31.楽屋
 今日はテレビ局で歌番組の収録。
 ボクと心君は寛永さんの迎えで学校から直接向かう。
 神宮寺君と悠希はその前に雑誌の取材を受けているはず。
「最近、神宮寺君と桧川君だけの取材って多いよね?」
 やっぱり人気の差なんだろうか?
「増上さんが二人の空いた時間を埋めようと奔走しているんだよ。」
 運転をしながら寛永さんが答えをくれた。
「なんかさ、申し訳ないよね。ボクたちのんびり学校に行ってていいのかなって。」
「学校は卒業してくれないと困るよ。親御さんとの約束だからね。」
 ボクたちは共同生活をしているけれども、決して実家が遠いわけではない。
 四人とも東京出身で、心君は世田谷、神宮寺君は渋谷、悠希は新宿、ボクは港区。
 ちなみに共同生活しているのは港区だけどボクの実家からはちょっと離れている。
 どちらかと言ったら神宮寺君の実家の方が近い。
「と言うわけだから留年とか中退とかは勘弁してね。」
 寛永さんはぶっとい釘を刺した。
 程なく車はテレビ局に着いた。
「まだ二人は着いてないようだね。先に楽屋に行っててくれる?」
「はーい」
「はーい」
 二人声を揃えて楽屋の入り口に向かう。
「入局証を提示してください」
 入り口で警備員さんに捕まる。まぁ、いつものことだけどね。
 顔パスっていう言葉が胸にずんと響く。
「daysのお二人ですね、お通りください」
 入局証とは偉大である。簡単に入れる。
 入り口で楽屋の場所を確認して移動する。
 部屋の入り口で自分たちに割り当てられているのだと解っているにもかかわらず、「失礼します」と声を掛けてしまう
ところがまだまだ新人である。
「城君ってさ、いろんなアイドルグループ知ってるよね?」
「うん、テレビっ子だったからさ。」
「ACTIVE…はアイドルじゃないか、他にはどんなグループがおすすめ?」
 心君とはこんな他愛もない話をしながら、楽屋で制服を脱ぐ。
 既に用意されている今日着るべき衣装を確認して着替えて神宮寺君と悠希が来るのを待つ。
「そうだね、レインボーカラーとかホワイトルージュとか?」
「女の子のグループ?」
「ううん、男」
「えっ、男の子でルージュ?」
「うん」
「へぇ」
 なんてごく普通の話を繰り広げていると二人がやって来た。
「遅いっ」
 ボクは二人に向かって怒った顔を作ってみる。
「ごめんごめん、これ買ってたら遅くなっちゃった。」
「あっ、新作のロールケーキっ」
 そんなこと、知っていたのに知らんぷり。早速箱から取り出してスマホで写真撮影。
「ケーキのフォルダーが一杯だ。ふふふ。」
 ボクは満面の笑みでロールケーキを見つめる。
「城君食べないの?」
「食べる食べるって、ああフォークで刺さないでよぉ」
 ボクらの楽屋はいつでもスイーツでいっぱいです。