…!
「……あ゛っ゛!」
『あ』と言っているつもりなのに声がカスカスになっている。
おかしい?
夕べは普通に寝た。
何にも悪いことはしていない。
リビングで居眠りもしていない。
「おはよう」
「…っ」
「城くん、風邪?」
首を左右に振るが、確かに喉が痛い。
「大きく口を開けて」
…カッコ悪い。
神宮寺くんがボクの口の中を見ている。
「扁桃腺は腫れてないみたいだな。」
首の付け根に手を当てて確認している。
何かに気付いたように心くんが口を開いた。
「もしかして、声変わり?」
三人が一斉にボクの顔を見た。
ボクは首を左右に振って無実の罪であることを訴える。
「学校休んで病院に行こう。」
悠希の目は真剣だ。
だけどボクは中学二年から三年に掛けて8ヶ月間、声変わりしたんだよ。二回も変声期があるなんて
聞いたこと無い…と、メモで訴えた。
「じゃあ、何が原因か聞いてこよう?な?」
「アレルギーではないか…だってさ。詳しくは検査の結果待ち。」
ボク、アイドル歌手なのに、歌えないなんて。
踊ることは…
「レッスンは休め」
えー!
目で訴えたけど無視された。
一人、部屋に残されるのは嫌だ。
でも三人はサクサクと出掛ける支度をしている。
リビングのソファにポツンと座るボクの背後に、悠希が居た。
「城、」
ん?なあに?
「…んんっ…!」
覆い被さるように、悠希が身体をくの字に曲げてボクの唇に悠希の唇を押し当てた。
驚きで目一杯目を見開いて悠希を見ていた。
「キスするときは目を閉じるの。」
え?あ!そう言う意味?
「除け者にしているわけじゃない、心配しているだけだから。」
解ってるよ、そんなこと。
「城はさ、オレになんでウソついたの?レッスンに通わずにボイトレとかダンスとか個人レッスンを受けて
いたんだって?それは別に城を除け者にしたんじゃない、誰よりも早く一人前にしたいという社長の考えだよ。」
そうだったの?ボクだけみんなとメニューが違うからレベルが低すぎるのかと思っていた。
みんなと…悠希と一緒にレッスンを受けたかった。
「それに、まだ声変わりしていないから無理をさせたくないって。今回のことも同じ。無理して身体壊したら
元も子もない。未来の城くんを大切にしないと。」
うん。
首を縦に振った。
「いい子にしてるんだぞ?」
うん。
…
…
…
あ
あぁっ
あああああっ
悠希、ボクにキスした!キスだよ、キス!
…初めてだったのに…。
もっと、ロマンチックなのかと思っていたのに。
でも。
ぷにって、柔らかくて。
いい匂いがした。
あああああっ
熱でそう。
ぎゃーって感じだよ。
「お帰りなさい」
「おおっ、声出たじゃん。」
「うん。ボイトレの先生が言ってたことを思い出した。」
ボクは声帯が細く、無理をすると声が出なくなるらしい。正しい発声をすれば鍛えられていずれ良化するから
って。
「じゃあ毎日腹筋背筋と発声練習をやるように。」
翌日、増上さんに言われた。
そして、気付いた。
やっぱり少しだけ声が低くなってる…。 |