19.臨機応変な対応で
 最近、『好き』が少し判った気がする。


「あの!赤坂城さんですよね?」
 学校の帰り道。今日は仕事がないから心くんとは別々に帰宅する。クラスの用事って言ってたけど
ボクは普段からクラスの用事は何もしていない。
 なんてぼんやり考えていたときだ、正面から来た女性に声を掛けられた。
 会社からこんな時はこういう風に答えなさいという、マニュアルがある。
 しかし、時と場合によっては臨機応変で構わないとも言われている。
 ボクはとりあえず左手の人差し指を唇に当てた。そして声を出さずに首を縦に振る。
「あの、ファンなんです。握手してもらっていいですか?」
 口辺を上に持ち上げアイドルスマイル。右手を差し出す。
「応援してもらってありがとうございます。」
 左手も使って両手で握手をする。
「あ、はい。頑張ってください。…その…城君はいつも悠希君の横に居ますけど悠希君と仲がいいの
ですか?」
 なんだ、悠希のファンか。眼がきらきらしてる。
「桧川くんのファン?」
「えっと、お二人一緒の所が好きなんです。仲良さそうだなぁと。」
 仲良しだから気になるってことかな?
「桧川くんはボクの教育係、お兄ちゃん担当なんだ。」
「そうしたら心君と慧君も?」
 ん?神宮寺君の方?
「そう。」
「羨ましいです。」
「ボク?心くん?」
「あの…」
 やっぱり悠希か。
「桧川くんの何処が好き?」
「城君を見る瞳が凄く優しくて、それが…」
「ありがとう。桧川くんは眼がいいんだね?よーく、言っておくよ。」
 もう一度握手をして別れた。
 やだな、ファンにまで嫉妬した。心くんの言うとおりだ。
 悠希は、ボクの恋人なのに。
 …
 ……
 恋人?
 恋人!
 そうだった、ボクたちは恋人なんだった。
 なんだかやけに暑いな。
 早く家に帰ろう、悠希が待っている。
 あ、帰りにコンビニでアイス買って帰ろう。
 …心くんと神宮寺くんの分もついでだから買っておこうっと。