バーカバーカバーカバーカ…
何回心の中で叫んでみたって相手には伝わらないけどさ。
なんであんなタイミングで言うんだよ、心の準備が出来てないじゃんかよ。
ボクは何と答えたら良かったんだろう。
結局眠れなかった…ぼんやりとした頭で今日のスケジュールを考えたけど、どうせまたレッスンだ。
このままベッドでゴロゴロしていてもどうせ眠れないんだから散歩でもしてこよう―そう思い、ボクはベッドを抜け出す。
眠い目を擦りながら寝室のドアを開ける。
「うわっ」
「何?」
ドアの前には不眠の原因が立っていた。
「どうしたの?」
悠希(本人に対しては決して名前では呼べない、心の中だけ)は心配そうにボクの顔を覗き込んだ。もしかしたら目が
赤いかも…慌てて目を伏せる。
「おはよ。目が覚めたから起きた。」
「そっか。ならおはようだな。」
そう言うとボクの頭をポンポンと撫でて玄関に向かう。
「どこ行くの?」
「散歩」
「…一緒に行ってもいい?」
悠希が、振り返る。
「勿論」
「ちょっと待ってて。」
悠希が、笑っていた。それだけでボクもうれしい。
急いで顔洗って、着替えて玄関に飛び出した。
「お待たせっ」
「おう」
ちょっとだけ首を傾けてほほ笑むのが、悠希の癖。
二人並んでエレベーターに乗り込んだ。
「桧川くんって早起きなんだね、気付かなかった。」
「いや、いつもは遅いよ。」
語尾がごにょごにょとなってしまったけれど、聞き直すことはできなかった。
「あ」
「う」
エレベーターが開いた途端、二人で絶句した。
「そうだよね、夕べ帰って来て雪掻きしたんだよね。」
道路は雪で真っ白だった。
「なにして…」
突然、後ろから抱きしめられた。
「昨日、テンパってて理解していなかったんだけどさ、返事はもう少し待てって言ったよな?期待していいのか?」
「…かなり…」
抱きしめる腕に力が込められた。
「好きだ」
耳元で囁かれる。背筋がザワザワっとした。でもイヤな感じじゃない。
「ちょーしに乗んなよなっ」
ボクは悠希の腕を振りほどいた、途端に心が痛くなる。
「かなり絶望的。」
そう言い放って、あかんべーをした。
「マジで?傷つく。」
そう言うけど顔は笑っていた。
「…でもないけどな。」
「どっちだよ。」
「もう少し、このままでいたい…っていったらダメ?」
「会う度に好きだって言われたい?」
「…うん。いっぱい口説かれたい。」
「しょうがないなぁ。」
悠希はエントランスのドアを開く。
「え?行くの?」
「行くよ。今戻ったら、二人っきりにした意味がない。」
「…そっか。」
そうだよね、あっちは恋人同士だもんな。
ちょっとだけ、羨ましいけど。 |