= 花火大会 =
 なんか…くすぐったいなぁ


 自慢できることではないけど、僕が生まれて初めて恋人として付き合ったのは由弘だ。初め
てキスしたのも、初めてセックスしたのも由弘だ。
 それまで、同性に友情は感じても愛情は感じなかった。だから戸惑ったし、踏み出すのに勇
気が必要だった。

 ドーン

 花火が上がる。

 由弘の指先が僕の手の甲に当たった。
 何気ない素振りで自然に手を繋ぐ。こんな所が妙に手慣れてて腹が立つ。
 僕は思いっきり手を振ってその手を振り払った。

 ドドーン


 不満顔で僕をみているはずだ。

 浴衣姿の女性に視線を転じる。
 可愛いとは、思う。
 だけどそれだけ。考えてみれば昔からだ。
 欲することがなかった。

 ドーン
 ドーン


 連続して上がる。

 浴衣、やっぱり着てくれば良かった。
 折角由弘が買ってきてくれたのに。
 もう、三十歳になる。
 このまま、ずっとこのまま由弘と居られるだろうか。
 福永君みたいに自信を持って愛していると言えるだろうか?


 由弘の腕が腰を抱く。
 僕は彼の肩に頭を預ける。
 周囲は夜空を見上げているから気付かない。と、思っておこう。

 ドーン 

 ひときわ大きな花火が上がった。


 来年も再来年もその先も約束したじゃないか。離さないって。
 僕が君を離さない。


「由弘」
「いいよ、来週もあるから。」
「ん?」
「浴衣」
「ああ。」
 僕が持ち続けた、ささやかなプライドなんて、由弘の前では必要なかったんだ。