=だるまさんがころんだ=
 我が関西営業部には悲しいことに女性がいない。部長、所長以下営業員5名の全7名プラスパート2名。
パートは事務のおばちゃんだから女性には数えない…と言ったら抗議が出そうだが、僕にとっては恋愛
対象外なので女性には数えない、だから社内恋愛はありえない。
「横山先輩、おはようございます」
 彼が最近妙に華やいでいる気がするのは気のせいだろうか?
「あ、おはよう」
 今朝も相変わらず爽やかだ。普段は冗談をいったりしているのに仕事はきっちりする、僕の憧れだ。
「おはよう、勝浦君。」
「おはようございます、武さん」
 武さんがなぜか横山先輩と仲がよいのはきっと同期で同じ東京営業所から移動になってきたからだ
ろう。
「なぁ勝、どうして俺は先輩で武はさん付けなんだ?」
 僕はなにを言われたのかわからなかった。
「?武…さんは武さんです。先輩は横山先輩…何でと言われても…」
「同じにしてくれ」
「横山、変なことに拘るなよ」
「いや、大事なことだ」
「そうなんですか?」
 そんなに大事なことなら改めなければ。
「当たり前だよ、武と俺は一心同体、イテッ武何で殴る!」
 その瞬間、僕は、見た。横山先輩の腕が武さんの肩を抱いた。でもするり、と武さんがかわして、俯いた
目元がうっすら赤かった。
「ごめん」
「ばかだなぁ、横山は。」
 こんな会話、男同士では普通しない。
「横山先輩、ちょっといいですか?」
「なんだよ朝っぱらからぁ、何か呼び出しくらうようなことしたかな?」
 楽しそうに話ながら先輩は僕に着いてきた。
「先輩、ゲイって本当なんですか?」
 前から噂になっていた、横山先輩と武さんのこと。横山先輩は異動になった武さんを追いかけて、自分
からここに異動願いを出したらしい。
「何て答えて欲しい?」
「え?」
 何…って、決まって…
「あれ?」
 おかしい
「分かったか?」
 先輩の言葉に肯定も否定も出来なかった
「悪いが勝の入る余地はない」
 そう言うと指を髪の間から差し込みガシガシと頭を掻いた。
「勝も自覚がないのか」
 も?
「武はきっとノーマルだと今でも信じてる」
 恋人が男なのに?
「なんだよ朝から、愛の告白か?」
 横山先輩を連れてやってきたのは屋上、あまり人が来ないからだ。
「な、なんで…」
 ふたりっきりのチャンスを邪魔しやがって。
「なんだテル、お迎えか?」
「ええ、うちの勝っちゃんはちっとも気づかない惚けナスですから。」
「惚けナスって何だよ!」
「課長に呼ばれてたの、わすれてるやないか」
 は!
「行くで」
 僕はテルと呼ばれた後藤輝基に引きずられるように事務所に連れ戻された。
「横山さんはあかん」
 ん?
「あの人はお前みたいな奴には無理だ」
 何言ってんだ?
「横山先輩みたいに歌って躍れる営業マンは無理なのかな?」
「え?」
 テルが一瞬、足を止めた。
「横山先輩ってかっこいいやんか。仕事は出来るし冗談はわかるし、得意先のウケはすごくいいし。歌
は上手い、ルックスもスタイルもいいし、センスもいい、憧れだよなぁ」
 横山先輩のことになると熱が入ってしまう。
「そうなんか?」
 何言っているんだ、こいつは。
「俺は武さんの方がすごいと思うんだが…」
「いいや、横山先輩なの。」
 廊下で言い争いをしていたら課長に怒鳴られてしまった。


「ん…あっ、あぁっ」
「感じる?」
 ガクガクと縦に首を振る。
「あ…あんっ」
「俺も」
 腰を最奥まで入れる。
「いやっ、あん」
 二人は次々と果てて行った。
 肩で息をし、お互いの身体を抱き締めながらふと、
「勝浦さぁ…俺はゲイなのかって聞いてきたからそうだって言っといた」
と、今日のことを報告した。
 武は意外だという表情で
「そうなのか?お前の方からわざわざ言ったのか?…つーか、お前ってバイだと思ってた。」
と、少し拗ねたように聞いてきた。
 俺はその仕草があまりにも子供っぽいのと、可愛いのとで思わず力一杯抱き締めた。
「痛いって」
「ごめん、ごめん。やっぱさ、欲しかったものが自分のものになったとたん、欲が出たんだと思う。」
「欲?」
「独占欲。あいつがお前のこと狙っている、って気がする。」
「まさか。世の中にそうそう同じ嗜好者がいるのか?」
「いたじゃないか、現にこうして俺に組敷かれて喘いでいる奴が…」
 そう言った途端、
「馬鹿にすんなっ」
と、素っ裸のまんま部屋を飛び出しそうな勢いで立ち上がった。
「僕は…僕は違う!ただ横山って人間が好きで、ただの友情では説明出来なくて、だから…」
「ごめん、失言でした。さっきも言ったように、独占欲に所有欲…をプラスしておいてくれ。」
 武が笑顔になった、やっぱり笑った顔がそそられるんだ。
 しかしなぜそんなに怒るんだろう?
「まだ…自分の感情を受け入れられない」
 独り言のような小さい声だった。
「お前には分からないだろうなぁ。多分僕は日本人の…この言い方自体、既に逃げているけどさ、その
日本人の平均的感情を、言い換えれば偏見を持った人間なんだ。性同一性障害が理解できない。あ
んな、おかしくないか?生まれ持ったものを違うと思うなんて。」
 俺は静かに立ち上がると武のトランクスとシャツを拾い上げ手渡した。武が着たのを確認すると自分も
着衣を身に纏った。
「武の家は親父さん、サラリーマンだっけ?」
「?うん」
「家は牧場なんだ。千葉では珍しくない。朝早く起きて牛の世話をしてから学校へ行く。それが嫌でサラリ
ーマンになった。ま、兄貴がいるから俺には継ぐ義務は無いんだ。嬉しかった。もう牛に振り回されなくて
いいから。そういうことじゃないかな?」
「わかんないよ、言いたいことが。」
「俺はサラリーマンの家に生まれたかった。性同一性障害者も異なる性に生まれたかったんじゃないかな
?」
「そう、なのかな?」
「多分」
 実際に性同一性障害の知人がいるわけではないから聞いたことはないが、遠からず近からず…だろう。
病気としてくくってしまうにはあまりにもいい加減過ぎる気もする。ただ、今は武の言うとおり大多数の日本
人は嫌悪するだろう。そのためには病気としておくのが賢明だろう。
「僕は横山が好きなんだ、おかまじゃないし、女になりたいわけでもない。」
 武?今日の武はなんか、変だ。もしかして…。
「部長に、何か言われたのか?」
 肩が跳ねた。
「やっぱり…」
「違う…課長…」
 課長、なのか?
「横山はやめろと言われた…すぐに捨てられるからと…自分がそうだったから…」
 あ…
「違う、俺たちは合意の上で…」
「本当に課長と、できてたのか?」
 信じられないという表情で俺を見ている。
「だから、過去のこと話してくれないんだ」
「分かったよ、言うから」
 俺は飛んでもない恥を曝さなければならなくなった。


「君たちもそうなのか?」
 課長から軽く説教されてからミーティングに入ったので結果的に二時間程掛かった。
 給湯室でインスタントコーヒーを自分専用のカップに作っていたときだった。
「何がですか?」
「いや、違うならいいんだ」
 課長が通りすがりにそう、言い残した。
「何だと思う?」
 テルは首を傾げて
「わからん」
とだけ答えた。
「『君たち』は俺たちだよな?『も』って言ったぞ、『も』って。」
「誰かと何かが一緒…同じなんだな」
「いや、一緒だと思われただけで実際は違ったんじゃないのか?」
「何が同じだったんだろう?」
 テルが太い腕を組む。
「仕事とは関係無いことだよなぁ」
 うーん、わからない。
「聞いてみようか?」
「聞くのか?」
「だって気になるじゃないか」
「うん」
 しかし…岡部課長、なんであんなこと言ったんだろう。
「はい」
 二人で悩んでいる間に今日の当番が弁当の買い出しから帰ってきた。
「いくらだっけ?」
 弁当を手渡しながら
「知らないの?課長、前に社内恋愛して振られたんだって。それが原因で軽い恋愛恐怖症にかかってい
るらしいよ。お弁当は490円だよ。」
と、女性の間では有名な話を教えてくれた。
「恋愛恐怖症?勿体ないなぁ、課長、良い人なのに。」
「そうよねぇ、あと10歳若かったら私も考えちゃうもん。」
 そうなのか?・・・って何を考えるんだ?
「勝っちゃんも対象外だなぁ…お手つきって気配がただよってるしね」
 なんだ?そのお手つきって?
「じゃあ俺は?」
 すると彼女は
「テルちゃんが相手に決まっているでしょう」
そう言って笑いながら消えてしまった。
 確かさぁ、この間まで彼女たちが横山先輩と武さんがアヤシイって言っていたんだよなぁ…。
 彼女たちの話は当てにならないことが良く分かった。
「勝っちゃん、あの話さぁ…」
 テルが言い出し辛そうにしている。
「課長の相手」
 ああ、さっきの話ね。
「って、知ってたの?」
「うん…」
「すごいなぁ、課長を振るなんて」
「横山さんだよ」
「へぇ、横山さ…なんだって!?」


「誘ったのは俺だよ。あの頃はフリーだったし、岡部さんはまだ課長になる前だった。最初はごく自然に同
僚たちと飲みに行ってて気づいたら二人きりでいかにも誘って欲しいという目つきで俺を見るんだ…据膳
食わぬはってんで『行きますか?』って聞いたんだ、そうしたら何も言わずにただ頷くだけなんだ。」
「それは…」
「武なら彼の気持ち、わかるかな?」
 不安気な表情で
「多分」
とだけ答えた。
「多分ずっと好きだったんだ。でも自分からは言い出せなくてなんとかお前から言わせようとしていたん
だ。」
「尚敬、お前もそうなのか?」
「僕は違うと思う、自覚がなかったし、今でもない。」
 お前はどうしても自分が同性愛者とは認めたくないんだな。
「彼にはちゃんと『俺には好きな人がいる』って言ったんだ。そうしたら『好きなだけなのか』と聞かれたから
素直にそう答えた。それっきりだよ、それから直ぐに彼は課長としてこっちに移動になったよ。」
 僕には落ち度が見つからない、そう思っていた。
「横山は、酷い奴だ。」
 武はそう言うと俯いた。


「本人から聞いたわけじゃない、あくまでも噂の段階だ。」
 横山先輩が横浜営業所時代に主任だった岡部課長と半同棲していた?
 結婚が決まっていたのに先輩にのめり込んだ課長はそれが原因で結婚も、出世も駄目になってしま
った?
「横山さんに関わるとろくなことが無いらしい」
「あのさ、テルは何か勘違いしているようだけど、俺はただ憧れているだけで…」
 するとかなり怒った口調で
「あほぉ、何かあってからじゃ遅いんだ、ボケッ」
と言うと午後の営業準備に行ってしまった。
「あほはどっちだよ、なあ…」
 ため息が出ちゃうよ、全く。


 武は俺が悪い、それだけしか言わなかった。
 あとは黙ってベッドから下りた。
「誘ったときは最後まで付き合え」
 なんだよ、その捨て台詞は!
 帰ろうとする背中にしがみつく。
「俺が、お前と離れらんないの、わかってんだろ?」
「だったら人の気持ち、もう少し思いやってやれよ。わかんないのかよ?課長、傷心を抱えたまま、お前
が僕と居るところ見ているんだぞ」
「あきらめるのには一番いいかと思うけどな」
「お前とは意見が合わない」
 そういうと玄関ドアを静かに閉めた。


「先輩!」
 今日は表情が冴えない。
「何かあったんですか?」
「んー…なあ、勝、お前は振られた相手がそばで幸せになっているのっていやか?」
 ドキ
 これって昨日テルが言っていたこと?
「俺だったら…会社辞めます。そんな辛い状況、耐えられないです。先輩はどうなんですか?もしも好き
な人が俺と抱き合っているのを見たら、辛くないですか?」
 先輩は今幸せなんだ。だから人の痛みが分からないんだ。
「尚敬が勝と?嫌だな、すごく嫌だ…そうか…ありがと。」
 そう言うと振り返らずに先輩は一直線に課長の席へ向かった。
「課長、お話があります」
 これは修羅場か?


「今はこんな所に住んでいるんだ…武とは別れたか?」
 終業後、アパートに来てもらった、それが一番手っ取り早く話が出来ると思ったから。
「あいつとは別れない、絶対に」
 さっきから岡部さんは目を合わせない。
「では何で私はここに呼び出されたんだ?てっきり縁りを戻すんだとばっかり思っていた。…由弘、私のな
にが愛されなかった原因なんだろう?私は君の為に色々なものを犠牲にした。なのに一度たりとも愛され
ず終わってしまった。」
 この人はこんなに女々しかっただろうか?すると
クククッ
と、笑い声がした。
「嘘だよ、もうお前になんか未練はない、ただやっぱり相手が武だとわかって悔しかったから意地悪しただ
けだよ。」
 は?
「近いうちに結婚する、そうしたら部長の椅子が待っている。」
 そうなのか?
「あ、おめでとう」
「ありがとう…でも由弘は自分の気持ちを貫いたんだな。ちょっと羨ましいぞ。」
 そう、俺は知っていた。岡部さんは人の上に立ってこそ、その力を発揮できる人だってこと。
「岡部…高人は真っ直ぐだから…」
「武はもっと真っ直ぐだ」
 言うと唇が重ねられた。
「何故だろう、君に惹かれたのは。」
 言い残し、立ち上がった。
「もう、2人の邪魔はしない。」
「そんなことじゃない、俺はあなたが傷ついていないかが知りたかったんだ。」
 岡部さんが振り返った。
「傷ついたよ。自分が同性を愛する人間だって知って。でもそれは由弘だからなんだ。」
 再び俺に背を向けた。
「でも、あの夜のことは一生胸に抱いていていいか?」
 俺は声にしないで頷いた。
 岡部さんは空気の流れでそれを感じ取っていたらしい、左手を少し上に挙げ、そのまま玄関から出て行
った。


「横山、お前計算間違ってるぞ」
 参った、武がまだ怒っているのでフォローしてくれない。
「最近横山先輩失敗続きですね、クレームはジャンジャン、計算違いで経理からも電話来てたし。」
 あ〜、これが真実の姿なんだ〜。
 スッ
 今まで目の前に有った書類が消えた。
「お前のここにある機械はメール専門か?」
 武にもイヤミを言われる始末。
「ここに報告書のフォルダーがあるだろう?中に色々入っているからとりあえず数字を入れてみろ。そうし
たら…」
「セックスしたい」
 ガタッ
 社内の視線が一斉に武に注がれた。あわてて椅子に腰かけた。
「いい加減にしろよ。」
「なんで?もう一週間だぜ、身体が愛を欲しがるんだ」
「下半身の間違いじゃないか?」
 失礼な!
 しかし、
「わかった」
と、小さな声でそう言った。天にも昇る心地で居たら
「横山君」
 岡部さんが名指しで呼ぶなんて珍しい。
「今日は私と同行しなさい。」
 ちょっと待ってくれ、今誤解を解こうと…振り返るとそこにいたいとしのハニーは不在だった。


 夜、後藤を誘って大音響の有線が流れる居酒屋で、昨日の朝の話をした。
「ショックだなぁ、例えを出しただけなのに武さんの名前だぞ、好きな人が…」
 僕は納得したくないのと、してあげたいのと、二つの気持ちが葛藤していた。
「んー、なぁテルは好きな人いるのか?」
 突然矛先を向けられたテルが何故か焦る。
「いるさ、そりぁ…」
 テルにも、いるのか。
「そうなのか」
 僕はいない。
 だから誰かを大切にしたい気持ちも思い続ける苦悩もない。それが幸せか不幸せかはわからないけ
ど。
「誰かを必死で想い続けるのって、結構楽しいんだぞ。」
 そうなのか?
「もしかして勝っちゃん、恋したこと無いのか?」
 ドキッ
「ち・違うぞ、ぼ・僕は何時だって向こうから言い寄られていたからそんなこと、考えたことも無いんだ。」
「本当に、横山さんは憧れなのか?」
 ん?
「どうして、そこにそんなにこだわるんだ?僕が横山先輩に惚れたら、駄目なのか?」
「絶対に駄目だ。」
 僕は音もなく首を振る。
「万が一、好きだったとしても今朝の横山先輩を見たらがっかりしちゃうよ。」
 カラン
 サワーの中の氷が溶けた。
「お茶漬け、食べたいな。」
「うん、食べよう。」
 はぁ・・・。
 僕は大きくもう一つため息をついた。


 武の部屋。何度も、何度も繰り返す、キスをして瞳を交わして抱き合って…
「な、いいだろ?」
「駄目」
 二人きりでいるのだから堂々とやればいいのに何故か耳元で囁き合う。
「課長をここに上げただろ?」
 後で気づいた、岡部さんを部屋に上げたらやばいって。
「嫉妬?」
 わざと余裕のあるふりをする。本当はドキドキものだったりするのだが。
「当然だよ」
 武が子供みたいな膨れっ面になる。
「あい…」こほんとひとつ咳払いして、「好きだから」とぶっきらぼうに答える。
 武が言おうとした言葉を代わりに言う。
「愛してる、君がそばにずっといてくれるならもう決して脇目は振らない」
「それはプロポーズされているようでなんかこそばゆい」
「プロポーズなんだけど…」
 武は音もなくただ驚いた。
「だって…」
 いつもそばにいて俺の監視をしてくれたらどんなに幸せだろう…なんて考えたんだが…
「…だろ?」
「ごめん、考えごとしていて聞き逃した、なんだ?」
「…もう言わない」
 また武が拗ねてしまった。


「どんな人なんだよ、なぁ〜」
 さっきからいくら聞いても後藤は絶対に答えない。
「わかった、ブスなんだ。だから言えないんだろ?」
「あほ、めっちゃ美人にきまってるやんけ」
 珍しく真っ赤な顔をして動揺している。
「よし、憧れの横山先輩を見習って恋人を作るぞ」
 すると真面目な顔に戻った。
「見習う…のか?」
「ああ。可愛い恋人。」
「…可愛い…ね」
 何故か後藤が不安気な表情になった。
「可愛いかぁ」
 その後店を出るまで後藤は数十回呟き続けた。悪かったな!高望みしてて!ちくしょー、絶対恋をして
やる!


幼い日の夢。
「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だっ
あ〜かっちゃん動いた〜手ぇ繋ぐんだよ」
 僕は足を前後に大きく開いたまま止まっているので、ふらついている。
「動いてないやい」
 悔しくて無謀な自己主張。
「もう、かっちゃん我がままぁ」
 鬼の子が騒ぐ。
「いいじゃないかよ、なぁ」
 あの子はだれだろう…幼い僕の手を繋いで、一緒につかまってくれた子…。

大丈夫、僕は人の気持ちが解るはず…。