「僚摩」
「ん?」
「ちょっと早起きしないか?」
「今何時?」
「六時半」
「…」
あまりにも中途半端な時間なので怒れない。
僚摩は毎朝六時四十五分に起きて七時三十分に出掛けていく。
拓真も一緒に起きるが八時十分に家を出る。
「…何をするんだ?」
「いいのか?」
拓真は飛び起きた。
「んっ…ん」
息を接ぐことも叶わない程、拓真は僚摩の唇を貪った。
互いの顔は唾液でベトベトだ。
僚摩はこれ以上続けられると遅刻する前に窒息すると判断して拓真の身体を押し退けた。
「たくま…お前死ぬ気か?」
「死んだっていいや、お前と一緒なら…」
拓真は僚摩の胸に顔を埋めた。
「僕はまだ死にたくない…お前との生活、続けたいからな。」
「僚摩、楽しいのか?」
「…ごめん、拓真はつまらないよな…だから頑張ってる。十年後に楽しく暮らすために頑張ってるんだ。」
拓真の表情が曇った。
「十年後、俺たちは一緒に居られるわけがないじゃないか…」
「…やっぱりそうか…お前、先のことは考えてなかったんだな…」
一生一緒にいたいとは思う。だけど現実問題、ムリだ。
「僕は、家の存続よりお前を選ぶつもりなんだが…違うのか?」
僚摩はちらと時計を見た。
「タイムリミットだ。続きは…明日。今夜は家庭教師だ。」
僚摩は布団を上げて身支度を始めた。
拓真は、会社に向かう満員電車の中で僚摩の言ったことを反芻した。
二人で過ごす将来…
拓真は先のことを諦めていた。でも僚摩は違う。
話し合う機会を設けなければと気付いた。 |