08.サクラはらはら舞い散る
 収録の帰り道、駐車場まで二人きりで歩いた。
 気付いたら神宮寺くんと心くんが先に帰ってしまったのだ。オレの携帯に神宮寺くんから《帰る》
の一言が届いていた。


 神宮寺くんとオレは18歳になったとき社長から車の免許を取るようにと言われた。
 人を乗せて走るのははっきり言ってまだ怖い。だけど城と二人になれるのならと意を決した。
 車の割り当ては社長が決めた。最初は気付かれているのかと思った、だけど心くんの方が年下
だから神宮寺くんに面倒を見ろということだったらしい…今となっては逆に怪しいが。
 オレ達には付き人がいない。増上マネージャーから仕事の話が来て自分たちで現場へ行く。
 大きな仕事だと増上さんが付いてきてくれる、けど現地のみ。


「学校、楽しい?」
 会話が全くなかったので一番手頃な話題を投げてみた。
「学校より仕事の方が楽しい。」
 上着のポケットに手を突っ込んだまま俯きぎみに答える。
「どうかした?」
 若干不機嫌だ。
「なんで二人は先に帰ったんだろ?」 
「それはね、城くんがいつまでも加月さんにくっ付いているから…オレ的にはかなり嫉妬したけどさ。」
「なんで?なんで桧川くんが、」
 そこまで言って左手で口を押えた。
「オレがどうした?」
「あっ!」
 何かを見つけて走り出す。
「見て見て〜」
 遅咲きの桜が風に花びらを散らす中、城が無邪気にはしゃぐ。
 オレに向かって手を振る姿が愛しくて…。
 城の所まで駆けて行く。
「ゆ…」
 彼の身体を抱きすくめた。
「桧川…くん…」
「ごめん、好きな気持ちが止められない。」
 宙に浮いていた城の両腕が、そっと背に回された。