44.candy sweet
「悠希ぃ」
 いつものように、ちょっとだけ語尾を伸ばした名前の呼び方。
「ねぇ、聞いてる?」
「ごめん、聞いてなかった。」
「聞いてないって…もうボクのこと、好きじゃないんだ…。」
 しょんぼりとする横顔が可愛くもあり儚げでもある。
 この年頃なら少し大人の方へ背伸びをしたいはずなのに、城は子供っぽい仕草や話し方でオレを
見上げる。
 そしてオレはその表情の意味するところを掴みきれずに、方向違いの解釈をする事が多々あり、
城に叱られる。
 なので、今日は思った通りに行動することにした。
「城、愛してるよ。」
 目を見て囁き、思い切り抱き寄せる。
「…ボクも、好き。」
 耳元で囁かれ、心臓がバクバクと音を立てて鳴る。
 腕の中にスッポリ収まる小さなカラダ。
 ちょっと掠れた甘い声質で愛の言葉を囁くとどんな人間だって、老若男女問わず堕ちるに決まってい
る。
「悠希ぃ…」
 再び名前を呼ばれる。
「ん?」
 城が腕を伸ばしてオレの背中に回す。
 腕の力はやはり男の子、優しくはない。
「…ボクから、キスしていい?」
「して…」
 耳に直接伝える。
 城のカラダがびくりと跳ねる。
 縫い止めていたカラダを解き放つと、オレの胸に両手を添えて目を閉じたままそっと唇を寄せてきた。
 柔らかくオレの唇に重なる。
 暫く重なっていた唇が離れようとしたので、城の後頭部に左手を回し、阻止する。
 閉じていた唇を押し開き舌を侵入させる。
 途端に息づかいが荒くなる。
 可愛くて愛しくてちょっと生意気な恋人は、自らゆらゆらと腰を揺らしていることに気付いていなかった。
 手を離して城を解放する。
「もうっ、悠希ったらぁ、死んじゃうかと思ったよ。」
 文句を言っているけれど、目元がうっすらとピンク色に染まっている。
「下のお口も死にそうみたいだよ?」
 一瞬、ポカンとしていたけれどすぐに察して顔を赤らめる。
「悠希のえっち」
「うん、城に関しては最大限にエロくなる。」
 一度知った美味はもう一度があと一度になり、抜けられないことはよくあること。