13.キミの背中
 今日の仕事は雑誌の取材。今までこの『取材』というものを受けたことが無いので何を聞かれるのか
ドキドキしていた。
「神宮寺くん、」
「ん?」
 最近は付き人の寛永(ひろなが)さんがワゴン車を運転してくれて移動する。
「取材ってなにするの?」
「知らない。」
 間髪入れずの即答だ。
「城が知らなきゃ俺も知らないよ、未経験だからさ。」
 それもそうだ。
 四人の中で一番事務所の所属歴が長いのは悠希。次がボク、長いけど顔を出すのは3ヶ月に一回
だった。
 面接の担当者が中学を卒業するまで親元に居ろと言ってくれた。
 3ヶ月に一回、顔を出せと言われたのだが、実際はレッスンをしている悠希を見に来ていた。あの時
はどうして悠希を見たかったのか自分で意味が分からなかった。
「レッスン、やって行くか?」
 増上さんに言われたけど、黙って首を左右に振った。
 事務所から言われて、ボイストレーニングとダンスの個人レッスンを受けていた。(悠希には別のことを
伝えていたけどね)悠希の前には胸を張って立ちたい。
 その頃のボクは多分、悠希をライバルだと思っていたのだろう。
 神宮寺くんは高校を卒業する年、心は中学二年で事務所に所属した。つまりデビューする一年前だ。
 心の高校入学を待ってデビューしたのだ。


「城くん、今日の取材は趣味に関してだから。」
 悠希は外でボクの名前を呼ぶときは君付けだ。
「趣味?」
「城くんの趣味はバイオリンでいいんじゃない?」
 悠希にはオーディションの後から習っていると言ったけど、本当は三歳から習っていた。
「そうだね。」
 困った。まともに顔が見られない。
「つまり、取材っていうのはボクらのプライベートなことを聞かれるんだね?」
「そんなもんかな?」
 心なしか悠希の声も堅い気がする。
「でもさぁ…真面目にちゃんと話さなくていいって、西本先輩が言ってた。ある程度適当にしておかないと
プライベート全部披露する事になっちゃうからって。」
 悠希は西本先輩に付いてコンサートに出演したことがあるから、色々話を聞いているみたい。
「あ、そうだ。これを増上さんから預かってた。」
 寛永さんが助手席からファイルを差し出す。
「皆のプロフィールがあるからこれで話をしてくださいって。」
「了解です」
 ボクらが文句を言う前に神宮寺くんが返事をする。
 各自自分のプロフィールを頭に叩き込み、取材先へ乗り込んだ。
「城くん」
 悠希はやっぱりボクを待っていてくれる。
 ボクはいつもキミの背中を追いかけている。