37.VD
「二人とも遅い」
 駅に着くと寛永さんがイライラしながら待っていた。
「ごめんなさーい、色々障害があって…」
 城君は言葉を濁した。
 急いでワゴン車の後部座席に乗り込む。
 例の如く年上二人は先乗り。既に打ち合わせの場所へ入っているはず。
「今日はレコード会社の担当さん以外にも、専務さんが来ていて、他にスポンサーの担当さんが数名来る
そうなんだよ。」
 知ってるよ、夕べ慧君が言っていたから。
「へー、そうなんだ。」
 ん?城君は話を合わせているのか聞いていなかったのか…。
「スポンサーさんって神宮寺君がCM出演決まったっていうチューハイの会社でしょ?」
 …ちゃんと聞いていたのか。
「そう。あと四人で出演して欲しいって一社話が来ていて、そこの担当さんが一緒に来るはずなんだ。」
「そうなの?」
 城君が身を乗り出した。
と、同時に僕のスマホがメールの着信を告げた。
【バレンタイン、あげる?】
 城君からだった。
「特に考えてない」
 僕は直接答えた。
「え?」
「ちょっ…」
 寛永さんと城君が同時に反応した。
「あ、ごめん、メールに反応しちゃった」
「なんだ。CMの話かと思った。」
 そのまま寛永さんは運転に集中した。
「城君はどうしたいの?」
「どうしたいかわからないから聞いたんじゃないか。」
 家では聞けないからね。
「でもさ、甘いもの好きだよね…」
 そうなんだ。
 慧君は甘いものが苦手だけど、桧川君は甘いものが大好き。
 だから僕は慧君には下着をプレゼントしている…のは内緒。
「寛永さん、14日って休みですよね?」
「そうだよ、全員お休み。」
「だってさ」
 城君は分かっているという瞳で僕を見返す。
「デート、してきたらいいじゃないか。」
 耳元でそっと囁く。
「でも」
「でもでも言っていると手遅れになるよ」
 城君に一番効果的な言葉。
「分かった、考えてみるよ。」


「どうだった?」
 当日、帰って来た城君に寝室で問い質すと、嬉しそうに
「銀座のチョコレート専門店でチョコレートパフェを食べてきた」
という、あまりにも可愛い返答が返ってきた。
 僕は、二人を追い出して甘美な時間を過ごさせて頂きました。
 ごめんね、城君。