レベル7
第二話  最初はマイナスから
 碧樹僚摩は悩んでいた。
「就職は地元に帰らないか?」
 拓真に言われ戸惑った。


 赤城拓真は悩んでいた。
「僕はもう少し学校に残りたい」
 僚摩に言われ戸惑った。


 一年後、春。
「悪い、先行くから戸締まり頼んだ!」
 僚摩は玄関を飛び出した。
 二人で話し合いを続けた結果、拓真は東京の広告代理店に就職した。
 僚摩は国立大の大学院を受験し、無事に合格した。
 僚摩が研究を続けたいのなら長野より東京の方が良いと勧めてくれたのは教授だった。紹介状を送ってくれたのも功を奏したかもしれない。
 地元で就職したかった拓真を説得したのは僚摩。
「生活環境が全く違うなら、会える時間も限られてくる。なら…一緒に住める場所がいい。」
 これが殺し文句だ。
 地元に戻ったら実家を出る口実がない、特にまだ臑齧りの身分である僚摩には選択の余地がない。
 別々に暮らすことは今更考えられない僚摩にはこれ以上の良策はなかったのだ。
 元々大学は東京で受けるつもりでいたのに、拓真との関係が拗れたせいで遠回りしてしまったのだ、それだけのことである。


「全く、毎朝あの調子で大丈夫なのか?」
 意外と世話女房的な拓真は、朝食の後片付けをして出勤する。
 住まいは、拓真の会社に近い方を選んだ。
 僚摩曰く、学割定期の方が安いから…なのだそうだ。拓真に言わせれば、会社から出るのに…だ。
 僚摩は拓真の希望を叶えずに東京へ来たこと、拓真は社会人であることに配慮していたのだが、拓真はそこまで頭が回らなかった。

 帰りが早いのは拓真だ。僚摩はバイトに行っている。何処で何の仕事をしているのかは絶対に言わない。
「ただいま」
 深夜零時。僚摩が帰宅する。
 拓真はリビングでウトウトしながらテレビを観ている。
「おかえり」
「寝てればいいのに」
 その言葉に、拓真が反論した。
「…なんだよ、それ。朝はバタバタ出掛けちゃうし、夜は遅いし。一緒に住んでるだけでセックスどころかキスも出来ないじゃないか!これじゃ実家に
いるのと同じだ!」
 僚摩はビックリしながらも、行動に移した。
「ごめん」
 ガバッ
と、抱き寄せた。
「僕だって一緒にいたいと思っているんだけど、一年後のことを考えたら焦っちゃうんだよ。」
 修士課程を修了するには二年間を要する。しかしその後の進路はなかなか難しいことを大学院に進んでから知ったのだ。
「ゆっくりでいいよ」
 拓真は僚摩の背に腕を回して抱きしめた。
「俺の方が焦ってた。ごめん。」
 まだ道は始まったばかりだ。先は長い。