40.元気の素
 明けても暮れても、コンサートの振り練習。
 ダメなのはボクだけで段々嫌になってきた。
 …コンサートが嫌なわけではなく、ボクの技術不足にだ。
 心君は学校の成績もいいのに、恋も仕事も絶好調だ。
 反面ボクは成績もやっと、恋も悠希に迷惑ばかりかけているし、仕事は振りで四苦八苦。
 部屋に戻っても廊下にある大きな鏡の前で振り付けをおさらいする。
「足が短いからか?」
「城君の足が短かったら僕なんかないに等しいよ…」
 心君が横でむくれる。
「じゃあ、なんでボクだけ踊れないんだよ〜」
 泣き真似をしながら振りの練習を続ける。
「覚えるのが遅いだけで覚えたら完璧だからいいじゃない。それに城君は歌が上手いから羨ましいよ。」
 ん?
 今、心君がおかしなことを言わなかったかな?
「心君、城君はね、自覚がないんだよ。絶対音感を持っているのにね。」
 ぜったいおんかん…ってなんだ?
「だって城君は子供の時から音楽に触れているから。」
「なーんで神宮寺君はそんなに城のプライベートな情報に詳しいわけ?オレ知らないよ?」
 ボクは三人がガヤガヤしているのを無視して、振りの練習を再開する。
「脚を上げるタイミングがちょっとだけ遅い。そう、そうそう、そのタイミング。で、手を上げたら直ぐに上体を
捻る…違う、そう、そうそう。なんだ出来るじゃないか。」
 そりぁ、そんなに細かく悠希が指示を出してくれるから。
「もう一度通しでやってみる?オレも付き合うよ。」
 リビングでは神宮寺君と心君がイチャイチャしている。
 そうか悠希は居たたまれなくてボクの相手をしているのか。
「音楽行くよ」
 まだレコーディングか済んでいないので新曲の音だけが流れる。
 もう音楽は何度も何度も繰り返し聞いたので覚えている。
 歌詞も譜面でもらっているから大体分かる。
「♪〜」
 気付いたら小さい声で歌詞を重ねて歌っていた。
「城君、もう覚えたんだ。やっぱりすごいな。」
 通しで一回終わったところで、悠希がボクを抱きしめた。
「踊りも完璧だよ。」
「本当に?」
 嬉しい。
「よく頑張りました。城はオレの元気の素だから、いつだって笑顔でいてください。」
 頭をわしゃわしゃ撫でられる。
「お風呂、一緒にはいろっか?」
「うん」
 …ん?
「…あの…」
「なに?」
「…何でもない。」
 …恥ずかしいなんて、言えないよぉ。