33.ギミだから
 ボク、偶然見ちゃったんだ、心君と神宮寺君がキスしているところ。
 他人(ひと)がキスしているところって…ん〜…エロい。
 神宮寺君が強引に抱き寄せて心君が振り回されている感じだった。
 でも。
 ドキドキする。
 すぐに自分と置き換えてしまう浅ましさがイヤだけどさ。
「城」
 突然背後から神宮寺君に声を掛けられた。
「感じた?」
 耳元で囁かれボクは飛び上がらんばかりに驚いてしまった。だから偶然とはいえ、見てしまったことを白状
したようなものだ。
「…うん…」
「じゃあ、ちゃんと悠希に応えてやってるんだ?」
 応え?
「キス以上のこと。」
 ふふっ、と小さく笑った。
「ないない、それ以上なんてムリムリ。」
 ボクは振り返ることも出来ないまま思い切り否定した。
「…したくないの?」
 したく?ない?
「解らない…でも怖い…」
「女子高生かよ。」
 それだけ言うと神宮寺君は頭をポンと撫でて行ってしまった。
 子供なの?ボクって子供なんだ…でも怖いんだよ、悠希に嫌われるのが。
 変に取り乱したり拒んだり不細工なことしたりしたら嫌われる。
 自分に自信がない。


「うん…でもこの間も言った通り、やり方がわからないんだよね。」
 神宮寺君の言葉を悠希に伝えるとちょっと困ったように笑った。
「それにね、」
 続きを待っていると抱き締められた。
「こんな風に城の体温に触れるだけで幸せになれるから。城は違う?」
 ううん、幸せだよ。
 …その気持ちを一杯こめて首を左右に振った。
「焦らない焦らない。その時が来たら、きっとこんな会話をしたことが笑い話になる。」
 そうだね、きっとそうだね。
 悠希は、ボクのいろんな不安や焦りを全て大好きに変えてしまう不思議な存在だ。
「悠希」
「ん?」
「大好き」
「うん…これも立派な進歩でしょ?」
 そうだ。
 自分の気持ちが見えなくて、悠希を散々振り回していた。
「ボク、大人になれるかな?悠希にこんな風にいつも頼ってばっかりじゃなくて、いつか手を引っ張って
いけるようになれるかな?」
「なれるよ、ちゃんと学校卒業できればね。」
 げっ!
「…現実に引き戻さないでよ…」
「はいはい」
 そう言って、悠希はボクの頭をポンポンした。
 悠希はボクの勇気…なんてね。
「城?」
 なに?
「目、閉じて?」
 え?
 黙って目を閉じる。
 すると悠希の唇がボクの唇に重なる。
 胸の奥が熱くなる。
 ボクは悠希の背に腕を回した。