「おはよう」
朝起きたら、拓真が既に起きて朝食の支度を終えていた。
「今朝は早出?」
「いや。いつも僚摩ばかりに作らせているから朝忙しいんだと気付いたんだ。これからは俺がやるよ。」
「ちょっと待ってくれ」
拓真も僚摩も一人っ子だ。
しかし拓真は専業主婦の母親に育てられたから料理はしなかった。
僚摩の家は共稼ぎだったから家事はやらされた。一通りのことは出来る。
「…失礼だな。ちゃんと僚摩がいない間に勉強したよ。」
ちらっと確認したが盛りつけに問題はなかった。
「どんな?」
「Eテレと日テレとテレ朝」
「料理番組かよっ」
僚摩が料理や洗濯をして拓真が片付けや掃除をする。とりあえずそれで家の中のことは回っていた。
「僚摩がやることを減らしたら、もっと二人の時間が作れるだろ?」
あまりにもけなげな姿に、あの日は本当にせっぱ詰まっていたんだとつくづく思う。
「ありがとう」
…腕はまだまだだけどな。
深夜12時半。
そっとドアを開けたが、室内は真っ暗だった。
寝室を覗くと拓真が頭に冷えピタを乗せて寝ていた。
「ムリするからだよ・・・」
拓真の寂しさは分かる。
だけど親不孝している身としては避けられない道なんだ。
クローゼットの中から水枕を探し出すと、キッチンへ行って冷凍庫を開ける。
中にはほうれん草、カボチャ、人参などの野菜が下ごしらえした状態でラップに包んで冷凍されていた。
それらを押しのけて氷を取り出す。
先に水枕に氷を入れ、余った分をボールに入れて水を足す。その中にフェイスタオルを浸した。
その間に水枕に水を入れて高さを調整した。
フェイスタオルを絞ると両手に持って寝室へ移動する。
冷えピタを外してフェイスタオルを額に乗せる。
頭をゆっくり持ち上げて水枕を枕の上に置き、再び頭を下ろす。
そのまま同じ布団の中に潜り込んで拓真の身体を抱きしめた。
―身体壊したら元も子もないじゃないか―
心の中で呟いたが、声には出さなかった。
不器用な拓真だから。ずっと前からそんなことは知っていたから。
まだまだ、始まったばかりじゃないか。
焦るなよな。
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