午後3時。
「よかったわね、パパが遊んでくれて」
嶺南が微笑む。
「うん」
高人は人南が可愛くて仕方がない。
「嶺南、もう一人女の子が欲しいな。」
そんなに大きな声で言ったつもりは無かったのだが、人南には聞こえたらしい。
「ママぁ、パパが妹が欲しいって言ってるぅ」
「えっ」
嶺南が俯く。
高人が咳払いをする。
「私は…パパに似た男の子がいいな。」
精一杯の返答だったらしい。
午後5時。
「キャベツもレタスも高いなぁ」
尚敬が手にも取らずに見ている。
「高いと言っても何十個も買うんじゃあるまいしケチらなくていいよ」
由弘はキャベツを取り上げると無造作にカゴの中に放り込んだ。
「それもそうだね」
尚敬が微笑むのを見て由弘はとても暖かい気持ちになれる。
過去、散々悩んだ。何度となく諦めて、他の由弘を求めてくれる人を選ぼうかと迷った。でも神様はちゃんとい
て一度だけチャンスをくれた。
誰かが言っていた、『チャンスの神様を見つけたら直ぐに前髪を掴みなさい。何故ならチャンスの神様は後ろ
に髪の毛が生えていないのですれ違ってから気付いても掴むことが出来ないからです』というのはあながち本当
かもしれない。
「柴田さんと田中さんに最近会ってないね、元気かな?仕事は順調なのかな…。大阪の皆にも随分会っていな
いな…」
ショッピングカートを押しながら、なんとなく呟いた尚敬。
尚敬にちょっかいを出したがために、由弘から社長に話が行ってしまい海外に飛ばされてしまった部長もいた。
しかし彼はその後出世街道を歩いているという由弘にとっては皮肉な面もあったりしたことを思い出した。
「安藤さんが尚敬のシニアだって言っていたよな。」
突然安藤の名が出てきて、少しだけ動揺した。
「今度娘さんが高校受験だってこの間、社長と話していたけど、子供がいたんだな。」
「え?」
尚敬は知らされていなかった。
「知らなかった?学生結婚したけど直ぐに別れたって話は聞いたんだけど子供がいるのは知らなかったんだ。」
心の中で安藤の幸せも祈った。
戦争も天災もなければそれでいい。
仕事が忙しいのはまだまだ生きていけという神様の指示。
隠居するのは誰もが、先の見えない所にあるようだ。
また明日は仕事がある。
頑張って、明日を生き抜いて。
人生にゴールなんてない。
何が正しいかなんてわからない。
だから、誰もが自分が正しいと信じた道を貫いて…。
だけど…つかの間の休日だけは愛する人と一緒に過ごせたら、それはとっても幸せなこと。
ジョッキーシリーズ 完
参考文献…「さよならクロカミ」清水祥子 |