= 夏期休暇 =
 今年は色々あってちょっぴり遅くなってしまった夏期休暇。
 福永くんにお願いして、北海道で貸別荘を手配してもらった。
「もうっ、嫌だよっ!!由弘ぉっ」
 自分でも赤面するくらい媚を売ったような声で由弘に甘える自分がいた。
 いつまでもしつこく下着の中に手を突っ込む由弘。
 中々夕飯の支度が進まない。
「散々、着いてからしただろう?いい加減手伝ってくれてもいいじゃないか。」
 そう、着いて早々、由弘はずっと僕を組み敷いて離してくれなかった。
「だってさ、久し振りに二人っきりだしさ。」
 ま、そりゃあそうだけど。
「会社辞めて二人で仕事始めようと言ったのに相変わらず後輩に振り回されているし、尚敬に愛想尽かされ
るんじゃないかって心配なんだ。」
 僕は由弘を抱き締める。
「松永くんと武士沢くん、そんなに羨ましかった?」
 腕の中で小さく肩を揺らした。
「尚敬にはなんでもお見通しなんだな。二人で調教師になりたいって言ってた。問題は沢山あるけどひとつ
ずつクリアしていきたいってさ。」
「武士沢くんのご両親の説得も含まれているんだ。大変だね。」
「それでも好きな人の近くにいられることは幸せだからね。」
 そういうと由弘は首を伸ばしてキスをした。
「夕飯の支度、由弘がしてくれる?」
 いいよと、言ったように聞こえたのは僕の空耳だったのか…。
 夕食が夜食になったのは言うまでもない。


「競馬、見に行く?」
 由弘が呟く。
「行こうかな」
「あの二人、今週は札幌にいる。」
 やっぱりそうか。
「由弘は今の会社、辞められないね」
 小さく肩をすくめ笑った。
「カニ、食べに行こう。」
「うん」
 それでも、僕は今のままで充分幸せ。
 お節介過ぎる位、他人を心配する由弘だから、好きなんだろう、きっと。
「ねー、由弘…」
 耳元で囁くと
「…すっごく、気持ちいい」
って返事が返ってきた。
「一番欲しい物が手に入って、それを自分の机の上に置いたときの平凡だけど究極の幸福感、だよな。」
 松永くんにも聞いてみよう。
 わかったら…由弘を思いっきり喘がせてみたい。