今夜も僚摩の帰りは遅く、拓真が布団に入るまで戻らなかった。
ようやくうつらうつらした頃、玄関ドアが静かに開く音がした。
拓真は目が冴えてしまったが、僚摩に気を使い寝た振りをした。
隣の部屋に荷物を置く音がした。
すぐにドアが開閉し、浴室に向かう足音がした。
拓真は僚摩の裸身がシャワーを浴びる妄想をしてしまい、形が変化するのを感じた。
しばらく我慢していたがトイレに行く振りをして立ち上がるー誰も見ていないのに一々演技をしてしまう。
そっと、ドアを開けた。
シャワーを使う音がする。
「う…」
微かに、僚摩の声がする。
僚摩も拓真同様に身体に溜まる熱の処理をしているのかと、少し安堵した…。
「ず…」
違う…拓真は直感で思った。僚摩は泣いている。
躊躇わずに浴室のドアを開けた。
「何があった?」
「た…」
シャワーヘッドから大量の湯が流れ出る中、拓真は僚摩の身体を抱き締めた。
「だから、悪かったよ」
拓真は着替えをしながら僚摩に謝る。
「聞き耳立てるなら迎えに出てくれた方が良いよ」
僚摩は浴槽に足の小指をぶつけて悶絶していたのだ。
「まだ教授のこと、心配しているのか?」
「だって!長野の大学の時、推薦状を書いてくれた教授は絶対に僚摩に気があった。」
僚摩は拓真に言えなかった、拓真が長野に行く前、その教授に口説かれたことを。意外なところで勘が良い。
「…今は、大丈夫だ。あの人は女子学生の批評家だから…」
つまり、女性にしか興味がない。
「逆に話を合わせるのに苦労してる…時々そっち方面で誘われるけどな」
やはり心配の種は尽きないのだった。
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