41.報われないこともある
「え?」
 城と心君はよくわからないと言った目でオレを見詰めている。
「だから、西村先輩が本当は何を目指していたか、知ってるかなって。」
 二人が揃って首を横に振った。
「オレたちはこの社会で芸能人として生きていこうと決めたときに大抵、音楽をやりながらタレント活動を
していくだろ?でも西村先輩は最初、映画俳優になりたかったんだ。」
 二人とも意外そうな表情でオレを見ている。
「でも、いくらオーディションを受けても受からなかった。端役でなら出演させてもらえたけど、西村先輩が
目指していたのは映画スターだからさ。で、会社も諦めてダンスを中心に舞台へと移行したんだ。」
「ダンスは後からなの?」
 城は疑問に思ったことを口にする。
「いや、オレたちと同じで所属してから直ぐに始めたけどさ、熱が入っていなかったらしい。」
 飛ぶ鳥を落とす勢いのミュージカルスターでも暗い過去があったんだよ。
「だから、だからこそオレは夢を持ち続けたいんだ。コンサートをやりたい、次は武道館、ドームツアー、
海外にも行ってみたいし、自分達でコンサートを作り上げたい。西村先輩は歌でもヒット曲あるし、ミュー
ジカルも成功したけど映画にはまだ出演していないんだ。」
 二人とも「そう言えば」と、呟いている。
「何が言いたいかって言うと、夢を持って欲しいってこと。四人の活動を基本とするのは勿論だけど、個人
でやりたいことも見つけて欲しい。例えば…」
 オレは神宮寺君の方に視線を移す。
「俺?俺はラジオ番組をやりたい。」
「オレはコンサート、これは四人での夢。個人の夢は作詞作曲をした自分の歌でライブハウスに立ちたい。」
「ボクはドラマに出たい!」
 突然、城がキラキラとした瞳で発言した。
「昔、学園ドラマに謎解き物があってさ、それやりたい。」
「心は?」
 神宮寺君がゆっくりと視線を向けた。
 オレと城も自然とそちらに視線を移動する。
「僕は…まだ特にない。daysの活動と学校で一杯一杯だからさ。でも…何か考えてみる。」
 オレは神宮寺君を見た。
 満足げな顔だ。
 なら、いいや。
 どういう了見かは知らないけど、心君に夢を語ってくれって言われた。
 でも今の答えで何となく分かった。
 心君はアイドルになることが夢だったんだな。
 だから、もう先は考えていない。
 オレたちに先なんて、あるようでない。だから常に前を向くために目標を置く。
 気づいたかなぁ?
 な、城君。