= 光に包まれて =
 どうして、着いてきたんだろう。結果なんか羽田にいた時点で…いや、最初の晩からわ
かっていたことだ。


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「いや、だぁ」
 ポロポロ涙がこぼれる。
「力、抜いて」
「んふっん〜っ」
 自分が発しているなんて信じられない声がする。でも、挑発したのはボクだ。
「息を吐いてっ」
「痛いっ」
 痛いのは心だ。愛されて抱かれるのではなく、捌け口にされている。でも、それはボクが
望んだこと。
「入り口はピクピク蠢いて誘っている。」
「違…うっぅ。」
 半分まで埋まった砲身…

 
愛する人に貫かれ、ゆすぶられた身体。本来なら有り得ないことなのだ。
「あ…愛しています…」
 無駄だと知りながらも言わずにはいられなかった。
「好きだよ」
 耳を疑った。
「四位のこと、好きだよ。もしも武より先に会っていたら…あいつが応えてくれなかったら絶
対に選んでた。」
 そうだ、この人は好きな人がいても別の人と寝られる人だと、聞いたばかりだった。
 でも。腕枕の中でウトウトとまどろんでいるとこんなことが何回か続いたら自分に気持ちが
傾くのではないかと、錯覚を起こした。
 だから何回か挑発して寝た。
 その度に耳に愛の言葉を囁き、囁かれた。


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「なおちゃん」
 ボクは仲睦まじく肩を寄せ合って歩く二人の後ろから声を掛けた。
「由弘さんと寝ました。」
 最後の、賭け。
「うん、気が付いてたよ。由弘はどうしたいんだい?」
 さらり、と言われ動揺した。
「俺は…」
「ごめん、ホテル、行こう。そこで話そう」
 なおちゃんは少し俯いて言った。


「そんなに、大変なことなのか?俺が好きになった男とセックスするのって、いけないこと
なのか?」
 由弘さんはついに開き直ったみたいだ。
「尚敬がそばにいてくれないから、四位と寝た。」
 バチン
 大きな音が響いた。
「僕のせいでかつみ…勝美の気持ちをもてあそんだって言うのかい?」
 叩かれた頬を押さえながら抗議しようと言葉をはさむ瞬間を待っていた。
「もてあそんでなんかいない。ちゃんと、誠実に付き合っているつもりだけど。…好きなヤツ
と寝たらいけないのか?俺はお前の所有物じゃない。」
 バチン
 再びなおちゃんは由弘さんの頬を叩いた。
「僕だって君の所有物じゃないっ」
「プロポーズ、尚敬が断らずにいてくれたら、俺だってこんな気持ちにならなかった。君が
言ったんだ、浮気していいって。」
「僕は君が女の子と…」
「俺は、ゲイだ。女性に心は動かない。君は勝手だよ、女性ならいいけど男性は駄目なん
て、君ひとりだけだって言っているんじゃないか。なのにプロポーズはうけないなんて…」
 もう、うんざりだ。
「痴話喧嘩は勝手にやって下さい。」
「行くなよ」
 背後から抱き寄せられ、ボクは驚いた。
「お前はここにいろよ。そのつもりで来たんだろう?尚敬と俺の関係が終わることを望んで
来たんだろう?けど俺はどちらかに決める気はない。沢山恋愛、するんだ。」
「そんな気、ないくせに…初めから由弘さんはボクのことどうするつもりもないくせに。一度
も、名前を呼んでくれないのが証拠だよ!」
 身体にまわされていた腕を振りほどき、ボクはドアへ走った。
「待って」
 そう言ったのはなおちゃんだった。
「かつみちゃん、ごめん。昔から好きなものが一緒だったもんね。由弘、好きなんだよね
…でも、譲れない、由弘は譲れないんだ。僕でできることなら…」
「由弘さんを愛しています。ボクだって…手を握り返されたら離せないんだ。」
 泥沼に、してしまった。
「どっちかになんて、今更決められない。始めてしまったから、このままで…」
「このままなんて一番ずるい」
 分かってる、でもなんで?
「四位と、抱き合っているときは尚敬の代わりだって自分に言い聞かせていた。こうして会え
ば俺の気持ちは尚敬だけに向かっていると思っていた。でも、同じ比重で四位…勝美のこと
も好きなんだ。」
 由弘さんが、ボクの名前を呼んでくれた。
「なおちゃんが、初めて愛した人を好きになってごめんなさい。子供だったあの日からずっと
なおちゃんはボクの憧れでした。なのに心の底から本当に欲しいと思ったのが由弘さんで、
ごめんなさい。」
 なおちゃんの腕がボクの身体を抱き締めた。
「由弘はかつみちゃんが好きだって。僕も君のことが好きだよ。こんなことで揉めていても仕
方がないから別の方法を考えてみよう?」
「別の?」
 こくり、力強く頷く。
「三人で幸せになればいい。どうせ愛情が間違っているんだから形も人と違っていてもいい
んじゃないかな?」
 三人で?
「いままで通りでいいんだ。何も変わらない。」
 由弘さんにも理解できたらしい。
 でも、ボクには理解できていない。
「今までどおり、かつみちゃんが由弘と会いたいときに会えばいい。僕も会いたいときに会う
から。…そりゃあ、こうやって離れているから、嫉妬すると思う。毎晩、悔しくて泣くかもしれな
い。でも自分でその道を選んだと思えば…乗り越えられると思う。」
「なおちゃんが、我慢するの?そんなのいけない。」
「だけどかつみちゃんが我慢するときだってある。当然、由弘が我慢する日だってあるはず
…」
 そういうとなおちゃんはボクを抱き寄せキスをした。
「僕が、君を欲しいと言ったら駄目?」
「ちょっ、」
「由弘に有無はいわせない。」
 そうだ、なおちゃんは優しいけど意思の強い人だった。
 たぶん…なおちゃんは由弘さんを失うこと自体考えられない事なのだろう。その思いと同じ
重さでボクの気持ちを計ってくれている。
 あなたの優しさに今は甘えよう。あなたがあの場所に戻るまでに、この思いを浄化できるよ
う、努力しよう。
「ありがとう、ございます。」
 ボクはなおちゃんを抱き返した。
「遠慮しなくていいんだからね?」
「はい」
「かつみちゃんがライバルかぁ…やっぱり彼氏の方がいいな。かつみちゃん、カッコいいか
ら。」
 ?
「尚敬、判ったから。」
「いいや君は絶対に分かっていない。この子はね、ずっと自分の気持ちを押し殺してきたん
だよ…でも…僕もだけど…由弘のどこがいいんだろう?ねぇ?」
「さぁ…」
「おいおいっ」
 なおちゃんがもう一度ボクを抱きしめた。