09.本気でアイドル
 キャーッ、心くーん
 ヤダァー、城くんだぁー
 慧くーん、すてきー
 悠希〜ゆーきーぃっー


「なんで、嫌なんだろ?」
 テレビ局を一歩出た途端、声援を受けた。でも不思議だ、心くんと神宮寺くんはキャーッとか可愛い
とかカッコいいとかの形容が付くのにボクは大抵イヤとかなんで?とか、マジとかなんだ。
「オレなんか呼び捨て」
 悠希が苦笑する。それにはボクも同意。何で悠希に限って呼び捨てなんだ?
 あの日、ACTIVEとテレビの音楽番組に出たあと、直ぐに野原さんが作ってくれた新曲をレコーディング
した。
 発売するや否や爆発的なヒット。併売でデビュー曲も徐々に売れている。
 お蔭でアイドルですと大きな声で言えるようになった。付き人も四人で一人だけど付くようになった。
 仕事は急に増えて学校に行くのが大変になってきた。


「城くん、女の子たちに向かって手を振ってみてよ。」
 突然、心くんがそんなことを言う。
「なんで?」
「つべこべ言わないっ!」
「はい」
「笑顔!」
「はい!!」
 笑顔の練習は一番最初にやった、アイドルだからね。


 キャーッーーーーー!!!城くんが手を振ったぁーーー


「わかった?」
 わかった。吃驚した!
「桧川くんが呼び捨てなのはいつも笑顔だから、女の子たちは親近感を持っているだけ。」
「神宮寺くんは?」
 心くんは神宮寺くんの方を見てニッコリ笑った。 
「あの人はそこにいるだけで華やかだろ?」
 いつもだけど一応お腹の中で反論。神宮寺くんより悠希の方が背も高いしなんてったって足が長い!
「城くんって考えていることがすぐ顔に出ちゃうんだな。分かってるよ、城くんが言いたいことは。」
 え!?
「でももう少し頑張ろう?僕達はまだスタートラインに立ったばかりだからね。」
 そうだった、ボク達はアイドルだったんだ。
 横目で悠希を見る。やっぱりいつも笑顔だ。
 でもね、知ってるんだ。
 ファンに向ける笑顔とボクに笑いかけてくれる笑顔は全然ちがうってこと。