23.城君の秘密
「寝る」
「おー、おやすみ」
 僕達の部屋へたどり着くまでに城君はドアと柱にぶつかった。
「城、大丈夫?」
「んー、だいじょーぶー」
 呂律が回っていない。
「新曲の振り付け、城だけ難しいからな。」
 桧川君が気の毒そうに呟く。
「ほんとーに、だいじょーぶだよ、じゃーねー。おやすみなさーい。」
 相当疲れたのだろう。
「心配だから僕も部屋に行くね。おやすみなさい。」
 桧川君と慧君が手を振る。
 パタン
 部屋のドアを閉めると、城君はパジャマに着替えている真っ最中だった。
「すげっ、寝ながら着替えてる。」
 のっそりと振り返り「おきてるよ〜ぉ」と、囁いた。
「振り付けも疲れたけど今日は午前中に体育があったんだ。だから疲れちゃった。おやすみなさい。」
 城君は
パタリ…
というのが一番妥当な表現だろう、そのままベッドに倒れこんだ。
 でも。
 それでも城君は手探りで手繰り寄せた、抱き枕を。
 城君の腕にすっぽりと抱き込まれて城君と抱き枕は今宵もラブラブ。
 可愛らしいウサギの形をしている…これ、どうしたんだろう?
 僕達がこの部屋に引っ越してきたときには、居た。
 気になり始めたらいてもたっても居られなくなったけど、城君はスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を
たてて寝ている。
 朝まで、我慢。



「いってきますー!」
 うわーっ!遅刻遅刻!
 城君が何度も起こしてくれたのに二度寝しちゃった。
「心君!送るよ。」
 桧川君が車を出してくれた。
「城君に見付かったら殺されるよ、起こしてもらって遅刻して桧川君に送ってもらったなんて。」
 桧川君の口の端が少し上に上がって嬉しそうな表情になった。きっと相当喜んでいるんだろうけど男前な
彼は表現が地味なんだ…城君の前でもこんな風なんだろうか?
「ねぇ、桧川君、城君の抱き枕って知ってる?」
「知ってるよ。うさぎさんだろ?」
「うん。あれっていつから使っているんだろう?」
「使っているの?」
「うん、毎晩。」
「へ…へーぇ…」
 突然、桧川君の口調が硬くなる。
 しばし、沈黙を作ってみた。
「手に入れたのは中二の時…だよ。」
 そういうことね、はいはい。
「毎晩ラブラブだよ?」
 桧川君の耳が真っ赤になった。



「心君、確信犯でしょ?二度寝するなんて…」
 帰り道、送ってもらったことをつい、しゃべってしまったのが運のつき、ずっと文句を言われっぱなし。
 しかし、そんなことも次の現場を目撃したことですべて吹っ飛んだ。
「城…君?」
「なんだよ?」
 それは、タオルと一緒に抱き枕をネットに入れて洗濯機に放り込んでいたからだ。
「そんな乱暴に洗っちゃうの?」
「だって汚れるもん。雪って名前だからきれいにしておかないとさ。」
 その後、うさぎの雪ちゃんは乾燥機でグルグル回されて、また夜には城君が思いっきり抱き締めて眠っていた。