レベル7
第十五話  教授
 今夜も僚摩の帰りは遅く、拓真が布団に入るまで戻らなかった。
 ようやくうつらうつらした頃、玄関ドアが静かに開く音がした。
 拓真は目が冴えてしまったが、僚摩に気を使い寝た振りをした。
 隣の部屋に荷物を置く音がした。
 すぐにドアが開閉し、浴室に向かう足音がした。
 拓真は僚摩の裸身がシャワーを浴びる妄想をしてしまい、形が変化するのを感じた。
 しばらく我慢していたがトイレに行く振りをして立ち上がるー誰も見ていないのに一々演技をしてしまう。
 そっと、ドアを開けた。
 シャワーを使う音がする。
「う…」
 微かに、僚摩の声がする。
 僚摩も拓真同様に身体に溜まる熱の処理をしているのかと、少し安堵した…。
「ず…」
 違う…拓真は直感で思った。僚摩は泣いている。
 躊躇わずに浴室のドアを開けた。
「何があった?」
「た…」
 シャワーヘッドから大量の湯が流れ出る中、拓真は僚摩の身体を抱き締めた。



「だから、悪かったよ」
 拓真は着替えをしながら僚摩に謝る。
「聞き耳立てるなら迎えに出てくれた方が良いよ」
 僚摩は浴槽に足の小指をぶつけて悶絶していたのだ。
「まだ教授のこと、心配しているのか?」
「だって!長野の大学の時、推薦状を書いてくれた教授は絶対に僚摩に気があった。」
 僚摩は拓真に言えなかった、拓真が長野に行く前、その教授に口説かれたことを。意外なところで勘が良い。
「…今は、大丈夫だ。あの人は女子学生の批評家だから…」
 つまり、女性にしか興味がない。
「逆に話を合わせるのに苦労してる…時々そっち方面で誘われるけどな」
 やはり心配の種は尽きないのだった。