寄越し、また碧に戻した。
「僕がパパのこと好きって言ったら、ダメ?」
 今、サラッと何か言わなかったか?
「コウはイケメンだもんねー、いいよ、好きになっても。」
「ありがとう…。新埜…聞いて欲しい。」
 半井の話は、どうして保育士をしているかということだった。
 大学の教育学部幼児教育学科に進んだのは、母方の祖父が経営する保育園の跡を継ぐためだった。
 母親は一人娘で、嫁に出すときの条件が2番目の子を跡取りにすることだった。
「大学を卒業したから、まずは保育士として働いているんだ。でも、別に祖父母の面倒を見る必要はない、あの人たちは余るほど金があるから、家政婦も雇えるし介護士にも頼れる。僕は、新埜、君を支えたい。」
 お願いだ、半井。そんな期待を抱かせる言葉を僕に言わないでくれ。
「気持ち悪いとか、思ってる?けど、今言わないと死ぬまで後悔する。あの日、高校の卒業式の後、言えずに後悔したから…新埜が…好き、なんだ。」
「けいとくんはコウが好きなんだ?じゃあ、碧のママになる?」
 ニヤリと碧が笑う。
え?ちょっ…!
「好きって、本気で言ってる?そんな…」
「待ってた。本当は新埜がいつか言ってくれると。でも新埜は何も言ってくれないから、自分からって…ごめん。勇気がなかった。」
 もう、動悸で耳が痛い。息苦しい。
「気付いて…たんだ?」
「何となく」
「…ごめん…でも、この気持ちは一生伝えずに胸に秘めておくって決めてて、」
 碧が、僕の手を半井の手の上に置いた。
「コウ、お腹空いたー」
「あ、ごめん、晩御飯!」
 僕らは遅い夕飯と晩酌を始めた。半井と碧と僕の三人で食卓を囲んだ。
「ねえ、けいとくんはいつからお家に来てくれるの?三人だと楽しいよね?」
 ニコニコと食卓を囲む碧が、策士のように見えた。
「碧、計都くんと結婚するんじゃなかったの?」
「うーんとね、けいとくんはずーっとコウが好きって聞いちゃったんだよね。けいとくんがコウと仲良くなったら碧とは結婚できないけど、コウが嬉しいから碧も嬉しいの。」
 こいつ、なんてませてるんだ!
「…半井は、ここに越してこられるのか?」
「それは、新埜の返事次第で。」
 僕は、胸を押さえた。
「…僕は半井が好き、だ。」
「わーい、けいとくんがママになるー」
 さっきから碧が半井のことをママと言っているけど、違うだろ?
「何…で、ママと」
「僕が、碧ちゃんに言った。」
 半井が真っ赤になって白状した。
「今更、恋人なんて…待てない。一分でも一秒でも早く、光也、君が欲しい。」
 ほ、欲しい?
「君に再会(あ)えた日、これは運命だと思った。」
「計都…って呼んでもいい?」
「呼んで?」
 半井の手に、自分の手を重ねた。
「触れたいと、言っても良いか?」
 半井が頷いた。
「碧、今日はもう寝ようか?計都は台所を頼む…泊まっていって?」

2020.10.13
【五】
「悩んだんだ、碧ちゃんが卒園するまで待とうかと。けど、君に奥さんがいるんだと思ったから、胸が痛くて。碧ちゃんがママはいないって言うから、その、立候補しようと…」
 半井がモジモジと俯く。
「待てないのは、本当だ。君が、誰かに恋したらと考えたら焦った。今度こそ、逃がさない。」
 僕は、今の現実が夢でも良いと思っている。それくらい受け入れがたかった。
 腕を伸ばし、その身体を抱き締めた。
「計都、君は数学が苦手だったな。碧は五歳だ、僕の高二の時の子になっちゃう。」
「あ!」
 互いに互いの身体を抱き締めた。
「良かった。新埜…光也の隣、空いてるか?」
「計都の為に空けてある。」
「うん」
 半井の唇が僕の唇に、重なった。
「ごめん、この家には碧に必要な物しかなくて、今夜は触れることしか出来ない」
「初めからそんな気はないから、安心して。碧ちゃんもいるんだし。僕は君がこうして側にいてくれるから、それだけでいいんだから。」

「コウ?ねぇ、コウってば!パーパッ」
 朝、かなり時間を回ったとき碧が寝室にやって来た。
「ん?朝?」
「もうっ、お寝坊なんだから。けいとくんが早く朝御飯食べましょうって。」
 計都?
「あ!」
 そうだった。
 ゆうべ、半井が泊まったんだった。
「早くしないとまた夜になっちゃうよ?」
 夜…。
 そこに半井が顔を見せた。
「コウはまだ寝ぼけているようだね?先に食べちゃおうか?」
「うん」
 碧の背を押しながら半井はチュッと唇にキスを落としていった。
「目、覚めたよ、うん。」
 僕は独り言を言っていた。
 慌てて洗面所へ飛んでいき、洗顔を済ませるとダイニングへ急いだ。
「お…はよう…」
 半井が、居る。
「おはよう。冷蔵庫漁っちゃった。」
「うん、平気」
 良かった、今日休みで。
「午後から引っ越しするから」
「けいとくんは早起きだし、目玉焼きが上手に焼けるんだよ?」
 碧が楽しそうだ。
「碧、本当に計都でいいのか?計都が、その…ママで。」
「けいとくんがいいの!」
 もしも。いつの日か碧が嫌悪を抱いたら、その時考えよう。
 今は自分の気持ちを優先させても、良いだろうか?
「計都、車出すから当座の荷物を持ってこよう。一緒に暮らしてください。」
「ねぇねぇ、プロポーズ?コウがけいとくんにプロポーズ?」
 半井が碧を抱き締めた。
「けいとくーん、前が見えなーい」
 僕は半井に、キスをした。
「ラブラブ?ねぇー?」

2020.10.14
【六】
「これしかないのか?」
 半井の部屋には衣装ケース一つと布団一組、鍋とフライパンが一つずつしかなかった。
「必要になったら買えば良いかと…」
 モジモジしている。
「仕事始めて独立して、いきなり光也に会ったから…要らないかなって。」
 更に小声になる。
「ごめん、本当は碧ちゃんが葵さんの子だって、知ってた。知ってて碧ちゃんに協力してもらった。」
 そうか、半井は姉の葵に会ったことがあるのか。
「碧ねー、イケメンが好きー、けいとくんもイケメンだもんねー」
 碧がいいのなら、いいか。
「よし、帰るぞ」

「この部屋を使って、姉…」
 昔の姉の部屋が空いていたのでそこを示した。
「やだ。光也の部屋に…ダメか?」
 心臓が飛び出すかと思った。
「碧には、ダメって言ったから何と言って…」
 碧は両親と一緒に寝ていたので、今でもそのまま部屋を使わせている。
「わかった、僕が説明する」
 言うと半井は碧の元へ向かった。
 暫くすると二人で戻ってきた。
「コウ、碧ね、弟がいいな。」
 慌てて半井の顔を見る。
「結婚したら赤ちゃんが来るように一緒に寝るんでしょ?昼間はお仕事があるから仕方ないよねー。あ!だから碧とは別々に寝たかったんだ?もう!コウってば〜」
 何故だろう?背徳感がある。
「碧ちゃん、このことはお友達には内緒だよ?来なかったら寂しいからね?」
「うん!」
 来るわけない。
「計都、君の部屋はそっち、いいな?」
 碧の前ではそうしておいた方が都合がいい。
「分かった」
 今度は素直に頷いた。
 案の定、碧を寝かしつけると半井は僕の部屋に来た。
「明日は仕事だから、いいんだ。ただ、側にいたい。」
 半井を抱き締めた。
「うん、一緒に居よう?」
 半井を諦めたあの日、葵は気付いていた。
「僕は、一人で良いんだ。姉さんもお義兄さんも、碧もいるから。」
「コウちゃん、人間は考えることが出来るのと同時に、胸の痛みも知ってしまったんだって。そうすることで成長していくのかもね。」
 そう言って慰めてくれた姉が、もういないなんて。
「計都、ありがとう。」
「僕、一度葵さんに会ったんだ。高校卒業して、やっぱり諦められなくて、この家の前でウロウロしてたら葵さんに声掛けられて、まだ間に合うって。役所にも行った。でも光也は窓口にはいなかった。それでも、葵さんが背中を押してくれたから、いつかはって思ってた。」
「計都は、いつから僕のこと…好きになってくれたんだ?」
「高三の時。光也が僕の方を見なくなったと気付いて、寂しくなって…好きなんだなって。」
 半井をベッドに座らせて自分も隣に座った。
「それは、半井…計都を諦めようと決心した後だ。」
 半井の額に自分の額を付けた。
「キス、したい」
「うん」
 半井が目を閉じる。
 僕は触れるまでは細く目を開けていたけれど、ゆっくりと目を閉じ、そのままフリーズした。
 …この後、どうしたらいいんだ?
 半井の腕が、僕の首の後ろに回り、唇が小さく開かれた。僕も一緒に開く。半井の舌が口の中に侵入してきた。驚いて目を見開いたが、目の前の半井が半端なくエロかったので、薄目を開けて見ていた。
 チロチロと僕の舌を舐める。だから僕も舐め返した。二人で互いの舌を絡めた。いつまでも飽きもせずくちゅくちゅと絡め合う。
 気持ちイイ。クセになる。
 でもこれ以上してたら、死ぬ。
 そっと舌を引っ込め、唇を離した。
「ファースト、キス。」
「僕も」
 ふふっと、計都がはにかむ。
「夢に見た、光也とのキス。」
 そう言うと僕の胸に顔を埋めた。
 これから少しずつ二人で進んでいけたら…計都がずっと側にいてくれますように。

「碧ちゃん、行くよ?」
「はーい。コウ、遅刻すんなよ〜」
 碧は計都に手を引かれて保育園に出掛けて行った。
 僕ものんびりしていられない、慌てて家を出る。
 帰りに合鍵を作ってこよう。
 計都に、渡さないと。
 どうせ会えなくなるのなら、後悔しない別れを選択すれば良かったんだ。
「だから言ったのに。」
 姉の声が、どこかから聞こえた。

2020.10.15
上か下か
【一】
 ボクらはずっと、上と下に居た。

「カズキ、早く起きろよ!遅刻する!」
 祖父母の有する家屋は巨大だ。
 なので、僕らの父親は外に出ず、結婚しても幼少期に育った家で家族を作った。
 兄である僕の父は下階に、弟である伯父は上階に住んでいる。
 一軒の家だが、誰にも会わずに一日過ごすことも可能なほどの大邸宅だ。
 そんな具合だから、同い年の従兄弟であるフタバとは兄弟の様に育った。
 フタバは、毎朝起こしに来てくれるから楽しみに待っている。
「カズキ、俺さ、高校は楓高校に行くんだ。」
「うそっ!」
 僕は慌てて起きた。
「何で?」
「父さんの取引先の人が経営する高校なんだって。」
「伯父さんの取引先ならウチのオヤジだって同じだろう?」
「俺も、そう言ったんだけどさ…」
 フタバはハッキリ言わなかったけど、きっとあのことがバレたんだ。
 家が大きいのを良いことに、二人でイケない遊びをしていたことに。

2020.10.17
【二】
「フタバ、気持ちいいことしないか?」
 昔、祖父の代に使われていた部屋は、幾つも使われずに開かずの間として放置されている。
 僕らはその部屋を秘密基地にしていた。
「うん、する!」
 まだ、小学生だった僕らは、気持ちいいことに夢中になった。
 最初はキス。
 唇を重ね、互いに口腔内を舐め回すことが気持ち良かった。
 次は乳首を触った。
 上半身がビクビクするほど気持ち良かった。
 キスをしながら乳首を触った。
 すると、股間が起ち上がった。
「カズキ、ちんちんがへんじゃね?」
「ホントだ」
 カズキはパンツを下ろすと早速触ってみた。
「ふ、フタバ!」
「どうした?」
「ヤバい、熱持ってる!」
 この頃、僕らは熱を持つと爆発すると思っていた。
「マジか?」
 フタバもパンツを下ろして触ってみた。
「ヤバい、俺のも熱い。」
 どうしたら良いか分からずに、互いに触ってみた。
 全身が飛び上がるくらい気持ち良かった。
 それだけで爆発を忘れ気持ちいいことに没頭してしまった。
「あっ、気持ちイイ」
「う、うん、気持ちイイ」
 二人で互いのモノをゆるゆると触った。
「あっ」
「ううっ」
 先端から透明でトロトロした液体が溢れてきた。
「なんだろ?これ?」
「なんか…ヤラシイね」
「うん、ヤラシイ」
 先端に触れた途端「あんっ」と、声が漏れた。
「カズキ、ヤラシイ」
 フタバがキスをした。
「あっ」
 ドクンと吐精した…のだが、互いに何だか分からない。
 僕は肩ではあはあと息をして気持ち良さに放心していた。
 フタバはヌルヌルした液体を出した僕に、怯えた。
「カズキ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。凄く気持ち良かったよ!フタバも…」
「俺はいい」
 そっかと、カズキも諦めた。
 それからも、フタバは僕のちんちんを触ったけど、フタバのちんちんからヌルヌルした液体が出ることはなかった。

2020.10.18
【三】
「カズキ!」
 フタバが満面の笑みで囁く。
「カズキのヌルヌル、何だか分かったよ。」
 得意満面でフタバが飛んできた。
「今朝、俺もヌルヌル出ちゃってさ、父さんに聞いたら元気だから出るって言われた。」
 元気だから?
「うん。カズキは朝起きたらちんちん起ったことある?」
 起つ?
「あ、ヘンになること?」
「そうそう。あんな風になると、子供を作れるんだって。」
「へー。どうやって?」
「…さあ?」
 それ以上は照れてしまい、誰かに聞くことも出来ず、互いにモヤモヤしながらもそのまま放置していた。

 暫くして、学校で男女別々の教室に集められ、妊娠についての話があった。
「フタバ!あれだ!」
「うん」
 二人で学校から戻ると、直ぐに秘密基地へ飛び込んだ。
「股にある穴って…ケツか?」
「男にちんちんがあるんだから女にも別に穴があるんじゃねーの?」
 この頃の僕らには好奇心しか無かった。

 中学生になると、セックスについて好奇心が勝り、色々調べ始めた。
「フタバ!男同士でも出来るんだってさ、セックス。やってみる?」
 僕としては入れられるところがあったら入れてみたかった。
「でも、セックスは子作りだろ?俺らセックスしても子供出来ないじゃないか。」
「…気持ちいいらしいんだ。」
 気持ちいいこと。
 相変わらずキスとペッティングはしていた。
「チンコ入れるのは怖いけどさ、尻孔弄ってみたい。」
 僕らは秘密基地で、本当に秘密のことを始めてしまった。
 パンツを脱ぐと、チンコを扱いた。
 互いにイクと、その精液を手に取り、尻孔に塗りたくり中を擦った。
「マズい、気持ちいい」
「ん、気持ちい…」
 69の形で互いに弄り始めると、目の前のチンコが気になる。
 自然と口に含んでいた。
「んんっ」
「んっ」
 前立腺を擦りながらイッた。
「フタバ、どうしよう、気持ちイイ」
「う、うん。カズキ。どうしよう。」
 背徳感に苛まれた。
 でも、気持ちイイ。
 それから僕らは結構な頻度でセックスしていた。
 中三で初めて僕は、フタバのチンコをアナルで咥えた。
「んっ」
「すげ、カズキのケツ、簡単に入った。中ギューッて締め付けて気持ちイイ。」
「あんっ、フタバ、中擦ってぇ」
 フタバの勃起したチンコで中を擦られ、僕は中イキした。
 フタバも僕の中でイッた。

2020.10.19
【四】
「伯父さんにばれたんだよ、きっと。」
「多分、違うと思う。」
「え?」
「うち…」
 え?
「カズキ、学校が別々になっても、俺のこと好きでいてくれる?」
「当たり前だろ!」
 そう言ったけれど、僕はフタバが好きだからセックスしてたのか、分からなかった。

「カズキって理事長の孫だろ?こんなことしてていいのか?」
「成績に…問題なければ大丈…夫…んっ」
 フタバのいない高校生活がこんなに詰まらないとは思わなかった。
 バスケに始まってバレーボール、テニス、野球、サッカー、ハンドボール何をやっても長続きせず、結局将棋同好会に落ち着いている。
 でも、やることは将棋ではなかった。
「カズキのお陰でこっちは覚えたけどあっちは一差しも出来ねーよ」
 週に二回の活動も、気持ちいいことしかしていない。
「あっ…んっ…でも、アツシ、気持ちイイ…だろ?」
 にちゃにちゃと音を立てながら腰を振る。
「うん、すげー気持ちイイ。」
「僕も、気持ちイイ。」
 フタバのが、欲しい。けど、フタバは寮生活をしている。
 夏休みに帰ってくるだろうか?

2020.10.20
【五】
「カズキ!」
「フタバ!」
 フタバは帰ってきた。
「あっ」
「んっ」
 秘密基地で、汗だくになりながら身体を繋いだ。
「フタバ、好き」
「俺もカズキが好き」
 フタバとのセックスが気持ちイイ。
 でも、僕は学校でも男達とセックスしている。少しだけ、フタバに申し訳ないと思っていた。
「フタバ、寮ではどうしてるの?」
「ん…カズキの写真見ながら、一人でしてる。でも、カズキは入れないと感じないでしょ?」
「ううん、大丈夫。」
 フタバに、嘘をついてしまった。
「カズキ、大学は一緒に行こう?で、一緒に暮らそう?」
 一緒に暮らす。つまり毎日気持ちイイことをして暮らすってことだ。
「うん、フタバ、一緒に暮らそう!勉強頑張る。」

 ある日。フタバの母親が家を出た。
 暫くして、小さい女の子を連れた女の人が、フタバの父親である伯父と暮らし始めた。

「僕は、要らない子になったんだ。カズキは父さんのところに居る女の子と結婚して跡取りになるって言ってた。」
 なに?なんで僕の将来が勝手に決まっているの?
「僕は、フタバ以外の人とは結婚しない。」
「何子供みたいなこと言ってるの?男同士は結婚出来ないんだよ?」
「やだ」
 そう、イヤなんだ。
「フタバはずっと僕の上にいたじゃないか!これからも上に…上にいてよ。」
 僕の上に乗ってよ…。
「…僕は、父さんに捨てられたんだよ。遠い学校に入れられて見えなくされて、帰れなくされた。」
「この家には空いてる部屋が沢山ある。ここに居たら良い。」
 僕には、フタバが必要なんだ。

2020.10.21
【六】
 僕は、屋敷の中にフタバを囲っている。
 毎朝、毎晩フタバの下で喘ぐ。
 だからもう、学校で男達を相手にしなくても良くなった。

「フタバ、フタバっ」
「カズキっ」
 二人ではぁはぁ言いながら身体を繋げていると、僕の父親がやってきた。
「お前達…なにを…」
 父の声に、射精した。
「あっ、ああっ」
「カズキっ!お前は…お前は!」
 父に殴られ、引き離される。
「僕は、フタバじゃないとダメなんだ。」
 父はフタバの顔を見た。
「私の…戸籍に入らないか?カズキの弟として。」
 父は、ずっと気付いていて黙っていたのだ。
 僕たちが一対の人間だと、気付いていたのだ。
 離れては生きていけない、上でもなく下でもなく、隣に。

2020.10.22
恋に落ちる
【一】
 ドクンっ
 身体の奥に、熱い精液が放たれた。
 また今夜もゴムなしでしてしまった。
 でも、何物にも代えられないくらい、気持ちいいんだ。
 中のモノは、硬度も大きさも違えずに再びピストン運動を再開した。
「待っ…もう…無理」
 さっきのでイッたので、これ以上動かれたらイキっ放しになっちゃう。
「もう少し、中に居させろ」
 物凄い殺し文句だ。
「うん」
 こうして今夜も、夜が明けるまで脚を開いていることとなった。

「おはよう」
 教室の机に突っ伏していると、次々とクラスメートがやってきては、頭をポンポンと叩いていく。その度に手を上げて応える自分も律儀だと思う。
「何?また寝られなかったのか?」
「うん」
 寝られなかったのではなく、寝かせてもらえなかったのだ。
「ま、お前は成績も良いから、出席していれば問題はないよな」
「家庭教師がいるからな」
 そう、この家庭教師が元凶である。

2020.10.30
【二】
 三年前から我が家には、従兄弟の政敬(まさとし)が住んでいる。
 大学が近いからだ。
 住んでいると言っても、部屋が足りないから僕の部屋に一緒に居る。
 最初は布団で寝ていたのに、いつの間にか僕のベッドに潜り込んできて、口説かれた。
 「ヒロ、俺さぁ、ずっとヒロのことが好きなんだ。だから居候させて貰った」「俺のチンコ、ガチガチに勃ってるんだけど」「手でいいから、触って?」「ヒロのチンコ、咥えてもいい?」と、ドンドンエスカレートしていき、遂には「セックスしよう?」と、昔のドラマのセリフみたいなことを言いやがった。
「やだよ、マー君、僕はホモじゃないもん。」
「ヒロ、『ホモ』は今では差別用語なんだよ?それにさ、俺は男が好きなんじゃない、ヒロだから好きなんだ」
 そう言われて絆された。
「や、そんなに吸ったら出ちゃうよ」
 政敬は僕のチンコを舐め、吸って勃たせると、出すまでしゃぶった。
「んっ…出る、出ちゃう」
 ドクンっ
 政敬の口の中に盛大に射精した。
 それを政敬は平然と飲み下した。
 政敬の喉仏が上下するのを見て、何故かチンコが熱くなった。
「まだ、硬いままだ」
 人差し指の腹で、すっと撫でられると、ビクビクと揺れた。
「博敬、愛してる」
 この一言で胸がキューっと、締め付けられる。
 政敬が僕の尻孔の襞にそっと触れる。
「今はこんなに固く閉ざしているけど、ここが俺を受け入れてくれるようになるんだ」
 うっとりとした表情で襞をなぞる。

2020.10.31
【三】
「や、マー君、なんか…へん」
「大丈夫、力を抜いて」
 ゆっくりと撫でられ、ゾワゾワとする。
「ピクピクしてる」
 そこに人差し指を突き入れた。
「んっ」
 第一関節までを抜き差しして内側から擦る。
 僕は政敬の胸に縋る。
「なんか変な感じだよぉ」
「変な感じじゃなくて、気持ちイイって言うんだよ」
 気持ちイイ?のか?
 ヌププと、人差し指を全て入れられた。
「あ…んっ」
「可愛い声だ」
 言うと口付けられた。。
 人差し指に中指を添えて入れられ、ヌプヌプと抜き差しされる。
 自分の口から喘ぎ声がもれる。
「ん…んっ」
 身体の中に異物が入っている感満載だ。
「ヒロ、ここは?」
 中の指が内側からあちこちを擦ったり突いたりする。
「こっちは?」
 刹那、身体中に電流が駆け抜けた。
「ああっ」
「ここか」
「やっ、だめ、そこ、ヤダヤダヤダ」
 お腹の中から背中に掛けてビリビリする。
「お願い、そこ、グリグリしないで」
 頭がヘンになりそう。
「でももう指が三本も入ってるよ?」
「うそ、やだ」
 政敬は潤滑剤を足し、僕の下肢が濡れるほどジュブジュブと指を出入りさせている。
 僕は恥ずかしくなるほど喘いでいる。
「ヒロ…」
 優しく名を呼ぶと、また唇を重ねた。今度は今までよりずっと深く。
「俺達は、幸せになれるから。」
 政敬はそう言うと、僕の脚をグイと持ち上げ、大きく開かせると凶器と化したチンコを尻孔に突き刺した。
 僕は、悲鳴を上げそうになった口を、慌てて両手で押さえて、必死で息を詰めた。
 物凄い存在感で、僕の内臓を掻き回した。
 気持ち悪かった。
 吐きそうだった。
 今すぐ、やめて欲しかった。
 だが、次の瞬間、一転した。

2020.11.01
【四】
「あぁぁっ」
 政敬は慌てて口を唇で塞いだ。
「んんんんんっ」
 さっき、政敬が指で擦ったところを、執拗に政敬が凶器で突くのだ。
「ヤメ…ダメ…あんっ」
 気持ちイイ、気持ちイイ、気持ちイイっ!
 そうか、これがセックスなんだ。
 人間の性交は、出産が大変だから、気持ちイイんだって何かで読んだ。
 でも、男が入れられて気持ちイイのは、出産とは関係ないだろ?
 そんなことはどうでもいい、兎に角何が何でも気持ちイイんだ。
「ふっ、んっっ、うっ…」
 声が漏れる。
「ヒロ…博敬、ごめん、俺の気持ち、押し付けて…」
 押し付け?違うだろ?種付けだろ?
 あー!訳分かんない。
「気持ち…い…」
 あ、あ、なんか、来る!
「く…るっ」
 腹筋が上下し、太股が痙攣し、直腸が収縮する。
「ヒロっ、千切れるっ」
 なに?何が? 
 政敬の手が、僕のチンコを扱く。
 中の気持ち良さとは違う、外側の快感だ。
 直腸の収縮が治まった。
 政敬は肺をゼーゼー鳴らしながら、チンコを引き抜いた。
 先端からタラタラと精液が垂れていた。
「ヒロっ、凄いよ!最初から中でイクなんて!素質がある。」
「なんの?」
「アナルセックス。」
 あ、あ、あ、アナルセックス?!
 あ、そっか、僕は今、マー君とアナルセックスをしたのか。
「ヒロ、これから毎晩、セックスしよ?」
 毎晩?!
「しても、いいよ。でも、家庭教師して。」
 僕は、とんでもない約束をしてしまった。
 こうして、僕の高校三年間はセックス一色になった。

2020.11.02
【五】
 夜は疲れて眠るまで身体を?ぎ、朝は目覚めて身体を?ぎ、学校から帰って身体を?ぎ…と、離れている時間が勿体ないとばかりに繋げていた。
 二人とも、行為に溺れていた。
「マー君、気持ちイイ、気持ちイイよぉ」
「ヒロの身体が俺の形に馴染んでて嬉しい。離したくない。」
「離さないで、ずっと、こんな風にセックスしていたい」
 高校卒業が近くなってから、二人の中に「離れる」という不安が広がった。
 僕は政敬と同じ大学を受けたので、あと一年は一緒に居られる。
「ヒロ、俺と生涯を共にしてくれる?」
 え?
「書類上の結婚は出来ないけど、一緒に居ることは出来る。考えてみて。」
 政敬と事実上の結婚…だよな?
「マー君、答えは出てる。僕を何処までも連れてって。」
 政敬は僕を抱き締めた。
「後悔はさせない、必ず幸せにするから。」
 その言葉を証明するように、政敬は国家公務員試験をクリアし、大学卒業後は経済産業省に就職を決めた。
 その夜、政敬は僕の両親に告げた。
「博敬くんを、私に頂けないでしょうか?必ず幸せにします。」
 余りにもストレートだった。
「ずっと、本当に子供の頃からずっと、博敬くんが好きでした。誰にでも分け隔てなく手を差し伸べることが出来、他人に対して惜しみない優しさを与えてくれる、そんな人に私は出会ってしまい、心を鷲掴みにされました。人生のパートナーは、」
「ふざけるな!」
 父が激怒した。
「博敬は次男だが我が家の大事な息子だ。男妾のようなことはさせられない。」
 政敬は父の兄の長男だから、声を上げやすかったようだ。
「私も、イヤだわ。」
 母がポツリと呟いた。
「でも、博敬はどうなの?」
 母が僕を見た。
「僕は…」
 あんなに身体を繋いで快楽を貪り、愛を語ったのに、この期に及んで躊躇いが出た。
 このまま流されていいのかと。
「マー君が、好き。でも、将来についてはもう少し時間が欲しい。」
 答えを出さなかったことが、僕たちの関係に亀裂を生じさせた。

2020.11.03
【六】
 政敬は、家を出た。
 僕は両親と兄に引き留められた。
 辛うじて大学で会えたけれど、政敬は僕の言葉を信じていないようだ。
「父さんが兎に角怒ってるんだ。」
「ヒロは、家族が大事なんだよな?俺じゃなくて。」
「それは、家族を捨てろってこと?」
「今すぐじゃ無くてもいい、それも視野に入れて考えて欲しい。ヒロには酷なことかもしれない。でも、本当に離したくないんだ。」
 政敬は三年の間毎夜、僕に愛を語った。
 父に語った以外に、家庭教師をしていても飲み込みが早いとか、挙げ句の果てには顔が好きとか足の指の形が好きとか兎に角褒めてくれた。
「どうして俺は、彰敬(あきとし)として生まれてこなかったんだろう?俺が彰敬なら、ヒロを物凄く可愛がって…もっと早くヤッたかな?」
 自嘲気味に笑う。
 彰敬は僕の兄だ。兄は僕に全く関心がなく、スキンシップもない。
「マー君、僕が大学を卒業するまで待って欲しい。」
 政敬は僕の夢を知っている。
「わかってる。ヒロのやりたいこと、応援してる。」
 僕は、政敬の語る愛を、軽く考えていたのだ。

 政敬が大学を卒業し、僕も進級した。

2020.11.04
【七】
「ごめ…や…マー…くん」
 政敬が独り暮らしをしている部屋を訪れると、グズグズとセックスをすることになる。
 この日は着衣のままゴムなしで背後から挿入れられ、激しく突かれた。
「ヒロは、俺のこと何てただのセフレくらいにしか考えてないだろ?こんな…女の匂いをさせてここに来るなんて、嫉妬させて激しく突かれたかった?」
「ほんと、してないから!僕はマー君しか、知らないし、欲しくない。」
 政敬のペニスが大きくなる。
「嬉しい。ヒロ、中にいっぱい出して良いか?」
「うん、出して。中、マー君で満たして。」
 政敬のことは好きだ。けど、冷静に考えたら、無理矢理身体を開かれて、快楽を植え付けられただけかもしれない。
 最奥に熱い飛沫を浴びながら、頭の中は冷えていった。

 家に帰ると、仕事帰りの彰敬と出会した。
「…マーの匂いがする。またヤッてきたのか?」
 彰敬は早くから僕たちの関係に気付いていた。
「そんなに、良いもんなのか?俺にはわからないな。」
「マー君は、アニキよりも話しやすいし相談にも乗ってくれる。」
「相談に乗れば、やらせるのか?」
 彰敬の顔が近付く。
「風呂先に使え」
「入ってきた」
 彰敬が、僕の胸倉を掴んだかと思うと、そのまま部屋に押し込まれた。
「やらせろ」
「やだっ」
「可愛い声で、鳴いてみろ」
「ヤダ、止めろ」
 グイグイと部屋の奥に押し込まれ、ベッドに押し倒された。
 抵抗も空しく、下半身を露わにされると、勃起したチンコを突っ込まれた。
「あっ…んっ」
「なんだ、別にマーでなくても喜ぶんだ?」
 吐き捨てるように言うと、黙々と動いて中に射精した。
 その間、僕はただただしくしくと泣くだけだった。
「マーの代わりに俺がしてやるから、マーとは手を切れ。いいな?」
 身形を整えると、「ケツをしまって風呂に入ってこい」と、命令口調で言うと、部屋を出た。
 急いでズボンを履き、自室に戻ると着替えを手にし、風呂へ向かった。
 シャワーを当てて指で掻き出す。
 中から彰敬の精液がどろりと溢れ出た。
 同時に涙が溢れた。
 政敬にしろ彰敬にしろ、僕の意思は皆無だ。常に流されている。
 本当に政敬が好きなのか、彰敬にされても同じように快感を得られたのか、わからない。

2020.11.05
【八】
 政敬と彰敬は同い年。
 政敬の父、和敬と僕の父、邦敬は双子の兄弟だ。
 双子の兄弟は、高校時代に同じ女性に恋をして「同じ顔で好きと言われてもわからない」と拒絶される位に顔も性格も似ている。
 別々の大学へ行き、それぞれに相手を見付け、卒業と同時に結婚した。
 ほぼ同時に妊娠し、長子を授かった。それが政敬と彰敬だ。
 双子の子供は兄弟と言って良いほど遺伝子的に似ているそうだ。
 政敬と彰敬もよく似ていた。
 運動レベルも勉強レベルもよく似ていて、親同士でも不思議がっていた。
 当然、僕も父に似ていたようで、運動も勉強もそこそこにこなした。
 父が心配しているのは世間体ではない。
 双子の親を持つ従兄弟同士が、遺伝子的に似ているのに、性交渉をしてもいいのか、と言うことだ。
 父の心配は的を得ていない。僕らは遺伝子を残せないからだ。
 なので、心配しなくて良いことを心配していることになる。
 勿論、アナルセックスによる感染症の心配はある。それはコンドームを使うことで回避できるが、僕らの場合我慢できないときがある。
 そんな時は早く腸内から掻き出す。
 腸内洗浄をする。
 そう伝えたのだが、未だに首を縦に振らない。
 そんな所に、僕の心が揺れ始めた。

2020.11.06
【九】
「ヒロ、可愛いよ」
「マー君…ん…んっ」
 やはり、政敬の部屋に行くと受け入れてしまう。
 政敬はいつだって僕のことを可愛いと言い、身体の奥に快楽を与えてくれ、将来も約束してくれている。
 一体、何が不足なんだろう。

「や…アキ…止めて」
 しかし家に居ても彰敬に犯される。
 あれから彰敬がやたらと絡んでくる。そして力尽くで部屋に引き摺り込まれたり、僕の部屋に押し入っては、楔を打ち込む。
「…ううっ…痛い…」
 平日の夜だった。政敬にも会えず悶々と夜を過ごしていた深夜、彰敬が突然やってきて襲われた。
「やだ、ホントに止めてっ、今夜は慣らしてないから痛いんだよっ」
 すると、彰敬はびっくりしたような顔で急いで引き抜いた。
「そっか…ごめん」
 ゴソゴソとゴムを外す姿を見て、哀れみを感じてしまった。
「…口で、してやる。」
 言うと股間に顔を埋めた。
「ダメだ、博敬…ヒロ…んんっ」
 僕の髪を掴む手の力が弱くなっていき、遂には頭を撫で始めた。
「ヒロ、信じてはくれないだろうけど、俺だって…ずっと好きだった。好きすぎてどう接していいのかわからなかった。」
 僕は強く吸った。
「待て、ホント、ダメ…出ちゃう、出る…」
 ビクビクっと、大きく身体を震わせ、大量の精液を吐き出した。
「ごめ、止まんな…」
 僕の背に唇を這わす。
 その熱さに、驚いた。
 そんなに、興奮しているのかと。
「ヒロ…マーの所へ行かないで…もっと、勉強するから。」
「アキ、違うんだ、別に身体の問題じゃない、心の…気持ちの問題なんだ。」
「…好かれていないってことか」
 背中から抱き締められた。
「だって、俺、頭がおかしいんだと思ってた。まさかマーがこんな乱暴な手に出るなんて想像だにしなかった…ヒロの部屋になんか寝かせるんじゃなかった。後悔しかない。」
 なんだよ、なんで皆、 自分勝手に気持ちを押し付けるんだよ。
 このままじゃ、マー君の時と同じになる。
 僕は、マー君が好きなのか、それともただ単に気持ちいいことが好きなのか、それならアキでもいいのか。
 冷静に考えたい。

2020.11.08
【十】
 大学の長期休暇を利用して、一人旅に出た。
 自転車にテントと寝袋を積んで北へ向かった。
 自転車を漕いだり降りて押したりしながら、自分の将来について考えた。
 まず、大学を卒業したらどうしたいのか。
 両親は安定した職に就けと言うが、僕は今、大学で農学部で品種改良について学んでいる。これを活かすなら農林水産省か民間企業で種の品種改良をすることだ。
 もしも、彰敬と一緒になったら、変わらないな。
 政敬は、何もさせてくれる気がないって言ってたしな。
 なんか、僕の存在価値ってなんだろう?
 そんな事を考えながら、自転車を漕いでいた。
「博敬!」
 背後から声を掛けてきたのは、彰敬だった。
 振り返ると父の車を運転していた。
「免許、持ってたんだ。僕はそんなことも知らない。」
「父さんが倒れた!」
 え?
「父さんが会社で倒れたんだ、早く乗れ!」
 幸いにも折りたたみ自転車だったので、慌てて畳んでトランクに押し込むと、彰敬の運転する車に乗り込んだ。
「いつ?いつ倒れたんだ?」
「夕べ。ヒロのスマホにGPSが着いてて良かったよ。」
 ん?GPSが着いてても、受信側で設定しないと使えないだろ?
 小さな違和感があった。
 その違和感は決定的になる。
 僕が連れて行かれたのは、病院ではなく、政敬の住むマンションだった。

2020.11.09
【十一】
「ひっ、んんっ…あっ…ん」
 もう丸二日、政敬と彰敬に交互に抱かれている。
「何が…したい?」
「ヒロが、欲しい」
 二人の意見が一致する。
「なんで…ぼく…なの?」
 僕の腕や髪を濡れタオルで拭いていた彰敬が、僕の耳に口を近付けて言った。
「ヒロは、ヒロの魅力に無頓着過ぎる。ヒロの性格が良いのは、あの日マーがいったとおりだけど、ヒロは男を惑わすフェロモンがあるようだ。」
 なんだよ、それ。
「ヒロのお父さんが言ったとおりだよ、ヒロは生まれついての男妾だ。」
「やだっ、やだっ、離せっ、僕はこんな風に二人のダッチワイフにされて一生過ごすつもりはないんだ、危なく騙されるところだった。」
「騒いでもムダ。この部屋ね、俺達以外誰も知らないんだ。だから、ヒロはこの部屋に一生閉じ込めておいてアキと二人で、可愛がってあげるからね?」

2020.11.10
【十二】
 毎日、朝から晩までどちらかが居る…と思っていたのだが、二人とも仕事を始めたばかりなので、会社を休めない。
 なので、昼間は一人きりだ。この間に逃げられるよう何とか考えないと。
 しかし、手足はベッドに縛り付けられ、中にはバイブを入れられ、常に快感を与えられ続けているので、思考が停止している。
 「あっ…んんっ…はぁっ…」口からは喘ぎ声を出し続け、腰は振りっぱなし、チンコは立ちっぱなしだ。
 なんとか、手の拘束だけ外れないだろうか?
「あっ…ああっ」
 政敬が帰ってくると直ぐに突っ込まれる。
 途中、彰敬が帰ってきて撮影が始まる。
「マーに串刺しにされて揺れるチンコが可愛いな。」
 完全に狂っている。
 カメラを固定すると、僕の口の中に、勃起したチンコを突っ込み腰を振る。
 「いい絵が撮れそうだ。」そう言って射精した。

2020.11.11
【十三】
 身体中、政敬と彰敬と僕の精液で臭い。髪はべっとりと貼り付き、口の端にもへばりついている。
 二人はシャワーを浴びに行ったが、流石に新入社員の分際では日中の疲れが出たのだろう、僕を散々強姦したら、睡魔に襲われたようだ。
 その時、政敬は僕の拘束を解いた。
 「ヒロもシャワーを浴びておいで?」と送り出され、二人はさっさと眠ってしまった。
 念入りに、ゆっくりと時間を掛けて、シャワーを浴びた。
 自然と涙が溢れた。
 僕は、政敬を愛していると、勘違いしていた。
 ただ単に、セックスが気持ち良かっただけなんだ。
 今は、怖くて堪らない。
 出来ればもう、セックスすらしたくない。
 入れられて、掻き回されて、喘いで、出す…ただそれだけしかない。
 僕ら三人の間には、これしかない。

2020.11.12
【十四】
 ベッドがギシギシと悲鳴を上げる。
 僕の声は既に枯れていた。
 毎日毎日喘がされ、精も根も尽き果てていた。
「んっ…ふっ…」
 最近は、玄関ドアが開いただけで、股間が熱くなり、チンコが勃つ。
 それを見て、二人がニヤニヤとしながら突っ込む。
 身体だけが順応していく。
 最近は足の拘束を外されたが、二人の居ない時間は、ファッキングマシンが僕の相手だ…それもない日がある。
 そして今夜、全ての拘束が解かれた。
「マー君、好き、好きなの。もっとして、もっと、もっと愛して?」
「アキ、キスして?アキのキスは気持ちイイ。愛してる。」
 二人にはこんな風に声を掛けてきた。
 抵抗せず、素直に抱かれた。
 …逃げ出せるその日まで。

2020.11.13
【十五】
「あぁ…あんっ…好きっ…セックス、好き」
「やっぱりヒロは可愛い。こんなに肉欲に溺れて、更に可愛さが増したよな?」
「…マーも、可愛いよ?」
「…なんだよ、アキ」
 二人の雰囲気かおかしい。
 僕に突っ込みながら二人が唇を合わせた。
 もしかしたら、二人が今までとは違う関係に変化したのか?
「あっ、うっ…」
「ヒロ、もう少し拡張してみようか?」
 拡張?なんのことだ?
 それは簡単なことだった。
 政敬が挿入しているところに、彰敬も挿入するというとだ。
「やっ、無理、無理だから…んっ」
 メリメリと音を立てて勃起したチンコを突っ込まれた。
 思考が停止した。
「あうっ…あうっ…」
 海獣の鳴き声みたいだ。
 脚を持ち上げられ、二本も突っ込まれ、快楽を得ていた。
 もう、僕は終わりかもしれない。
 あの時、政敬を受け入れなければ良かった。
 後悔で頬に涙が伝う。
 必ず、逃げてやる。
 そう心に誓った。

2020.11.14
【十六】
「博敬、帰るぞ」
 身体中が痛んでベッドに四肢を投げ出していたら、父が迎えに来た。
「彰敬までもが博敬に危害を加えているとは思わなかった。すまない。」
 服を着ると父の車に放り込まれた。この車はあの日と同じ車だ。
「この車で、博敬を攫ったと白状した。」
 父の声が震えていた。
 父の判断が間違っていなかったのだ、僕は性奴に成り果てた。
「もう…一生分、セックスしたよ。」
 僕の告白に父は顔をゆがめた。
「彰敬も、加担したんだよな?」
「うん。二人に毎日毎日毎晩毎晩…」
「分かった…けど、許してくれ」
「アキは跡取りだもんね」
「そんなことは関係ないんだ。私が言いたいのは、博敬を辛い目に遭わせたってことで、決して二人に優劣を付けたわけではない。」
 分かってる。僕が監禁されたのは、僕の意思が弱いからだ。

2020.11.16
【十七】
「父さん、知ってる?男でも尻孔にチンコを突っ込まれると、気持ちいいんだよ?」
「…知っている…和敬と私は大学に入るまでそう言う関係だった。両親に知られて、引き裂かれた。」
 僕は父の、邦敬の横顔を見た。
「…今でも、続いてると言ったら?」
「だから、反対したの?」
「博敬に、辛い思いはさせたくなかった。永遠の呪縛に囚われなくてもいい。肉欲は意外と簡単に忘れられる。ただ恋心は何時までも去ってはくれない。」
 邦敬が話してくれたから、僕も話そう。
「マー君を、好きだと思ってた。でも、違ったみたい。可愛いとか好きとか言われたから、嬉しかっただけで…あ…」
 そうか。
 気付いてしまった。
「父さん、ごめん。僕…」
「彰敬だろ?」
「うん」
 僕は、彰敬に政敬と同じように触って欲しかった、可愛いと言って欲しかったんだ。
「彰敬は、家に居る。話し合うと良い。」
 車は自宅の車庫に吸い込まれていった。

2020.11.17
【十八】
「ヒロ、ごめん。俺はどうかしていた。マーにキミを獲られると焦って…傷付けた。」
 僕は、彰敬の胸に飛び込んだ。
「アキ、もっと抱き締めて、もっと話をして、もっともっと僕を好きだと言って欲しい。…アキの愛が欲しい。アキに愛されたい。」
「ヒロ…」
「アキが、僕を構ってくれないから、マー君に好きって言われて嬉しくなっちゃったんだ。僕はアキに好きって言われたかったんだ。」
 そう、この不器用な兄に、彰敬に僕は恋していたんだ。
「俺は…壁一枚隔てた隣で、ヒロとマーがセックスしているのを知っていた。毎晩、ヒロの声を聞いて自慰してた。ヒロを助けもしないでおかずにしたんだぞ?そんな人間、好きになんてなったらダメだ。」
 僕は掴んだ彰敬のシャツから手を離せなかった。
「僕も、マー君をアキに置き換えていた。」
 そう、この唇が、中に入っているモノが、触れている手が、脚が、腹が、全部別の人ならと、思っていた。
「アキに、嫌われたくない。」
 胸に、顔を埋めた。

2020.11.18
【十九】
「俺は、ヒロに嫉妬していた。最初は母さんを獲られたと思った。次は父さん。違ったんだ。俺は両親に嫉妬していたんだ。あの、可愛い生き物を、俺のモノにするにはどうしたら良いのか、分からなかった。政敬が知っているなんて…。」
 彰敬の腕が、そっと背に回った。
「先ずは、兄弟としてやり直そう。それから…それでも俺を求めてくれるなら、一生…離さない。」


 彰敬の首に縋り、ぶら下がるようにしがみ付く。
「あっ…もっ…と、奥…」
 立ったままで身体を繋ぐ。
 左脚を肩に担がれ、不自然な体勢だ。
「もっ…抉って」
「可愛いよ、ヒロ。」
「うん、嬉しい」
 彰敬に大きく揺さ振られてイッた。
 胸が大きく上下する。
 暫くして僕の身体の奥に、熱い飛沫を感じる。
「火傷しそう」
「溶けたら良いのに」
「溶かして」
 言うと口を吸われた。

2020.11.19
【二十】
 当たり前だけど、兄弟には戻れなかった。
 いきなり抱き合い、身体を繋げた。
「好き」
「愛してるよ」
 毎日毎晩、愛の言葉を囁き合う。
 父、邦敬が言うには、我が家は代々男色の傾向があるそうだ。
 家が途絶えなかったのは、若いときにイヤというほど抱き合って、引き離されるのだそうだ。
「もしも、引き離される日が来たら、それは僕の命が消える日だと、信じて欲しい。」
 僕は彰敬に伝えた。
 しかし、僕の想いとは別に、僕の家の血が、脈々と繋がれてきたことを身を以て分からされるのだった。

2020.11.20
【二十一】
「あっ…ひっ…んんっ」
 あの日、邦敬は何を思って僕をあの部屋から連れ出したのだろう?
 我が家には代々受け継がれてきた別荘がある。
 広大な敷地に、点々と居宅を備え、中央に立派な家屋がある。
 この、一人で暮らすには広すぎる家屋が、僕の終の棲家となった。
 この家は、僕…次男を監禁する家だ。
 長男に従わせ、従兄弟に従わせ、父に従わせ、おじに従わせる。
 つまり、騒ぐ血を鎮めるために、僕は男妾となるのだ。
「ア…キっ」
 手を伸ばし、彰敬を探す。
「つれないね、ヒロ。今はキミの中に僕がいること、忘れないで。」
 政敬に揺らされ、邦敬に這いつくばらされ、和敬に服従させられ、彰敬には会えなくなった。
「彰敬は、我が家を継承する義務がある。妻を得、子を成し、事業を拡大させなければならない。」
 なんで?なんで彰敬だけ、いない?
「だから言っただろ?ヒロを愛してるって。アキはヒロとは別の道を歩くんだから、俺を選べば問題ないんだ。」
 政敬には、何の義務も無いのだろうか?
 もう、何も考えられない。

2020.11.21
【二十二】
「ヒロ」
 深夜、彰敬の声がした。
「アキ?」
「遅くなって、ごめん。迎えに来たよ。」
 僕は実に十年もの間、三人に身体を自由にされていた。
「やっと、やっと…」
 彰敬は窶れて草臥れた雑巾のようになっていた。
「事業を拡大し、子を成してきた。もう、文句は無いだろう?」
 彰敬の腕が、僕を抱き寄せる。
「もう、誰にも触らせない、誰にも渡さない。ヒロは、俺のモノだ。」
 ああ、確かに彰敬は苦労をしてきたのだろう。姿を見れば分かる。
 しかし。
「ごめん、僕はもう、アキを愛していない。」

2020.12.20
【二十三】
 心は、彰敬を求めている。なのに彰敬を頼りにしている人間を捨ててまで、僕を選んでは欲しくない。
「僕たちは、十年前に向かう道が違ってしまった。アキには大事な人が沢山居る。僕は、セックスしか出来ない身体になってしまった。それだけなんだ。」
 嘘だよ、もう、ここには誰も来ない。
 僕は毎日、広大な土地を耕しながら暮らしている。
 政敬は、麓で恋愛をして離れた。
 邦敬は、母の元へ戻った。和敬は、妻の元へ戻った。
 僕なんかに、関わったらいけない。
「ヒロ、俺は恋に落ちたんだ、お前が必要なんだ。」
 え?
「ヒロ以外、何も要らない。義務は果たした。後は俺の好きにさせてくれ!」
 恋。
 そうか。
 彰敬は、恋に落ちたのか。
 僕が欲しかったもの。
 昔々、胸の奥に宿っていたもの。
「うん、好きにして。」
 もう一度、沼に落として。

2020.12.21
年越しは、何する?
【一】
 スケジュールボードに「出勤」と、記入する。
「なに?31日も仕事?」
「うん。家庭がないから良いだろって言われちゃったよ。」
 快斗(かいと)は、苦笑した。
「侑己(ゆうき)は休みだろ?」
「あぁ、29日から。」
 快斗は、テレビ局でメイキャップアーティストとして働いている。まだ働き始めて三年だ。
 侑己は食品メーカーで新商品の宣伝をする広報として働いている。
 二人とも半分だけ芸能界に身を置いているという共通点で知り合い、恋に落ちた。
「快斗、その日は何時に帰れる?」
「生放送のメイクだから、日を跨ぐと思う。翌日からは休みだよ。」
「そっか。じゃあ、無理か、初詣。」
 侑己の表情が暗くなった。

2020.12.26
【二】
「ごめん」
「いや、いいんだ。勝手に行こうと思っていただけだから。」
 快斗には盆暮れ正月がない。それを辛いと思ったことはないが、侑己を一人にしてしまうのが申し訳ないと思っている。
「快斗が帰ってきたら、おせち料理を用意しておくよ。なら、いいだろ?」
「うん。ありがと。錦糸玉子、忘れんなよな?」
「了解」
「来年は、結婚…するかな。そうしたら、」
「快斗、嘘はいけない。」
 言うと侑己は快斗を抱き締めた。
「侑己、ウチの会社には同性既婚者がいる。」
「え?」
「だから、大丈夫だ、結婚…しよ?」
「なら、元日がいい。だめ?」

2020.12.27
【三】
「いいよ。」
 快斗も侑己も分かっていて、話に乗る。
 年が明けたら結婚して、指輪を買って、キスをして…でも、決して籍を入れるとは言わない。
「侑己、俺と養子縁組をしないか?夫婦にはなれないけど、親子なら色々便利だ。」
「やだ。」
 侑己が言わずに居たことを、淡淡と告げる。
「快斗とは、正々堂々と、籍を入れたい。」
 快斗は途方に暮れた。
「友人が…見た目は女なんだけどな、男なんだよ。そいつが男と付き合ってて、やっぱり結婚って話になってさ、今頑張ってる。けど、ダメなんだよ。」
 侑己の腕更に強く快斗を抱く。
「快斗と親子になったら、僕の家族とは家族でなくなる。」
「なら、侑己の子供にしてよ、俺を。」
「やだ。」

2020.12.28
【四】
「何だよ、じゃあどうしたいんだよ?今の法律じゃあ、それしかできないだろ?パートナーシップなんちゃらはただの約束だしな。俺達別に性別を変えたいわけでもない。」
 侑己が寂しそうに俯いた。
「快斗は、どうして出来もしないことを言うんだよ!」
「…あ、そういうことか。ごめん。結婚したって言えば、来年の年末年始は休めるかと思って。俺がゲイだって、職場の皆は知っているから。同棲していることも知ってるし、結婚まで進展してもおかしくはないだろ?」
 快斗は侑己の頭をポンポンと撫でた。
「ごめん、でも…子供扱いすんな。」
 互いにニヤニヤと嬉しそうに笑う。
「侑己、年が明けたら、イチャイチャしよ?」
 侑己の頭が快斗の肩の上に乗る。快斗はそっと抱き締めた。
「ううん、年が明けなくてもイチャイチャしたい。」
「了解。あのさ、一日は無理だけど二日に初詣に行かないか?」
「うん。」
 一年の計は元日にあり…一年中、イチャイチャ出来ますように。
 なんてね。

2020.12.29
【五】
「確かに、それは侑己ちゃんが可哀想だ。」
 快斗は大晦日の待機時間に、知り合いの芸能人と先日の件を話していた。
「俺が言葉足らずなのかな?」
「そうだなぁ、優しさが足りないんじゃないかな?人生で結婚って言ったら重大だぞ?それを冗談めかして言われたら傷付く。」
 快斗は大きく溜息をつく。
「そーかぁ、傷付けたかぁ。悪かったなぁ。」
 その人は侑己のことを女性だと勘違いしている…快斗が勘違いさせる言い方をした。
「仕事が終わったらすぐに帰って、優しく抱いてやれば大丈夫。」
 快斗に『優しく』は、無理だ。
 侑己と抱き合えるとなると、物凄く張り切ってしまって、侑己が音を上げてしまう。
「優しくって、どうするの?全部挿れないとか?」
 快斗は真剣だ。
「侑己ちゃんの表情をよく見る。気持ち良さそうに喘いでいたら、耳元で愛してるって、囁いてやれ。」
 快斗は常にガンガンと突きまくって、侑己の身体がビクビクと痙攣するまで擦る。
「イケなさそうなセックスだな。」
 照れ隠しでそう言ったら、「お前のためじゃない、侑己ちゃんのためのセックスをしろ!」と叱られた。

2020.12.30
【六】
「侑己、ハッピーニューイヤー!」
 朝、帰宅すると侑己はおせち料理を並べてくれ、雑煮を作ってくれた。
「ありがとな」
「あぁ。」
 その姿が妙に艶っぽく快斗の目に映ったので、朝から盛ろうと決意した。

「やっ…な…かいとぉ…何か、変…んんっ」
 快斗は言われた通り、ゆっくりと抽挿を繰り返し、侑己の表情を見つめた。
 ゆっくりと溶けていく雪のように、表情が変わる。
「あっ…快斗っ」
 それだけで快斗まで気持ち良くなってイキそうになる。
「侑己、気持ちい?」
「ん、気持ちい…イキそう」
「一緒に、いこ?」
 その前に、唇を重ねる。
 ちゅくちゅくと水音が響く。
「やぁっ…快斗…好き、これ、凄く好き」
 肩に食い込む程強く握り、性と意識を手放した。
「すごっ、そんなに気持ち良いんだ?」
 ズルリと自身を引き抜くと、額にリップ音を立ててキスをした。

2020.12.31
【七】
「ごめん、僕、気を失った?」
「よく寝てた。」
 フフッと快斗が笑う。
「なんだろ?今までこんなことなかったのにな。」
 照れ隠しだろう、俯いてボソボソと喋る。
「身体は拭いてあるけど、風呂入る?…一緒に。」
 今度こそ、真っ赤になって否定した。
「快斗…これ以上、夢中にさせないでくれ!」
 クルリと背を向け、バスルームに消えた。
「侑己、愛してるよ。」
 まだ、本人には言えないけど、言えるようになったら伝えたい、俺の人生に君は必要不可欠だと。

2021.01.01