= 突然の出来事 =
「まさかなぁ、柴田さんが行動に出るとは思わなかったな」
 由弘は居間のソファで入浴後にも関わらず、肩叩き器を毎日の様に使っている僕を見兼ねて、マッ
サージをしてくれるようになった。
 30歳を過ぎたら突然疲れが抜けにくくなった。休日の予定が整体ばかりだ。
「元気だよね」
「…尚敬、病院行け!絶対どこか悪いぞ」
「大丈夫だよ」
 とは言ったものの、体調不良は日に日に悪くなっている。
「病院行かないなら…えっちはしない」
「え!…ふ・ふーん、いいんじゃない?」
 慌てて肯定したがばれていた。
「いつも。一緒にいたいんだ。」
 そんな言葉にころりと騙される。
「人間ドック、二人で受けよう?」


「おはようございます」
 午前10時。会議室に田中さんがやってきた。
 多分田中さんは知らない、喜々として柴田さんが電話してきたこと。
『あのさ、言われた通りに口説いたら落ちた』
と、本当に幸せそうな声で言った。
 家族も大事だけれど田中さんのことも好きだから…と言われ僕は困惑したけど、人生は一度しかな
いし、好きな人が複数いても変ではないし、相思相愛の二人がそばにいてなにもないのも不幸な気
がしたんだ。
「武?顔色悪いな」
 田中さんに会うなり言われた。
「由弘にも言われてて明日検査に行く予定です」
「身体は大切にしないとな」
 ぽん
と肩を叩かれた。
 この手は昨日、柴田さんの背中にしがみついていたのだろうか…そんなふしだらな妄想をしてしま
った。
「おはよう」
 柴田さんもやってきた。
 二人の視線が合ったが、特に不自然なこともなく、普通に、いつもと同じように挨拶をして席に着いた。
「今、岡部社長を呼んで来ますね。」
 僕は会議室を出た。
 二人の様子が気になったけど、すれ違いざまに由弘が入っていったから後で聞いてみようと思った。


『コンドームを使ったかって聞いたら、二人とも飛び上がってびっくりしていた。でも大事なことだからっ
ていったらちゃんと最後は使ったって、非常に微妙なことを言われたよ。』
 昨晩、会議室での出来事を由弘から聞かされて、僕は身体が疼いてしまった。
 今日は検査があるからそんな淫らな行為は出来ない。でも…一昨日はしたんだよな…。
 検査は今日と明日の2日間で身体の隅々まで行う。
 テレビのバラエティ番組でやっている、お尻からする直腸検査もやった。
 結果は、一週間後。


「ストレス性の胃炎がありますね、これは出来るだけストレスを感じないよう生活していただくしかない
です。それと夏ばてですね、素麺とか軽いものしか食べてないでしょう?食欲がないのは解りますが
納豆か豆腐を追加してください。そうしないと栄養失調になりますよ。あと…」
 医師は僕の顔を見た。
「直腸内に傷があります。」
 ドキッ
 再度、医師は僕の顔を見た。
「切痔です。」
 …!!
「塗り薬を処方しますから薬局で受取ってください。あとは問題ないです。」
「はい…ありがとうございます。」
 僕は席を立った。
 ドアに手を掛けたときだった。
「一緒に受診された方と、ご住所が一緒ですよね?万が一、排便以外で傷がつくような行為があるので
したら、一週間は厳禁です。」
「…はい」
 返事をしてしまってから気付いた。ここで返事をしたら肯定しているも同然だ。
 結局、振り向くことが出来ずに僕は診察室を後にした。