「七度五分…どうする?」
僚摩が怒った表情で拓真を見ている。
「会社に電話できるか?」
こくん
拓真は頭を縦に振った。
「よし。じゃあ今日は寝てろ。僕は学校へ行ってくる。…バイト、休めるように頼んでみる。」
僚摩は後ろ髪を引かれる思いで出掛けていった。決して深夜の強攻に対して文句は言わなかった。
布団を口元まで引き上げ、ぽつり呟いてみる。
「僚摩…可愛かったなぁ。俺に縋って乱れまくって…」
拓真は僚摩の姿を思い浮かべながら会社に電話を入れた。
「すみません、今日…」
拓真は言い掛けて気付いた。大事な契約があったことを。
「ちょっと腹の調子が悪いんで一時間遅れます。」
電話を切ると慌てて身支度を整えた。
風邪薬を探し出し、キッチンへ行くと、テーブルの上に鍋が置いてあった。蓋を開けるとおじやが出来ていた。
「これならいつでも食べられるな…」
ひとしきり感心して腹に収めた。薬を飲むためだ。
初めて、僚摩の方が拓真より色んな事を考えていることに気付いた。
拓真がいかに短絡的に行動してきたかを思い知らされた。
社会人としてしなければならない責任。僚摩はちゃんと知っている。
拓真は部屋を後にした。
大事な契約があるから行ってくる
と、メモを残した。
「なんでメモなんだよ…バカか、あいつは。メールしてくりゃ良いじゃんか。」
僚摩は一人、呟いた。
「ま、僕もメールは出来ないだろうな」
ムリをして出掛けていった自覚があるから、言えない。
僚摩は立ち上がると、粥を作る準備を始めた。
ふと、シンクの中を見ると、鍋に水が張ってあった。
「あれ、全部食ったのか…なら平気だな。」
直径18センチの鎚目片手鍋に多目に作っておいたおじや。時間が経ったら温め直せるように隣に具のない味噌汁を作っておいたのだが、気付いただろうか?
「…手を着けてない」
どうやって食べたのか不思議に思ったが、とりあえず片付けた。
鍋に米を計り入れ研ぐ。
水加減を確認し、しばらく放置。
その間に梅干しから種を抜いたり、鰹節に醤油を足したりと細々と動く。
「器用だな。」
「わっ!」
「ただいま。風邪、移らなかった?」
「おかえり。大丈夫みたいだ。」
「そっか。」
拓真が、微笑んだ。
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