| 城の場合。 
 アイドルになんて全く興味がなかった。
 だけど、ボクの母親が無類のアイドル好きで、男の子が産まれたら絶対にアイドルにしたいと願っていた。
 そして決行の日。
 母からハガキと交通費を渡された。
 オーディションがあるから行って来いというのだ。
 散々抵抗したが、お小遣いを500円アップしてくれるというので折れた。
 
 
 会場にいたのは物凄く美人な男の子だった。
 男の子というより既に青年に手が届く雰囲気だった。
 背筋はピンと伸び、すらりとした姿態、長い手足。
 ボクがなりたいと思っていた姿かたちをした人がそこにいたのだ。
 ドキドキした。
 「ボクの理想形」に対してドキドキした。
 そっと、隣に立ち、
 「あの…キミ凄い美人だね…」
 と、声を掛けたが、相手はボクを見て沈黙したので言葉選びを間違えたかと思って困惑した。
 「キミだって可愛いじゃないか。」
 彼から戻って来た言葉は、ボクが期待したものではなく、がっかりした。
 「キミだって」と言われたら「美人」と言われたかったのだ。
 ボクは美形とかイケメンとか二枚目とかじゃなく、美人と言う言葉が好きでよく使った。
 美人は選ばれた人しかいないんだ。
 
 
 3か月に一回の経過報告に出掛けてはその美人をレッスン室の扉から見詰めた。
 美人の名前は言わずもがなの「桧川 悠希」。
 手足を動かして踊る姿がまたきれいだった。
 あんな風になりたい。追いつきたい。
 憧れであり、目標であり、ライバルだった。
 
 
 「あのさ…好きだ、とか言ったら迷惑…だよな。」
 頭の中が真っ白になった。
 あの、憧れて、目標にして、ライバル視していた、グループの仲間が、真剣な顔でボクにそんなセリフを言ったんだ。
 そして、初めて気付いた。
 そっか、同性でも恋愛は出来るんだと。
 果たしてボクは、彼を恋愛の対象と出来るのか?
 
 
 意外と簡単に答えは出ていた。
 他の誰かに取られるのは嫌だと思ったら、それは恋。
 
 
 後日談。
 もう一人、選ばれた美人が同グループにやって来た。
 「神宮寺 慧」
 ま、悠希にはちょっと劣るけどね。
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