飛鳥の都【現代編】
【一】
 饐えた臭いが漂う寝室で、豊香は敷きっぱなしの布団の上でうつ伏せに寝ていた。はぁはぁと息を弾ませ、顔を紅潮させ、ドキドキと胸を高鳴らせ、高く尻を持ち上げてその時を待っていた。
「しんたろ、なにしてんの…」
 振り返ると「ごめん、ゴムが切れてた」と、籠の中を漁っている晋太郎がいた。
「もうっ、僕は裸のしんたろがいいのっ!」
「ったく、俺の嫁さんは助平だな」
 背後からズブズブとその凶器で豊香を貫いた。
「あぁっ…イイっ」
 内壁を擦られ愉悦の声を上げる。
 晋太郎は抽挿を繰り返しながら、豊香に覆い被さると、両乳首を抓りあげた。
「ああんっ、はぁんっ」
 豊香の喘ぎ声に艶が出る。
「本当に、俺のお姫様は淫乱だ。」
 晋太郎は嬉しそうに腰を振っている。
「もっと、もっと酷くしていいから、いっぱい欲しいっ」
 晋太郎の方が先に根を上げそうな感じだ。
「ゆたかっ、お腹の中、精液でパンパンにしてやるっ」
 晋太郎が力強く律動し続け、ふいに深く腰を打ち付け動きを止めた。
「あぁっ、熱いの、来てる、しんたろが、中でうねってるっ」
 それを受けて全身をビクビクと痙攣させ、息をあげた。
「んんっ…」
 豊香のペニスは衰えることもなく、腹の前でフルフルと震えている。
 しかし、既に息をあげ、声も出せない。
「雌イキ、増えたな。」
 嬉しそうな晋太郎は、乳首から右手だけ離し、ペニスを扱きあげる。
「やっ、」
「やじゃないだろ?ちゃんと伝えなきゃ、分からないよ?」
「んっ、イイ、」
「何処が?」
「ちんちんと、乳首…と、お尻の中」
 豊香の声を聞いて、晋太郎の欲望は豊香の肉壺の中でムクムクと復活を果たした。
「ああっん」
 切なげに豊香が喘いだ。
 無情にもカーテンの隙間から、二人へ夜が明けるのをこっそり告げていた。

2020.07.27
【二】
「本当に、盛りのついた犬だな」
 豊聡耳皇子もとい豊聡(とよさと)は、二人の顔を見るなりそう言った。
「夕べも朝までしたのか?」
 興味深そうに、だが少し不服そうに問う。
「夕べというか、さっきまで…だって、好きなんだもん、セックス…じゃない、交合。」
 豊香は豊聡にも分かるように言い直す。
 そのとき、いつも居るはずの男が居ないことに気付く。
「あれ?大兄は?」
 山背大兄王子は大兄(おおえ)と名乗っている。
「あー、うん…」
 豊聡はなんとなく言い淀む。
「ま、良いんだけどね。」
 豊聡も大兄も、一年ですっかり現代の生活に馴染んでいる。
 豊香の仕事を手伝いながら、平和な日々を過ごしていた。

 その大兄は、大仁の元にいた。
「大仁、俺、出家する!」
「なんだよ、藪から棒に。」
「煩悩の塊なんだ。お願いだからお前の寺で修行させてくれ。」
「それがさ、この時代では修行の為というか、職業的な役割なんだな、僧侶ていうのは。あまり煩悩退散には向かない…って、豊香に惚れたんだろ?」
 大兄が飛び上がるように驚いた。
「な!」
「俺も、好きだから。」
「大仁」
「俺は、選ばれなかった。だから諦めてるんだけどな。」
「そっか。だって豊香、美人だもんなぁ。色っぽいしなぁ、良い匂いするしなぁ…したいよなぁ。はぁ、突っ込んでひーひー鳴かせたい。」
 大兄は露骨な煩悩だ。
「…手引きしてやろうか?」
「え?」
「豊香が男で良かったな、妊娠しないから。」

2020.07.29
【三】
「イヤッ、大仁…んんっ」
 両脚を揃えて左肩に抱え上げ、腰を持ち上げる形で、大仁は豊香を犯した。
「可愛いな、豊香は。」
「ああんっ」
 豊香は、切なげな喘ぎを漏らす。
 こうして、豊香は時々大仁に抱かれるために寺を訪れる。
 豊香が大仁に対して友情を表すのに身体を差し出すことには、なんの躊躇いもない。自分には他に出来ることが無いと思っている。そして晋太郎も容認している。
「豊香、出すぞ」
「んんっ、出して、いっぱい」
 最奥に勢いよく飛沫を感じた。
「ああんっ」
 ズルリと大仁が引き抜かれると、名残惜しそうに豊香が喘ぐ。
「豊香、良い子だ。」
 唇を塞がれた。
 身体がすっかり脱力仕切ったとき、ふすまを開けて大兄が入ってきた。
「豊香、俺も抱いて良いか?」
 有無を言わさない口調で問い掛ける。
「え?」
 大仁が豊香の上から退いた。
「豊香は身体も綺麗なんだな。」
 内股を撫で上げた。
「イヤッ、止めて…」
「止まらないんだ、君への想いが。」
 豊香が一番苦手な台詞。
「欲しい。豊香が欲しい。」
「大兄が?僕を?」
「うん」
 覆い被さり、豊香の唇へ口付けを落とす。
「ん」
 豊香が目を閉じ、口付けを受け容れたことでO.K.の意味だ。
 大仁の出した精液で中はびちゃびちゃだ。そこへ大兄の怒張仕切った欲望の塊を突っ込んだ。
「ひっ」
 余りの大きさに息を飲んだ。
「大兄」
 豊香は両手で大兄の頭を抱き締めた。
「大っきい、スゴく大っきい」
「お前をずっと欲していたからな。」
「んんっ」
 大兄は豊香を味わうようにゆっくりとしかし、力強く抽挿した。
「ああん、大っきいの、気持ちイイの」
「気持ちイイか、よしよし」
 大兄にしがみ付いたまま、腰をウネウネうねらせ、一番善いところに当たるように自然に調整する。天性の淫乱だ。
「イイっ、イイのぉー」
 大兄の腰に脚を絡め、結合を深くする。
「んあぁ、気持ちい…、スゴい」
 肉壁がゴリゴリと擦られ、突き入れる方も入れられる方も官能に浸っていた。
「ゆた…か」
 大兄が切なそうに囁く。
「好きだ、愛している」
「ん」
 肉壺がギュッと締め付けた。
「うう」
と、呻き大兄は果てた。
「あ、火傷しそう、熱い」
 ビクビクと痙攣して、弛緩した。

2020.07.30
【四】
「大兄」
「なんだ?」
 舂米女王(つきしねのひめみこ)は米(よね)と名乗っている。
「米ちゃんはいいのかよ?」
「豊香、あの時代はな、何人も囲うことが甲斐性なんだ。だから豊香を恋うことは問題ない。」
「僕は晋太郎と結婚してるっていうのは、頭の隅に置いといてよ。」
「分かっている。偶に大仁の序でにまぐわってくれればいい。」
「セフレってことだな。」
 豊香は晋太郎だけで満足しているので、別にセフレを欲しては居ない。
 しかし、実際の所、大仁の他に豊聡とも関係を持っている。そこに大兄も加えると、結構な重労働だ。
「仕方ないなぁ」
 断れない性格である。
 仕事も忙しいのに。

「てな訳で、大兄に抱かれた。」
 晋太郎が鋭い視線を投げてきた。
「大仁は、わかる。豊聡さんも納得した。でも大兄は、本当に豊香が好きってことだよね?心配だなぁ。」
「えへ」
「なんだよ?」
 豊香は晋太郎の腰に抱き付いた。
「なんかさ、僕は晋太郎が嫉妬してくれるのが嬉しい。」
「嫉妬なんか…」
 豊香の背に腕を回し、力いっぱい抱き締めた。
「しんたろ、苦し…」
「24時間365日、常に抱いている。」
 豊香のジーンズのファスナーを下ろすと、中から勢いよくペニスが飛び出した。
「これ、しゃぶらせてないよね?」
 ギュッと握られる。
「ああん、触れさせてな…いっ」
「ここは、俺のモン。誰一人触れさせたらいけないからね?こっちは」
 いつの間にかジーンズが足から落ちていて、後孔に、指を入れられていた。
「んふ…ん」
 クチュクチュと指が出入りする。
「ダメぇっ、またしたくなる」
「俺は、豊香の旦那、わかる?好きなときにセックスするから。」
 声にせず首をフルフルと左右に振る。
「そんな、晋太郎の玩具みたいなの、ヤダ」
 豊香が拒んでも、晋太郎は左脚を抱え上げ、立ったまま串刺しにした。
「ああんっ、いつもより大きいっ」
「嫉妬に狂ってるからな」
「嬉しい、晋太郎がいつまでも好きでいてくれて、嬉しい」
 ギュッとしがみ付く。
 両脚を抱え上げられ、ユサユサと揺さ振られる。
「んんっ、気持ちイイ」
「俺のが一番って、言ってくれ」
「馬鹿、晋太郎が唯一無二に決まってる、あんっ」
「好きだよ」
「愛してる、しんたろ…ごめんね、彼方此方で、」
 全部言わせないで晋太郎は口を閉じさせた。
「んんっ」
 分かってるから、言わなくて良いから…晋太郎の胸はやはり嫉妬で焦げ付いていた。

2020.07.31
【五】
「晋太郎、眠そうだな。」
 翌日、豊聡に言われて慌てて意識を集中させる。
「豊聡さん、その辺は突っ込まないで欲しい、僕のせいなんで。」
 豊香が間に入る。
「大兄だな?」
「なんで?」
「最近、豊香の話しかしない。」
 豊香が溜息をつく。
「大兄には米ちゃんがいるから、あまり頻繁には会わない。それでいいよね?」
「いや、あいつが言ったと思うが私達の時代は何人嫁がいても問題ないんだ。そういう私も膳(膳部菩岐々美郎女)と正嗣を囲っている、豊香にも惹かれている。」
「気が多いんだ?」
「本能ではないのか?」
 本能?
「豊聡さん、テレビで騒いでいるけど、現代は結婚していたら貞操を守らないと仕事を失うこともある。」
「一夫一婦制だな。でも正嗣と豊香は『婦』ではない。」
「それ、屁理屈」
「なら」
 豊聡の顔が近付いてくる。
「豊香は私としたくないのか?」
「それは…晋太郎の寝不足が続くことになるから、控えたい。」
 豊聡が晋太郎を見る。
「そうなのか?」
 晋太郎が人前で赤面した。
「そう、です。」
「二人とも、実に可愛いな」
 豊聡はそれで納めてしまった。きっとまた招集されるんだろうなと、豊香は思った。

 招集、ではなく、強制だった。
 その日の会議終了後、トイレに立った豊香を追うように豊聡もやって来て、そのまま個室に連れ込まれた。
 便座に腰掛けその上に豊香を抱き上げ背後から貫いた。
「ヤダ、おしっこ、漏れちゃう」
「出して良いぞ」
 豊香は自分で口を塞ぎ、声が漏れないようにした。
「んっ、んっ」
 それを見て豊聡は激しく豊香を揺さ振った。
「あっ、あっ、」
 ぷしゃーと、噴き出した。
「ああっ」
 おしっこが勢いよく噴き出したのと同時に、直腸壁がキュッと締まる。
「儀式で尿道を攻めたのは私の提案だ。」
「へん…たい」
 豊香には羞恥しかない。
「尿道も性感帯だ、正嗣も泣いて喜ぶ。」
 正嗣には、豊香も最初の頃に会ったきりで全然会わせてくれない。
 腰を突き上げ、射精すると豊香を解放した。
「正嗣さんって、僕と同い年くらい?」
「そうだな、大兄より五つ年下だから、同い年だな。」
「同い年か…」
「あいつの取り柄は交合しかないぞ。」
 余程、他人の目に触れさせたくないらしい。

2020.08.01
【六】
「はぁっ、はぁっ…」
 正嗣の部屋では、一人、褥の上に吊り下げられた綱に拘束されていた。肘に枷を嵌められ、綱を両手で掴んでいないと、腕が千切れそうになる。
 肌には着物を纏っているが、前は開けたままで、勃起仕切った肉棒には絹紐がキツく縛られていた。
 豊聡が言っていたように、尿道には先端が丸く加工された竹串が刺さっている。
 後孔には、豊香が儀式の時に使われた、極太の張り型が突っ込まれていた。
 腕が痛くて腰を落とすと、深く突き刺さり、慌てて腰を上げるとズルリと三分の一くらい抜ける。
 それを繰り返していると、独りでやっている気分になり、憂鬱になる。
「戻りたい、こんな生活、嫌だ。」
 悪態をついた時に深く突き刺さった。
「ああっ、深い…んん」
 いっそ、溺れてしまおうか?と、羞恥を手放そうとしたときだった、部屋の玄関が開いた。
「中で、気を遣れるようになったか?」
「兄…うえ…何故にこのように無体な仕打ちをこの身に受けなければならぬのでしょうか?苦しい。」
 正嗣は、兄の言い付けに従い東の国へ行き、支配をしてきた。
 それが突然攫われ、ここに連れて来られた。
「私は、兄上の性具と成り果てたのでしょうか?」
「竹串にはささくれが出来る。無理に抜くことは出来ぬ。」
「兄…うえ」
「愛妾…と言えば分かるか?手放したくはない。」
「ああっ、ヘンになるぅ」
 豊聡が張り型を手に取り、抜き差しをしたのだ。
「おかしくなります、身体が、バラバラになりそうだ、ううっ」
「善がれ、そして私を欲せ。」
「ああんっ、イイっ、」
 豊聡の手で抽挿されるだけで、感じ方が全然違う。
「兄…うえ、お願…兄うえが、欲しい」
「正嗣、厩戸と呼べ、お前には本当の名で呼ばれたいのだ。可愛くて可愛くて…」
 張り型を引き抜いた。
「官能的な表情にそそられる、喘ぎ声に興奮する、泣き顔に勃起する…変態な私を許せ。」
「厩戸、私を犯して」
 豊聡は、丁寧に竹串を抜き、自身の欲望に熟れきったモノをズブズブと突き入れた。
「ああん、こ…れ、これが欲しかった、兄上の、ううん、厩戸の」
 泣きながら善がる正嗣に、舌も絡めて上も下も繋がる。
「泣くでない、これからはずっと、側に置いてこうして可愛がってやる。」
「中、いっぱい擦って、頭ヘンになるくらい、擦って」
 泡立つくらい抽挿を繰り返し、豊聡は思い切り精を放った。
「あん、厩戸、中、びしょびしょに濡らして」
「正嗣、可愛いぞ、正嗣」
 二人は疲れて眠るまで、こうして抱き合った。

2020.08.02
【七】
「厩戸王、私にも豊香に会わせて欲しい。」
「駄目だ。」
「どうして?」
 正嗣は不満げだ。
「…其方が、豊香に気を許したら、私が寂しいからだ。」
「厩戸王、私は貴方を愛しています。母が違う私を、こんなにも可愛がってくださり、感謝しています。そんな貴方を裏切ることはありません。それより、こんな風に部屋に独りで取り残され、性具のように扱われるのが怖いのです。私に、役目を与えてください。再び東国へ行くこともやぶさかではありません。」
 豊聡が寂しそうに俯いた。
「私の、愛妾では気に入らぬのか?」
「もっと、貴方のお役に立ちたいのです。」
 正嗣の顎を捉えると深く口付けをする。
「其方はここにいてくれるだけで、役に立っているのだぞ?」
 正嗣の思いが、豊聡には届かない。

「なん…だと?」
 豊香から正嗣についての話があった。
「東国を支配する能力のある人なんだから、一つ会社を見てもらえないかと。」
「なんの会社だ?」
「僕がやってるんだから、野菜か衣料品だよ。」
「医薬品は?」
「それは晋太郎がまとめてる。」
「…正嗣に確認してからだ。」
「どうして?正嗣さんに一度ここへ来てもらってよ。」

「ひあっ、」
 褥に両手両脚を拘束され、相変わらず後孔に張り型が刺さっていた。
「んんっ」
 もう、孤独な性技に、身を任せていた。
「あっ、あっ」
 張り型が出入りする。
「奥、当たる、ああっ」
 自ら腰を振り、空イキ出来るように何度も擦りつける。
「あっ、あっ、兄…うえっ」
 張り型を食い締める。
「んんっ」
 足指で、手指で敷布を握りしめた。
「兄上、射精せずに気を遣れました、褒めてください…」
 相変わらず、腹の上で絹紐でグルグル巻きになった肉棒が踊っている。
「ああ、思い切り出したい、出したいんだよぉ」
 部屋の真ん中で悶えていると、玄関扉が開く音がした。
 豊聡だろうと、態と大きな声で喘いだ。
「イクっ、イクぅっ」
「豊聡さん、正嗣さんは何をしているの?」
 そこで初めて豊聡一人ではないことを悟る。
 正嗣のいる部屋の扉が外側から開いた。
「な」
 豊香だった。

2020.08.03
【八】
「あの…」
 白いシャツにチノパンを履いた正嗣さんは、見目麗しい青年だった。
「学生寮を作って普段は大学生に生活をしてもらって、何かあったら避難所になるように設計してはいかがでしょうか?」
「成る程。それは思い付かなかったです。」
 しかし、豊聡は違う反応を見せた。
「正嗣。私の言いつけを守らず、現代について色々調べたのだな?」
 すると、正嗣は身体を小さくしてイタズラをした子供のように首をすくめた。
「ごめんなさい、大兄に聞きました。」
「大兄が来たのか?何もされなかったか?」
「はい、何も。」
 あの状態で何もされないって言うのは嘘だろう?と、豊香は思ったが、口には出さなかった。
「豊聡さん、気になることがあるんだけど、僕たちは正嗣さんの子孫なんだよね?でも、今、正嗣さんはここに居る。ってことは僕たちは生まれない?」
「大丈夫だ。正嗣の妻子は置いてきた。」
 正嗣は寂しそうに笑った。
 もしかしたら、正嗣さんは今、幸せではないかもしれない…豊香はある考えを巡らせていた。

「それは、豊聡さんが怒り狂うんじゃないか?」
 晋太郎も大仁も及び腰だ。
「人間ってさ、やっぱりあるべき場所が存在するんだと思う。過去から連れてきた人は帰した方が良いのではないかと思う。」
 現代に馴染んでいるのは豊聡さんと、大兄くらいだ。
「確かに豊聡さんは長い年月を掛けた計画だったけど、あの人が生きている間は僅か50年だ。そう考えたら、もうすぐ寿命になる。」
 晋太郎が小声で呟く。
「大兄は?」
「あまり変わらない」
「なら、あの二人が亡くなった後、奥さんと子供達を正嗣さんのいた東国へ連れて行けば生き延びるのではないか?」
 二人で散々考えたが、大仁の意見も聞くこととした。

2020.08.04
【九】
「現代の暮らしに慣れて長生きしたらどうする。」
 大仁の意見はこうだった。
「全員、正嗣さんの東国へ連れて行こう。やはり現代に居るのはおかしい。」
 大仁も随分前から考えていたようだ。
「まず、豊聡さんと大兄が豊香に執心しすぎだ。あまり、過去の人間と濃厚接触はしない方が良い。」
「大仁が手引きしたくせに。」
 豊香は大兄との逢瀬がまだ続いていた。
「次に、歴史が大きく変わってしまう。今のところ辻褄は合っているが、未来に綻びが出るはずだ。その時、俺らで対処できるはずがない。」
 豊聡さんが1400年掛けて行った計画は、僕らには荷が重い。
「豊聡さんに、僕から話す。」

「皇子、聞い…て…くださ…いっ」
 豊香は久し振りに『皇子』として、相対した。
 豊聡も、それに敏感に気付いた。
 なので、すぐに豊香を押し倒した。
「狡…いっ、こんな…」
「豊香は、ここが善いんだよな?」
 大きく怒張した肉棒を浅く深く、豊香の肉壁に擦りつけてくる。
「ああぅっ、イイっ」
 既に豊香は肉の奴隷と化している、挿入れられれば、愉悦する。
「イクっ、イッちゃうぅっ」
 豊聡を咥え込んでいる肉壺は収縮を繰り返す。
「うっ、豊香…私の精を全て絞り出すがよい」
「あ、あ、うあっっ」
 豊香の肉棒もビクビクと跳ねて爆ぜた。
「約束…です。皆さんの記憶を、晋太郎が消します。そして、正嗣さんを東国へ移送します。」
 組み敷かれたままの状態で告げた。
「わかっている。ここで、最高権力者は、豊香だ。ただ、」

2020.08.05
【十】
「そんなことを言ったか。」
 晋太郎が溜息をついた。
 豊聡は、「東国へ行ったら、正嗣の娘と子を成す。そして其方らが消滅する道を選ぶ。どうする?」と、脅してきたのだ。
「豊香、晋太郎、大丈夫だ。少しくらい先祖が変わっても、ここへ辿り着く。人間なんてそんなもんだ。」
「あのさ。僕一人で正嗣さんに会ってくる。」

「…なにからなにまで、ありがとうございます。」
 正嗣さんの部屋に、衣類らしい物は見当たらなかった。
 豊聡さんが用意していないのだ。
 先日の白いシャツとチノパンは豊聡さんが持ってくるのだそうだ。
「浴衣、ティーシャツ、チノパン、シャツ、カーディガン…これくらいあれば大抵は乗り切れますかね。」
 常に手足は拘束され、張り型が突っ込まれていた。
「もう、兄上との性行為しか許されていないと思いました。」
 ふわりと柔らかく笑う正嗣は、どことなく豊聡に似ている…と、豊香は思った。
「貴方のご家族の元に、お返ししようと思います。どうでしょうか?」
 「あ」と言ったきり、逡巡した。
「記憶は消させて頂きます。その上で送り届けさせて貰います。」
「記憶は、とっておきたいです。こんな破廉恥なことばかり強要する兄ですが、やはりお慕いしています。この何年か、こんなに愛されて幸せです。」
「正嗣さん、貴方の兄上は、私とも性交渉をしています。多淫なんですよ?」
「それのなにが問題なのでしょうか?権力者は多くの妃を娶ります。それは男女関係なく。」
 豊香には目から鱗だ。
「そうですか…記憶…」
「家族の元へ戻るより、今の生活が幸せだと言ったら?このままここに居られるのでしょうか?ここは戦もないし政もない。ただ、兄上のお越しを待つだけでいいのです。愛する人が訪れるのを…」

2020.08.06
【十一】
「誰もが戻ることを拒む。これで、いいのだろうか?」
 豊香は頭を抱えた。
「五年を目処に独立してもらったらいい。」
「え?」
「もう、俺達の手助けは要らないだろう?なら、自分たちで生活していったら良い。そうしたら、豊香を独占できるだろう?」
 晋太郎は本音を吐いた。
「ここまでやってやったじゃないか?そろそろ俺達の、俺達だけの幸せって物を見詰めてもいいだろ?俺は、豊香と二人で生きて行きたい。」
「そっか…そうだね。」

「戻るか、残るかだな?考えてみよう。」
 豊聡が答えた。
「現代は一夫一婦制なのだな。ならば、正嗣に妃を…」
「待って。正嗣さんは豊聡さんと一緒に居ることを望んでいるんだ。膳ちゃんとは夫婦で、正嗣さんは弟で良いんじゃないかな?」
 弟とセックスはしないけど…と、豊香は思ったが口にはしなかった。
「なんだ、豊香との関係を切れば良いのだな?なら答えは簡単だ、残留だ。」

 全員の残留が決まった。
「皆さんにお話があります。今まで私と晋太郎が担当していた仕事を全て大仁に譲ります。その仕事を豊聡さん、大兄さんと分担して行ってください。正嗣さんは学生寮の企画を詰めて、運営に乗せてください。私たちは飛鳥を離れ、東北へ向かいます。一箇所ではなく、幾つかに分散させるために新しい土地を手に入れてきます。」
「豊香、お前ら二人がやろうとしていることは、俺がやらなければいけなかったことだ。」
 大仁が立ち上がる。
「でも、大仁には寺のこともある。」
「それは平気だ。まだ父が元気だからな、跡を継ぐのは20年くらい先だ。真仁(まさと)を京都から戻して、営業してくる。別に長期出張でいいだろう。移住の必要はない。それと、正嗣さんが進めるプロジェクトは、東京が妥当だと思う。豊聡さんと一緒に東京に長期出張して、現地でプロジェクトチームを作ってはどうだ?ま、一年くらい…出来れば二人で、豊聡さんは単身赴任の形で。大兄さんには四国地方を開拓して欲しい。二週間行って二週間戻るという感じで、定期的に。これでどうだ?」
 豊香に異論はない。
「大仁、随分練ってくれたんだな、ありがとう。」
「社長がいなければ、我が社は成り立たない。豊香、君の求心力を侮ってはいけない。俺なんかじゃ務まらない。」
 豊聡も、大兄も、正嗣も納得して、一週間後には意気揚々と出掛けて行った。

2020.08.07
【十二】
 平日の社長室。
 ソファがギシギシと鳴っている。
「あ…んんっ…しんたろ…んんっ」
 晋太郎の腰に豊香の脚が絡み付き、赤黒くテラテラと光るグロテスクなモノが、豊香の中を出入りしている。
「ああんっ…気持ちイイよぉ」
 誰にも邪魔されることなく、二人は好きなときに抱き合っていた。
「豊香、俺も気持ちイイ、このままずっと入れていたい」
「あんっ、擦って、中、いっぱい擦って」
 くちゅくちゅと舌を絡めもう感情はピークに達している。
「んっ、んんっ」
 晋太郎が爆ぜる。豊香がイク。
「やっぱ、ヘン。」
「うん。豊香、射精しなくなった。」
「中出しして貰わないと、出ないのかな?でも晋太郎にフェラしてもらったら出るんだよね。」

『それは、豊香が晋太郎のオンナになったんだな。』
 翌日、豊聡からの電話で思わず零した愚痴に返ってきた言葉だった。
「…どういう、こと?」
『身体がオトコの精液を搾り取ることを目的としているってことだ。…最近、正嗣も覚えたぞ。』
 晋太郎からってことは、子を成そうとしている?
『ま、単に心の問題だと思うぞ。』
 豊聡によって逆に悩ましい問題になった。

 豊聡との電話を終え、晋太郎に伝えると、「別に難しくはない、豊香が俺と子を成す…つまり、他の女は排除したいってことだろ?オレとしては嬉しいけどな、それだけ豊香に愛されているってことだろ?」と言われた。
「そっか…そういうことなのか。」
 豊香は納得したような寂しいような複雑な心境。
「少し、休む?」
「え?」
「しない日を作る…とか。」
「あ。」
 為過ぎってことなのかと、豊香も悟る。
「じゃあ、とりあえず一ヶ月、しないでいようか?」
「あ、ああ」
 豊香としては一週間くらいだと思っていたので一ヶ月と言われかなり動揺した。

2020.08.08
【十三】
「やっ…ぱ…止め…んんっ」
 大仁が東北から一時的に戻ってきた。
 当然のようにベッドに誘われ、身体を繋ぐ。
「豊香、晋太郎と禁欲生活なんだって?」
「はあんっ、んんっ…」
 完全に飛んでいた。
「出ないの、晋太郎としても…ああんっ…中でしか…イカないっ…あんっ」
 説明していても大仁の攻めは止まらない。
「そんなに善いのか?晋太郎とのセックス。」
「ん、気持ちイイの…」
「俺の逸物も良いもんだと思うけどな、晋太郎の方がいいか。」
「好きなの、晋太郎が好き」
「はいはい」
 大仁はグリッと、悪くない逸物を奥に進めた。
「あうっ…気持ちイイ」
 内壁をゴリゴリ擦る。
 「あっ、あっ、イク…イクっ」
ドクンと射精した。
「出るじゃないか」
「だから…晋太郎とすると出ないんだよっ!」
 根本的な解決案は全く出なかった。

 大仁とした以外は、晋太郎には全く触れなかった。
「ん」
 自ら晋太郎の首に腕を巻き付け、唇を奪った。
「晋太郎、僕、我慢できない。ごめんなさい。」
 まだ一ヶ月には日数が足りない。
 しかし晋太郎もそろそろ禁断症状が出ていたので、なんの躊躇いもなく、豊香の行為を受け入れていた。
「俺も。」
 晋太郎は豊香の双丘を両手で握りつぶした。
「あんっ」
 豊香の歓喜の声を耳にして、股間を熱くした。
「別に、出なくてもいい。しんたろとエッチしたい。」
「うん、俺も豊香を抱きたい。」
 晋太郎は豊香の後孔をヌプヌプと指で解したが、直ぐに不要なことを悟った。
「豊香、大仁と寝た?」
「ごめ…ん…」
「…俺だけのものになってくれよ。」
「しんたろ?」
「俺一人の豊香で居て欲しい。ダメ?」
「ううん、晋太郎だけのものになりたい」
 晋太郎の硬く強張ったものを、豊香の後孔で受け入れる。
「あんっ」
「豊香、可愛いよ。」
「しんたろ…好き」
「愛してる」
「僕も、アイシテル」
 それは、ホンの些細なことだった。
 少しだけ重量を増した晋太郎の怒張で2〜3回擦られただけで、豊香の肉棒が爆ぜた。
「あ…あ…なに?…イクの、止まんない…出る、いっぱい出てるぅ」
 大きく跳ねながら、蜜口をパクパクさせて白濁を撒き散らした。

「厩戸王、私はこうしてお仕事をしているのが向いているようです。毎日が楽しい。」
 豊聡は、公衆の面前で堂々と正嗣に口付けた。
「ん」
「可愛いことを言うから、接吻したくなった。帰ったら、鳴かすぞ。」
「皇子はどうなのですか?」
「私も楽しい。お前を養うことが出来ると思うと嬉しいぞ。」
「はい」
「正嗣。私たちはこの時代にあの、飛鳥の地で寿命を終えることになると思う。それで、本当に構わないか?自然の摂理を変えぬように、子を成さないようにしてきた。この後も妃と子作りはせぬ。するのは、正嗣、其方だけだ。豊香とはもう遊べなさそうだしな。」
「皇子、それは豊香が可哀想です。」
 豊聡と正嗣は、東京の23区に拠点を作り、埼玉に大学生の寮として設備を作れる場所を確保した。
 いざというときには学生が生活しつつも、地域の避難所として機能する場所を作る。
「関東の都県に一つずつ作れると良いな。」
 二人が寝起きするウイークリーマンションで、帰り着くなり身体を繋ぎながら、豊聡は考えていた。
「厩戸王、あんっ、交合の…最中は…考えられません…あっ、イキそう」
「うん、イッていいぞ」
「ああんっ」

 五年後。
「…と言うことで、我が社は…」
 相変わらず豊香は、社長業を務めている。
 晋太郎は豊香の秘書として、常に一緒に居る。
 豊聡と正嗣は、東京支社長と副支社長として、ずっと東京にいる。
 いずれは飛鳥に戻るつもりらしいが、今は東京が良いらしい。
 東北・北海道には真仁が、四国・九州地区は大兄が采配を振るっている。
 みんな、自分の持ち場が出来て幸せそうだ。

「ねえ、豊聡。」
「なんだ?」
「本当に、僕は伝説の御子だったのかな?」
「豊香以外の御子は、何も出来ずに終わった。豊香は十分働いてくれた。礼を言う。」
「そっか。良かった。」
 豊聡が、「一夫一婦制は、良いもんだな」と言ったのが、印象的だった。
 僕は、生涯の伴侶として晋太郎を選んだ。
 それに、間違いはない。
 晋太郎もそう言ってくれる。
 他の人達も、間違いのない選択をしてくれていたら、いいな。
 人間は、感情という目に見えないものを大事にしたがる。
 でも、この感情は簡単に変化する。
 変化しないように努力することも大切だけど、変化したときどうすれば良いか考えることも出来る生物だ。
 ただ、最後に笑っていられたら。
 それだけで素敵な人生だと、思えるはずだ。
 さあ、今日も最後の時まで、頑張って生きよう。
 頑張って愛し合おう。

2020.08.09
終わり