| 「朝から熱いね」 通学路で、心に言われた言葉の意味が分からない。
 「何が?」
 「城くんと桧川くん。」
 「ただのセクハラだよ?」
 「でも城くん嬉しそうだったけど?」
 嬉しい…嬉しい?
 「城くんはさ、桧川くんの気持ちに胡座をかいてない?」
 小さくため息をつく。
 「ちょっと桧川くんが可哀想だな。」
 「なんで可哀想?だって!」
 「分かってやっているなら悪魔だよ。」
 ボクは黙って俯くことしか出来なかった。
 「この間のこと、忘れちゃった?桧川くんにはファンの女の子が一杯いるからね?取られちゃっても文句は言えないよ?」
 取られる?桧川くんが、ボクじゃない人の隣で笑うの?
 「イヤだな」
 イヤなんて次元の問題じゃない、頭にくる。
 「じゃあちゃんと言わなきゃ」
 「わかった」
 年貢の納め時…そんな言葉が頭の中を過ぎった。
 
 
 「おかえりー」
 午前中の授業が終わったところで帰宅。制服を脱いで私服に着替えると休む間もなく迎えが来る。
 「行くよ〜」
 「桧川くん!」
 神宮寺くんと心くんが玄関を出たところで悠希の袖を引く。
 「なに?」
 ここへ来て心臓が口から飛び出しそうなほどドキドキ鳴り始めた。あの時、悠希もドキドキしていたのかな?
 「あの…よろしくお願いします…」
 …
 …
 …
 「…あのさ…」
 腕を引かれて玄関の外に連れ出された。
 ドアを閉め鍵をかけると、泣きそうな顔でボクを見た。
 「告白したときより、ドキドキした。」
 そのまま手を引かれてエレベーターに乗り込む。
 「言っておくけど、繋いだ手は絶対に離さないからな。」
 エレベーターが一階に着き扉が開く。
 前を向いたまま
 「ありがとう」
 と小さく呟く声が聞こえた。
 ボクもありがとうって言いたいけど、それは夜まで取っておこう。
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